AMBASSADOR'S

Crossing The Himalayas #3 / トラウマの大ヒマラヤ山脈横断記#3

2015.03.20
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文/ジャステン・リクター 訳/構成;三田正明

Crossing The Himalayasの第三回目、いよいよ始まるモンスーン・シーズンの激しい雨にさらされるトラウマとペッパーですが、なんと今回、トラウマはあるネパール人の女の子に求婚されてしまいます…!

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紫が今回のトラウマの行程。BarahbiseからDuncheeまで6日間、約108kmを歩きました。

■忍耐とネパール時間

(Section 3 ; Berhabise to Dhunchee, 108km, 6 Days.)

翌朝早く、僕たちは慌ただしいカトマンズのバス・ステーションから数日前トレイルから外れた場所へと戻った。そこにいる誰もが3時間のバスの旅だといっていたけれど、酷い道路状況と頻繁に現れる停留所、さらにドライバーの休憩も挟まれるため、結局5時間以上かかった。僕たちはイライラして疲れ果て、休憩のたびにバスを飛び出してバナナやポテトチップやジュースを買った。立ち寄った町のメイン・ストリートには露天と商店が立ち並び、乗り物が通れないほど行き交う人々でごったがえしていた。

GHTの多くのエリアでは頂上から谷底まで3,000m以上の劇的な標高差がある。 The drastic elevation changes along the GHT. From peak to valley bottom is generally over 3000 meters or more.

僕たちは朝早くのバスに乗って涼しいうちにハイキングを始め、日中暑さが厳しくなる前に標高を稼ぎたいと思っていた。けれどそうはなりそうもなく、麓の村の時点ですでに充分蒸し暑かった。暑さは僕たちの行動を鈍らせ、さらにここ数日の休息日での暴飲暴食がたたり、体調もあまりよくなかった。たとえ一日に50キロ以上を歩くハイキングを続けてきたとしても、休息日のあとはキツく感じるものだ。缶詰のオイルサーディンのような状態で車内に詰め込まれ、たった150kmの移動に5時間以上かけ、ようやくバスはバラバイズの村に着いた。僕はこの旅から忍耐と、ネパール人の時間感覚について学ぶことができた。

ヒンドゥ教とチベット仏教それぞれの聖地であるゴサインクンドで見つけた両者が融合した興味深いモニュメント。ヒンドゥ教の神に仏教の経文旗が捧げられている。Interesting monument with a Hindu deity and Buddhist prayer flags along the Gosainkund trek, which is a religious pilgrimage.

■モンスーンの雨

この旅でもっとも骨の折れることのひとつはどこかの村に到達した際、目指す方角への村からの出口を探すことだった。大抵の村は蜘蛛の巣状で、あらゆる方向に道が続いている。けれど、地図にその詳細は載せられていない。そんなわけで村はずれにやってきたとき、僕たちにできることは選んだ道が正しいことを祈るだけだった。

バラバイズの村を出発して道を横切り、日陰のない険しいトレイルをまっすぐに登っていった。登りは厳しく、暑さと湿気ですぐに汗だくになり、シャツはびっしょりと濡れてしまった。僕たちはでたらめに伸びる生活道を繫ぎ、休耕田を横切り、とりあえず自分たちが正しいと信じる方角へと進み続けた。村から遠ざかり、標高1,000mほど登ると、休耕田のなかにつけられた生活道に出くわし、登りは緩やかになった。僕たちは小川を渡り、30分の休憩を取って行動食を食べた。

日陰の岩棚でくつろいでいると入道雲がもくもくと上がり始め、あっという間に空いっぱいに広がった。急いで荷物をまとめて出発したけれど10分後には雨がぽつぽつと降り始め、僕たちは近くの家まで全力で走って避難した。家の軒下に入った途端、空の蛇口が開き、これまで見たこともないほどの量の雨が降りだした。雨粒は巨大でバケツをひっくり返したような勢いで、すぐにあたりを水浸しにした。

ヒマラヤの低い標高ではこの「草」をよく見かける。In the lower elevations this “weed” is common.

茅葺き屋根と日干し煉瓦作りのその家には電気がないようで、なかの様子は暗くて伺い知ることができなかった。だが数分後、そこに住む女性が僕たちを招き入れてくれ、ベッドの上に座るよういってくれた。冷たい雨で凍えていた僕たちにはとてもありがたい申し出だった。ベッドが汚れないよう敷物を敷いて座らせてもらい、雨がやむのを待った。

1時間ほどで嵐は過ぎ去り、僕たちは女性に感謝をいって水浸しの風景に戻った。谷底には雲が溜まり、かなり冷えた。山の鞍部へと上がるとその先にもうひとつの鞍部があるのを見つけたので、その下に伸びる未舗装路に沿って歩いて行くと、日が暮れてきた。その日の寝床になる場所を探しながら歩いたけれどよい場所が見つからず、さらに僕たちは夕食を作るために必要な水を切らしていた。

ふたたびにわか雨が降り始めたけれど、僕たちは歩き続けるしかなかった。夜、立ち止まる前にずぶ濡れになるほどみじめなことはない。僕たちはレインウェアを着込んで歩くペースを上げた。数分後、今にも崩れ落ちそうな小さな家畜小屋を見つけた。なかに這い入ってみると屋根はなんとか機能していたものの何カ所か雨漏りしていたので、タープを屋根の上にかけることにした。僕は小川へと駆け戻って水の補給をし、その夜は落ち着いて過ごすことができた。

ランタンのゴサインクンド・トレックから谷間を見下ろす。Overlooking the valley on the Gosainkund trek in Langtang.

■トラウマ、求婚される

翌日はひたすら未舗装路沿いを歩いたので、大いに距離を稼ぐことができた。標高差も少なからずあったけれど、楽に歩くことができた。長い登りの途中、水を得るために村に立ち寄った。その日も蒸し暑く、僕が蛇口から水筒に水を入れるためにしゃがみ込んでいると、20歳くらいの女の子がやってきて、家に来ないかと誘われた。相棒のペッパーはそのとき僕の数分前を先行していた。彼女は片言の英語で彼女の母親に会って欲しいといい、水牛のミルクを飲まないかと尋ねてきた。この暑い日にミルクより欲しくないものはなかったけれど、僕には否定のチャンスがなかった。

彼女は家の奥からミルク瓶を持ってきて、コップに注いでくれた。ミルク瓶が屋外の暑い中にどれだけ置かれていたかを尋ねると、彼女はとぎれとぎれに朝と晩の二回水牛の乳搾りをするといった。僕は時計を見て、少なくとも4~5時間は殺菌も均質化もされず置かれていたミルクだと推測した。飲めば体調が悪くなることは明らかだったけれど、彼女に失礼なことをしたくなかったので、僕はそのどろっとしてだまっぽいミルクを大きく4口で飲み込んだ。

ゴサインクンド・トレックの湖。One of the lakes along the Gosainkund trek.

立ち去ろうとすると、彼女は「あなた、私のミルクを飲んだ。結婚しますか?」といった。僕はとても面食らって、どう反応していいかわからなかった。僕は早口で「ミルクをありがとう。でも僕はすこし先を行っている友達に追いつかなきゃならないんだ。」といい、家の門をくぐってトレイルに戻った。そして焼けるような太陽の下、もう800mを登った。

胃がムカムカして、いつ吐いてもおかしくない気分だった。1時間後にペッパーに追いついて何があったのかを話すと大笑いされた。高原に近づくと登りは緩やかになって暑さも弱まり、僕の胃も落ちついてきた。いま、暑い日に僕がもっとも望むものは、一杯の暖かいミルクだ。

ローレビナ峠の高所を行く。In the alpine area near Larabina La.

■聖地ゴサインクンド

モンスーンの暴風雨はその夜ふたたび僕たちを溺れさせた。テントを一晩中きちんと張り続けるため、僕もペッパーもよく眠れなかった。雨のため地面はぐちゃぐちゃでペグがすぐに抜けてしまい、あたりには重石になる石もなかった。テントのなかで土砂降りの雨の音を聞いていると、まるで貨物列車がすぐそばを通り過ぎているようだった。

数日後、僕たちは伝統ある宗教的巡礼路であり、そのため多くの人の訪れるゴサインクンド・トレックに合流した。たくさんの茶店のある歩きやすいトレイルに復帰することは最高に嬉しかった。

ローレビーナ峠から聖地ゴサインクンドへと下る。Descending from Larabina La to a nearby village.

ゴサインクンド・トレックの初日、ペッパーの体調が悪くなったので僕たちは数時間歩いただけで最初の茶店(訳者注;大抵の場合ネパール・ヒマラヤの茶店は宿とレストランを併設している)で留まることにした。その日を僕は読書したり、食べたり、リラックスして過ごし、尾根の上からの景色を楽しんだ。

翌日は歩きやすいハイ・クオリティーなトレイルで大いに距離を稼いだ。標高4200mのローレビナ峠はカリフォルニアのハイ・シェラを思い起こさせるたくさんの美しい湖のある盆地で、ネパールにはほとんど山上湖がないので、ここでは素晴らしい景色の変化を味わうことができた。

そして僕たちはふたたび暑い谷間へと30kmを下っていき、次なる補給地であるドゥンチェの町を目指した。

(♯4に続く。英語原文は次ページに掲載しています)

WRITER
JustinLichter

JustinLichter

1980年、ニューヨーク州生まれ。現在はカリフォルニア州レイク・タホ近くの山中に住み、スキーパトロールやグラナイトギアのパックテスター兼アドバイザーをしながら世界中のトレイルを歩いている。2006に約1年間(356日)で約16,000kmを歩くトリプルクラウンを達成。2007年に南アルプス、及びニュージーランドのサウスアイランドを、2009年にはアフリカ大陸をサポート無しで約2,900km歩く。最近では2011年のヒマラヤレンジ約3,200kmや、2013年メキシコのコッパーキャニオン約800kmをハイクトリップ。2002年以降、約56,000kmを超える距離をハイキングした世界中から注目を集めるハイカー。著書 『TRAIL TESTED』詳しくは、2014.01.31に掲載されたTRAIL TALK #001を参照。

http://www.justinlichter.com/

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