TRAILS REPORT

ウルトラライトの新たな地平 / マーモット × ウルトラライト = Re:LIGHTPACKING。

2016.11.11
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マーモットがウルトラライトのギアづくりを始めている。それについては、今年3月にTRAILSに掲載した記事(#004 Marmot / マーモット – 33年前に生まれた『軽量化哲学』への再挑戦)にて、その背景も含めて詳しくお伝えした。

マーモットがウルトラライト?当初うがった見方をしていた私も、前回のインタビューを通じて、同ブランドが『Re:LIGHTPACKING』というコンセプトを掲げてウルトラライトに取り組む必然性を理解することができた。

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今年の春夏モデルとして発売された『Re:LIGHTPACKING』シリーズのキーアイテム。

しかし、当然ながら読者のなかには「どうせ単発でしょ?」「ちょっとやってみただけでしょ?」「売れなかったらやめるんでしょ?」と思っている人もいるだろう。

言うは易く、行うは難し。

私自身、彼らの言葉からはその本気度を感じたが、実際どこまでやろうとしているのか、そしてやれるのかはわからなかった。そんな懐疑的な思いを抱いていた時、マーモットが秋冬向けのウルトラライトな新商品を開発したと知り、あらためて同ブランドのデザイナーである佐藤史佳氏と、ハイカーズデポの土屋智哉氏に話を訊きに行った。


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■作ることはもちろん、届けることが重要。

—— 2016年の春夏シーズンから『Re:LIGHTPACKING』をスタートさせたわけですが、その反響はいかがでしたか?

佐藤史佳(以下、佐藤) 「手応えもありますが、まだまだですね。手応えとしては、賞を獲ったこと。実は、デサント(日本におけるマーモットの輸入・販売元)には『デサント・デザインアワード』という賞がありまして。これは社内ではなく雑誌などのメディアの方々を招き、もっともデザインの優れたアイテムを選考するものです。そこで、前シーズンに発売した『ZERO Solitary Bivy』が優秀賞に選ばれたんです。実は今シーズンの『1000 Restar Down Parka』も同様に優秀賞を受賞してますので、2回連続でRe:LTGHTPACKINGの企画がプレス担当者の方々に認められたことになります。


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社外の識者によるデサント・デザインアワードにて優秀賞を受賞した『ZERO Solitary Bivy』。

ただ、流通面の課題は大きいですね。『Re:LIGHTPACKING』として作る商品がハマりにくいというか。以前からマーモットを扱ってくださる小売店や、マーモット好きのユーザーからすると、異ジャンルと捉えられてしまう。一方で、ウルトラライトのユーザーには認知度がない。どっちつかずというか、そういう状況になってしまっています」

土屋智哉(以下、土屋) 「特にウルトラライトが好きな人は、ガレージブランド(コテージ・マニュファクチュアラー)が好きだったりしますからね。商品以上にブランドに愛着がある人が多い。アンチ・マスプロダクトという人もいっぱいいますから。だから、マーモットがウルトラライトをやる上で一筋縄でいかないことは、最初からわかっていました」

—— 良い面も悪い面もあると。ただ、課題が明確になったということは、ある意味前進したということでもありますよね。やるべきことが見えてきた。

土屋 「こういうインタビューって、モノを作るまでの困難や裏話にフォーカスしがちだけど、でもプロが手がけているんだから、作れるんですよ。今回、『Re:LIGHTPACKING』で一番やらなきゃいけないのは、モノを作ることではないと思っていて。これまでウルトラライトに触れてこなかった人たちに、どうやってマーモットという舟にのせて届けることができるのか。これのほうが大事なんです」

佐藤 「デサントデザインアワードでの受賞もあったりして、社内のスタッフも期待している部分があるんです。『Re:LIGHTPACKING』は、明確な軽量化哲学を持ってトライしていることなので、そこを理解してくれている人もいます。根拠や背景の見えないただの機能アピールではダメだと思っていて。開発力を突き詰めれば何かいいものができるはずだ!という技術競争的な戦い方に疑問を抱いていたスタッフもいたんですよね。なので、そういう人たち、まずは社内の人たちに向けてのアピールや理解促進を地道にやっていく必要があると考えています」


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—— 作るよりも届けること。それが大事なわけですね。たしかに、『マーモット×ウルトラライト』という非常に届きにくいことにあえて挑戦している。

土屋 「たとえば僕が企画に参画するとなった時に、ウルトラライトに親和性のあるブランドだとすごく分かりやすい。でも広がりがないよね。盛り上がるかも知れないけど、やる前とやった後で客層は変わらない。それでは意味がないんです。

いまウルトラライトに興味がある人からすれば、僕のコラボ先はマーモットじゃなかったかも知れません。でも、僕からしたらマーモットじゃないとダメだったんです。コラボして変化が生まれないと面白くないじゃないですか。予定調和じゃつまらない。予定調和を壊してこそ、面白いもの、新しいものが生まれるんですから。

加えて、ハイカーズデポという企業の存在価値としては、ハイキングやウルトラライトのカルチャーをより多くの人に知ってもらうことにあると思っていて。たくさんの人に届ける上で、ウチだけではなく、どこと手を組んだら新たな変化が生まれるのか。そう考えた時に、マーモットとならやる意味があると思ったんです」


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—— 届ける上では、佐藤さんが先ほど仰っていたように、やはりまずは社内、身内に理解してもらうことからですか。

土屋 「バンドやアイドルもそうだけど、メジャーデビューして終わりじゃないでしょ?メジャーレーベルに行くと、アイツら魂売ったなとか言われたりするけどさ(笑)。でもそこで受け容れられるのはすごく大事なことで。ウルトラライトもそうなんです。いま、マーモットを通じてメジャーデビューした感じで。

だからまずは内側ですよ。レーベルのなかにこのバンドを応援してくれる人をもっと増やさないと。売り場で喜び勇んで手書きポップを書いてくれるレコード屋さんの店員さんみたいな人をね」

佐藤 「土屋さんには展示会に来てもらって、社内向けにウルトラライトや新商品に関する話をしていただきました。土屋さんには、かなり覚悟を持ってやってもらってますし、迷惑もかけているので、私もデザイナーの枠を越えていろいろやっています。土屋さんと一緒に小売店に営業しに行ったり。まあ、好きでやっているだけなんですけどね。

開発自体かなり大変ではありますが、このRe:LIGHTPACKINGの企画では、仕事の7〜8割は伝える作業に頭を使っている感じです。もちろん伝えるためのモノづくりもあるんですけど、営業的なこととか、販売促進的なこともやったりしていますね。店頭でちゃんと説明すればいける!という自信はあるんです」


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■ダウン量150g、総重量322gのダウンパーカー。

—— 今年の秋冬の新商品『1000 Restar Down Parka』(以下、レスター)は、どういうきっかけで生まれたのですか?

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佐藤 「ごく自然な流れでしたね。冬に作るならダウンだろうと。ダウンジャケットはブランドスタート時の第一号のアイテムですし、マーモットのイメージでもある。僕としてもそれをやりたかったし、土屋さんも同じ思いだったんじゃないかと」

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マーモット初期のダウンジャケット『Golden Mantle』。この独特なブルーカラーを、『1000 Restar Down Parka』で再現している。

土屋 「マーモットと言えばダウンですから。必然性があるしストーリーもある。まず最初に決めたのはスペックでした。仕事柄、ダウン衣料に関しては、ダウン量とガーメント(衣服)総重量の比率をすごく見ていたので、ウルトラライトにするのであればここら辺が落としどころだなというのはありました。それが、ダウン量150g、ガーメント総重量300g台でした」

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—— その目標数値を達成するために、具体的にはどんな工夫をしたのですか。

佐藤 「いろいろありますが、ひとつは立体裁断をやめたこと。人間工学に基づいた立体裁断にしがちですが、ダウン衣料の場合、カラダに張りついているわけではなく包み込む構造なので、そこにこだわる必然性を感じなかったのです。

これまでのマーモットは流線型のデザインを好んでいたのですが、今回はそれもやめました。目標数値を達成するために、いい意味で作り込まない、やりすぎないことを徹底しました」


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土屋 「べつに立体裁断が嫌いなわけじゃないからね。この手の話をすると、立体裁断は良くないんだという捉え方をされがちなんだけど、そうじゃない。するしないという単純な話ではなくて、何が目的なのか、そのために何をすべきか、が大事なんです」

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■手段ではなく目的ありき。シンプルな構造は最適解だった。

—— 最先端の素材や技術といった手段にとらわれず、目的を重要視したということですね。

佐藤 「これまでは、素材や機能のオーバースペック以上に、考え方においてオーバースペックというか過剰だった気がしています。無いよりはあったほういいだろう、デザインしないよりはしたほうがいいだろう、みたいな。あとはハイブリッドになっているとか、今っぽいアイデアがあると良さそう、とか。

たしかに手が込んでいるほうが語れることも多いので、売りやすいというのはあるでしょう。ただ今回のレスターに関しては、不必要なデザインを施さずシンプルで最適な構造を追求しました。行動着ではなく休憩時に着る保温着、その目的を考えて導き出された手段です。その結果、ウルトラライトになったと言うこともできる。これは、33年前に生まれたマーモットの軽量化哲学と同じだと思うんです。

デザインもボックスもシンプルにして縫い代や縫い目を減らし、グラム単位で軽量化したので、作り手からすればこれだけやった!というのはあります。でも、見た目は驚くほどシンプルなので、売り手からすればシンプルなジャケットですね……で終わってしまうでしょうね。伝わりにくい商品であることはたしかです」


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土屋 「伝わりにくいよねぇ(苦笑)。以前、とあるアウトドアブランドの社長さんがウチの店に来たことがあって。そのブランドは、かなり軽量なウェアやギアを作っていて、ウチとしてはもっとシンプルな製品が欲しいとリクエストしたんです。そうしたらこう言われました。『各国のディストリビューターから、同じ価格ならより多く機能がついているほうがいい!と言われる』と。

最近のガレージブランド(コテージ・マニュファクチュアラー)の商品や、ウルトラライトのあり方がデコラティブになりがちなのは、こういう背景もあるのだと思います。要は、ウルトラライトをやるっていうのはビジネス的には圧倒的に不利なんです。受けがよくないし、伝わりにくい。だからハイカーズデポをオープンして8年が経ちますが、いまだにウルトラライトの店ってウチしかないんです。マーモットは難しいことにチャレンジしているわけですけれども、誰もマスプロダクトとしてやったことはないから、やる価値はあると思います」


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—— 軽くするためにシンプルにした。まさにウルトラライトの王道を行っていると。シンプルさで言うと、行き着く先は無印良品みたいな感じかも知れませんね。

土屋 「それは面白いね。無印良品があれだけ受け入れられているというのは、シンプルなものに対する個々人の欲求がある証拠だと思うし。それを、ウルトラライトでもうまく見せていけば広まる可能性があると思う。


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特にこのレスターに関しては、軽くするためにシンプルにしました!というのをとにかく愚直にやっているから、すごくウルトラライトなんです。立体裁断ができない素人が作って、なんとなくこういう感じになりました、ではない。立体裁断も、複雑なカッティングも、デザインも、いくらでもできるけど、あえてやらない。意図的にシンプルであることをチョイスするというやり方は、ウルトラライトをかなり自覚的に捉えているので、モノづくりのストーリーとしてはすごく筋が通っていると自分では思っているんです」

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—— 『Re:LIGHTPACKING』シリーズの新商品は、レスター以外にもたくさんありますが、なかでもPolartec Alpha Directを採用した商品は、目的への最適解をチョイスした印象です。

佐藤 「従来のPolartec Alphaは、化繊の中綿素材だったので裏地が必要でした。でもそのぶん重量が増えてしまう。どうせなら裏地無しでダイレクトに使えたらいいなと思って、ポーラテック社に打診していたんです。当初は断られていたんですが、他社からもそういうニーズがあったようで開発してくれました。ちなみに、この新素材を採用した商品はマーモットが初なんです」


■『Re:LIGHTPACKING』の今後

—— 今後の展開においては、『シンプル』がキーワードになってくるのでしょうか?

土屋 「僕は、軽量化においてよく自転車を例に挙げるんだけど、組み上げる際にチタンやカーボンなどの軽量素材を使って軽くするのか、それともクロモリのフレームだけど変速機を含めていろいろ外してピストにして軽くするのか。その2つのアプローチがある。


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今回レスターに関しては、後者のよりシンプルにという手段を選んでいいモノができたわけだけど、正直、前者のアプローチのほうがモノは売りやすいと思います。語れることが多いので。だから、今後もシンプルなアプローチで行くかと聞かれたら、そうではありません。最終的に、マーモットと僕とで実現したいことが『届ける』ことだとすると、それは『売れる』という言葉に置き換えてもいいですが、それでいうとデコラティブなアプローチもありだと思っています。

目的を達成する上で、シンプルであることはひとつの手段でしかありません。当然ながら他の手段もあるので、これからマーモットとやっていくなかで柔軟に選んでいきたいですね。ただ今回、ここまでシンプルなことができたので、違うアプローチを試してみたいとも思っています」

—— 具体的に、こんなプロダクトを作りたいというのはありますか?

土屋 「ひとつは、定番を作りたい!毎シーズンころころ変わる、新しさが生まれていく、というのも悪くはないんだけど、定番ができてこそブランド力が高まるかなと。


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もうひとつは、ウェアだけではなくギアも含めてやりたい。衣類って、ウルトラライトのキャッチーさでいうと弱いんです。ウルトラライトで真っ先に想像するのは、ペラペラのバックパックやタープとかですよね。だから今後ギアが増えていけば、トータルに世界観を表現できる。その上で、それぞれに定番ができたらいいなと。

衣類は扱わないけどギアはやります!っていうお店も出てくるかもしれないし。世界観として見せられればウルトラライトを“届ける”というところにもつながるし。『Re:LIGHTPACKING』を継続する意味もあると思うんです」


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佐藤 「自分も土屋さんと同じ想いです。定番をつくる。DriClime Windshirtのように、長年愛される息の長いプロダクトを作りたい。定番を作り続けたいという思いは強いですね。あとは、ウェアだけではなく、ギアへの進出ですね。『Re:LIGHTPACKING』をより多くの人に届けるためにも、プロダクトの幅を広げていきたいと考えています」

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来年、2017年の春夏モデルにおいても『Polartec Alpha Power Grid Vest』は継続する見込み。今もっとも“定番”に近いプロダクトである。

* * * * *

ウルトラライトは、決してマイナーでもサブカルチャーでもない。もちろん出自はそうかもしれないが、それを言い始めたら、なんだって最初はそうである。

ウルトラライトとは、限られた人のためのものではなく、万人に開かれた方法論なのだ。しかしながら、現状はそうなってはいない。だからいま、マスプロダクトメーカーが携わる意義があるのだ。

前代未聞の挑戦だけに、賛否両論あるだろう。しかし、マーモットの佐藤史佳氏もハイカーズデポの土屋智哉氏も、そんなことは百も承知。興味本位でやっているわけでも、単に金儲けのためにやっているわけでもない。リスクを背負った上で、信念を持ち、覚悟を決めて商品開発に取り組んでいるのである。

「できる限り長くつづけていきたい」。そう両者は語る。
マスプロダクトメーカーが手がけるウルトラライトギアは、これからどんな展開を見せるのか。そして、ウルトラライト界にどんな変化をもたらすのか。楽しみで仕方がない。


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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。現在はアウトドア系のメディアを中心に執筆活動を行なう。著書に『ロングトレイルはじめました』(誠文堂新光社)がある。

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