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リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#15 / 日本人ハイカーはどう思われてる?<後編>トレイルエンジェルの視点

2018.11.21
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(English follows after this page.)

文:リズ・トーマス 写真:リズ・トーマス、舟田靖章、二宮勇太郎 訳・構成:TRAILS

英語に不安のある日本人ハイカーは、アメリカのロングディスタンスハイキングの旅のなかで、どのようにコミュニケーションをとったらよいのでしょうか。今回のリズのレポートでは、そのヒントを提供してくれています。

リズは、「アメリカ人は、日本人ハイカーをこころよく受け入れているのだろうか」という疑問に対する答えを探して、今度はトレイルエンジェルに話を訊いてみることにしました。訪れたのは、PCTのトレイルエンジェルの中でも有名なハイカー・ヘブンとカサ・デ・ルナです。

カサ・デ・ルナのテリーは、「英語ができないせいで、あなたの人生における冒険をやめないで」と言っています。もちろん旅先の言語をできるだけ勉強しておくことは必要なことですが、リズの記事を読むと、大事なのは「I’m a HIKER」というマインドなんだと教えてくれます。

【前編はコチラ:日本人ハイカーはどう思われてる?<前編>アメリカに行く前に知っておくべきこと


トレイルエンジェルは、日本人ハイカーをどう思ってる?


トレイルエンジェルは、トレイルの近くに住んでいて、自分たちの家を解放して、おもてなししてくれたりする、とてもやさしい人たちです。パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)のトレイルエンジェルの中で特に有名なのは、アグア・ドルチェ(カリフォルニア州)のジェフ&ドナ・サーフリーと、グリーンバレー(カリフォルニア州)のジョー&テリー・アンダーソンの二組です。(※訳者注:サーフリーは“Hiker Heaven“のトレイルエンジェル、アンダーソンは“Casa de Luna“のトレイルエンジェル。)

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トレイルエンジェルの「Hiker Heaven」の庭(カリフォルニア)。PCTA websiteより。

サーフリー夫妻とアンダーソン夫妻は、毎年、何100人ものハイカーを、家に受け入れています。この2つのハイカーの拠点は、一日で歩ける距離にあるのですが、まったく違うところだとよく言われます。私はこの二組が日本人ハイカーと接してきた経験について、話を聞く機会を得ることができました。

ドナ・サーフリー(Hiker Heaven)は、日本人ハイカーが、ここ何年かの間で数十人の単位で増えていることに、気がついていました。実際にアジア圏のハイカーの数は、全体的に増えています。

ドナは、「日本人ハイカーといって、すぐに思いつくのは、礼儀正しさですね。本当にそう思います」と言います。PCTハイカーは、(何かをする・得る)権利をたくさん与えられて、敬意が感じられない、と思っている人もたくさんいます。日本人ハイカーの礼儀正しさが特によく評価される理由として、こういったことも背景にあります。

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アメリカ人ハイカーと一緒に歩く日本人ハイカー。

ドナは、日本人ハイカーとアメリカ人ハイカーの最も大きな違いは、日本人ハイカーが文句を言わないことだと、感じています。日本ハイカーは、トレイルで起こることや親切を当たり前のことだと思っていません。「日本人は熱心なハイカーで、トレイルで困難があっても文句を言わずに耐えているように見えます。私は、日本人ハイカーが愚痴をこぼしているのを聞いたことがありません。ストイックですよね。でもそれ以外のことについては、他のスルーハイカーたちと同じです。臭いがして、汚れていて、疲れていて、お腹が減っていて、そして、休息を欲している人たちです。」


スマホの翻訳アプリや身ぶり手ぶりよりも雄弁な「ハイカーの共通言語」とは


外国人ハイカーにとって言語の壁は問題にならないのか、と私はドナに訊いてみました。すると、「今はスマートフォンと翻訳アプリがあるから、昔より言葉の壁はなくりましたよ」という答えが返ってきました。また英語と、身ぶり手ぶりのあいだには、「ハイカーの誰もが理解できる、まさにハイカー同士の作法といったものがある」、とドナは言います。おそらくは、これが日本人ハイカーが最近増えている理由の一つにもなっています。

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アメリカ人グループと一緒に旅したヤス(CDT)。

テクノロジーはコミュニケーションを容易にしてくれます。しかしながら、「ハイカーは、どのようにコミュニケーションするか理解できるようになる」、というドナの説明は、ヤスがPCTで自分の経験をどのように伝えていたか、ということと重なります。「ハイカーの共通言語」が、お互い何を伝えようとしているかを理解する、助けとなっているのです。

しかしドナは、言語の壁は日本人ハイカーを、「トレイル上で形成される親密な集団の外側」にとどまらせてしまうかもしれないことを、心配しています。ロングディスタンスハイキングのなかで築かれた友人関係は、その旅の最も大事な思い出のひとつであることは真実です。日本人ハイカーは、こういった機会を逃してしまっているのでしょうか?私はヤスのこと、そして彼のCDTの旅を思い出しました。日本人ハイカーが、アメリカ人のグループと一緒に旅したというのは、めったにないことなのだろうか、と。


どこの国の人であろうと、ハイカーはハイカーを助けてくれる


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どこに国の人であろうと関係なく、みんなハイカーの仲間。

たとえ言語が壁を作っているのだとしても、本当に問題になってしまう場面はどんなときか、とドナは考えました。そしてハイカーの話す言語やハイカー・グループは、問題ではないと思いました。

近年、干ばつと気候変動によって、PCT沿いでは山火事がよく起こるようになっています。火事により封鎖されるセクションがあるときに、ハイカーが安全に旅をすることは、とても重要なことです。ドナは私にこう言いました。「私は、計画外のトレイルの封鎖があったときに、他のハイカーが日本人ハイカーを助けているのを、見たことがあります。最終的に、トレイルは必要なものを与えてくれるのです。」

ドナの話を聞いた後、私は、アメリカ人が日本人ハイカーに本当に来てほしいと思っている事実に、勇気をもらいました。「私たちは歓迎しているの。そしてPCTの冒険のサポートをここでしているのよ」、とドナは言っていました。


毎日が驚きだらけのトレイルエンジェル宅「カサ・デ・ルナ」


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トレイルエンジェル宅のカサ・デ・ルナの風景。(カリフォルニア)

カサ・デ・ルナ(Casa de Luna)のトレイルエンジェルであるテリー・アンダーソンは、「トレイル・コミュニティは、ウェルカムなコミュニティだ」という信念を持っています。アンダーソンは、今まで20年間、ハイカーを受け入れ続けてきました。

ドナ・サーフリーのトレイルエンジェルの家は、規則正しく動いているのに対して、アンダーソンの家は、驚くようなことがたくさん起こります。アンダーソンの家は、いつも楽しく、気軽な雰囲気です。夜に騒々しいパーティがあっても、びっくりしてはいけません。

テリーが言うには、(トレイルエンジェルを始めた)最初の頃は、日本人ハイカーは年に1人か2人しか来なかったそうです。日本人は比較的珍しかったのです。それが最近5年くらいは、5〜7人くらいの日本ハイカーが毎年訪れるのだそうです。

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カサ・デ・ルナのテリー・アンダーソン。

日本人ハイカーは、毎年、アンダーソン夫妻のもてなしに対して、面白い経験ができたと、とても喜ぶのだそうです。アンダーソンの家では、毎晩、驚きがいっぱいあって、カサ・デ・ルナには面白い慣わしがたくさんあります。

まず最初に、テリー・アンダーソンからの、がっしりした大きなハグを受けることから始まります。その後、みんながアロハシャツに着替えます。だからアンダーソンの家にいるときは、ハイカーはみんなきれいな服を着ているのです。夕食は、いつもタコサラダです。そしてハイカーたちはカサ・デ・ルナのロゴ入りのバナナをもらえます…、ですが、それはバナナのために踊った人だけです。朝には、アンダーソンがパンケーキを焼いてくれます。


どこの国から来たかは関係ない。みんながカサ・デ・ルナの“ハイカー・キッズ”


アンダーソンたちは愉快な夫婦です。テリーが言うには、「日本人ハイカーは、このクレイジーな女性(=テリー)は何をやっているの?」と思うみたいです。でも「私には、日本人ハイカーと他のハイカーの違いはありません。どこから来ようと、みんな私の子どもです」。

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カサ・デ・ルナの「ハイカー・キッズ」たち。

テリーのハイカー・キッズになったということは、自分がどうであろうが、彼女の悪ふざけに巻き込まれるということです。もしかしたら、この話を(この記事で)お伝えしたしまったことにより、アンダーソンがしてくれるサプライズのいくつかを台無しにしてしまったかもしれません。でも、テリーは私に言ってくれました。「私がおしりを出すのを実際に見たら、くすくす笑わずにはいられないから。」って。

ドナと同じようにテリーも、グーグル翻訳やテクノロジーによって、外国人ハイカーとコミュニケーションをするのが、より簡単になったと感じていました。「昔と比べると、今はアメリカ人ハイカーは外国人ハイカーに対して親切になっています。(アメリカ人も外国人も)みんな一緒に歩いています。英語に苦労しているハイカーの手助けをするために、予定より長く歩こうとしてくれるハイカーもたくさんいますから。」


「ハイカーたちは他人ではないんです。ただまだ会ったことのない友人なのです。」


テリーは、私に(日本の)TRAILS読者に伝えておいてほしいと、以下のことを言っていました。「あなたの英語がコミュニケーションをとるのに十分でなかったとしても、怖がらないでください。言語のせいで、あなたの人生における冒険をやめないでください。言語や不安のせいで、あなたの夢をあきらめないでください。私は478.6マイル地点で、“大きなハグ(BIG HUG)“であなたを待っています。どんな人でもみんな、カサ・デ・ルナで歓迎します。一緒に思い出を作りましょう。」

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もともとこのリサーチは、アメリカ人ハイカーが外国のハイカーを歓迎してないのではないか、という懸念からスタートしました。しかし、アメリカ人はPCTやJMTで外国人のハイカーと会えることを、とても楽しみにしていると知って、とても勇気づけられました。

テリー・アンダーソンは、私にこう言いました。「どの言葉を話せるとか、お金持ちか貧乏かとかは、そんなことは問題じゃないわよ。トレイルは、すべてを平等にしてくれる、すばらしい場所なんです。すべてのハイカーは、お互い見守りあっています。ハイカーはみんな繋がっているのです。」

「私はいつもこう言うんです。ハイカーたちは他人ではないんです。ただまだ会ったことのない友人なのです。」

TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT, PCT, CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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Liz Thomas

Liz Thomas

2011年にアパラチアン・トレイルを女性の最速タイムで踏破した記録(当時)を持っていることで知られている。彼女はトリプルクラウンを達成しただけでなく、米国に15以上あるトレイルでのスルーハイクを経験し、今まで15,000マイル以上ものトレイルを歩いてきた。また、彼女はその経験をロング・ディスタンス・ハイキングのコミュ二ティに還元することにも熱心で、American Long Distance Hiking Assosication-West(ALDHA-West)のバイスプレジデンドも務めている。彼女がハイキングを本格的に始める前は、イエ-ル大学の森林環境学部で環境科学の修士課程を修了し、彼女が手がけた、ロング・ディスタンス・ハイキング・トレイルとその保護およびコミュニティに関するリサーチは、名誉あるDoris Duke Conservation Fellowshipの賞を受けた。スポンサーはAltra, Gossamer Gear, Probar, Vermont Darn Tough socks, Mountain Laurel Designs, Sawyer filters, Montbellで、アンバサダーとして活躍している。
http://www.eathomas.com/

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