TRAILS REPORT

LONG DISTANCE HIKERS DAY 2024 イベントレポート① | NEW YEAR TOPICS

2024.05.01
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2016年に初開催し、今回で8回目の開催となった『LONG DISTANCE HIKERS DAY』。2日間通しチケットは完売し、両日とも会場は大勢のハイカーでにぎわった。2日間ともに、たくさんのハイカーでにぎわった。

今回から全3回でイベントレポートをお届けする。今回の第1回目は、「NEW YEAR TOPICS」として、今年の旅へ向けた最新情報をレポート。

渡渉リスクや積雪量、スルーハイカー数の推移などの最新のデータに加え、TRAILS編集部が、PCT (パシフィック・クレスト・トレイル)、AT (アパラチアン・トレイル)、CDT (コンチネンタル・デバイド・トレイル)、PNT (パシフィック・クレスト・トレイル)のトレイル運営組織に取材を行なった、2024年4月時点での最新情報もまとめた。

その他にも、人気が高まっているニュージーランドのTA (テ・アラロア)や、国内のロングトレイルに関する最新情報もお届けする。

ぜひ今年のロング・ディスタンス・ハイキングの旅のプランニングに活用してほしい。

2日間ともに、たくさんのハイカーでにぎわったLONG DSITANCE HIKERS DAY 2024。

シエラの積雪後の水量は例年並み〜平年以下。積雪、渡渉の警戒を緩めず。火事の注意も。


渡渉シーン。PCTAのウェブサイトより (https://www.pcta.org/discover-the-trail/backcountry-basics/water/stream-crossing-safety/) photo by Justin “2t” Helmkamp

渡渉のリスク度を測る指標のひとつである「SWE (雪が溶けた後の水量 ※1)」は、今年は4月25日時点でカリフォルニア州シエラで90%〜74%。4月上旬の時点では同105%程度だったので、例年並み〜例年以下で推移している状況。

今年は昨年の大雪と比べれば積雪は少ないものの、渡渉は常に死亡事故が起きるリスクがあるので、警戒は緩めないようにしてほしい。

渡渉する際には、「1人で渡らない (他のハイカーが来るまで待つ)」「シューズを履いて渡る (裸足だと滑ったり捻ったりするリスクが高まる)」「バックパックのウエストベルトは外す (外さないと流された際に溺れるリスクが高まる)」をはじめ、渡渉のテクニックを事前に学んでおくことが欠かせない。

※1 SWE: Snow Water Equivalentの略。「雪溶け後の水量」を表す数値で、渡渉のリスクを測る目安となる指標のひとつ。 https://cdec.water.ca.gov/snowapp/sweq.action。

ちなみに2022年はPCT沿いで広範囲で山火事が起きた。画像は2022年のPCTAによるインタラクティブ・マップ。

アメリカでは山火事の頻度が増えており、よくニュースになるPCTやJMTのみならず、AT、CDT、PNT沿いでも山火事は起きており、いずれのトレイルを歩くハイカーも情報収集と注意を怠らないでほしい。

2022年はPCT沿いで非常に広範囲で山火事が起き、トラブルに巻き込まれたハイカーや、スキップを余儀なくされたハイカーが多くいた。

PCTA、ATC、CDTC、PNTAなどのトレイル運営組織が発信するオフィシャルの情報をこまめにチェックし、またハイカーの現地情報やSNSの情報は特定の情報に流されず、複数の情報源にあたり状況判断を誤らないようにしたい。まずは山火事には近づかないことが原則。また風向き次第で、容易に火事に巻き込まれるので、慎重な判断が必要だ。

山火事が起きている森。山火事には絶対に近づかないこと。Photo Teenage Dream (PCT 2022)

 

2023年、PCT, ATともスルーハイキング完了した人は前年を下回る。


PCTA, ATCのウェブサイトより (https://www.pcta.org/discover-the-trail/thru-hiking-long-distance-hiking/2600-miler-list//, https://appalachiantrail.org/explore/hike-the-a-t/thru-hiking/2000-milers/)

PCT のスルーハイキングを完了したハイカーの人数は、2023年は前年から大きく減少した。要因は、例年の200%以上という大雪である。シエラの区間を積雪によりスキップするハイカーが多く、結果としてスルーハイキングを完了した人が減少。

ATのスルーハイキングを完了した人数も、PCTほどではないが2023年は前年より減少した。2023年7月の北東部の豪雨により、一部スキップを推奨するアナウンスがあったことも影響したと考えられる。しかしATは、それでもコロナ前に比べると、スルーハイキングを完了した人数は増加傾向にある。

また、PCTをスルーハイクする際に必須のロング・ディスタンス・パーミットの申請数の推移は、下図の通り。


PCTAのウェブサイトより (https://www.pcta.org/our-work/trail-and-land-management/pct-visitor-use-statistics/)

PCTのロング・ディスタンス・パーミットは、全体での人数制限だけでなく、現在はスタートする日ごとに人数制限が設けられており、ハイカーの集中を避けるような対策が取られている。全体でのパーミット申請数は、2022年の4,417人から、2023年は4,728と微増した。

現在、PCTのパーミットは、申請できる日時が割り振られるようになっており、ハイカーはその日時にPCTのウェブサイトにアクセスをして、その時点で空いている出発日を選んでパーミットを取得するという流れとなっている。

北米、NZの各トレイル団体からのメッセージ(PCT、AT、CDT、PNT、TA)。

TRAILS編集部が、アメリカのPCT、AT、CDT、PNTそれぞれのトレイル運営組織に取材を行い、2024年3月時点での最新情報を確認した。またニュージーランドのTAについても情報収集をし、それらをまとめた2024年の各トレイルのトピックスをまとめた。

■PCT: PCTでは高山地帯も歩くということを十分に認識し、高山病への注意もしてほしい。


PCTAによる高山病についての記事。(https://www.pcta.org/2024/the-risk-of-altitude-illness-on-the-pct-in-memory-of-maddie-93802/)

PCTA (PCTの運営組織) のトレイル情報マネージャーのジャック・”ファウンド”・ハスケルは、日本のハイカーにも高山病への注意をしてほしいと促している。

PCTのシエラのエリアは標高3,000m以上のところが多く、最高標高地点であるフォレスターパスは標高4,023mある。以下、ジャック・ハスケルからのメッセージだ。

「2022年にフォレスターパスで、高山病によるPCTスルーハイカーの死亡事故が発生した。改めて高山病への意識を持ってほしい。高山病の初期症状を知ること、どんなに軽微な症状であっても決して高地で宿泊しないこと、高山帯にいる時に症状が出た場合は標高を下げることが、深刻な結果を防ぐことにつながります。」

またPCTでは、特にコロナ以降のハイカー増加を受けて、『Leave No Trace (LNT)』(※2) の普及、教育にも努めている。ハイカーは歩く前にLNTを理解し、実践するとこが欠かせない。

※2 Leave No Trace (リーブ・ノー・トレース):アメリカのハイキング・カルチャーにおいて当たり前の考え方・マナーであり、世界中に広まってきている。「Leave No Trace」という組織もあり、自然保護や動物保護のためにさまざまな活動を展開している (詳細は「Leave No Trace」のWEBサイトを参照。 https://lnt.org/)。

■AT: 今年も『Flip-Flop Kickoff』を開催。混雑の回避と、トレイル保護のため自然への負荷の分散を。


ATCの『Flip-Flop Kickoff』のページより。(https://flipflopfestival.org/#about)

ATC (ATの運営組織) のインフォメーション・サービス・マネージャーであるケイトリン・ミラーは、今年もフリップ・フロップ(※3) をハイカーのひとつの選択肢として推奨している。

「ATでは、今年もFlip Flop Kickoffを開催します。このイベントは、中間地点のウェストバージニア州ハーパーズフェリーで行なわれます。フリップ・フロップはトレイル保護にも貢献し、スルーハイカーの混雑を避けることにもつながります。」

今年のFlip Flop Kickoffは、4月19日〜22日に開催された。ちなみに2022年の日本人ATハイカーの”Daylight”も、フリップ・フロップで歩いている。

またATCは、2022年7月よりATで1泊以上過ごすハイカーに、ベアキャニスターの使用を正式に推奨している。クマ対策というのは、ハイカーがクマから身を守ること以上に、クマに人間の食べ物に触れさせないことで生態系を保護することが大事であり、ハイカーもその目的を理解することが求められる。

※3 Flip Flop (フリップフロップ):ハイキング用語で、今回の場合は、ATの中間地点から歩いて北上 (もしくは南下) し、北端 (もしくは南端) から中間地点まで別の交通手段で移動したのち、南端 (もしくは北端) まで歩いてスルーハイキングすること。

■CDT: 積雪量、火事などのアラートの情報収集に、インタラクティブ・マップの活用を。


CDTのインタラクティブ・マップ。CDTCのWEBサイトより https://continentaldividetrail.org/explore-the-trail/

CDTC (CDTの運営組織) のエグゼクティブ・ディレクター&共同創業者であるテレサ・マルティネスからは、積極的にインタラクティブ・マップを活用してほしい、と伝えていた。

「CDTでは、積雪量、水位、火事、その他アラート情報とトレイルルートをリンクしたインタラクティブ・マップを更新しています。インタラクティブマップには、現在のトレイル上のアラート、閉鎖区間、および必要に応じて迂回路がすべて表示されており、リアルタイムで毎日管理されています。」

2023年の日本人CDTハイカー”Goat”も、コロラドで降雪に遭遇。一時トレイルから離れ、天気が好転してからトレイルに戻るという状況にあった、という。

■PNT: 今年は積雪が少なく山火事のリスクが高い。PNT全域でアルスト禁止になる可能性あり。


PNTでの山火事の光景。Photo: Zoey

PNTA (PNTの運営組織) のエグゼクティブ・ディレクターであるジェフ・キッシュは、今年は山火事のリスクが高いことを強調している。

「今年の冬は例年に比べて雪が少なく、今年は特に乾燥した年になると予想されています。火災の危険性が高まるため、PNTの大部分でアルコールストーブが禁止される可能性があることを知っておいてください。またガスストーブの使用も制限される地域もあるため、ハイカーはPNTAの情報を確認するようにしてください。」

また山火事の影響で、2022年から現在まで、ノース・カスケード国立公園の北西部の区間は、トレイルがクローズとなっている。ちなみに、このエリアの火事に2022年の日本人PNTハイカー”Zoey”も遭遇している。

■Te Araroa: テ・アラロアはコロナ前の2倍のスルーハイカー数。ハイカー集中の緩和策も今後検討。


コロナ後に人気が一気に高まっているニュージーランドのテ・アラロア。Photo: Tori

テ・アラロアのスルーハイカーの数 (※4) は、コロナ前は2,000人程度だったが、2022/2023シーズンは約4,000人と、約2倍の数となった。またテ・アラロアの運営組織は、今後も毎年10%ずつハイカーの数が増えていくと予想をしている。

TAT (テ・アラロアの運営組織)のエグゼクティブ・ディレクターであるマット・クラリッジによると、テ・アラロアについては、今後もハイカーが増加するため、PCTと同じように1日にスタートするハイカー数を制限すべきだ、という議論もでているという。マット・クラリッジは、今後はテ・アラロアの公式サイトでハイカーがスタート日を登録をすることにより、ハイカー自身が混雑しているスタート日を避けられるようにできれば、と伝えている。

2022/2023シーズンにテ・アラロアをスルーハイキングした日本人ハイカーの”Tori”も、ハット (山小屋)でハイカーが集中しベッドの空きがなく床で寝ることになった経験もあったという。Toriは積極的にテントでの野営を選択し、ハットの混雑を避けたという。

※4 テ・アラロアのスルーハイカーの数: TAT (テ・アラロアの運営組織)のエグゼクティブ・ディレクターであるマット・クラリッジが、以下の記事でレポートしている。
https://www.wildernessmag.co.nz/te-araroa-trail-10000-walkers-a-year-by-2030/

信越トレイル、みちのく潮風トレイル、摩周・屈斜路トレイル、北根室ランチウェイ、高島トレイルのトピック。

■信越トレイル:アパラチアントレイルと友好協定を結ぶ。


2023年11月にアパラチアントレイルの運営組織と友好協定を締結。

信越トレイルは、2023年11月にATの運営組織であるATCとの友好トレイル協定を締結した。今後は、情報交換、人的交流が一層図られる計画である。

2024年には、ATCのスタッフが信越トレイルをスルーハイキングをする予定とのこと。またそれに合わせ、トレイルメンテナンスについての情報交換も行なわれる予定であるという。

■みちのく潮風トレイル: 「ふくしま浜街道トレイル」全線開通。


福島浜街道トレイル。写真は同トレイルHPより https://fukushima-coastal-trail.jp/

みちのく潮風トレイルと接続する、「ふくしま浜街道トレイル」が2023年9月に全線開通した。福島県新地町からいわき市までをつなぐ約200kmの道。みちのく潮風トレイルと合わせると、全長約1,200kmをつなげて歩くことができる。

また今年の6月9日で、みちのく潮風トレイルは全線開通5周年となる、2023年の全線踏破登録者は40名、2024年1月末までの累計は139名となった。

■摩周・屈斜路トレイル: ハイカーの数が前年度の2倍に。


延伸予定の終点となる美幌峠からの眺め。

2020年10月に開通したばかり『摩周・屈斜路トレイル (MKT)』。2023年度の踏破者は172名で、前年度の同88名から約2倍にハイカーが増えた。

今後は、屈斜路湖を一望できるスポットとしても有名な美幌峠まで延伸を予定している。また地元の小学生が授業にて全6回に分けてMKTを全線歩く等、地元における活動も積極的に行なっている。

■北根室ランチウェイ: トレイルの復活に向けた動き。


北海道の中標津〜摩周湖〜美留和をつなぐ北根室ランチウェイ。

2020年10月より閉鎖中となっている『北根室ランチウェイ (KIRAWAY)』。北海道の「ランチ=牧場」のなかを通り、北海道らしい雄大な景色のなか歩くことができるトレイルで、ハイカーからの支持も高いトレイルだ。

現在、地元の青年会議所の小田康夫氏などが中心となり、北根室ランチウェイを復活できないかと奮闘中とのこと。今後の動きに期待したい。

■高島トレイル: 認定サポーターを創設し、16名登録。


昨年のLONG DISTANCE HIKIER DAYのSPECIAL TALKでも取り上げた高島トレイル。

認定サポーター創設に向けて実施していた「高島トレイル サポーター養成講座」が、コロナで中断してたものが今年に再開され、全課程を終了した16名が認定サポーターとして登録された。

認定サポーターは、高島トレイルの広報、整備などのサポートの役割を担っていく。

What’s LONG DISTANCE HIKERS DAY?


大勢のハイカーでにぎわった今年の『LONG DISTANCE HIKERS DAY』。

日本のロング・ディスタンス・ハイキングのカルチャーを、ハイカー自らの手でつくっていく。そんな思いで2016年に立ち上げたイベントです。ロング・ディスタンス・トレイルを歩いたハイカーが、リアルな旅の体験を発信できる場。ロング・ディスタンス・ハイキングの旅の情報や知恵を交換できる場。旅のあとのライフスタイルについて語り合える場。そんなふうに、ロング・ディスタンス・ハイキングの旅を愛するハイカーにとって、最もリアルな人と情報が交流する場となればと思っています。

このイベントを立ち上げる前に、私たちは『LONG DISTANCE HIKING』(※6) という書籍を出しました。この本は、ロング・ディスタンス・ハイキングのカルチャーとTIPSを詰め込んだ本。しかし書籍というフォーマットは、リアルタイムな情報の更新は不向きです。書籍とは別に、必ずリアルタイムで、ダイレクトな情報を届ける場が必要になると考えていました。それが、このイベントが生まれたきっかけのひとつでもあります。

数百km、数千kmにおよぶ歩き旅とは、どんな体験であり、どんな感覚を与えてくれるものなのか?映像や雑誌などの情報からだけでは感じられない、ハイカーの生の言葉で語られる旅の記憶や記録。またそのハイカー自身の人柄。そこには旅への憧れや臨場感を刺激してくれる、豊かでリアリティある情報が溢れています。

※6 『LONG DISTANCE HIKING』:TRAILSの出版レーベル第一弾として出版した書籍。Hiker’s Depot(ハイカーズデポ)長谷川晋氏による、自身の経験と数多くのロング・ディスタンス・ハイカーのリアルな声をもとに制作した、日本初のロング・ディスタンス・ハイキングにフォーカスした書籍

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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