OMM JAPAN 2015 QUICK REPORT with 山と道
取材/文/写真:三田正明
去る2015年11月14日~15日(前夜祭13日)、今年もOMM JAPANが開催され、実に「OMMらしい」悪天候に見舞われたものの、大成功のうちに幕を閉じました。
OMM〈The Original Mountain Marathon〉という一風変わったレースについての詳しい解説はTRAILSの過去記事、『BRAND STORY#003 OMM – Product is born in the race.』や山と道のおふたりをフューチャーしてお届けした『HIKER × OMM/ハイカーのためのOMM JAPAN講座』を読んでいただくとして、今回は初めてOMMを取材したライター三田正明によるまったくの初心者目線によるレース・レポートと、ゴール直後の興奮冷めやらぬなか、山と道のおふたりへ行った『HIKER × OMM/ハイカーのためのOMM JAPAN講座』の答え合わせ編インタビューの二本立てで、OMM JAPANの実像に迫ります!
■イントロダクション
これから始まるレポートの前半部分を読むと、「やっぱりOMMはハードだな」と思われるかもしれないので、最初に断っておくけれど、OMM JAPANは最高に面白い「イベント(主催者はOMMをレースではなくイベントと呼ぶ)」だった。僕も今回は取材者として参加したけれど、来年は絶対に出場したい。OMM JAPANには、カテゴリーによってウルトラランナーから週末ハイカーまで誰でも参加できる余地があるし、何よりも選手たちはみな最高に楽しそうだった。
OMMには「ストレート」と「スコア」というふたつのカテゴリーがあり、それぞれにさらに規定時間の違うショートとロングというふたつのカテゴリーがある。ストレート部門はフィールドに設置された「コントロール」と呼ばれるチェックポイントを順番通りに探しながらどれだけ早くゴールできるかを争い、スコアは規定時間内にそれぞれ難易度によって異なる得点の割り振られた「コントロール」をなるべく多く見つけて、その合計点を争うゲームだ。正直、僕にはウルトラランナーたちの世界であるストレートの世界は今回取材してみてもいまみち実感が掴めなかったけれど、ハイカーたちがメインであるスコアの面白さの片鱗は理解できた気がするので、今回はスコア部門に絞ってレポートしたい。
■最悪の天気予報
11月13日の午後5時、OMM JAPAN 2015。
前夜祭の会場であるホテル「パルコール嬬恋」に着くと、エントランスの選手受付にはレース中の悪天候を伝える張り紙があった。「2日間雨の予報がでています。時間帯によっては風速5-10m/s、時間あたり5~10mmの雨量という悪天候も予想されています」という文言を読んで、今大会イベントディレクターのノマディクス小峯秀行さんに「絶好のOMM日和ですね(UK本国のOMMはUKでもとくに悪天候な時期を選んで開催されている)」というと、「何も起こらないといいんですけど」と力なく笑った。
ロビーから前夜祭の行われている中庭へ向かい、山と道のブースを見つけて夏目彰さんに挨拶すると、「まだ全然明日のことを考えられていない」という。確かに、自分も会場入りしたときにすべてのコントロールが図示された地図を貰ったけれど、それを見てもまったく何のことかわからなかった。そもそもOMMは明日自分たちがいったいどんな場所へ行き、どんな目に遭うのか、スタートするまでは選手達に一切知らせないのだ。ましてや初出場の選手に明日のイメージができるわけがない。
歓談スペースに解放されたビュッフェには選手達が続々と到着し始め、顔見知り同士たちまちテーブルごとにささやかな酒宴の輪が広がった。夕方から深く立ち籠めていた霧は夜には本格的な雨に変わり、選手達の顔にはレース前の興奮と厳しいコンディションへの恐怖が浮かんでいた。
■スタートと共に迫られる判断
翌朝は雨音で目覚めた。山と道ブースに張らせていただいたテントのまわりは水溜まりになっていて、選手ではない自分でさえ気が重くなった。軽い朝食を済ませて外に出ると、早い組の選手達はすでに続々とスタート地点に向かっていた。終夜解放されていたビュッフェで寝ていた夏目夫妻に会うと、ほとんど眠れなかったという。「これから戦場に向かうみたいな気分だな」と夏目さん。たしかに、緊張気味に黙々とスタート地点に向かう選手達の後ろ姿には、どこか悲壮感さえ感じられる。
スタート地点はホテルからパルコール嬬恋スキー場のゲレンデを40分ほど登った先にあり、意外な急斜度に息を切らした選手達がすでにずぶ濡れになって並んでいた。スタートは時差式のウェーブスタートで、選手達は笛を吹かれたらスタート地点に置かれた地図を取り、そこで初めてコントロールの場所を知り、1分後にスタートする。OMM最大の特徴はここで、選手達はその場でその日の戦略を決め、すぐさま行動に移さなければならないのだ。
スタート地点から数十メートルほど登って尾根に辿り着くと、その日最初の分岐点があった。ここで左へ登って山頂部へ行けばコントロールがいくつかあるけれど、そこに時間がかかり過ぎると後半の比較的楽に取れそうなコントロールを逃すかもしれない。ならば右に下り、確実に取れそうなコントロールを狙いに行くか? スコアの選手達はそういった選択を常に迫られる。分岐点にしばらく留まっていると、多くの組(OMMはふたり一組でレースに臨む)が左の尾根を登っていくなか、脇目も振らず右へ下っていく組もあった。どちらの戦略が正しいかはまだわからない。
■地図を見ずに人を見る?
ホテルの本部へ戻ると、小峯さんから先ほどの分岐点を左に登った尾根の上が5~10cmほど積雪していると聞いた。
「雪だけならまだしも、風も相当強いらしくて。スコアの選手はそんなにいかない場所だけど、ストレートのロングはかなり奥まで行かなくちゃならないからな…」
僕はクルマで車道に近い場所にあるコントロールをまわってみることにした。今回の会場となった群馬県の嬬恋エリアは標高1300mほどの高原地帯で、最高点では標高2000mほどの山の上にも行くけれど、コントロールの多くは林道近くの雑木林や里の裏山に置かれていた。
道路に出てみると、たくさんの選手が行き交っていた。小走りで走る選手もいたけれど、多くの選手は早歩き程度で歩いている。装備の面でも様々で、20L程度のトレランパックで走る選手もいれば、40L程度のULザックで歩く人もいる。林道の入り口でクルマを止め、そこから500mほどの位置にあるコントロールを目指してみることにした。雨は降り続けていたけれど、霧雨程度でびしょ濡れになる程ではない。雑木林のなかの消えかけたトレイルを歩いていると、なんと夏目夫妻に再会した。
「いきなりエラい目に会っちゃった」と夏目さん。なんでもあるコントロールから次のコントロールへオフトレイルを直降したら延々ヤブ漕ぎになり、しかも結局辿り着けなかったのだとか。せっかくなので、近くのコントロールを探す夏目夫妻に同行してみることにした。が、近くまできている筈なのに、コントロールがなかなか見つからない。だんだんあたりに選手が集まってきたけれど、ライバル同士みんな言葉を交わさずに黙々と探す。誰かの「あった!」という声がして、そちらへ行ってみると、トレイルからは見えない谷の下に置かれていた。
現金なもので、ひとり見つけると人がわさわさと集まってきて、このタイミングでここに来たらさぞ楽っただろうなと思った。後で今年もハイカーズデポの土屋智哉さんと組んで出場していたパーゴワークスの斎藤徹さんにスムーズにコントロールを見つける秘訣を聞くと、こういっていた。
「コントロール近くでは地図を見ずに人を見る。すれ違うとき笑顔をこらえたような人がいたら、『あ、近いな』って(笑)」
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