TRAILS REPORT

HIMALAYA MOUNTAIN LIFE | GHT project 2022(今年の抱負)

2022.09.02
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文・写真:根津 貴央 構成:TRAILS

ヒマラヤのロングトレイル『グレート・ヒマラヤ・トレイル (GHT ※1)』を踏査するプロジェクト『GHT project』(※2)。

前回の記事では、2014年にスタートしたGHT projectの軌跡を振り返るとともに、今年のプランを発表した。今年の行き先は、「ヒマラヤ最奥の聖地」とも称されるドルポである。

今回の記事では、4年ぶりのトリップということもあり、プロジェクトメンバーの意気込みを紹介したい。今年は、リーダーの根本が仕事の都合で行けない可能性があるため、まずは参加が確定している写真家の飯坂大と、ライターの根津の2人からのメッセージをお届けする。

※1 グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT):ヒマラヤ山脈を貫くロングトレイルで、アッパー・ルート(山岳ルート)とロワー・ルート(丘陵ルート)の2本で構成。全長は、前者が約1,700km(標高3,000〜6,000m超)、後者が約1,500km(標高1,000〜4,000m超)。

※2 GHT Project:GHTのアッパー・ルートを踏査し、ヒマラヤの知られざる魅力を日本に広めるために2014年に立ち上げたプロジェクト。コンセプトは『ヒマラヤは世界最大の里山だ』。メンバーは山岳ガイドの根本秀嗣、TRAILS編集部crewの根津貴央、写真家の飯坂大の3人。


2016年に旅した、アッパー・ムスタンにて。

僕の表現や僕だけが見た世界を伝えたいわけではなく、すでにあるネパールの素晴らしさを伝えたい。(飯坂 大)


GHT projectの1年目に訪れた、グンサ (標高3,590m) にて。

飯坂:今回4年ぶりのGHTではありますが、プロジェクトを立ち上げてからはもう丸8年になります。

当初は、GHTに行くこと自体に重きを置いていた感じはありましたが、年々、持ち帰って来ることが大きな目的になってきました。

ネパールのことを自分だけで消費するというよりは、どうみんなに伝えるか。それは単にアウトドアやトレイルのことだけじゃなく、ネパールの日常のことも含めてです。この変化は、自分が東京から岩手に移住したことも影響しています。共通項があるんですよね。日本の日常と重ねてネパールを見られるようになった気がします。

ネパールやGHTに対するスタンスが、よりニュートラルになってきているんですよね。写真に関しても、自分が撮った写真を見てもらいたいという感覚が減ってきているというか。もちろん見てはほしいんですけど、僕の表現や僕だけが見た世界を見てほしいわけではないんです。

すでにあるリスペクトすべき被写体をちゃんと掴みたい。僕がなにか手を加えるというよりは、すでにあるものの良さを伝えたい。それだけ素晴らしい世界がネパールにはあると思っているのです。


現地の人と対等な目線で話をする大くん。

今年は実に4年ぶりのネパールです。別に活動休止をしていたわけではないですが、リスタート的な感覚はあります。しばらく離れていたネパールに、今どんな日常があるのか、みんなどんな表情で暮らしているのかが、とても気になっています。

行き先はドルポ。秘境であり、特別な地域として取り上げられることも多いですが、僕たちはGHTの東端からずっと歩いてきて、その続きという感覚です。もちろん、まだ一度も行ったことがないエリアなのですごく楽しみではあるのですが、一方で、このプロジェクトにおいて、たまたま今年順番が回ってきたというだけでもある。これまでGHTの生活道を歩き、村々を巡ってきたスタンスと、なんら変わることはありません。

ドルポを楽しみつつ、誠実に向き合って、記録して、そこにある物語を持ち帰りたいと思います。

『ヒマラヤは世界最大の里山だ』。だから好きなんです。(根津 貴央)


2018年、エベレスト街道にある村、ナムチェバザール (標高3440m) を出発した直後。

根津:待ちに待ったネパール、待ちに待ったGHTです。この4年は長かったですね。行きたいのに行けない。ネパールのみんなに会いたいのに会えない。寂しさを紛らわすために、新大久保にあるネパール料理屋さんに何度足を運んだことか。

僕はもともとロング・ディスタンス・ハイキングが好きで、アメリカのロングトレイルをよく歩きに行っていました。

ロングトレイルが好きというよりは、ロング・ディスタンス・ハイキングという行為にハマったんです。人間界を離れてウィルダネスに浸るわけではなく、山と町をつなぎながら歩くのがただただ楽しくて。

「自然は寂しい。しかし人間の手が加わるとあたたかくなる」。これは僕が好きな民俗学者・宮本常一の言葉です。やっぱり僕は里山が好きなんです。

そういう点では、グレート・ヒマラヤ・トレイル (GHT) はその大半が生活道ということもあり、必然的に人の営みに触れながら旅をします。僕たちはこのプロジェクトで、『ヒマラヤは世界最大の里山だ』というコンセプトを掲げたのも、これが大きく影響しています。


ガイドとポーターとは長い付き合い。いつも一緒に食事をとる。

ネパールとアメリカのロング・ディスタンス・ハイキングで、大きく異なるのはガイドとポーター (荷運び役) の有無です。アメリカでは一人で歩きますが、ネパールではガイドとポーターと一緒に歩くのが当たり前。ガイドがいないとパーミット (許可証) が取れないエリアもあります。

このネパール人のガイドとポーターと一緒に旅するのが、すごく楽しいのです。

毎年、みんな同じくらいの荷物 (20kg前後) を背負い、立ち寄った村で食糧を調達し、みんなで料理して、みんなで同じ釜の飯を食って、みんなで酒を酌み交わす。僕たちには彼らを雇っているという感覚はまったくなく、旅のパートナー、いやもはやファミリーなんです。

早く、ネパールのファミリーと会って、一緒に旅がしたいですね。


GHT projectの3人と、ネパール人のガイド&ポーターたち。

メンバーそれぞれが強い想いを持って旅している、GHT project。

今年、どんな旅をして、どんなストーリーを持ち帰ってきてくれるのか。

旅をしながらSNSで情報発信もしていくようなので、みなさん、チェックしてみてください。

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根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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