TRAILS REPORT

LONG DISTANCE HIKERS DAY 2018 | ハイカーそれぞれの想い

2018.05.25
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今年で3回目の開催となった、LONG DISTANCE HIKERS DAY。

ご存知のない方に説明すると、これは「日本のロング・ディスタンス・ハイキングのカルチャーを、ハイカー自らの手でつくっていく」という思いで2016年に立ち上げたイベントだ。

ロングトレイルを歩いたハイカーが、リアルな旅の体験を発信できる場。ロングハイキングの旅の情報や知恵を交換できる場。旅のあとのライフスタイルについて語り合える場。そんなふうに、ロングハイキングの旅を愛するハイカーにとって、もっともリアルな人と情報が交流する場となることを目指している。

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会場にはたくさんのお客さんが足を運んでくれ、昨年以上の盛り上がりを見せた。

そもそもきっかけは、TRAILS刊行の書籍『LONG DISTANCE HIKING』(長谷川 晋 著)だった。これは「ハイカーによる、ハイカーのための本」。この本の役割は、何年たっても古くなりにくいリアルな情報とカルチャーを網羅的に理解してもらうこと。言わば、ハイカーに最初に手にしてもらう “ロングハイキングことはじめ” 的な教科書という立ち位置。

一方で『LONG DISTANCE HIKERS DAY』というイベントの役割は、変わりゆく自然環境や法規制などを、速報性、更新性高く共有すること。加えて、もっとも大切な役割は、リアルハイカーが旅に出発する際のスターティングポイントであり、帰ってくるとかならずそこにあるホームでもある、ということ。そんなハイカー同士が重なり、化学変化を引き起こす、言わば旅人のターミナル的な立ち位置。

実は『LONG DISTANCE HIKING』をリリースする前から、書籍とイベントのセットが前提だった。カルチャーを築き上げていく上で、書籍とイベントの両輪が必要だと考えていたのだ。

3回目の今回は、加藤則芳氏のトリビュート企画、ハイキングライフのリアルを語りあう座談会、世界のロングトレイルのセクションハイキング紹介、信越トレイルやみちのく潮風トレイルのブースなど、今まで以上に広がりを持ったイベントとなった。

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日本におけるロングトレイルのパイオニアといえば加藤則芳さん。今回の目玉のひとつであるトリビュート企画では、彼の弟である正芳さんが、お兄さんの生き様や思い出を語ってくれた。

そして回を重ねるごとに、登壇者・主催者側にまわるハイカーも増えてきた。これまでお客さんとして来てくれたハイカーが、実際にロングハイキングに出かけ、登壇者としてイベントに戻ってきてくれたり。昨年PCTやATを歩いたハイカーが、あらたに登壇者になってくれたり。そして何よりも、北は北海道から南は九州まで、全国各地からたくさんのハイカーが足を運んでくれたことが嬉しかった。

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観客側から発表側へ。立場が変わったハイカーもたくさん誕生し、イベントに新たな風を吹きこんでくれた。

そこでこのタイミングで、あらためてこのイベントの意義を考えたいと思う。ハイカーを主役にすべく立ち上げた LONG DISTANCE HIKERS DAYは今、ハイカーにどう捉えられているのだろうか。主催者側の価値観や思い込みで語るのではなく、参加したハイカーに率直な感想を聞いてみた。

以下、何人かのコメントを紹介するが、なかでも印象的だったのは、2017年AT(アパラチアン・トレイル)スルーハイカーの岡松さんの「なんかハイカーっていいなあ」という言葉。なにがいいかは言語化できないけど、なんかいい。このエモーショルな感じこそが、ハイキングやハイカーにとって大事なのではないだろうか。


2017年にロングハイキングの旅に出たフレッシャーズ


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まずは、フレッシュなハイカーたちの声を聞いてみよう。なかには、すっかりロングハイキングにハマってしまい、すでに今年も歩きに行っている人もいる。果たして、ピュアな感性を持っている彼らはどう感じたのか。

■ あらためて、なんかハイカーっていいなあと。(岡松 岳史)
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岡松さんがロングトレイルに興味を持ったきっかけは、10年前に歩いた鯖街道。その後、いつかアメリカのトレイルにチャレンジしたいと思うようになる。住まいのある福井県で出会ったパートナーがAT(アパラチアン・トレイル)を歩くと言い出し、二人でATをスルーハイクした。

「たくさんのハイカーによるロングトレイルの話を体感できるのが良かったです。あの絶対的な開放感と自由と責任ってロングトレイルじゃないと味わえないなあと、あらためて思いました。

ロングトレイルって不思議なもので、なんかハイカーっていいなあと、今さらながら思うんです。ハイカーにとって、トレイル上に高い山があってもそこはあくまで通過点でしかない。ハイカーがみんな嬉々として話すのは、標高や難易度ではなく、そこを取り巻く文化やトレイル上の出会い、出来事じゃないですか。そういうのがいいですよね」

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ATの終盤、メイン州にて。絶景にしばし見とれる。

■ 同じ志を持つハイカーの友人を得たことが一番です。(木村 託)
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木村さんは、八ヶ岳の山小屋で働いている根っからの山好き。自分しかしらない土地を旅することが好きで、歩くことでしか見られない風景を求めて、JMT(ジョン・ミューア・トレイル)を歩きに行った。

「参加してるお客さんと、登壇してるハイカーの皆がロング・ディスタンス・ハイキングというひとつのテーマで共感しあえている、素敵なイベントだなと感じました。

アウトドアの楽しみ方として、ロング・ディスタンス・ハイキングはまだまだマイナーだと思っていました。しかしイベントに参加してみると、登壇したハイカー、ロング・ディスタンス・ハイキングに憧れを抱いてるお客さん、たくさんの人が長く歩くことに魅力を感じているんだなと思いました。

私も多くのハイカーからトレイルの話を聞き、自分がどういうトレイルを歩きたいか、明確な目標ができました。そして何よりも、同じ志を持つ友人を得られたことが一番よかったです」

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JMTにある有名な避難小屋、ミューア・ハット。

■ 今は3大トレイルを歩くことに夢中ですが、その先の世界があることを知りました。(清田 勝)
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清田さんは、旅する力に溢れた人。今までにも日本縦断の自転車旅や、世界一周の旅をしてきたが、「旅のスピードは遅いほどいい」という思いから、PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)を歩くことに。今年はATを歩いている。

「イベントに参加してこんなにたくさんの人が、ロングハイキングに興味を持っているという事実に驚きました。また、国内国外に美しく魅力的なトレイルが散らばっていることを知り、多様な歩き方、楽しみ方がまだまだあることがわかりました。僕は今、アメリカ3大トレイルを歩くということに夢中ですが、その先の世界があるようで果てしなくも輝かしい、そんな印象を受けました。

僕が歩いたPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)に関しては、まったく同じ道を歩いたにもかかわらずそれぞれのストーリー、感情、気づきがあるんだなと。ただ共通して思ったことは、言葉に表すには無理がある経験をしてきたということだと思います」

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PCTでのテント泊風景。

■ アメリカで会ったハイカーたちとの再会と情報交換の場になっている。(本間 馨)
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本間さんは、舟田靖章さんのホームページ「逍遥遊」でロングトレイルを知った。その後、自分自身と生活をシンプルに捉えなおしたいという気持ちを強く抱くようになり、PCTを歩くことを決意した。

「前回のイベントには、客側として参加していました。当時、すでにPCTを歩くべく準備を進めていたのですが、ネットや書籍で情報を集めていても、不安な気持ちは増すばかり。実際に歩いたハイカーに接し、話すことで、躊躇しがちな自分の気持ちにはずみをつけたかったのだと思います。同じシーズンにトレイルを歩く人と会ってみたいということもありましたし、実際そこで仲間と出会えたことは、大きな力となりました。

今回のイベントは、昨年は来場していなかった2017年ハイカーが遊びにきたり、それぞれのハイカーが他のトレイルの情報を得たり、歩き終えたハイカーたちの交流や情報交換の場になっているのが印象的でした」

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PCTで出会ったたくさんのハイカーたち。

残念ながら今回詳しく紹介することができなかったハイカーの感想も、興味深い内容が詰まっていた。

丹生茂義さんは「日頃ロングトレイルの楽しみを他人と共有できることはなかなかないけど、このイベントではみんなと普通に共有できるのがいいですね」と言い、地現葉子さんは「ハイカーのみなさんが面白すぎました。みんな何かしらとんでもない物語を持って帰ってきてるのだから、いつかあらためて一人ひとりにじっくり聞かせてほしい」と話し、黒川小角さんは「今回のイベントの方向性に合わせて、自分もあまりお客さんを意識せず、自分をさらけ出して思いを発散することに注力しました」と発表の意図を語った。

読者のみなさんには、ぜひ来年のイベントで彼らの想いを体感していただきたい。


第一回目から登壇してくれているハイカーたち


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つづいて、イベント立ち上げ時から登壇してくれているハイカーに登場してもらう。イベントに深く関わると、良くも悪くも慣れがでてくるものだ。毎回毎回、新しい気づきや驚きを得ることはできているのだろうか。日本のロング・ディスタンス・ハイキングは前に進んでいるのだろうか?

■ ロング・ディスタンス・ハイキングという共通体験をした仲間との同窓会。(筧 啓一)

「さまざまなハイカーと会えること、話が聞けることがいいですね。自分とは異なる感じ方、楽しみ方を知ることができて、毎回気づきをもらっています。今回のコンテンツで言いますと、『世界のロングトレイル』が良かったです。私が今後歩きたいトレイルの詳細な情報が得られたことに加えて、このトレイルであれば自分でも歩けそう!と思ったりもして、モチベーションが上がりました。

あと個人的に楽しいのは、ロング・ディスタンス・ハイキングという共通体験をした仲間と再会できることです。彼らは、学生時代の4年間を同じ釜の飯を食って過ごした仲間との関係にも似ています。世代は違うんですが同窓会的な感覚を得られるのが嬉しいですね。

そしてこのイベントに来ると毎回思いますが、またロング・ディスタンス・ハイキングの旅に出たくなります」
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標高の高いエリアを通るため開放感にあふれるCT(コロラド・トレイル)

■ 伝えたいのはハイカーハピネス。(長沼 商史)

「今までこのイベントに3回とも参加して、今回が一番来てくれた人たちとの距離が近かった。これがサイコーに嬉しく、楽しかった。話す人と聞く人の距離が近ければ近いほど伝わる気がする。特に、何が楽しくて歩くのか?そこに迫った “ハイカーハピネス” というコンテンツに、もっとも伝えたいことが凝縮されてたかな。結局のところ、幸せを感じた瞬間とかが魅力であり楽しさだったりするわけだから。

ロング・ディスタンス・ハイカーって、それぞれバックグラウンドは違えどどこか奥底の同じ人種であり、旅人、放浪者、自然好きの究極の遊びを知ってしまった人たちでもあり、それにより社会の世間の歪みに気がついてしまった人たち、というかもともと気がついていた人でもあり。そんでたぶん、奥底は根暗で自分好き(笑)。

まあでもざっくり言ったら『気のいい奴ら』『わかってる奴ら』『なんか特別な仲間』『アホ』だよね。だから好き」
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テアラロアのワイアウ・パス周辺。

■ 会場が狭いと感じるほどたくさんの人が集まったことに驚きました。(増田 純子)

「PCTやATをはじめロング・ディスタンス・トレイルを歩く日本人ハイカーが格段に増えたのは、このイベントがひとつの要因だろうと思っています。3回目の今年は、特に2日目の参加者の数がすごくて。会場が狭いと感じるほどで驚きました。

コンテンツのバリエーションも増えて、アメリカ以外のトレイルを歩いたハイカーからの情報も得られて年々広がりを感じています。個人的には、北欧のトレイルが印象的でした。写真がすごく良かったし、話を聞いているうちに、北欧のトレイルがとても魅力的に思えてきました。

実は、私はいまCDT(コンチネンタル・ディバイド・トレイル)をセクションハイク中で。イベントでCDTをすでに歩いたハイカーから直接、トレイルの具体的な情報を聞くことができるのはありがたいです」
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PCTのハイライトのひとつでもあるナイフエッジ(ワシントン州)。

■ 歩くとは?仕事とは?これからオレは?自分の人生を考える大事な機会。(中島 悠二)

「ハイカーのみんなと会っていろんな話をすることが喜びです。久しぶりの人はもちろん今年初めて会う人も含めてです。これからどこを歩くだとか、仕事を辞めようと思っているだとか、ハイカーが集まるこの場所でしかできない話がたくさんあるんです。

今年のイベントでは1時間のフリータイムがありました。みんな話がはずんでいて、ハイカーとお客さんが自由に交流するいい時間だなあと。1時間が終わって椅子に座ったとき、学校の昼休みが終わったときの気分を思い出しました。

参加するたびに、ロング・ディスタンス・ハイキングってなんだろう?歩くってなんだろう?仕事って?これからオレどうしようかな?そういう大事なことを考える機会にもなっていて。それが僕にとっては大切です」

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緑が美しく、水面がきらめく、自然豊かなJMT。


ロング・ディスタンス・ハイキングのこれから


ゆっくりではあるが、ロング・ディスタンス・ハイキングの輪、ハイカーの輪が広がってきていることは確かである。それは、このイベントからも、参加者の声からも実感できる。

端から見ると、正直なところ理解に苦しむ、あるいは共感しにくい部分もあるかもしれない。たとえば、海外トレイル至上主義っぽくとらえる人もいるだろう(実際そんなことはなく、そんな意図もなく、国内外問わずさまざまなフィールドを紹介している)。アンチ登山を謳っていると思う人もいるだろう(これもそんなことはなく、登山好きのハイカーも山ほどいるし、登山もいいけどハイキングもね、くらいのスタンスである)。

LONG DISTANCE HIKERS DAYは、決してクローズドで排他的なイベントではない。あらゆる人に開かれたイベントである。こうしないといけない、こうすべきだ、などという決まりもない。大切にしているのはただひとつ、ハイカーが集まり、ハイカーが楽しめるイベントであること。

だからこそ、「なんかハイカーっていいなあ」「なんかハイキングっていいなあ」、そう参加者に思ってもらえるイベントであり続けることが重要だと思う。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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