TRAILS REPORT

ハイカーの信越五岳(SFMT)100mile | #01 ハイカーとして100マイルを走って旅したい

2019.09.11
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文:根津貴央 写真・構成:TRAILS

今回から全4回の短期連載がスタート! TRAILS編集部crew & ハイカーの根津による、SFMT(Shinetsu Five Mountains Trail / 信越五岳トレイルランニングレース)100マイルの走り旅です。

いよいよ今週末の9/14-16に開催されるSFMT。そこで根津が人生初の100マイル(160キロ)のトレイルランニングに臨みます。

根津いわく、「ロング・ディスタンス・ハイキングの延長として、100マイルを旅してみたい」とのこと。

本連載は、彼が今回の試みを思いついた背景からはじまり、レースに向けた準備、レースプランニング、そしてレースレポートまで、全4回。

「ロング・ディスタンス・ハイキングの延長として」とは、一体どういうことなのでしょうか。ハイカー根津が実現しようとしている100マイルの楽しみ方を見てみましょう。

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総距離2650マイルのPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)を歩いていた時の根津。


なぜ、ハイカーが走るようになったのか。


「なんで山なんか走るの?」とよく聞かれる。山に行かない人からすれば、登る人すら気が知れないと思っているはずなので、そりゃそう思うだろう。でもこれ、山は好きだけど走らない、っていう人からも意外と言われたりもする。

僕としても、明確な答えを探したりはしていないが、山の楽しみ方を考えた時に、歩いたり、クライミングしたり、野営したり、自然観察したりといろいろあるなかで、そのひとつとしてべつに走ったっていいじゃん、くらいに思ってるだけなのだ。

これは、アクティビティやジャンルにとらわれずトレイルでの遊びや旅はなんでも自由にやろう! というTRAILSのスタンスと共通する部分でもある。

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自分のロング・ディスタンス・ハイキングの原点であるPCTにて。

そもそも僕は、2012年にはじめてPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)を歩いた頃は、歩き一辺倒だった。それが翌年くらいから、まわりにトレイルランニングをする友だちが増え、彼らに誘われて徐々に走るようになった。それが走るきっかけだった。

決して、走りたい! という感情が強かったわけではなく、「今晩飲むけど来る?」「行くよ!」という、友だちが遊びに誘ってくれたことに気軽に乗る、くらいの気持ちだった。

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グランド・ティトン国立公園を走ったこともあった。

僕にとっては山遊びの入口がハイキングで、いまもベースはハイカーであると思っている。ただトレイルランニングは、ハイキングでの山の楽しみに、疾走感や、短時間で遠くまで行ける気持ち良さをプラスしてくれた。


Shinetsu Five Mountains Trail(信越五岳トレイルランニングレース)とは?


SFMTは、日本を代表する歴史あるトレイルランニングレースである。ちなみに、SFMこと信越五岳は、新潟・長野県境にある斑尾山、妙高山、黒姫山、戸隠山、飯縄山、5つの独立峰の総称で、北信五岳とも呼ばれる。

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SFMTのプロデューサーであり、公私ともに仲良くしている石川弘樹さん。

SFMTは、トレイルランナー石川弘樹(※)プロデュースの大会として、2009年に第1回目を開催。去年10周年を迎え、今年が第11回目。100マイル(※)と110キロの2つのカテゴリーがある。

※石川弘樹:アドベンチャーレーサーを経て、2001年、日本で初めてプロトレイルランナーとして活動を開始。2000年初頭はアメリカのレースを転戦し、全米で行なわれるタイトル戦「Grand Slam of Ultra Running(2007)」で総合1位を獲得するなど、数々の実績を残す。日本にアメリカのトレイルランニングのカルチャーや楽しさを紹介した第一人者。
※100マイル:2017年から新設された種目。ただし、2017年は悪天候により110キロの短縮レースとなった。

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2018年、SFMT100マイルのスタートシーン。小雨が降っていたものの、会場は熱気と高揚感で包まれていた。

トレイル率が高く(舗装路区間がとても少ない)走れるコースであること、そして地元の人をはじめとしたスタッフの方々のホスピタリティが驚くほど高いこともあって、ランナーから愛されてやまない大会なのだ。毎年、エントリー期間がスタートすると、数分で締め切られてしまうほど。

僕は、弘樹さんと仕事を通じて仲良くなり(実は2人とも同い年)、2015年に「じゃあ試しに出てみよう!」と思ったのがこの大会に参加するようになったきっかけ。それ以来、2017年、2018年と計3回110キロのカテゴリーに出場して完走している(2017年は悪天により52キロに短縮)。

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2015年に110キロを初完走! 右は友人でペーサーのこば〜ん(小林朋寛)。

なぜ3回も出ているのかというと、すごく楽しくてハッピーな大会だからだ。弘樹さんは、アメリカのレースを転戦していた時代があり、その時にいいと思ったトレイルランニングカルチャーを、このSFMTでも実現させている。そのひとつが、日本初のペーサー制度。

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2018年のエイドステーションにて。ペーサーやサポーターのおかげで楽しめていることを実感。Photo by Shimpei Koseki

ペーサーとは、選手と一緒に走る伴走者のこと。100マイルは102キロ地点から、110キロは65キロ地点からペーサーをつけて走ることができる。

馴染みのない人も多いかもしれないが、ペーサーはさまざまな面で選手の支えになってくれる存在だ。高低差をはじめとしたコースプロフィールを教えてくれたり、路面状況を共有してくれたり、最適なペースでリードしてくれたり、叱咤激励してくれたり。

ひとりではなく仲間と走っているという連帯感や絆も感じられるし、なにより同じ志を持った人との旅は楽しいものなのだ。


100マイルの旅でのトレイルエンジェル。


なぜ今回、これまで出場してきた110キロではなく、100マイル(160キロ)にしたのか。それは、僕の原点がロング・ディスタンス・ハイキングであり、漠然とロング・ディスタンス(長距離)への憧れみたいなものがあったからだ。

しかもSFMTの場合、110キロの制限時間は22時間だが、100マイルは33時間。丸一日を優に越える。その時間、ずっと走りつづけるというその未知なる世界を味わってみたいという思いもあった。

ロング・ディスタンス・ハイキングでは、トレイルエンジェルと呼ばれるハイカーをサポートしてくれるボランティアや、トレイルマジックという偶然の幸運(地元の人が、ハイカーを応援するべくトレイル上に用意してくれる食料や飲料など)と出会うことが多い。僕が好きなハイキングカルチャーのひとつだ。

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PCTでお世話になったトレイルエンジェル、カサ・デ・ルナ。

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PCTではトレイルマジックにもたびたび助けられた。クーラーボックスにはビールやコーラなどの飲み物がたくさん。

これをSFMTに当てはめるのであれば、まさにエイドステーションだなと。ここをF1のピットストップのごとく高速作業で通過するのではなく、地元のボランティアスタッフとのふれあいや、地場産の食べものをもっと楽しめたとしたら、それは僕が望むスタイルになる気がした。

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SFMTのエイドステーション。ここは特にホスピタリティ満点の通称『宴会隊エイド』。


信越のローカルで、旅人や自然との出会いにどっぷり浸かりたい。


また、ロング・ディスタンス・ハイキングではハイカー同士の出会いも楽しみのひとつ。トレイルとの付き合い方、旅の仕方も人それぞれなので、話していておもしろい。ついつい相手のペースに引き込まれて、自分のプランがずれたりして。でもそれすらも楽しでしまうスタンスをみんな持っている。こんな出会いもできたらいい。

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PCTで出会い、仲良くなったハイカーたち。

さらには、ロング・ディスタンスだからこそ味わえる自然の豊かさ、移り変わりを、走りながら堪能したい。ハイキングの時に感じたような自然との一体感、そして自然の中にいることがあたかも日常のように感じてしまうあの不思議な感覚。それに浸ってみたい。

僕はNIPPON TRAILでも、TRAILS編集部crewとともにさまざまなローカルを旅して、その場所にしかない人や自然やカルチャーに触れる旅を楽しんできた。それをSFMTでも同じように感じることができないかと考えている。

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信越五岳、斑尾山周辺から眺める野尻湖。

ここまで読んで「それをやりたいなら、レースじゃなくてよくね?」ってツッコミたくなった人もいるかもしれない。

なぜレースに出場するのか? そこには2つの明確な理由がある。

1つは、同志がいることの心強さ、楽しさがあるから。僕はサバイバルをしたいわけでも、孤独な一人旅を志向してるわけでもない。アメリカのPCTやATをロング・ディスタンス・ハイキングした時もそう。

テント場や休憩地、トレイルエンジェルの家、町で、同じ目的地を目指すハイカーたちとたくさん出会ったし、再会することも多かった。現地で偶然出会った旅仲間っていうのはいいもんだな、楽しいもんだな、と強く思った。これをランで味わうとしたら、レースが適していると思ったのだ。

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ATで参加した『TRAIL DAYS』というイベント。一人旅のイメージが強いロング・ディスタンス・ハイキングも、実はハイカー同士が出会い、楽しむイベントが結構ある。

もう1つは、レースの楽しみ方を広げたいと思っていたから。レースを日本語訳すれば競走、競争。もちろん競うことが目的の人もいるけど、そうじゃない人もたくさんいる。

レースがきっかけでトレイルランの魅力を知る人もいれば、かけがえのない仲間と出会う人もいる。レースとひと口に言っても、楽しみ方は人それぞれだし、自由でいい。そのひとつのカタチとして、今回の僕みたいな遊び方もあってもいいのでは? と思ったのだ。


リスペクトする偉大な100マイラーからのアドバイス。


今回SFMT100マイルに初めて出場するにあたり、これはあの100マイラーに聞かないと! と思い、アドバイスを乞うことにした。その人とは、日本を代表する100マイラーであり、生涯で100マイルを100本完走することを目指している井原知一さんだ(トモさんの記事はコチラ)。

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トモさんこと井原知一さんは『生涯で100マイルを、100本完走』をスローガンに掲げる(現在52本を完走)トレイルランナー。トレイルランナー向けのオンラインコーチング『TOMO’s PIT』を主宰し、ポッドキャスト『100miles 100times』も手がけている。

8月頭、トモさんはアメリカ出張の忙しいさなか快く対応してくれた。まず、仕事の忙しさにかまけていた僕は、練習が思うようにいっていない現状と、制限時間のある5関門の不安を伝えると、開口一番「何カ月も前からわかってるのになんでちゃんと練習してないの?」と軽くイジられつつ、そのあとで2つのアドバイスをくれた。

[1] まずは区間ごとにタイムテーブルをつくりましょう。区間ペースが算出できるので、それを想定したトレーニングをする。作成するタイムテーブルは、関門ギリギリ、1時間前、2時間前の3パターン。

[2] あと1カ月ちょっと、不安を解消して自信をつけることが重要。レース途中で潰れてしまう人は、不安のせいで序盤で必要以上に飛ばしてしまう。だから「ガマンしてください」(トモさんのポッドキャスト『100miles 100times』でおなじみのTOMO’s セオリーより)なんです。

最後に、「まだ1カ月あるんだから、自信をつけてください!」と心強い言葉をいただいた。

トモさんありがとう!

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信越五岳100マイルに向け、高尾に足を運ぶことも多くなりそうだ。

9/14-16のSFMTはいよいよ今週末! もう、待ったなしである。できる限りの準備をして、当日、100マイルの旅を楽しめればと思う。

この#01の記事を皮切りに、レース前日13日の金曜日までに#02 #03を立て続けに掲載しますので、ぜひチェックしてみてください。

次回は、100マイルに向けたカラダづくりや準備計画について。レースまで残り1カ月ちょっとの段階で出遅れていたハイカー根津は、いったいどんなプロセスを経て準備を進めていったのでしょうか。

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根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年、TRAILSに正式加入。2024年よりTRAILSのHIKING FELLOWに就任。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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