リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#12 / 女性用ギアの選び方
文:リズ・トーマス 写真:リズ・トーマス 訳:井上華 構成:根津貴央
ここ最近、多くのアウトドアギアメーカーは女性のために特別にギアをデザインしています。でも、“女性専用のアウトドアギア” の本当の意味ってなんでしょうか。それは、女性の体にフィットすること? 女性の体を冷やさないもの? それとも見た目がもっとスタイリッシュなもの? 彼女らの目指すパフォーマンスにより適していること?
そこで私は、アウトドアアスリートでありアウトドアジャーナリストでもあるHannah Weinberger(ハンナ・ウェインバーガー)に、彼女らがギアを購入する際に影響を与える重要な要素について、インタビューをしました。女性のアウトドアギアにおける歴史とトレンドをたどることで、すべてのアウトドア冒険家がより良いギアを選ぶ方法を提案できればと思っています。
この春、ジャーナリストのハンナ・ウェインバーガーは私に、「女性専用のギアって何だと思う?」と聞いてきました。なぜ聞いてきたかというと、それは彼女が女性用ギアの話を書くためです。私たちは、何週間も使ってお互いにアイディアを交換しあいました。そして何週間かの試行錯誤の末、彼女はアスリートと企業の間に “女性専用のアウトドアギア” の共通の定義がなく、本当の意味のコンセンサスが取れていなかったことに気がついたのです。
Kate Hoch looking through women’s outdoor apparel at the gear store near Lone Pine, CA at the base of Mt. Whitney.Kate Hochが、ホイットニー山麓にあるローンパイン(カリフォルニア)近くのギアストアにて女性用のアウトドアアパレルをみている。
ウェインバーガーは、いくつかの歴史、経済、偏見が女性のアウトドアギアに関係していることを発見しました。数十年ものあいだ、アウトドアで遊ぶ女性は少ないという神話があったので、企業は経済合理性がないと考え女性用ギアに投資してこなかったのです。
「これ以上何も変わらないわ。でも女性のビギナー向けの製品は多くの人に届いてきたと思う」と彼女は話してくれました。問題なのは、女性用ギアはビギナー向けばかりで、ギアのデザイナーが「女性のアウトドアスポーツでトップレベルまで行くことはないだろう」という危険な仮説を立てていることでした。
でも最近では、神話(アウトドアで遊ぶ女性が少ない)が真実ではないという重要な証拠が出てきています。最近の研究では、アウトドアを楽しんでいる人の半数以上が女性と言われているのです。
さらに、女性は高いレベルのアウトドアアクティビティで競いあったり、没頭したりしています。これは特に長距離のバックパッキング旅でも同じで、Heather Anderson(ヘザー・アンダーソン)やJennifer Pharr Davis(ジェニファー・ファー・デイビス)のような、メジャーなロングトレイルを歩くハイカーもいるんです。
だから最近、いくつかの企業は重要な時間とお金を、どうやって質の高い女性用ギアを作るかに投資しています。昨年私は、アメリカのアウトドアマーケットで、女性のアウトドアアクティビティを大きく後押ししている状況を目にしました。REIが100もの女性限定アウトドアイベントを、国を超えて『Force of nature campaign』(自然の力キャンペーン)として打ち出しました。私は昨年の秋、オレゴンのポートランドで開催されたイベントで登壇しました。その時私が明確に自覚したのは、女性のアウトドアアクティビティには、たくさんの議論と、エネルギーと、興奮があるということです。それが何を意味するかを理解した時、女性用のアウトドアギアにはもっと選択肢があるべきだと私は思いました。
As overwhelming as gendered gear options can be, most gear for camping is the same for men and women.性別に分れたギアの選択肢と同じくらい多く、女性用、男性用を超えたキャンピングギアの選択肢も多い。
いまだ多くのギアメーカーは、女性用ギアをデザインするにあたって、通称 “shrink it and pink it” “Shrink and pink” (小さくして、ピンクにする)というプロセスを取っています。これは、男性用ギアを作る企業が女性モデルを作る時、男性モデルを小さくして、カラーをピンクに変えた製品を “女性モデル” と呼んでいることを表しています。
この小さくしてピンクにするプロセスは、女性用ギアの使い勝手を奪っています。女性用ギアの中でもっとも大きなジョークはポケットです。ウェインバーガーは私にこう言いました。「なんで女性用ギアのポケットは、こんなに小さいの? なんでデザイナーは、ポケットを女性用ギアから取り除いてしまうの?」。彼女は、女性用ギアは男性用ギアを小さくした形であることが多いことが理由だと考えています。「ポケットを付けるスペースなんてないものね」。
アウトドアギアメーカーが、“女性専用” のギアを開発できていない状況なので、私は、性別関係なくどのギアを購入するかを決めるためのガイドを用意しました。
■ パフォーマンスニーズと、ゴールを反映させましょう。
ギアを購入する前に、そのギアで何を成し遂げたいのかを決めましょう。もし、新しいアクティビティにトライするのであれば、おそらく最先端のモデルは必要ありません。もし、そのアクティビティを一定の期間やっていて、次の段階への良いアイディアがあるのであればもっとテクニカルなギアを選ぶべきです。そして、どのギアを選ぶ際も、旅行先の気温、気候、エコシステムに適したものであることが大切です。ギア選びは、自分のスキルと経験とマッチさせてください。
■ 自分のパフォーマンスに、ギアがどんなインパクトを与えるか考えましょう。
男性用ギアか女性用ギアの間で迷っている時、フィット感が自分のパフォーマンスに影響を与えるときがあります。いくつかのアクティビティでは、フィット感がプロアスリート並みにインパクトを与えます。またいくつかのアクティビティでは、プロアスリートは完璧なフィットを求めますが、ビギナーは気にしすぎる必要はありません。
ハイキングのシューズが、ぜんぜんフィットしない状況を考えてみてください。合わないシューズによる痛みは、ビギナーやエキスパートも同じです。レベルにかかわらず、合わないシューズはハイクでのパフォーマンス、スピード、楽しさに影響します。ハイキングでは、よく合うシューズを見つけることは必須です。靴は女性の靴を考えるための良い例です。男性用のシューズは女性用シューズより幅が広い。でも何人かの女性は、特にスルーハイカーは、ほとんどのブランドの女性用シューズよりも足が大きいので、男性用モデルを選択します。
ウェインバーガーはこうアドバイスをくれました。
「フィット感は、服を着るときにあなたの体に問題をもたらす。あなたが何かを仕立てる時、擦れたり、パフォーマンスを奪われるのは避けなくてはいけない」。
しかしアパレルと比較したとき、性別ごとのフィットが考えられているものは、派手に広告されているハードグッズ(スキー、バイク、スノーボード、カヤックパドルなど)に対してだけだ、と彼女は考えています。それらは、アウトドア好きが購入するもっとも高価なものです。でも大概のギアにおいては、性別による問題は考えられていません。だからハードグッズのフィットは、まだまだ調整が必要です。でも、ことハードグッズにおいて問題になるのは、体型ではなくて体の大きさなんです。
でもあなたは、すべてのアウトドアギアおよびアイテムに対して、性別に関わらず自分にベストなものを見つけることができるんです。私のハイキングパートナーであるガイドブック作家のDavid Harris(デイビット・ハリス)は、女性用のポールをPCTのセクションハイキングでよく使っていると私に話してくれました。女性用のポールは175cmより小さい人向けに作られています。女性用のハイキングポールは90gよりも軽い。スルーハイカーは、もっとも軽いギアを手に入れようと努めています。だかえら男性で175cmより小さい人が女性用ポールを使うというのは、正しい決断です。多くのスルーハイカーの男性は、同様の理由から女性用の寝袋を選んでいます。女性用の寝袋は、男性用と比べてより短く、重さを200gほど削減することができるのです。
My gear system includes a mix of women’s, men’s, and unisex gear. Photo from the GR20, Corsica, France.私のギアシステムは、女性用、男性用、ユニセックスがミックスされている。写真は、GR20(コルシカ・フランス)より。
■ ギアを選ぶ時は、利便性、機能性があってアウトドアを楽しめるかをベースに選びましょう。
アウトドア好きの人は、小さな特徴による違いが、良いギアと機能的ではないアイテムとの間にあることを知っています。でもたまに、アウトドアギアメーカーは、重要な特徴を女性用ギアから排除してしまっています。
よくある女性アパレルの苦情はポケットについてです。スルーハイカーでトリプルクラウンのNaomi Hudetz(ナオミ・フデッツ)は男性用のサンシャツを乾燥した気候で着ています。彼女が言うには、それを着ている大きな理由はポケットとのこと。「男性用シャツのポケットは、より大きく、ジッパー仕様になっていて使いやすい。それに比べて女性用のサンシャツは、閉じるためのボタンパッチポケット(シャツの上に貼り付けたポケット)を採用している。いつもボタンポケットを使わないのは、それが面倒だからなの」。
■ フィットに基づいて選びましょう。
服、バックパック、スキーを買うかどうかの時、自分の体にフィットするものを買いましょう。女性専用のアウトドアギアは、女性の平均の体型に合わせてデザインされています。でも女性の平均体型は、必ずしもあなたの体型とは限りません。自分の体型を知って、どうやったらアウトドアアクティビティにギアがフィットするか考えて、女性用、男性用、ユニセックスに関わらず自分にあったギアを選びましょう。
一部のアパレルでは、胴の長さ、袖、足の長さがフィットするかを気にしてください。ズボンのウエストが合っているか、動いている間に上がったり下がったりしないかを確認することが大切です。
自分の体次第ですけど、自分の性別と服が必ずしも一致するとは限りません。フデッツは別の理由で男性用のサンシャツを選んだと私に教えてくれました。それは、胴の長さ。「私は、自分の身長にしては胴が長いから、バックパックのヒップベルトをつける時、丈が短くなりすぎてしまうの。男性用のシャツはいつも女性用より長いから重宝してるわ」。 彼女はこうも言っています。「女性用のシャツは体のラインにぴったりフィットさせる傾向にあるから、私の肩をフィットするにはサイズアップが必要なの」。彼女が大きい女性用のサンシャツを着ている時、こう言いました。「まるでテントを着ているようだわ」。
Naomi Hudetz wore a men’s sun shirt on the Pacific Northwest Trail. ナオミ・フデッツがパシフィック・ノースウェスト・トレイルで男性用のサンシャツを着ていた。
■ アウトドアギアメーカーの本拠地はどこですか?
ひとつ、アウトドアが好きな人が知るべきなのは、アウトドアメーカーごとにサイズが異なるということです。多くのギアメーカーは、どこでギアを売るかによってサイズを決めています。たとえば、パタゴニアは日本で販売するときは日本人用のサイズに合わせています。これは、アジア人の平均の身長体重がアメリカ人と異なるからです。同じように、日本企業のモンベルは、アメリカ市場でいくつかの商品を “アメリカンサイズ” で販売しています。多くのヨーロッパのギアメーカーは、サイズをアメリカと日本の間に設定しています。
■ 小柄の女性は、ユニセックスのトレイルギアに注目しましょう。
多くのギアメーカー、特にコテージ・マニュファクチュアラー(ガレージメーカー)は、ユニセックスのギアを作ります。でもそのメーカーの多くは、女性より男性に売りがちで、その傾向がデザインにも反映されています。
■ ハイエンドギアはギアのカスタムを活用しましょう。
幸運なことに、バックパックを作るコテージ・マニュファクチュアラー(ガレージメーカー)は、あなたのリクエストに応じてギアを仕立ててくれます。これは、女性の胴の長さに合わせてバックパックを短くしてくれたり、パックストラップを小さくしてくれたりするのです。残念なことに、カスタマイズには追加料金がかかります。でもハイエンドギアに関しては、すべてのアスリートがカスタマイズを希望しています。ウェインバーガーが言うには、プロやそれらのハイレベルでスポーツをする人たちは、いつもカスタムフィットをしている。そこには、限界の利益を使って完璧なフィットを求める人がいるんです。
ユタ州のパリアキャニオンブックスキングッチにて出発前のギア準備。
■ いつもテストをして、ギアを最初に試しましょう。
買う前や、バックカントリーに持って行く時、毎回ギアを試し、テストをしましょう。なぜこれが大事かというと、いつも自分の性別とギアの性別が合うとは限らないからです。事実、何人かの男性は、女性用のシューズやバイクで彼らの体型にあっているものを見つけています。ギアが合うかどうかは、あなたの体やあなたのパフォーマンスの目的、そしてあなたが何を心地いいと感じるか、にかかっています。
一番良いギアを決める方法は、ストアに行って試着してみることです。ガレージギアに関しては、ハイキングコミュニティで自分の関心のあるアイテムを持っている人を見つけるのがいいでしょう。試させてもらえたら試してみましょう。オンラインでギアを買う場合、タダで返せたり、家でギアを試せるメーカーを見つけましょう。
■ 暖かさを考慮しましょう。
多くの女性は男性より寒さを感じやすいものです。これはいくつかのデータが平均を示していて、女性のメタボリズムが男性より低く、体を温めるのが遅くなっているのです。これは国際基準の寝袋の気温レートが、いくつかの気温レートを参考にしているひとつの理由でもあります。コンフォートリミット、スタンダードリミット、エクストリームリミットの温度。エクストリームリミットは、どれくらいまでの低い気温であれば、普通の人が6時間スリーピングバッグの中で低血圧のリスクなく眠ることができるのか、というものです。スタンダードリミットは心地よく男性が眠れる気温です。コンフォートリミットは女性がバッグの中で気持ち良く眠れる気温のことです。コンフォートリミットがスタンダードリミットよりも常に高いのは、女性の体が男性より冷えやすいと科学者が立証しているからです。性別に関係なく、自分が寒さに弱いなら、温かい寝袋かキルト生地を選びましょう。また、断熱パッドを使うことも検討しましょう。
My gear kit for a cold weather, late fall backpacking trip.私の寒い気候用のギアキット、晩秋のバックパッキングトリップ。
■ 自分の他のギアと一緒に機能するギアを選びましょう。
どのギアを選ぶとしても、自分のギアシステムの中で機能するかどうかを確認しましょう。たとえば、新しく温かい寝袋を買ったとして、すでに持っているバックパックにフィットするのか? もし、スリーブレスシャツを買ったとして、着た時にバックパックが擦れる原因にならないか? もしくは、グローブを買ったとして、キャンプの夜、ポットフォルダーやティーコージーとして使えるか? 自分の体にあった長さのハイキングポールを見つけたとして、テントで使えなかったとしたら? アウトドア好きの人は、良いギアは複数の機能があることを知っています。自分の目的が達成できる機能を持ったギアを選びましょう。
■ 落胆しないでください。
アスリートレベルで完璧なギアを見つけるのは困難なことです。性別のラベルを使っているのは、企業が意思決定を簡単にさせるためのひとつの方法です。でもこれは自分用のギアを選択するにあたって、あまり確かな方法ではありません。多くのアウトドアアスリート、特にバックパッカーは、たくさんのバックパック、寝袋、テント、アパレルにおいて完璧なものが必要になります。良いギアを見つけるのはトライアンドエラーなのです。でも、たまにリサーチしたり我慢したりして、そういうことを繰り返すうちに、自分にとって良いものが見つかるのだと思います。
TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT, PCT, CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。
(英語の原文は次ページに掲載しています)
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