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リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#13 / シエラでクマから食料を守る方法 <その1>クマとハイカーの関係

2018.08.08
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文:リズ・トーマス 訳:井上華 構成:根津貴央

ジョン・ミューア・トレイル(JMT)とパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)は、世界でもっとも人気のあるロングトレイルですが、危険な問題も含んでいます。

この二つのトレイルはシエラネバダ山脈を通らなくてはならず、そこは世界でもっとも賢いブラックベアのホーム。私はシエラネバダで三回ほど夏を過ごしてみて、空腹なクマによる被害の大きさを痛感しました。そのおかげで、私はPCTとJMTを歩く際、クマにより注意を払うようになりました。

アメリカの国立公園局は、食料や人をクマから守るために法律を作りました。でもこれらのルールは、時としてハイカー、特に海外からきたハイカーにとってはわかりづらいものだったりします。

それを解消すべく、私は記事を書くことにしました。本稿は、食料をクマから守るためのギアの紹介や、ハイカーがブラックベアの生息地周辺で過ごすためのティップスです。

LIZ13_11_The Sierra is one of the most beautiful parts of the PCT, but requires special gear and planning
シエラはPCTでもっとも綺麗なパートですが、特別なギアとプランを必要とします。The Sierra is one of the most beautiful parts of the PCT, but requires special gear and planning.


まずはじめに、シエラネバダ、特にヨセミテ国立公園におけるブラックベアの歴史を紹介します。


PCTやJMTでは、危険な動物はそう多くはありません。ブラックベア、マウンテンライオン、ヘビといくつかの虫など。でもほとんどのスルーハイカーは、マウンテンライオンを見たことがなく、普通のPCTハイカーがブラックベアを見るとしても、スルーハイク中に一回あるかないかです。

すべてのクマが危険というわけでもありません。ただ、シエラネバダにいるブラックベアはハイカーから食料を盗む術を身につけてきました。そして時には、食べ物を求める際に人間に対して暴力的になることもあります。

何世代にもわたって、シエラネバダに住むブラックベアは、食べ物を通じて人間と関係を築いてきました。1930年、国立公園局はヨセミテ国立公園でクマの餌付けサービス(https://www.nps.gov/yose/learn/nature/bear-management.htm)をはじめました。これは観光客にクマを近くで見てもらうためのものです。

母グマは、子グマに人間から与えられた食べ物を食べるように教えました。そのため、1940年にこの取り組みが終わった後も、クマにとっては人との関係性の間に食べ物があるのです。

LIZ13_03_A black bear near a pond by Zeuss Cochrane
池の近くにいるブラックベア(写真:ゼウス・コクラン)。A black bear near a pond by Zeuss Cochrane.

クマは賢い動物です。彼らの食生活は、入手しやすい食べ物へと変りました。もはや公園局が彼らにエサを与えるとき、クマは人間を見て食べ物がもらえると認識するようになりました。つまり、キャンパーやバックパッカーを見たら食べ物を連想するのです。結果、クマは彼らの生息している高い標高のエリアを出て、食べ物をいっぱい持っているハイカーのキャンプ場に来るようになりました。

アグレッシブなクマは人を襲います。テントであろうがクルマであろうが、食べ物を探すために攻撃します。私がシエラネバダに住んでいたとき、あるクマが私のクルマの窓を破り、座席の一部に噛みついてズタズタにしました。同じ年、地元のベーカリーを一匹のクマが襲い、キッチンを壊して1万ドルの損失を出したと報じられました。

時には、パークレンジャーが人を傷つけるクマを安楽死させることもあります。公園局はこう言います。

「餌を与えることはクマを死なせることにつながります。食べ物を通じて人間と関わってしまったクマは、食べ物を欲しいがために人間はもちろん、人間が持つ家やクルマも傷つけます。時にこれは、クマが彼らの子どもたちにこれらのスキルを伝える前に殺されることを意味します」

LIZ13_08_Black bear near Woods Creek on the PCT by Steve Queen
PCTのウッズ・クリークにいるブラックベア(写真:スティーブ・クイーン)。Black bear near Woods Creek on the PCT by Steve Queen.

国立公園局は、クマが人間と食べ物でつながらなければ、対立は少なくなると結論づけています。数十年前、公園局はクマがいる国を旅するハイカーやキャンパーのために、クマに食料を取られる機会を最小限にするルールを作りました。クマが人間の食料を食べるときはいつも、人間からご褒美をもらっている状況です。もし、それが無くなれば、クマは人間から離れていくでしょう。


クマの生息地で、スルーハイカーが守るべきルール。


毎年変わっていないように見えますが、国立公園局はバックパッカーがクマから適切に食料を守るためのルールを更新しています。なぜ更新するかというと、クマがいる国のルールは、特に海外のハイカーからするとわかりにくいからです。そこで今回、私がわかりやすく重要なルールに分解したいと思います。

まず最初は、地理的な側面から。PCTのスルーハイカーはケネディ・メドウズ(702.2マイル地点)からソノラ・パス(1016.9マイル地点)まで、314.7マイルを旅します。このセクションにあるキングスキャニオン国立公園、セコイア国立公園、ヨセミテ国立公園、さらにはインヨ、シエラ、ハンボルト・トワヤブ国立森林公園。これらは、PCTの中でもっとも壮大な部分です。

しかしここはいちばんクマが多く、クマから食料を守るためのとても厳しいルールがあるところです。それと同時に、レンジャーがルールを守らないスルーハイカーを見つけたり、違反切符を発行したりする機会がもっとも多いエリアでもあります。


ベアキャニスター(食料を入れておくボックス)について。シエラにおいて、スルーハイカーが行なうべきクマ対策。


LIZ13_07_Bear cans in the Sierra by Whitney LaRuffa
シエラにあるベア缶(写真:ホイットニー・ラルファ)。Bear cans in the Sierra by Whitney LaRuffa.

ベアキャニスターとは、頑丈なプラスチック製の小さな円筒状のボックスです。クマは、ベアキャニスターに近寄っても壊すことはできません。ネジで回されたか、ロックされたフタは、人の手でつまんで回さないと開けることができません。だからクマはたとえ見つけたとしてもフタをあけることはできないのです。

シエラにいるクマは、世界の中でもとても賢いクマです。彼らは古いタイプのベアキャニスターの開け方をマスターしています。ですから、シエラネバダにおいて、一部のクマに対応していないベアキャニスターが合法的に使われているのが現状です。

ここにシエラネバダで使われているベアキャニスターのリストがあります。
https://www.nps.gov/yose/planyourvisit/containers.htm

このリストは更新されていて、たとえ友人のベアキャニスターが去年使われていたとしても、今年もまだ使えるとは限りません。

LIZ13_04_Bear bags hung right above a tent by Randy Godfrey
ベアバッグが右のテントの上に吊るされています(写真:ランディ・ゴッドフリー)。Bear bags hung right above a tent by Randy Godfrey.

デイハイキングの場合、食料がベアキャニスターに入っている必要はありません。ただ、昼寝をしたり、自分のバックパックから数分でも離れる際、食料をしまう必要と、それをベアキャニスターでロックする必要があります。ベアキャニスターはしっかり閉じているときしか守ってくれません。公園局は、ベアキャニスターを使用していない時は、食料を、起きている人間の腕の距離よりも離れたところに置くべきではないとルールづけています。

夜にキャンプをする際は、ベアキャニスターをテントから25〜50フィート(7.6〜15メートル)離すようにしてください。ハイカーのなかには、ポットや鍋をベアキャニスターの上に置いて、クマが動かそうとしたときの “アラーム” にしている人もいます。また、クマがベアキャニスターを崖から落としたり、川に落としたりすることもあるため、置き場所にも注意しましょう。

 (後編では、ベアキャニスターの種類や具体的な使い方などの実践編をお届けします。英語の原文は次ページに掲載しています)

TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT, PCT, CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。

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Liz Thomas

Liz Thomas

2011年にアパラチアン・トレイルを女性の最速タイムで踏破した記録(当時)を持っていることで知られている。彼女はトリプルクラウンを達成しただけでなく、米国に15以上あるトレイルでのスルーハイクを経験し、今まで15,000マイル以上ものトレイルを歩いてきた。また、彼女はその経験をロング・ディスタンス・ハイキングのコミュ二ティに還元することにも熱心で、American Long Distance Hiking Assosication-West(ALDHA-West)のバイスプレジデンドも務めている。彼女がハイキングを本格的に始める前は、イエ-ル大学の森林環境学部で環境科学の修士課程を修了し、彼女が手がけた、ロング・ディスタンス・ハイキング・トレイルとその保護およびコミュニティに関するリサーチは、名誉あるDoris Duke Conservation Fellowshipの賞を受けた。スポンサーはAltra, Gossamer Gear, Probar, Vermont Darn Tough socks, Mountain Laurel Designs, Sawyer filters, Montbellで、アンバサダーとして活躍している。
http://www.eathomas.com/

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