It’s a good day! #17 | ホットスプリングス

文・写真:鈴木拓海 構成:TRAILS
What’s “It’s a good day” ? | ロング・ディスタンス・ハイカーであり、バサーであり、スケートボーダーであるトレイルネーム Sunny (サニー) ことスズキタクミ。2021年よりTRAILS Crewにジョインしたタクミくんによる、ピースでイージーでちょっとおバカな気まぐれハイキングエッセイ。
なんとなくハイキング。で、なんとなくアメリカのあの⽇を思い出す。マストアイテムはウェイファーラーとラジオとハンバーガー。あとはULの屋根が切り取った三角窓のあの景色。それさえあれば、Itʼs a good day.
Hot Springs.
タクミです。今日もどこかのトレイルから、ごきげんよう!
季節が進んだ。
涼しいうちにハイクアップをやっつけて、樹林帯を抜ける直前にビッグバイトを頂く。
ガッ!とやっつけたら、今日は見てみたい景色のためにながく歩く予定だ。
活火山を上から見てやろう。
少し歩くと遠くの山肌から温泉が吹き出しているのが見えた。地球の胎動を五感で感じる。
いいぜ、この星!
目的の景色を眼下に、バックパックを下ろす。
特有の火山岩を積んでみて、けっとばしてみる。
意味はない。人生と一緒だ。楽しいひまつぶし。
トレイルはもう一度樹林帯へ降りる。日没も早くなった。ヘッドライトが点く前にテントをピッチして、雑木林に横たわる。
ラジオからはオールディーズのポップソング。
風向きが変わると、硫黄の匂いがここまで届く。
よし、歩き終えたら温泉だ。誓いを立てて鼻唄を歌う。
ババンバ・バンバン・バン。
ふと、アメリカでのグッデイを思い出す。
間欠泉で有名なセクションを歩いていた。
観光地としても人気なこのエリアを、ハイカーは足早に過ぎ去る。その先にある有名だが古びたホテルのレストランの、バイキングをめがけているからだ。
例に漏れずオレも立ち上る間欠泉をパチパチと写真に撮りつつも観光客が引くような速度で通り抜ける。
レストランの列に並んでいた他のハイカーと合流して、バイキングを堪能する。お腹がハチきれるまで食べた後は当然、みんな歩き出そうとせず芝生でひっくり返っている。
このホテルに泊まっちまうか?いやすっごい値段だったぞ。しょうがねえから歩くか…と一人ずつ重い腰を上げる。
ホテルの周辺は車でやってきた観光客が歩いて回る遊歩道が敷かれている。
我々はそのエリアを抜けて、一般客は存在すら知らないであろう野生の (?) 間欠泉が点在するエリアを進む。蒸気が熱い。硫黄の匂いが濃く漂う。
その温泉が次第に集まって川になり、先で大きな湖に流れ着いている。冷たい湖水と温泉が混ざり、まるで温水プールのようでハイカーがシャワー代わりに飛び込む。
その情報を先に得ていたオレは、この匂いに抱かれるならもっと熱い温度じゃないと…と粋がる。
地図を見て目星をつけていた、トレイルから離れた温泉川をガサゴソと遡上してみる。
ビンゴ!外気にさらされてちょうどよく冷めた、しかし熱めのスポットを見つけた。人の気配も無いのでもちろん全裸で、う・ういぃ…と例のため息を吐いて、しばし湯に揉まれる。
サイコーな湯加減に癒されたのも束の間、その日の行程を思い出す。
国立公園内のキャンプパーミットをめんどくさがって取らなかったオレは、今日中に境界線をまたぐ必要がある。またしても、重い腰を上げて歩き出す。
暗くなるまで歩き、この辺に境が…とへとへとで見つけたウィルダネス・サインのすぐ裏で、テントを張ってやった。
身体は硫黄臭いまま、しかしそれも旅情と眠りにつく。
It’s a good day!!

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