TRAILS REPORT

HIMALAYA MOUNTAIN LIFE | GEAR Reviews #2 – GHT(2016-2017)で使用したギア

2018.10.12
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文・写真:根津貴央 構成:TRAILS

GHT(グレート・ヒマラヤ・トレイル)のギア・レビュー第2弾!

今回は、2016年と2017年に使用したギアのなかで、重宝したものや、印象に残っているアイテムを紹介しようと思う。

前回の第1弾(2014-2015)に比べると、同じGHTとはいえ変更したギアも多い。経験値が上がったというのもあるが、それ以上に、GHTはヒマラヤ山脈を1,700kmにわたって貫くトレイルゆえエリアごとに環境が異なることが大きい。

正直、2016-2017は過去2年間より険しい山域だった。そこで僕がどんなギアを携行し、それらを駆使しながらどう旅したのか。第1弾のギアと比較しながら読むと、より楽しめるかもしれません。ではどうぞ!
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2017年の旅で歩いたランタン・エリア。前方に見えるのはランタン・リルン(標高7,245m)。


ギア(個人装備)一覧


2016年と2017年で、一部異なるもの(後述のバックパックや登山靴など)もあるのだが、両年ともだいたいこんな感じである。

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標高5,000mを超えるエリアもあったため、防寒対策に力を入れた。水と食料を含むと総重量は20kgほど。

前回の記事で紹介した2014-2015のギアと比較すると、あまり大差はないように見えるかもしれない。でも大幅に見直したアイテムがいくつかある。バックパック、スリーピングマット、行動着の3つだ。

バックパックとスリーピングマットは後述するので割愛するとして、行動着についてちょっとだけ。2014-2015は半袖シャツにウインドジャケットというスタイルだったが、今回はウールのベースレイヤーに保温性と通気性に優れたミッドレイヤーをチョイスした。

標高が高いエリアでの長時間行動を想定した上での判断だったが、これが奏功した。


バックパックは、軽量かつ丈夫で、シンプルなデザイン。


2016年に使用したのは、フリーライトのスピンザック50(FREELIGHT / SpinnZack 50tifw)。

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フリーライトのスピンザック50は、縫製ポイントを減らしているため破損しにくい。事実、ヒマラヤの厳しい環境にも耐えてくれた。

軽量化を図りつつも、MAXで25kgまでの荷物を背負っても快適でありたい。そう考えたときに、総重量が約650gしかないにもかかわらず、頑丈なチタンフレームを搭載し、荷重制限も設けていないこのバックパックは魅力的だった。

ただ、GHTでは携行するギアの数が多いため、70〜80Lくらいあったほうが便利。そこで2017年はライペンのマカルー80L(RIPEN / MAKALU 80L)にした。サイズだけで言えば、同サイズのバックパックは山ほどある。ではなぜこれにしたのか。

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ライペンのマカルー80Lは、フレームレスで多少パッキングのコツは必要だが、慣れると抜群の背負心地。重量も2,050gと、この容量のバックパックのなかではかなり軽量だ。

ひとつは構造のシンプルさ。万が一どこか壊れた際に、自分で応急処置ができそうだった。これが複雑な機構だったとしたら壊れたらお手上げである。もうひとつは、背負い心地。複数ブランドのバックパックを背負ってみた際に、ライペンのマカルー80Lがいちばんしっくりきた。こればかりは好みの問題なので万人に当てはまるわけではないが、僕にとってはジャストフィットだったのだ。

実際の使用感としては、使い勝手が抜群でさすがはロングセラーモデルという感じ。特に2017年は登攀エリアもあり、大きなバックパックを背負いながらさまざまなムーブが求められた。そういうシチュエーションにおいて、このシンプルな形状はかなり有用だったと思う。

また、これは盲点だったりするのだが、バックパックに傷がついたり壊れたりしがちなのがバス移動の最中。たいてい屋根の上に荷物を積むのだが、とにかく扱いが雑なのだ。しかもネパールの道路は荒れているので、衝撃は大きく、擦れも起きやすい。ここで耐えられることも、バックパックに求められる要素である。

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これがネパールでよく見かけるバスのスタイル。かなり雑な感じで積み込まれる。


テントは、重量480gのソロシェルターを採用。


2014-2015は日本人メンバー3人で共同テントを使用していたが「やっぱりひとりになりたい時もあるよね」「ひとりのほうがリラックスして眠れるよね」という理由から、2016-2017はソロシェルターに変更した。

チョイスしたのは、フリーライトのM Trail himaraya(FREELIGHT / M Trail himaraya)。重量が480gと軽量であることも魅力のひとつではあったが、もっと軽量なシェルターは他にもたくさんある。

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フリーライトのM Trail himaraya。いずれの面も地面に対して大きな角度で立ち上がっているため、この手のシェルターにありがちなデッドスペースがないのも特徴のひとつ。

これを選んだ大きな理由は、2つある。1つ目は耐候性。特に風に強い。面と面が合わさる角の部分を曲線で構成(縫製していない)することで風の抵抗を減らし、さらに縫製箇所を極力少なくして風をはらまないようにしている。

2つ目は居住性。一般的なツインポールシェルターの場合、2本のポール間距離が短く、居住性を阻害しがち。それを解消すべくポール間距離が長くても成立する独自の設計 & デザインにしている。そのため驚くほどポールの存在が気にならない。

このシェルターのおかげでヒマラヤの厳しい環境下でも安心して眠れたことは、長旅において大きなアドバンテージだった。


共同装備のストーブは、灯油を使えるタイプ。


ネパールで手に入れやすい燃料とは? GHTを旅するまでは、てっきりガス缶だと思っていたのだが、実はそうではない。もちろんカトマンズ(首都)をはじめとした大都市ではガス缶は手に入るが、GHTが通っている田舎村では不可能。

じゃあ、何があるのか。それはケロシンと呼ばれる灯油だ。というわけで、僕たちは共同装備として灯油が使えるストーブを2つ携行した。MSRのドラゴンフライ(MSR / DRAGONFLY)と極地用のXGK EXである。

なぜMSRにしたのかというと、構造がシンプルで故障しても修理しやすいから。ドラゴンフライを選んだのは、火力調整がしやすいから。僕たちは現地の食材を用いながらさまざまな調理をするため、火加減がけっこう大事なのだ。

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MSRのドラゴンフライ(トロ火から最大火力まで調整可能)とXGK EX(極地用)。クッカーは、圧力鍋。

ただ、この灯油にはひとつだけ大きな欠点がある。それは、日本で手に入るものに比べて質が悪いこと。具体的には、不純物を多く含んでいる。そのため、ストーブに煤(すす)がこびりついてしまい、定期的にメンテナンスしないと使いつづけることができない。

そんなわずらわしさを嫌がっていたネパール人の仲間は、いつの間にか現地でおなじみのストーブ(これがとにかく重くてかさばる)を入手して使っていた。

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このストーブだと、煤(すす)も発生せず、快適に使用できる。ただし、見た目どおり重くてかさばるのが難点。


お気に入りのギア BEST3


■ スリーピングマット
サーマレストのネオエアー Xライト女性用(Therm-A-Rest / WOMEN’S NEOAIR XLITE)。今回クローズドセルではなくエアマットにしたのは、断熱性の高さと寝心地を優先したから。

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重量340g、厚さ6.3cm、長さ168cmと、バランスのとれたサイズ感。

なぜ女性用を使っているかというと、ネオエアーXライトのなかでいちばんハイスペックだから。というのも、通常1枚のサーマキャプチャー層(熱反射板)が女性モデルだけ2枚内蔵されていて、より断熱性が高いのだ。

■ 登山靴
これまでトレランシューズとアルパインブーツの併用がスタンダードだったが、2017年の旅では、より軽量化を図るべく1足に変更した。

それが、スカルパのレベルGTX(SCARPA / REBEL GTX)だ。カテゴリーでいうと、ライトアルパインブーツになる。

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スカルパのレベルGTXは、平地歩きも急斜面の登攀もあるGHTにピッタリのブーツ。

これを選んだ理由は、軽さ(約660g・片側)と、歩きやすさ。特に後者は、ソールが適度な硬さを持っているため、急勾配のルートでは登攀しやすく、平地では歩きやすかった。

足首まわりもフレキシブルな仕様になっているため、歩行中もハイカットとは思えないくらいの快適さだった。

■ マッサージボール
最後に紹介するのは、もはや山とは関係ないアイテム。プロテック・アスレティクスのオーブボール・エクストリーム・ミニ(Pro-Tec Athletics / The Orb Extreme Mini)。

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暇さえあればマッサージ。長旅においては、未然にケガを防ぐことが大切だ。

見ての通り、マッサージボールである。記事をご覧の方からすれば「軽量化を図っているくせに、なんでまたこんな余計なものを!」と思うだろうが、これが意外と重要で。

重い荷物を背負ってGHTを1カ月も歩くとなると、疲労が蓄積するばかりで、日に日にケガのリスクが高まっていく。もしケガをしてしまったとしたら、もう離脱するしかない。それを避けるためにも、日々、少しでも疲労を取ることが大切になる。

そこで僕は、あえてこのマッサージボールを持ち込んだ。これを使うと、腸脛靭帯やハムストリング、足底筋などの筋肉組織深部までほぐすことが可能で、疲労によるハリやコリ、痛みを和らげてくれる。結果、ケガをして離脱することもなかったし、何よりも、1日歩き終えたあとにこのボールでマッサージをする時間が至福の時間だった。

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これにて、GHTで使用したギアのレビューが完結! ネパール、ヒマラヤ、GHTの雰囲気を少しでも感じていただけたでしょうか?

実は、今月末から僕はまたGHTへと旅立ちます。GHT Projectの第5弾がスタートするのです。

今回は標高6,000mを超える予定で、それが楽しみでもあり、不安でもあります。いったいどんなエリアを旅するのか、その計画編の記事を出発前にアップする予定なので、今回GHTに興味を持った方は、ぜひチェックしてみてください。

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年、TRAILSに正式加入。2024年よりTRAILSのHIKING FELLOWに就任。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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