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ジェフ・キッシュのHIKER LIFE with PNT | #02 パシフィック・ノースウエスト・トレイルでのファミリー・ライフ

2019.12.18
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(English follows after this page.)

文・写真:ジェフ・キッシュ 訳:トロニー 構成:TRAILS

What’s HIKER LIFE with PNT? | パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT ※)は、アメリカでもっとも新しいNational Scenic Trail(※)。いまだ手つかずのウィルダネスが現存する稀有なトレイルだ。そこにはハイキングの自由があり、「ロング・ディスタンス・ハイキングの良いレガシーが今も残るトレイルだ」とジェフは言う。この連載では、ジェフを通して、日本では希少なPNTにまつわるトレイル情報やカルチャーをお届けしていく。

* * *

ジェフの連載2回目は、PNTにほど近い町、ベリンハム(ワシントン州)に家族とともに移り住んだ彼の、ファミリー・ライフをお届けします。

前回の記事で、ジェフは週に60時間もPNTの仕事に従事するほど情熱を注いでいると語っていた。一方で彼は、トレイルの近くに家を構え、奥さんと4歳の息子さんとの3人で暮らしている。

大自然がすぐ近くにあり、子どもも遊べるローカルトレイルもたくさんある場所だ。子どもはもちろんジェフも奥さんも、自然の中で家族の結びつきを強くしている。

そんなジェフのPNTでの最高のファミリー・ライフをレポートしてもらった。

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息子が生まれたばかりの時に撮った家族写真。

※ パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT):正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trailである。

※ National Scenic Trail(ナショナル・シーニック・トレイル):自然を保護し、楽しみ、感謝することを目的に、1968年に制定されたNational Trails System Act(国立トレイル法)によって指定されたトレイル。他にも、National Historic TrailやNational Geologic Trailなど複数のカテゴリーがあるが、中でもNational Scenic Trailは、壮大な自然の美しさを感じ、健康的なアウトドアレクリエーションを楽しむためのトレイルである。一番最初に選ばれたのは、ATとPCT。現在全米にある11のトレイルが、National Scenic Trailとして認定されている。


妻のハンナと出会い、一緒にPNTを旅し、これからの人生を考えた。


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ベリンハムにあるジェフの自宅にて。

ハイ、ジェフです! みんな、調子はどう? 今回は、PNTのそばで暮らす僕たち家族の暮らしを紹介するよ。

2014年にPNTのスルーハイキングを終えた後、僕の人生はいくつかの点で大きな変化を遂げたんだ。

それまではバンライフを送っていて、太平洋北西部(パシフィック・ノースウエスト)周辺で小さな冒険にあふれた生活を送る資金を手に入れるために、アウトドアメディアのウェブサイトに寄稿したり、週に2〜3日バーテンダーをしたりしていた。

妻であるハンナに出会ったのは、その冒険のひとつ(アダムス山の近くにある秘密の洞窟の探検)でのことだった。僕たちはすぐに恋に落ちた。僕はバンライフをしながら冒険をつづけようとしたけど、でも僕の野性は薄れてしまった。彼女が夜に僕を連れ出すようになって、アウトドアでの活動時間はますます減ってしまったんだ。

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僕の人生が大きく変わったのは、ハンナとの出会いも大きかった。

ふたりの関係が始まって数カ月後、ハンナは僕をオレゴン州ポートランドの駅まで送ってくれた。僕はそこからグレイシャー・ウィルダネス行きのエンパイア・ビルダー(※)に乗り込み、PNTのスルーハイキングを始めた。そして1カ月後、ハンナに再会した。彼女はワシントン州オロビルにあるトレイルの中間地点に来てくれた。PNTの中で最も長い区間のひとつ、パサイテン・ウィルダネスで僕と落ち合う約束をしていたのだ。

※ エンパイア・ビルダー(Empire Builder):アメリカ合衆国のグレート・ノーザン鉄道(Great Northern Railway)が運行を始めた大陸横断列車。区間はポートランド、シアトル〜シカゴまで。現在は、アムトラック(Amtrak)が運行を継承している。

僕たちが一緒に長期のバックパッキングをしたのはこれが初めてで、そして実を言うと、ハンナにとっては最初のロング・ディスタンス・ハイキングでもあった。

彼女がオロビルに到着したとき、パープルの新品のULAカタリスト(※)の中には適切なギアがすべてパックされていて、それを見て感激したものだった。振り返ってみると、PNTのこのセクションを一緒にハイクすることは、僕たちにとって「成し遂げるか、潰れるか」という、本当に「運命を左右する」瞬間だったように思う。

※ ULA:アメリカのULギアブランド「Ultralight Adventure Equipment」(ウルトラライト・アドベンチャー・イクイップメント)。PCTスルーハイカーであるブライアン・フランクルが、2001年に創業。Catalyst(カタリスト)は、同ブランドの中でも大型モデルで、13〜18キロの重量を背負う人向けに作られている。

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買ったばかりのULAのカタリストを背負って旅をするハンナ。

人里から遠く隔たったウィルダネスで11日間をともに過ごし、パサイテンの気が狂ったような天候に耐えながら、1人用のテントを共有する。それは本当に試練の連続だったけど、最終的に僕たちの関係はウィルダネスに入ることで、それまで以上に強くなったよ。

PNTでの最後の日、ハンナはオリンピック・コースト(ワシントン州・オリンピック半島にある海岸)から遠く離れた、西の終点まで迎えに来てくれた。長いドライブの後、僕たちは彼女のアパートに戻り、僕は次に何をするか考え始めた。


子どもが生まれ、ポートランドからベリンハムに移住した。


ブルワリー(※)での仕事を得て、そしてPNTアドバイザリー・カウンシル(PNTの運営管理に関する諸問題を議論する評議会)のポストに応募した。僕たちは彼女のビルの最上階にある、より広いアパートに引っ越し、ふたりで一緒に過ごす生活に慣れていった。数カ月後、子どもを持つことに決めた。そして数週間後、ハンナは僕らの息子、アトラスを身ごもった。

※ ブルワリー:ジェフが働いていたポートランドのブルワリーは、2016年にTRAILS編集部crewの佐井夫妻がファミリー・ハイキングをした際に、たまたま訪れた思い出の地でもある。ここで、ジェフと佐井夫妻は出会った。

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シアトルから北に90マイル(140km)のところにあるベリンハム。豊かな自然が大きな魅力。

現在、僕たち家族はワシントン州ベリンハム郊外の森に住んでいる。PNTAでの仕事を引き受けた後、僕たちはポートランドより北で生きる道を見つけた。僕は2014年以来ロング・ディスタンス・ハイキングをしていないけど、自分の人生はこれまで以上にトレイル中心になっている。

アトラスは今4歳半。彼の初めてのデイハイキングは生後4週間のときだった。そのあと、生後6週間で初めてのキャンピング・トリップをPCT Days(※)で経験し、さらに生後8週間で初めてオーバーナイトのバックパッキングをした。彼はPNTアドバイザリー・カウンシルのすべての会議に出席したし、PNTが通過する3州すべてのセクションをハイクした。PNTは常に彼の人生の一部だった。

※ PCT Days:パシフィック・クレスト・トレイル・デイズは、毎年8月中旬に、PCT沿いのトレイルタウンである、オレゴン州・カスケードロックスで開催されるイベント。ULガレージブランドをはじめさまざまなアウトドアブランドが一堂に会す、ハイカーたちのお祭り。PCTのスルーハイカーも数多く集まる。

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息子のアトラスとは、生後4週間から一緒にハイクしている。


息子とハイキングをするようになって、自然の世界を再発見した。


幼い子どもとハイキングをすることは、なにもかもが一変してしまう。距離で成功が測られる日々は終わりを迎え、その代わりに、僕たちの今の目標、つまり親としての目標は、アトラスが自然の世界と築きつつある好ましいつながりを育み続けられるような、そんな方法でハイキングをすることに変わったんだ。

息子に合わせるようにハイキングのスタイルが変化したことで、そのゆっくりなペースは僕たちの経験も豊かにしてくれた。子どもの目線を通して自然の世界を再発見することで、僕たちは再びそれに魅了されていったし、周囲のランドスケープに関する彼の質問に答えるには、僕たち自身が学ばなければならない。

ベリンハムに住んでいることは幸せそのものだ。僕たちの営み、そのすべての背景に森と山がある。北岸にあるこの小さな町は野生に囲まれていて、それらすべてはPNTで結ばれている。

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子どもの目線で自然をとらえることで、僕のなかに、自然との新しい付き合い方が芽生えていった。

いつか息子が十分成長したら、次は家族でPNTをスルーハイキングしたい。その頃には、トレイルは今とはかなり違うものになっているはずだ。その理由のひとつは、僕が時間をかけて改善してきたからだ。この目でPNTの進化を見ることができたら、そして、僕がこれまでずっと取り組んできたことを息子に見せることができたら、本当に素晴らしいね。


つねにローカル・トレイルがそばにある暮らし。PNTが僕たち家族を形づくっている。


それまでは、僕たちはできる時にトレイルのローカル・セクションを探索するんだ。PCにPNTのマップを保存しておいて、息子がそれらをハイクしたらセクションをハイライトする。そして、その記録のコレクションを見れば、僕たちの冒険を思い出せるようになる。

アトラスが2歳のとき、僕たちはPNT沿いのとあるループを完成させて西の終点に訪れるために、1日に3マイルのハイクした。彼は夫婦岩にあるネイティブアメリカンの岩絵を見たり、アシカやカワウソを目撃したり、潮だまりで水しぶきをあげて遊んだり、人生で初めてヘビを捕まえたりした。

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ネイティブアメリカンの岩絵に興味津々の息子。彼とのハイキングが心から楽しい。

彼が3歳のときにはオリンピック国立公園の真ん中まで行った。ハイ・ディバイド・ループと呼ばれる22マイルのトレイルを踏破するために、毎日5マイルをハイクした。そこはPNTの中でも僕のお気に入りの部分だ。ブラックベアのそばで一緒に野生のベリーを探し回ったり、オリンポス山の頂上にある岩だらけの氷河を眺めたりもした。

4歳のとき、僕たちはマウントベイカー・ウィルダネスでバックパッキングをして過ごした。ベリンハムからクルマですぐのところにあるベーカー山の白いドーム型の山頂は、ここのあたりの地平線に必ず現れる特徴なんだ。

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息子は、新しい世界に触れ、どんどん成長していっている。

今年はPNTの一部をハイキングして、ノース・カスケード国立公園の端にあるハネガン・ピーク(標高1,886メートル)を探検し、チェイン・レイクで水遊びをした。

僕たちがここで築いてきた人生、作ってきた思い出、そしてアトラスがこの環境で成長していく姿を、僕はいま心から楽しんでいる。彼のおかげで僕たちは森の偉大な恩恵を得ることができたし、そして僕たちを通じて、彼は森への敬意を抱きつつある。

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僕たちを通じて、息子も徐々に自然に対してリスペクトするようになってきた。

それもすべてはひとつのハイキングから始まった。PNTは僕たちをベリンハムに連れてきて、それ以来ずっと僕たちの生活と密接につながっていて、僕がPNTを形づくるために働くのと同じように、PNTもまた僕たちを形づくっているんだ。

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PNTは、僕たちの暮らしと密接に関わっていて、そのおかげで家族がいい方向に向かっている。

TRAILS AMBASSADOR / ジェフ・キッシュ
ジェフ・キッシュは、アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティにもっとも強くコミットしているハイカーのひとりであり、最前線のトレイルカルチャーを体感し、体現している人物。ハイカーとしてPCTとPNTをスルーハイクしていることはもちろん、代表的なハイカーコミュニティであるALDHA-Westの理事を2年間務め、さらに現在はパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)の運営組織にジョインし、トレイルづくりに尽力している。これほどまでに全方位的にトレイルに深く関わっている人は、アメリカのハイキングシーンにおいても非常に稀である。そんなハイカージェフの、トレイルとともに生きるハイカーライフをシェアしてもらうことは、僕たちにとって刺激的で学びがあるはず。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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Jeff Kish

Jeff Kish

2012年にPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)、2014年にPNT(パシフィック・ノースウエスト・トレイル)をスルーハイキングした、ロング・ディスタンス・ハイカー。アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティに最も強くコミットしているハイカーのひとり。2017から2年間にわたり、アメリカで有名なハイキング関連の組織であるALDHA-West(American Long Distance Hiking Assosication-West)の理事に従事。また2014年からPNTの管理・運営組織(PNTA)の仕事に携わりはじめ、2016年にはPNTAのエグゼクティブ・ディレクター(現職)に就任。PNTは、アメリカにある11のNational Scenic Trailのなかで、もっとも最近(2009年)に認定されたトレイルゆえ発展途上であり、各方面の体制や組織づくり、運営に奔走中。現在は、PNTのトレイルタウンでもある、ワシントン州ベリンハム在住。
https://www.pnt.org

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