TRIP REPORT

パックラフト・アディクト | #08 BUDDYとのリバーツーリング・千曲川

2018.10.03
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文・構成・写真:TRAILS

千曲川(ちくまがわ)といえば、長野から新潟に入ると信濃川(しなのがわ)と名前を変え、総距離370kmほどの長さとなる日本最長の川。そして源流は、奥秩父山系の甲武信ヶ岳からはじまる。僕らがよくハイクする山から、長野、新潟を通って日本海に注ぐ、というスケールもいいじゃないか。

僕たちは、信越トレイルのふもとの飯山(いいやま)には、毎年、何度か訪れている。その度に、眼下に雄大に流れる千曲川を眺めていた。いつかはあの大河の流れに任せてダウンリバーを楽しみたいと思っていた。

この夏はホワイトウォーターのダウンリバーは、いろいろ楽しんだ。そろそろメロウにリバーツーリングを楽しみたい頃合いだ。そう思って、パックラフトをバックパックに詰め込んで、千曲川へと向かった。

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信越トレイルと千曲川


created by dji camera
優雅に信州の大地を流れる千曲川

今年は信越トレイルの全線開通10周年記念イベントがあり、このイベントで信越を訪れた後に、今年こそは千曲川を下ろうと決めた。TRAILSの根津を誘おうと思ったら、ネパールかなんだかのイベントの日と重なった、と言ってつれないので、妻と2人、BUDDYとのリバーツーリングをすることにした。

妻とは長野駅で待ち合わせた。僕は信越トレイルのイベントの翌日に、飯山から長野まで移動し、妻は東京駅8:36発の新幹線で、長野に来た。長野でしなの鉄道に乗り換え、スタート地点の川中島駅に着いたのは、10時半頃だった。東京からでも意外と早くスタートできるものだ。

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川中島駅から15分程歩き、犀川の鉄橋よりやや下流の右岸よりエントリー。

駅前のセブンイレブンで買い出しをすませ、川中島駅から15分ほど歩いたところにある、犀川(さいがわ)の川原に昼頃に着く。川は少し増水していて、水は白く濁っている。その分、流れはしっかりとありそうだ(*当日の水位 立ヶ花 0.28〜0.15 m)。上高地を通って流れてくるこの川は、ここから10kmほど下流で千曲川と合流する。

さて、いよいよ出発。信越トレイル沿いの山の上から何度も眺めていた、千曲川の川旅がはじまる。


犀川から出発し、千曲川へと合流する


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出発地点の犀川の景色。増水気味で、川の水は少し白く濁っている。

出発すると、思っていたよりも流れが早く、舟はどんどんと進んでいく。1級から2級の瀬をいくつか越えていく。下流への流れの向こうには、菅平や志賀高原などの山々が並んでいる。妻は、山の連なる、その奥行きがつくる繊細な景色に見とれている。

この日の前日、僕は信越トレイルのお祝いイベントで、ちょっと飲みすぎてしまい、体調は万全ではなかった。2次会もおわった後、夜、ホテルの僕の部屋には、ハイカーズデポの土屋さん、長谷川さんや、アパラチアントレイルのスルーハイカーで、いまはトレイル・スタッフとして働く栄治さんが集まり、信越トレイルの未来を熱く語り合っていた。そして、気づけば深い時間まで飲んでいた。妻も最近仕事が忙しかったらしく、本調子ではないようだ。

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2人でメロウに川の流れに身を任せて、下っていく。

9月下旬で、秋の気配も濃くなってきたが、この日は気温も高く、じっとしていると暑く、すぐに汗ばむ。川の上で涼風にあたっているのが心地よく、川下りに適した天気だ。僕たちは、だるさの残る体を無理させないように、パドルを漕ぐのしばしば休めて、メロウに川の流れに身を任せていた。

長野市の中心街に近づき、犀川は千曲川に合流する。両岸の川原は1kmくらいまで広くなり、大河らしい景色が広がる。他に川下りの人には会わず、誰もいない大きな川のなかには、僕ら2人だけ。誰にも邪魔されずに川の空間を悠々と味わう。


秋の気配を楽しみながら、小布施の川原でキャンプ


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GoLiteのShangri-La 5に、パックラフトを2艇つっ込み、ベッド代わりにしてキャンプ。

小布施(おぶせ)のエリアに入ったあたりで、適当なキャンプ地を見つけて、パックラフトを上陸させる。当初予定していた、ある橋の近くのキャンプ地は、藪が生い繁り、やむなく別の場所にした。そこだったらコンビニも近く、追加の酒やつまみも買い出しできたのだけど。今夜は出発のときに最低限で揃えたものだけで、ちびちびやろう。

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キャンプに最高の河原。小布施のエリアには、こんな河原がいくつもある。

日が落ちると、肌寒くなる。すっかり秋だ。360度人工物が目に入らない、素晴らしい川原で、すべてが心地よい。徐々に明るさがなくなり、空気が冷たくなっていく時間をゆっくりと味わう。

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この日は、中秋の名月の前日。明るい月明かりのもと、キャンプの時間を味わう。


りんごが流れてくる川


2日目。5時半に目覚め、開きっぱなしにしていたテントの入り口から、外に出る。朝めしを作っているあいだに、空が明るんでくる。秋空のいわし雲に、朝焼けの色が映る。妻は川地図をしげしげと眺め、今日の行程を頭に入れている。今日は立ヶ花(たてがはな)を過ぎ、その先の瀬が続く区間を越えて、飯山まで漕ぐ予定だ。

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朝焼けの景色。いわし雲がきれいなオレンジ色に染まった。

朝の早い時間、川面にまだ霧がうっすらと覆われているなかを、漕ぎ始める。千曲川に浮かんでいると、釧路湿原を流れる釧路川を漕いだときに感じたような、大河と大地の広がりを感じる。千曲川は、おおむね穏やかな流れだが、川自体の規模が大きいため、流量はかなり多い。ゆったりとしているように見えて、しっかりと流れがあり、水のパワーも感じる。

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千曲川を下っていて、何度か出くわした、川を流れるりんご。さすが信州の川。

川に赤い点のようなものが見えると思ったら、川にりんごが流れていた。小布施のあたりは両岸に、りんご畑がたくさんあるので、そこからころんと落ちて、流れてきたのだろう。

妻は山を歩いているときもそうなのだが、川を下りながらも、よく歌を歌う。流れてくるりんごを見つけてからはもちろん、「赤〜い〜リンゴに〜 くちび〜る 寄〜せ〜て〜」と、しばらくは並木路子の「リンゴの唄」を川の上で口ずさんでいた。


山あいの瀬が続く区間を抜け、斑尾山のふもとへ


立ヶ花を過ぎてしばらくすると、川は蛇行して山間部に入り、瀬の続く区間になる。1.5級から2級の瀬が、断続的に5つくらい出てくる。難しい瀬ではないが、久しぶりの波にちょっとびっくりする。この区間を過ぎれば、あとはまたメロウな流れが飯山まで続いていくだけだ。

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きれいな山のシルエットに見とれる。山のふもとには、村落が広がっているのも見える。

飯山のゴールの川原に着いたのは、正午少し前の時間だった。川原からは、信越トレイルの南の基点である斑尾山(まだらおやま)が見える。僕ら2人は数年前に、信越トレイルを全区間歩いた。そのときのゴールが斑尾山だった。今回は千曲川をわたる1泊2日40kmのツーリングで、斑尾のふもとまで旅してきた。信越の心の景色が、またひとつ増えた。

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リバーツーリング・ギア


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for PACKRAFTING :< Ryuta(右)>
[パックラフト] ALPACKA RAFT / ALPACKA クルーザーデッキ, [パドル] AquaBound / マンタレイ カーボン 4ピース, [PFD(ライフジャケット)] ASTRAL / Sea Wolf(後継モデルはBLUEJACKET), [ヘルメット] Hiko / Buckaroo, [スリーピングマット] THEARM A REST / ProLite S, [バックパック & ドライバッグ] Hyperlite Mountain Gear / Porter 3400, [ドライスーツ] Alpacka Raft / Stowaway Tough DrySuit, [スローロープ] Hyperlite Mountain Gear / RIVER RESCUE THROW BAG (20m), [リバーナイフ] NRS / Co-Pilot Knife, [ベースレイヤー(上)] ibex / Essential T, [ベースレイヤー(上)保温用予備] Duckworth / Maverick Crew, [ショーツ] TRAIL BUM / BETTER SHORTS, [シューズ] Five Ten / Eddy pro

for PACKRAFTING : <Kyoko(左)>
[パックラフト] ALPACKA RAFT / ALPACKA ホワイトウィーターデッキ, [パドル] Werner / Shuna 4ピース, [PFD(ライフジャケット)] ASTRAL / ABBA, [ヘルメット] Hiko / Buckaroo, [パドルジャケット] Kokatat / GORE-TEX Pullover, [レインパンツ] OMM / Kamleika Pant, [スリーピングマット] Evernew / FPmat100, [ドライバッグ] SEAL LINE / BAJA™ DRY BAG (55L), [ドライバッグ] EXPED / Fold DryBag Endura (15L)[スローロープ] MATER WORKS / THROW BANG 15 (16m), [リバーナイフ] GERBER / River Shorty Knife, [バックパック] TRAIL BUM / STEADY, [ベースレイヤー(上)] ibex / Ws OD Heather Crew, [ベースレイヤー(上)] finetrack / FLOODRUSH ZipNeck, [タイツ] finetrack / FLOODRUSH Tights, [シューズ] Five Ten / Eddy pro

for CAMPING
<Ryuta> [スリーピングバッグ] Highland Designs / UDD Down Bag, [防寒着(上)] TRAIL BUM / Down Jumper, [防寒着(下)] Peak Performance / Civil Lite Pants
<Kyoko> [スリーピングバッグ] mont-bell / UL super spiral down hugger #3, [防寒着(上)] patagonia / Nano Air Hoody, [防寒着(下)] ibex / Woolies 2, [着替え] Houdini / Trail Shirt Dress
<SHARE for BUDDY> [シェルター] GoLite / Shangri-La 5, [ストーブ] Trail Designs / Sidewinder Ti-Tri, [クッカー] Evernew / チタンポッド600ml, [皿] VIVAHDE / 山のうつわ, [カトラリー] MSR / スポーク, [浄水器] KATADYN / BeFree, [火吹き棒] Epiphany Outdoor Gear / V3-Pocket Bellows

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今年の9月のダウンリバーから使いはじめた、Five TenのEddy(左)とEddy pro(右)。キャニオナー向けに開発されたアクア・ステルス(Stealth® S1)をベースにした、アウトソールを使用。今回はそれほどその機能が活かされる場がなかったが、9月上旬に下った天竜川支流のダウンリバーでは、岩の上での抜群のグリップ力を発揮した。アウトソール後部にドレインホール(排水口)があり、アッパソールは疎水性のあるメッシュを採用し、乾きやすく排水性に優れた仕様になっている。


リバーマップ(川地図):千曲川


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DAY1 川中島〜小布施 約18km DAY2 小布施〜飯山 約22km。スタートは川中島駅から15分ほど歩いた、犀川右岸。鉄道の鉄橋の少し下流側よりエントリー可能。ゴールは、飯山駅付近の中央橋手前の左岸河原。駐車スペースもあり。
1 DAYで行く場合は、立ヶ花から飯山までが、瀬もあり、メロウな千曲川らしさもありおススメ。ゴールは、飯山駅付近より10kmほど下流の上境まで行けば、そのまま温泉に入ることもできる(いいやま湯滝温泉)。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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