TRAILS REPORT

OMM JAPAN 2015 QUICK REPORT with 山と道

2015.11.20
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■失格になってもヒーロー

その後もコントロールを何カ所か周り、選手達のウェーブが来る一足先にキャンプ地へ向かうと、ウルトラヘビーでもお馴染みのイラストレーター・ジェリー鵜飼さんとUL界の名物キャラ「ジャキさん」こと尾崎光輝さん組に遭遇した。でも、スコア・ロングの筈なのに、ジャキさん、ちょっと帰って来るのが早くないか?

「この近くのコントロールも取るつもりだったけど、キャンプ場の前通ったらゴールから『お帰りなさーい』って声がしてさ、『もう、いいか』って(笑)。でも今日は前半でコンパスワークがバシバシ決まったから満足だよ」

レンズを向けると走り出したジャッキー&ジェリー(尾崎光輝さん、ジェリー鵜飼さん)。

午後三時あたりになると、ずぶ濡れの選手達が次々とキャンプ場に到着してきた。そこら中で傘の花が咲き、話題はもちろんそれぞれのその日の行程と戦略だ。初日スコア・ロング部門で20位と健闘した土屋さんと徹さんは、最初の分岐点で上を目指さず下へ向かったのだとか。他にも話を聞いていくと、スコアで高得点を獲得したのはやはり上へ行かなかった組が多かった。極めつけは初日にスコア・ショート部門で4位に入ったワンダーラスト・イクイップメント粟津創さん・オガワンド小川隆行さん組で、最初の分岐を下ったのはもちろん、その後も後半にあった高得点ゾーンのみに的を絞った徹底的に割り切った戦略で高得点を勝ち取ったのだとか。

今回のキャンプサイトとなった無印良品カンパーニャ嬬恋キャンプ場。中央に見えるワンポールシェルター(Six Moon Designs Deschutes CF)は夏目夫妻のもの。

夜になると雨は一層強く降り始めた。初日のコンディションはやはり相当厳しかったようで、100組程のチームが出場したストレート・ロング部門で、制限時間以内に帰ってこれたのはわずか24組だった。しかも、山中でビバーグするチームもありうるかもしれない、という話題になると「でもさ、もしそうだとしたら、今日最高のヒーローは彼らだよね」とジャキさん。

「だって、彼らはほとんど誰も行っていない一番奥のコントロールを取ろうとして帰って来れなかったんでしょ? 失格にはなったけど、俺らにとってはヒーローだよ。」

■大人の宝探し

2日目も朝から雨が降り続けた。出発前の土屋さんに今日の戦術を聞くと、「『走らない、焦らない、欲張らない』だね」。すると「でもさ、ちょっとは冒険しないとOMMじゃないんじゃないの?」とバディの徹さん。それでも土屋さんはハイカーの沽券として断固として走りたくない様子。この日のスコアの戦略のポイントは、スタートから南に広く分散するコントロールをどこまで取り、どこの時点でゴールである北西のパルコール嬬恋に帰り始めるか。ある程度冒険しなければ高得点は狙えないし、深く追い過ぎれば帰れなくなる。

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朝一番、傘をさしながら作戦会議。

僕にも、やっとOMMという「イベント」の何たるかがわかってきた。ストレートについてはわからないが、スコアはつまり、大人の宝探しなのだ。スタート時に配られるコントロールの記された地図は、まさに宝の地図そのものじゃないか。宝の地図を頼りに、様々な困難を自分自身の知恵と体力と判断で乗り越えていくのだ。これはまさに次々とミッションをこなしていくRPG……いや、冒険そのものだ。それが面白くないわけがない! たとえ、雨の中を一日中歩き続けたとしても、困難が増せば増すほど冒険の醍醐味も増すというものだ。しかも、その体験を何百人という人とシェアできるのだ。

2日目の昼にやっと青空が広がった。ゴールを目指して最後の力を振り絞る選手達。

昼前になり、やっと雨が上がった。選手達を祝福するように陽が差し始め、紅葉に彩られた嬬恋高原の全貌がやっと見えた。なんだ、こんなに美しい場所だったのか。2日目のコースを南北に縦断する嬬恋パノラマラインをクルマで流していると、たくさんの選手が走ったり、歩いたりしている。みんな苦しそうでもあるけれど、僕にはとても充実しているように見えた。

リストバンドに内蔵されたセンサーをコントロールにかざすとポイントがつく。

■夏目夫妻帰還せず

パルコール嬬恋に帰ると、選手たちがもう続々とゴールを始めていた。2日目のスコアはショートが4時間、ロングでも6時間なので、普段の山行と比べてもそれほどの運動量ではないように思っていたが、やはりその時間を全力で行動し続けるとなるとまったく別物のようで、みな一様に疲れ果て、それでも笑顔でゴールしていた。

ジャキさんとジェリーさん組も帰って来た。

「今日は完璧なレース展開だったよ! コンパスワークがビシビシ決まった。思い残すことはないね。」

土屋さんと徹さんは今日も制限時間20分前にゴールした。スタート前、「俺は今年で引退かな」といっていた土屋さんに、来年はどうするのかたずねると、「来年も出るよ!」との答え。

「ウチのお客さんもたくさん出てるし、仲間にも会えるしね。それにやっぱ面白いもん」

それからも続々と選手達が帰ってきたが、制限時間が近づいても夏目夫妻は帰ってこなかった。「アキラ(夏目さん)たちは100点のコントロールを取りに行くって朝いってた」とジャキさん。

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出発直前の夏目夫妻。

「でも、その時点でユミちゃん(由美子さん)とケンカしてたよ(笑)」

〈100点のコントロール〉とは、スタートから最も遠く、最も得点の高いコントロールで、走ることを前提に考えているチームならいざ知らず、夏目夫妻のように歩きが基本のチームでは、制限時間内に取って帰ってくることは絶対に不可能だと思われていた。

そのとき、夏目夫妻を知る仲間内で考えた予想はこうだ。夏目さんは一見クールそうに見えて実は火がつくと止まらなくなるタイプなので、昨夜ジャキさんの「ビバークしている人こそヒーロー」話を聞いて、自分もどうしても挑戦したくなった。だが由美子さんは冷静な人なので、現実味を考えてそれに反対。口論になるが、スイッチの入ってしまった夏目さんは暴走。結果帰れなくなり、夫婦仲はいま最悪になっている…。

■OMMから生まれるマウンテンカルチャー

制限時間を1時間15分過ぎて、遂に夏目夫妻が戻ってきた。さぞ疲労困憊で険悪ムードかと思いきや、ふたりとも遠目からも満面の笑顔。何があったのかたずねると、「制限時間を1時間間違えていた」というズッコケの答え。スコア・ロングの制限時間は初日7時間で2日目6時間だということをすっかり忘れていたのだという。それでも、「100点のコントロールを取った!」と夏目さん。等高線と高度計から位置を割り出し、歩数から距離を計る方法に開眼し、面白いように迷わずコントロールを見つけてきたのだとか。結果失格にはなってしまったけれど、初めてのOMMを心底堪能した様子が表情からも伝わって来た。

結果失格となってしまったものの、最高の笑顔でゴールに帰ってきた夏目夫妻。

こうして2015年のOMM JAPANは終わった。個人的に印象深かったのが、選手たちが非常に洗練された、高感度な人たちが多かったこと。道具の面でいっても、ULハイキング/ファストパッキング的な装備の人がこれだけ多く集まっているのを見るのは壮観だったし、スキル面でいっても、このハードな環境や行程を大きな事故や怪我などなく1000人規模の参加者たちが乗り越えたというのは、特筆に値するだろう。それにOMMという、このなんとも説明の難しい「イベント」が、楽しさや面白さの本質に肉薄する何かだということを、彼らは知っているのだ。そしてそういう人がこれだけの人数集まっていることに、僕は小さな希望を見る。

イベントが終わったあと、OMM JAPANを主宰するノマディクスの千代田高史さんは「やり続けることがいちばん大事」といっていた。そうだ。やり続けることだ。OMM JAPANがこれから5年10年、20年と続いていったとき、日本にどんなマウンテン・カルチャーが生まれているか、想像するだけでワクワクする。それに何よりも、僕も来年からは参加したいしね。

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次ページ:山と道(夏目 彰 由美子)OMM2015大会直後インタビュー

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三田正明

三田正明

1974年東京都国立市出身。2001年に『Title』(文藝春秋)の連載「To The Boy /少年犯罪被害者の旅」でカメラマン/ライターとしての活動を始める。2001年にザンビアで皆既日食を見て以来南アフリカ・ジンバブエ・タイ・インド・オーストラリア・アルゼンチン・ブラジル・メキシコ・トルコ・ネパール・アメリカ・カナダ・モンゴルなどを放浪。これまでに皆既日食を五度、部分日食を二度、皆既月食を一度見ている。次第に旅の途上で出会った大自然の世界に傾倒し、気がつけばヒマラヤや北米大陸や日本各地のトレイルを歩くように。雑誌『スペクテイター』や『マーマーマガジン』を始めとする多くの雑誌にアウトドアにまつわるドキュメンタリーやトラベローグや連載記事を執筆、TRAILSではメインライターとエディターを務める。
masaakimita.web.fc2.com

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