TRAILS REPORT

LONG DISTANCE HIKERS DAY / AFTER REPORT#2

2016.03.11
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■ MAINTENANCE of LONG DISTANCE TRAIL – ロング・ディスタンス・トレイルの維持管理

三つ目は、トレイル整備がテーマのコンテンツ。ゲストに、日本におけるロングトレイルのパイオニアとも言える「信越トレイル」から、NPO法人信越トレイルクラブ事務局長の高野賢一さんを迎えてのトークセッション。高野さんは信越トレイルの黎明期から関わっている方であり、ハイカーである僕たちの歩く側の視点だけでなく、まさにロングトレイルをつくり、続けていくための視点と経験を持っている人である。

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NPO法人信越トレイルクラブ事務局長の高野賢一さん。整備の意義や楽しさを分かりやすく説明してくれた。

僕もアメリカのロングトレイルを歩いたときに、幾度となく、アメリカのドネーション(寄付)の文化に触れたり、トレイル上でトレイル・メンテナンスのスタッフと言葉を交わしたりした。自分たちの遊び場のために、自分たちでお金を出すことはもちろん、それを守っていくための仕組みやカルチャーがあることに驚いた。まだ日本でロングトレイルづくりのノウハウがなかった頃、信越トレイルは、アパラチアン・トレイル(AT)の運営手法や仕組みを参考にして準備が進められた。現地視察で実際にATのトレイル整備に参加したり、その理念からエッセンスを吸収したりしながら、日本におけるロングトレイルを試行錯誤しながら築き上げていったのだ。それが現在の信越トレイルとなっている。

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アメリカのトレイルを歩いていると、整備のボランティアに会うことが多い。みんな誇りを持って整備に取り組んでいる。

現在、その信越トレイルの整備ボランティアに参加している人は、年間400人にものぼるそうだ。

高野賢一「整備が義務になってしまうとしんどいですよね。ですから、ボランティアの方々にはその整備が地域にどう繋がっているのか、歩く人にとってどんな意味があるのかを伝えるようにしています」

高野さんに教えてもらったのは、整備それ自体だけでなく、整備を通じて生まれるコミュニケーションというものがあること。トレイルをまたぐ町や村の人とのやりとり。整備する側と歩く側とのギブ・アンド・テイク。ひとつのトレイルの周りには多くの立場の人が存在し、その方々が関わって維持されていくことに改めて気づかされた。

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TRAILSとハイカーズ・デポによる信越トレイルでの整備風景。現場の落木を利用して階段をつくる。

このトークセッションのナビゲーター役を務めたTRAILSとハイカーズ・デポは、2013年から毎年信越トレイルの整備に携わっている。長谷川さんは初めて整備に参加した時のことをこう振り返る。

長谷川晋「これほどやりがいが感じられるとは思ってもみませんでした。でも、経験したことで、PCTで出会ったボランティアスタッフが『お前がこれから行くあそこの道はオレがつくったんだから、心して歩けよ!』と誇らしげに言っていた意味が分かりました。たしかに、そう言いたくなるんですよ(笑)」

佐井 聡「トレイル整備って、ただ純粋に行為としても楽しいんですよね。トレイルの周りにある倒木や落木を利用して階段をつくったり、鉈(ナタ)の使い方を教わったり。トレイルでの遊びをもうひとつ見つけてしまった感じでした」

長谷川さんはPCTをスルーハイクした後、素晴らしい体験をさせてくれたトレイルへの恩返しも込めて、PCTでの整備ボランティア参加なども考えていたという。しかし、PCTで教えてくれたことを、自分の国で自分のローカルと呼べるところで実践していくべきだ、と次第に考えるようになったそうだ。

このトークセッションを聞いていた参加者のひとりは「信越トレイルを歩くのもいいんですけど、私はそれよりも整備をしたくなりましたね」と笑顔で語っていた。ロング・ディスタンス・ハイキングを歩く側の楽しみだけでなく、つくる側の楽しみを教えてくれたセッションであった。

■ 五国ロングハイキング – 自分の道のつくり方

そしてイベントの最後は、ハイカーズ・デポの長谷川晋さんの「五国ロングハイキング -自分の道のつくりかた」。これは長谷川さんがPCTやアリゾナトレイルを歩いた経験をもとに、日本でも同じようなロング・ディスタンス・ハイキングの旅ができないか、という思いを彼なりのオリジナルなやり方で実践してきたものである。

この「五国ロングハイキング」のルートは、長谷川さんが地図を見ながら、自分で道をつなぎ、自分だけのロング・ディスタンス・トレイルの線を描いたものである。その線が甲斐、武蔵、上野、信濃、越後という旧国名の5つの国にまたがることから「五国ロングハイキング」と名付けられた。その距離は総延長約350〜400㎞。ジョン・ミューア・トレイルをスルーハイクするのと同じくらいの距離である。
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長谷川晋「アリゾナ・トレイルは、地味なエリアが多く、その大部分が地元の山をつなぐルートでした。しかも大半は林道やジープロード。新たに道を整備したのではなく、既存の道という道をとにかくつなげてできていた。それを知って、これなら日本でもできるじゃん!と思ったんです。いちからつくらなくても道をつなげばロングトレイルになる。これは帰国したら絶対にやるぞと」

長谷川さんの本『LONG DISTANCE HIKING』でも紹介されているように、もともとのハイキングという言葉には次のような意味がある。

「長く歩く。よろこびをもって原野を歩く。」

“a long walk, especially a cross country walk taken for pleasure “

長谷川さんは、自身でハイキングの意味に立ち返る中でこの言葉を発見して「ハイキングとは長く歩くことそのものではないか」と思った、と本の中でも書いている。ハイキングという言葉にもともと内在していた懐の深い意味と、アリゾナ・トレイルで目の当たりにした舗装路やジープロードを使いながら地元の山をつなでいく道の在り方。この2つが長谷川さんの中のエンジンとなって、五国ロングハイキングの計画ができあがっていった。
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そして、実際に日本で実践した五国ロングハイキングでは、日本ならではの旅のありかたや魅力をいろいろと再発見したそうである。食材はアウトドア専用食品でなくスーパーやコンビニで買えるものをベースにするほうが長旅向きであったり、ビジネスホテルや民宿をハイカーモーテルのように使ったり、町や里で食べ歩きも楽しんだり。そんな風に日本ならでは特徴を活かしながらの歩き旅の楽しみ方を教えてくれた。

長谷川晋「日本であれば、何かあったときに自宅に帰れるのは大きなメリットです。あと家族旅行も楽しめる。実際、僕も軽井沢に立ち寄った時に奥さんに来てもらってバケーションを楽しみました。これはアメリカのハイカーもやっていることで、どこどこに家族が来るから1週間くらいトレイルを離れるよ!とか言っていなくなるケースがよくあるんです」

日本だからこそできるLDH、日本だからこそ楽しめるLDHがある。最後に長谷川さんはこんなメッセージで締めくくった。

長谷川晋「アメリカに行かないとロングトレイルは歩けない、なんてことはありません。日本でも同じようなことができるんです。僕自身、PCTもアリゾナ・トレイルもたしかに楽しかったんですが、正直、それ以上に日本を歩いた時のほうが面白かったです。それが五国ロングハイキングをやってみて感じたこと。自分の道をつくることはとても楽しいことです。ぜひみなさんも、自分なりの新しい旅を見つけてみてください」

■LONG DISTANCE HIKINGの行方 〜あとがきにかえて〜

2日間にわたる『LONG DISTANCE HIKERS DAY』が終わった。成功か失敗か。個人的に白黒つけようと考えてイベントを振り返っていたのだが、二元論で答えを出すのは難しいように思われた。そもそも、何をもって成功と言えるのだろうか。DSCF0844

主催者は、イベント開催にあたっての告知では「ハイカーによる、ハイカーのための、ロング・ディスタンス・ハイキング・カルチャーの発信」と銘打ち、前回のレポート序文では「本というメディアだけでは本当にリアルで生々しい経験や情報は届けづらい。このカルチャーを愛し続け、定着させていくためには、リアルなハイカーが集まる、リアルな場の必要性は自明だった」と言っている。

目的は明確だ。しかし、この第1回の開催を終えただけではその成果を測ることはできないだろう。でも、それでいいんじゃないだろうか。続けることでこそその価値が生まれてくるイベントなのだ。それを長い目で見守っていきたいと思う。

アパラチアン・トレイルのTRAIL DAYSは、今年で30周年を迎える。年1回の開催なので30年目だ。どうせやるならここを目指してほしい。でも、最初からプレッシャーをかけ過ぎるのも・・・と思いつつTRAILSの佐井さんに今後について聞くと、即答でこう返ってきた。

「このイベントの価値は、未来永劫つづけると決めたイベントであることです」

TRAIL DAYSには、名物コンテンツ『HIKER PARADE』というものがある。これは、スルーハイカーが町中を練り歩くパレードだ。スルーハイクした年度ごとにハイカーが集まって歩くのだが、僕が参加した時には1980年代の集団もいた。60歳をゆうに超えているであろう方々が、久々に集ったハイカーとまるで同窓会のごとく再会を喜び、語らい、歩く姿は、とてもステキで羨ましく思えた。

いつかこんな光景を、日本でも見たい。

それを実現させるのは、きっとこの『LONG DISTANCE HIKERS DAY』に違いない。そして、その時にこそ、このイベントは成功したと言えるはずだ。


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根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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