HIMALAYA MOUNTAIN LIFE | GEAR Reviews #3 – GHT(2018)で使用したギア
文・写真:根津貴央 構成:TRAILS
『GHT Project』第5弾の旅から帰国したばかりの根津が、旅のレポートに続いてギアレビューをお届けします。
今回根津が歩いたのは、約1,700kmにもおよぶGHT(アッパー・ルート)のなかにおいて、最難関と言われるエリア。いったいどんなギアをたずさえ、実際どんなギアが役に立ったのか。
根津曰く「もちろん今回のエリアを想定してギアを揃えたわけですが、特殊なものはほとんどありません。日本でのハイキングや登山でも使えるものばかりです」とのこと。これからの雪山や冬山にピッタリのギアもあるので、ぜひ参考にしてみてください!
旅の序盤、標高4,000m付近にて。正面に見えるのがマカルー(標高8,463 m)。
ギア(個人装備)一覧
急峻な峠越えも見込んでいたため、アイゼン、ピッケルはもちろん、ハーネス、スリング、カラビナなども携行。水と食料を含むと総重量は20kgほど。最大で23kgの時もあった。
今回ギアを選ぶ上で意識したのは、軽量性と快適性のバランス。GHT最難関エリアということもあり、一部ポーター(荷運び担当のスタッフ)なしで歩く計画だったため、軽量化は重要だった。
たとえば、トレッキングポールは1本130g台(Mountain King / Trail Blaze 3section)、ピッケルは290g(PETZL / GULLY)、バックパックは容量80Lで2,050g(RIPEN / マカルー80L)。
一方で、最難関エリアとはいっても険しいところは全行程の3分の1程度。約1カ月にわたる長旅(歩き旅)なので、快適性をないがしろにはしたくない。それを犠牲にしすぎると旅の楽しさが減ってしまうからだ。
たとえば、僕はあえて浄水器(KATADYN / BeFree)を持っていったし、アルパインブーツの他に軽量なハイキングシューズ(ALTRA / LONE PEAK 4.0 MID RSM)も携行した。
活躍したギア BEST3
【1】 KLYMIT / Insulated Static V [U.L 120 edition] (クライミット / インシュレーティッド スタティック V [U.L 120 エディション])
プリマロフトを中綿に使用した4シーズン用ながら、重量は366g。サイズは120 x 59 x 6.5cm。
まずはスリーピングマットから。軽量化だけを考えればもっと別の選択肢もあったのだが、今回は軽さ以上に快適性を重視した。
プリマロフトという化繊綿入りだけに、温かい!(断熱性の高さを示すR値は4.4)というのが売りのひとつではあるが、実際に使ってみて僕は寝心地の良さにいちばん惹かれた。
当初は、幅の広さなんてさほど寝心地の良さにつながらないと思っていたが、それは間違いだった。この幅に慣れてしまうと他のサイズのものが使えなくなってしまいそう。
それが何に起因するのかというと、マットの幅である。他ブランドの軽量モデルに比べて幅広(59cm)なのだ。
このサイズだと、仰向けに寝たときに両手がはみ出ることもないし、うつぶせになっても気持ちよく寝られる。正直、この良さは使う前は想定していなかった。
長旅をしていると寝付けない日もでてきて、いろんな寝方をすることがある。どんな体勢をとっても快適性が失われないこのマットには、ずいぶん助けられた。
【2】 Black Diamond / Soloist (ブラックダイヤモンド / ソロイスト)
手のひら側はゴートレザー(山羊皮)を採用。化繊に比べて柔らかくしなやかで、作業がしやすい。
対応温度が-26℃までとハイスペックながら、1組約230g(Sサイズ)と軽量で価格も11,880円(税込)とリーズナブル。3本指タイプのソロイストフィンガー(こちらのほうが保温性は高い)と迷ったが、ハーネスやカラビナ、ロープなどの操作性を考えて5本指を選んだ。
今回、最低気温は-10℃程度だったので、寒さはまったく感じなかった。操作性については、個人的には慣れかなと。このレベルの厚さになると、操作がしづらくなるのは当然。自分は事前にグローブをつけてロープワーク等の反復練習をしていたので、特に心配もトラブルもなかった。
ただ1点だけ気になったのは、指の長さ。親指以外はジャストフィットだったのだが、親指だけダブついていた。僕の親指が短いだけだとは思うのだが、次回使用する際は、何かしら手を加えて改善するつもりだ。
グローブに付いている黄緑の細引きが自作のストラップ。特に急斜面で素手になりたいときに重宝する。
余談だが、現地では落下防止のストラップを細引きで自作。細かい作業などでグローブを外した際に落として失くしたりすると、雪山では命取り。ストラップが付属しているグローブもあるが、無い場合は自分で作るといいだろう。
【3】 FlexSolar / Pocket Power Set (フレックスソーラー / ポケットパワーセット)
バックパックの雨蓋に取り付けて使用。
毎年悩むのが、ソーラーパネル。新製品が次々と登場するものの、何個も買って比較検討することが難しいだけに、選ぶのが難しいのだ。
今回は、知人が使っていて割と良かったと聞いていたこれをチョイス。僕としては、防水、防塵はもちろん、本体重量が176g(実測)と軽量で、かつコンパクトに折りたたんで収納できる点も魅力だった。天気が悪ければ出す意味がないので、収納性も重要だったのだ。
今年は悪天つづきでソーラーパネルを出さない日も多かった。それだけに、このコンパクトさはありがたかった。
実際に使ってみて驚いたのは、その性能。以前使用してたソーラーパネルは、明らかに晴れていないと機能しなかった。でも、このポケットパワーセットは、多少の曇りであれば問題なくバッテリー類(カメラ、ヘッドランプ、スマートフォン)を充電することができた。
もちろん、パネルが大きいほうが高効率であることは言うまでもない。ただ大きければ大きいほど重いしかさばる。そこは充電するものの数と頻度に応じてチョイスするべきだろう。
PICK UP! 共同装備
■ FREELIGHT / GHT project Original Shelter (フリーライト / GHT projectオリジナルシェルター)
この大きさで、重量は2kg。両サイドはコードで絞れるため耐候性の向上が可能。できれば、標高6,000m付近での有用性も確かめたかった(標高3,954mのモルン・ポカリの湖畔にて)。
今回採用したテントシステムは、エスパースのドーム型テント2張り(エスパース・マキシム ナノ2-3人用と4-5人用)を、フリーライトのトンネル型シェルター(GHT projectオリジナルシェルター)で連結したもの。
特にこのシェルターは、今回フリーライトにお願いして特別に作ってもらった。
わざわざオーダーした理由は2つ。1つは、旅の仲間である現地ガイドとポーターと、できる限り同じ時間と空間を共有したかったから。もう1つは、高所でテント泊する上で無駄なく効率的に生活したかったから。
シェルター内部。ここで2〜3人寝られるくらいのゆとりある居住性。天井には大きな換気口も付いている。
シェルター部分は、キッチンでもあり、ダイニングでもあり、リビングでもあり、宴会場でもある。部屋と部屋が居間でつながっている感じなので、日本人チームとネパール人チームの一体感や結束力を高める上で、とても役に立った。
■ PRIMUS / EtaPower EF (プリムス / イータパワー・EF)
標準装備のポットは1.8Lだが、今回は別売りの3.0Lを使用。高所 & 寒冷地でも問題なく使用できた。
従来であれば、ケロシン(灯油)が使えるストーブの一択だったのだが(ネパールではケロシンが手に入れやすい)、今回はガスストーブも併用した。
なぜなら、核心部をポーター無しで切り抜ける予定だったからだ。選んだのは、突出した燃焼効率を誇る『イータパワー・EF』。5〜6人で使用するため、別売りの3.0Lポットも携行した。
実は悪天のため核心部を回避することになり、想定した場所では使えなかったものの、それ以外のエリアでもかなり活躍してくれた。というのも、悪天で予定外の場所でたびたびビバークしたのだが、その際にまず作るのが温かい飲みもの。
たいてい雪を溶かして作っていたのだが、あっという間に5〜6人分のお湯が沸いてしまうのだ。現場で、他のストーブと比較したり、沸騰までの時間を計測したりはしていないので正確な数字を言うことはできないのだが、感覚としては本当にあっという間だった。
特に標高4,000m超の雪深いエリアで重宝した。個人的には、また次回の旅にもぜひ持っていきたいストーブである。
番外編
■ ORALPEACE / Clean & Moisture(オーラルピース / クリーン & モイスチュア)
全国の病院や歯科医院などでも扱われているメイド・イン・ジャパンの商品。重量はたったの62g。
最後に紹介するのは、口腔ケア用品。マストアイテムではないのだが、以前から気になっていたので試そうと思ったのだ。
長旅をしていると、ちょっとしたストレスが日々蓄積されて、いつの間にか看過できない事態になっていたりするもの。たとえば洗濯だったり、洗髪だったり、爪切りだったり。
個人的には歯磨きもそう。虫歯予防というよりは、ただスッキリしたいという理由ではあるが。特にネパールだと必然的に毎食マサラ風味になるので、いつも口の中がスパイシーになりがち。
じゃあ歯磨き粉を持っていけばいいじゃん!となるのだが、山中では吐き出すわけにもいかず使いにくい。でも、原料が天然由来のオーラルピースであれば、飲んでもOK、吐き出しても分解されるので問題ない。
実際、ビバークが続いたエリアで大活躍。これを使うことで口の中の違和感、不快感が消えて爽快感がキープできたので、食べるものもより美味しく感じたし、寝るときも気持ちよく寝ることができた。
また、ネパールの高所はかなり乾燥しているため、ドライマウスになりがち。そんな時の口内保湿にも役立った。
プロジェクトメンバー3人のバックパック。個人装備は三者三様だ。
今回レビューしたものは、僕の正直な感想であり事実ではあるのだが、たかだが1カ月の旅で使用した結果にすぎない。
ギアは、さまざまな場所で長く使ってこそ、その本質がわかり、良し悪しをジャッジできるようになるはず。
今後、国内の山旅でも試しながら、そのギアが持つ機能をより深く味わいたいと思う。
関連記事
HIMALAYA MOUNTAIN LIFE #5 – GHT Project / マカルー 〜 ソルクンブ
HIMALAYA MOUNTAIN LIFE | 『GHT Project』計画編(2018)
HIMALAYA MOUNTAIN LIFE | GEAR Reviews #2 – GHT(2016-2017)で使用したギア
TAGS: