パックラフト・アディクト | #08 BUDDYとのリバーツーリング・千曲川
文・構成・写真:TRAILS
千曲川(ちくまがわ)といえば、長野から新潟に入ると信濃川(しなのがわ)と名前を変え、総距離370kmほどの長さとなる日本最長の川。そして源流は、奥秩父山系の甲武信ヶ岳からはじまる。僕らがよくハイクする山から、長野、新潟を通って日本海に注ぐ、というスケールもいいじゃないか。
僕たちは、信越トレイルのふもとの飯山(いいやま)には、毎年、何度か訪れている。その度に、眼下に雄大に流れる千曲川を眺めていた。いつかはあの大河の流れに任せてダウンリバーを楽しみたいと思っていた。
この夏はホワイトウォーターのダウンリバーは、いろいろ楽しんだ。そろそろメロウにリバーツーリングを楽しみたい頃合いだ。そう思って、パックラフトをバックパックに詰め込んで、千曲川へと向かった。
信越トレイルと千曲川
今年は信越トレイルの全線開通10周年記念イベントがあり、このイベントで信越を訪れた後に、今年こそは千曲川を下ろうと決めた。TRAILSの根津を誘おうと思ったら、ネパールかなんだかのイベントの日と重なった、と言ってつれないので、妻と2人、BUDDYとのリバーツーリングをすることにした。
妻とは長野駅で待ち合わせた。僕は信越トレイルのイベントの翌日に、飯山から長野まで移動し、妻は東京駅8:36発の新幹線で、長野に来た。長野でしなの鉄道に乗り換え、スタート地点の川中島駅に着いたのは、10時半頃だった。東京からでも意外と早くスタートできるものだ。
川中島駅から15分程歩き、犀川の鉄橋よりやや下流の右岸よりエントリー。
駅前のセブンイレブンで買い出しをすませ、川中島駅から15分ほど歩いたところにある、犀川(さいがわ)の川原に昼頃に着く。川は少し増水していて、水は白く濁っている。その分、流れはしっかりとありそうだ(*当日の水位 立ヶ花 0.28〜0.15 m)。上高地を通って流れてくるこの川は、ここから10kmほど下流で千曲川と合流する。
さて、いよいよ出発。信越トレイル沿いの山の上から何度も眺めていた、千曲川の川旅がはじまる。
犀川から出発し、千曲川へと合流する
出発地点の犀川の景色。増水気味で、川の水は少し白く濁っている。
出発すると、思っていたよりも流れが早く、舟はどんどんと進んでいく。1級から2級の瀬をいくつか越えていく。下流への流れの向こうには、菅平や志賀高原などの山々が並んでいる。妻は、山の連なる、その奥行きがつくる繊細な景色に見とれている。
この日の前日、僕は信越トレイルのお祝いイベントで、ちょっと飲みすぎてしまい、体調は万全ではなかった。2次会もおわった後、夜、ホテルの僕の部屋には、ハイカーズデポの土屋さん、長谷川さんや、アパラチアントレイルのスルーハイカーで、いまはトレイル・スタッフとして働く栄治さんが集まり、信越トレイルの未来を熱く語り合っていた。そして、気づけば深い時間まで飲んでいた。妻も最近仕事が忙しかったらしく、本調子ではないようだ。
9月下旬で、秋の気配も濃くなってきたが、この日は気温も高く、じっとしていると暑く、すぐに汗ばむ。川の上で涼風にあたっているのが心地よく、川下りに適した天気だ。僕たちは、だるさの残る体を無理させないように、パドルを漕ぐのしばしば休めて、メロウに川の流れに身を任せていた。
長野市の中心街に近づき、犀川は千曲川に合流する。両岸の川原は1kmくらいまで広くなり、大河らしい景色が広がる。他に川下りの人には会わず、誰もいない大きな川のなかには、僕ら2人だけ。誰にも邪魔されずに川の空間を悠々と味わう。
秋の気配を楽しみながら、小布施の川原でキャンプ
GoLiteのShangri-La 5に、パックラフトを2艇つっ込み、ベッド代わりにしてキャンプ。
小布施(おぶせ)のエリアに入ったあたりで、適当なキャンプ地を見つけて、パックラフトを上陸させる。当初予定していた、ある橋の近くのキャンプ地は、藪が生い繁り、やむなく別の場所にした。そこだったらコンビニも近く、追加の酒やつまみも買い出しできたのだけど。今夜は出発のときに最低限で揃えたものだけで、ちびちびやろう。
キャンプに最高の河原。小布施のエリアには、こんな河原がいくつもある。
日が落ちると、肌寒くなる。すっかり秋だ。360度人工物が目に入らない、素晴らしい川原で、すべてが心地よい。徐々に明るさがなくなり、空気が冷たくなっていく時間をゆっくりと味わう。
この日は、中秋の名月の前日。明るい月明かりのもと、キャンプの時間を味わう。
りんごが流れてくる川
2日目。5時半に目覚め、開きっぱなしにしていたテントの入り口から、外に出る。朝めしを作っているあいだに、空が明るんでくる。秋空のいわし雲に、朝焼けの色が映る。妻は川地図をしげしげと眺め、今日の行程を頭に入れている。今日は立ヶ花(たてがはな)を過ぎ、その先の瀬が続く区間を越えて、飯山まで漕ぐ予定だ。
朝の早い時間、川面にまだ霧がうっすらと覆われているなかを、漕ぎ始める。千曲川に浮かんでいると、釧路湿原を流れる釧路川を漕いだときに感じたような、大河と大地の広がりを感じる。千曲川は、おおむね穏やかな流れだが、川自体の規模が大きいため、流量はかなり多い。ゆったりとしているように見えて、しっかりと流れがあり、水のパワーも感じる。
千曲川を下っていて、何度か出くわした、川を流れるりんご。さすが信州の川。
川に赤い点のようなものが見えると思ったら、川にりんごが流れていた。小布施のあたりは両岸に、りんご畑がたくさんあるので、そこからころんと落ちて、流れてきたのだろう。
妻は山を歩いているときもそうなのだが、川を下りながらも、よく歌を歌う。流れてくるりんごを見つけてからはもちろん、「赤〜い〜リンゴに〜 くちび〜る 寄〜せ〜て〜」と、しばらくは並木路子の「リンゴの唄」を川の上で口ずさんでいた。
山あいの瀬が続く区間を抜け、斑尾山のふもとへ
立ヶ花を過ぎてしばらくすると、川は蛇行して山間部に入り、瀬の続く区間になる。1.5級から2級の瀬が、断続的に5つくらい出てくる。難しい瀬ではないが、久しぶりの波にちょっとびっくりする。この区間を過ぎれば、あとはまたメロウな流れが飯山まで続いていくだけだ。
きれいな山のシルエットに見とれる。山のふもとには、村落が広がっているのも見える。
飯山のゴールの川原に着いたのは、正午少し前の時間だった。川原からは、信越トレイルの南の基点である斑尾山(まだらおやま)が見える。僕ら2人は数年前に、信越トレイルを全区間歩いた。そのときのゴールが斑尾山だった。今回は千曲川をわたる1泊2日40kmのツーリングで、斑尾のふもとまで旅してきた。信越の心の景色が、またひとつ増えた。
リバーツーリング・ギア
for PACKRAFTING :< Ryuta(右)>
[パックラフト] ALPACKA RAFT / ALPACKA クルーザーデッキ, [パドル] AquaBound / マンタレイ カーボン 4ピース, [PFD(ライフジャケット)] ASTRAL / Sea Wolf(後継モデルはBLUEJACKET), [ヘルメット] Hiko / Buckaroo, [スリーピングマット] THEARM A REST / ProLite S, [バックパック & ドライバッグ] Hyperlite Mountain Gear / Porter 3400, [ドライスーツ] Alpacka Raft / Stowaway Tough DrySuit, [スローロープ] Hyperlite Mountain Gear / RIVER RESCUE THROW BAG (20m), [リバーナイフ] NRS / Co-Pilot Knife, [ベースレイヤー(上)] ibex / Essential T, [ベースレイヤー(上)保温用予備] Duckworth / Maverick Crew, [ショーツ] TRAIL BUM / BETTER SHORTS, [シューズ] Five Ten / Eddy pro
for PACKRAFTING : <Kyoko(左)>
[パックラフト] ALPACKA RAFT / ALPACKA ホワイトウィーターデッキ, [パドル] Werner / Shuna 4ピース, [PFD(ライフジャケット)] ASTRAL / ABBA, [ヘルメット] Hiko / Buckaroo, [パドルジャケット] Kokatat / GORE-TEX Pullover, [レインパンツ] OMM / Kamleika Pant, [スリーピングマット] Evernew / FPmat100, [ドライバッグ] SEAL LINE / BAJA™ DRY BAG (55L), [ドライバッグ] EXPED / Fold DryBag Endura (15L)[スローロープ] MATER WORKS / THROW BANG 15 (16m), [リバーナイフ] GERBER / River Shorty Knife, [バックパック] TRAIL BUM / STEADY, [ベースレイヤー(上)] ibex / Ws OD Heather Crew, [ベースレイヤー(上)] finetrack / FLOODRUSH ZipNeck, [タイツ] finetrack / FLOODRUSH Tights, [シューズ] Five Ten / Eddy pro
for CAMPING
<Ryuta> [スリーピングバッグ] Highland Designs / UDD Down Bag, [防寒着(上)] TRAIL BUM / Down Jumper, [防寒着(下)] Peak Performance / Civil Lite Pants
<Kyoko> [スリーピングバッグ] mont-bell / UL super spiral down hugger #3, [防寒着(上)] patagonia / Nano Air Hoody, [防寒着(下)] ibex / Woolies 2, [着替え] Houdini / Trail Shirt Dress
<SHARE for BUDDY> [シェルター] GoLite / Shangri-La 5, [ストーブ] Trail Designs / Sidewinder Ti-Tri, [クッカー] Evernew / チタンポッド600ml, [皿] VIVAHDE / 山のうつわ, [カトラリー] MSR / スポーク, [浄水器] KATADYN / BeFree, [火吹き棒] Epiphany Outdoor Gear / V3-Pocket Bellows
今年の9月のダウンリバーから使いはじめた、Five TenのEddy(左)とEddy pro(右)。キャニオナー向けに開発されたアクア・ステルス(Stealth® S1)をベースにした、アウトソールを使用。今回はそれほどその機能が活かされる場がなかったが、9月上旬に下った天竜川支流のダウンリバーでは、岩の上での抜群のグリップ力を発揮した。アウトソール後部にドレインホール(排水口)があり、アッパソールは疎水性のあるメッシュを採用し、乾きやすく排水性に優れた仕様になっている。
リバーマップ(川地図):千曲川
DAY1 川中島〜小布施 約18km DAY2 小布施〜飯山 約22km。スタートは川中島駅から15分ほど歩いた、犀川右岸。鉄道の鉄橋の少し下流側よりエントリー可能。ゴールは、飯山駅付近の中央橋手前の左岸河原。駐車スペースもあり。
1 DAYで行く場合は、立ヶ花から飯山までが、瀬もあり、メロウな千曲川らしさもありおススメ。ゴールは、飯山駅付近より10kmほど下流の上境まで行けば、そのまま温泉に入ることもできる(いいやま湯滝温泉)。
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