ジェフ・キッシュのHIKER LIFE with PNT | #01 パシフィック・ノースウエスト・トレイルという僕の仕事
(English follows after this page.)
文・写真:ジェフ・キッシュ 訳:トロニー 構成:TRAILS
What’s HIKER LIFE with PNT? | パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT ※)は、アメリカでもっとも新しいNational Scenic Trail(※)。いまだ手つかずのウィルダネスが現存する稀有なトレイルだ。そこにはハイキングの自由があり、「ロング・ディスタンス・ハイキングの良いレガシーが今も残るトレイルだ」とジェフは言う。この連載では、ジェフを通して、日本では希少なPNTにまつわるトレイル情報やカルチャーをお届けしていく。
* * *
先日TRAIL TALKに登場してくれたジェフ・キッシュが、TRAILSのあらたなAMBASSADORとして、連載記事を寄稿してくれることになりました(彼を選んだ理由については記事末を参照ください)。
手つかずのウィルダネスが残るパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)。
PNTという、すでに完成されたトレイルではなく、今まさに現在進行形の、発展途上のトレイルが、これからどのように形づくられていくのか。それを彼の記事を通じて目撃できるのは、本当に貴重なことです。
そして、PNT近くのベリンハムというトレイルタウンに家族(奥さんと4歳の息子さん)と一緒に住まいを移したジェフは、いったいどんな暮らしをしているのでしょうか。
この連載では、そんなPNTとともに生きるジェフのハイカーライフをお届けしていきます。
第1回目の今回は、ジェフが今もっとも情熱を注ぎ、「仕事をしていてこれほどまでに満たされたことはない」と語るPNTの仕事を紹介します。
※ パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT):正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trailである。
※ National Scenic Trail(ナショナル・シーニック・トレイル):自然を保護し、楽しみ、感謝することを目的に、1968年に制定されたNational Trails System Act(国立トレイル法)によって指定されたトレイル。他にも、National Historic TrailやNational Geologic Trailなど複数のカテゴリーがあるが、中でもNational Scenic Trailは、壮大な自然の美しさを感じ、健康的なアウトドアレクリエーションを楽しむためのトレイルである。一番最初に選ばれたのは、ATとPCT。現在全米にある11のトレイルが、National Scenic Trailとして認定されている。
僕がいるパシフィック・ノースウエスト・トレイル・アソシエーション(PNTA)とは?
パシフィック・ノースウエスト・トレイル・アソシエーション(PNTA)のオフィスにて。
ハイ、ジェフです! みんな、調子はどう? 今回は、僕がPNTでやっている仕事を紹介するよ。
僕が所属しているパシフィック・ノースウエスト・トレイル・アソシエーション(PNTA)は、アメリカでもっとも若いNational Scenic Trailの設立および提唱を目的として、1977年に設立された組織なんだ。
当時、National Scenic Trailには、まだアパラチアン・トレイル(AT)とパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)のたった2つしか認可されていなかった。支援活動(アドボカシー活動)が実を結ぶまでに30年以上かかったけど、2009年、PNTはアメリカでもっとも若いNational Scenic Trailに指定された。そして、それは今も変わっていない。
僕は2014年、PNTの1200マイル(約1900キロ)をスルーハイクしたんだ。モンタナ州・北アメリカ大陸分水嶺にある東の起点から、ワシントン州・オリンピック半島の太平洋岸にある西の起点までね。そして僕の人生は変わってしまった。だから、2016年にPNTAが新しいリーダーを探していることを知って、チャレンジしたいって強く思ったのさ。
2014年、僕はパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)をスルーハイクし、そしてこのトレイルに恋に落ちた。
PNTAには現在、僕を含めて5人の常勤スタッフがいる。毎年夏に雪の中からトレイルが現れると、50〜60人のトレイルクルーを季節限定で雇用する。
エグゼクティブ・ディレクターとしての僕の仕事は、他のスタッフがそれぞれ専門とするすべての業務を監督すること。これには、トレイルの維持管理と開発、トレイルに関する情報の精査、教育イベントの開催、地元、州、連邦政府に対するトレイルの提唱、そしてそれらすべてを賄うための資金調達が含まているんだ。
春〜夏の仕事は、シーズンインに向けての教育、コミュニティづくリ、トレイルメンテナンスなど。
季節が変われば、やるべきことも変わる。
『春』は、奉仕活動、教育、そして期間限定のクルーの採用と訓練の時期だ。この時期にはALDHA-West(※)と提携して、「ラック」という教育イベントを開催している。
このラックイベントは、経験豊富なロング・ディスタンス・ハイカーと、初めてハイクをしようと計画中の人たちを結びつけるもの。コミュニティを構築して、ハイキングに対するぼくたちの愛を、初めてそれを体験してみようとしている人たちと分かち合う場所なんだ。
※ ALDHA-West:正式名称は「The American Long Distance Hiking Association West」で、ロング・ディスタンス・ハイカーおよび彼らをサポートする人々の交流を促進するとともに、教育し、推進することをミッションに掲げている団体。ハイキングのさまざまな面における意見交換フォーラムを運営したり、ハイカー向けの各種イベントを開催したりしている。詳しくは、TRAILSのアンバサダーであるリズ・トーマスの記事を。ちなみに、ジェフとリズは旧知の仲でイベントで一緒になることも多い。
春、PNTAはALDHA-Westと連携して、ベリンハムで「ラック」という教育イベントを開催している。
それと、春はトレイル・オペレーション・チームが地元の高校や大学を訪問する季節でもある。そこでトレイルについて話をして、生徒たちにサマープログラムへの参加を促すんだ。そして、リーダーを募集して、彼らに必要な訓練を提供する。この国でもっとも自然のままの人里離れた場所であっても、彼らがクルーの安全と生産性を確保できるようにね。
毎年春には、期間限定のスタッフへのトレーニングおよび認定を行なう、「クルー・リーダー・リトリート」を開催する。
『夏』は、PNTをハイクしてメンテナンスする季節だ。このコースは北緯49度線沿いにあるから、夏は本当に短い。雪が溶けてからふたたび降り始めるまで、つまり、7月頭〜10月頭までの短い間しかハイカーはハイキングができないし、僕たちもその間にしか仕事ができない。
オフィスでは、山火事やその他変化しつづけるトレイルの状況について、コミュニケーション・マネージャーが忙しく最新情報をハイカーたちに提供する。トレイル・オペレーション・スタッフは地図の上に群がり、トレイル・クルー、パートナー、ボランティアの最適な配置を調整する。
森林局が管轄するエリアでノコギリを扱うためには、リーダーが認証を受けなければならない。
この間、トレイルメンテナンスのために6名のクルーを投入するんだ。ウィルダネス・ファースト・エイドやノコギリを使用するための資格を有する経験豊富な2人のリーダーが、それぞれのクルーを指導。彼らが率いるクルーは、PNT周辺のコミュニティで募集した十代、二十代の若者で構成されている。
ノコギリでトレイルメンテナンスを行なうPNTAのクルーリーダーたち。指定されたウィルダネスでは、チェーンソーやその他の電動工具の使用は許可されていない。
クルーは、トレイルの中でもっとも彼らを必要とする自然の奥地に行き、一度に10日間働く。それが終わったら、次の自然の中での10日間のために、家に帰って4日間休む。クルーの食料や装備の供給を絶やさないためにも、馬やラバを使いこなせるパートナーを調達して、何度も仕事現場まで重い荷物を運び入れたり、運び出してもらったりするんだ。
秋〜冬の仕事は、政府とのやりとり、レポート作成、寄付募集など。
『秋』は、報告の季節。PNTAは、PNTの管理における、米国森林局の指定非営利パートナーだ。日が短くなり、山に雪が戻ってくると、トレイルメンテナンスの状況を分析し、森林局や他の土地管理者に、フィールドでの僕らの成果を報告する。
毎年2月、PNTの代表者はワシントンD.C.に訪問し、森林局のリーダーと会合を開く。ここに写っているのは、森林局長のヴィッキー・クリスチャンセンと、全National Scenic Trailの代表者たち。
また、この時期は年末の寄付募集の準備が始まるタイミングでもある。これらの寄付は、PNTに夢中になったすべての人たちに向けて、僕たちがトレイルを管理するために手助けをしてほしいと訴えかけることで集まるものだ。メンバーや寄付者のサポートがなければ、僕たちが今しているような仕事はできないからね。
『冬』は、計画を立てたり、支援を取り付けたりする(アドボカシー活動)季節だ。日の短い数カ月間、補助金を申請し、契約を確保し、予算を策定し、そしてパートナーたちと一緒に次年度の作業計画を立てる。
たとえば、馬乗りと荷物を運ぶ手配をしたり、トレイルを維持管理するほかの団体と連絡を取りあって、お互いの邪魔をせずに効率的に作業できるようにしたりね。
僕は、ワシントンD.C.にいる間、PNTがまたがる州と地区のすべての上院議員と下院議員と会う。
それと、マップやガイドを更新し、次のハイキングシーズンに合わせてインフォメーションを調整する期間でもある。
僕にとっては、冬はワシントンD.C.の米国連邦議会議事堂を訪れる季節だ。年に一度のこの出張で、連邦議会議員や森林局の指導者たちと会って、ぼくたちのトレイルの管理や運営への継続的な支援を訴えるんだ。
そして毎年、このサイクルが繰り返されるというわけ。
やりがいにあふれ、仕事をしていてこれほどまでに満たされたことはない。
現在PNTAが注力しているのは、トレイルの全長1200マイルに、統一の標識を設置すること。ちなみにこの写真は、僕がオフィス近くの標識を打ち付けているところ。
僕たちはみんな一生懸命に働いている。ときには週に50時間から60時間働くこともあるけど、とてもやりがいのある仕事だ。3つの州、7つの国有林、3つの国立公園、そして私有地を含むさまざまな土地にまたがる1200マイルのトレイルを管理する、これはかなり複雑な仕事なんだ。
公有地の管理には多くの政治や人物が絡んでいる。これは多くの人にとって非常に重要なもので、どのように管理すべきか、それぞれが異なる考えを持っている。
大変ではあるけど、これは素晴らしい仕事だ。僕たちの誰もがすごく情熱を注いでいるし、世界をより良い場所にするものだとみんなが信じている。仕事をしていてこれほどまでに満たされたことはないよ。
PNTはとても特別なトレイルだ。他のトレイルのどれよりも自然そのもので、かつ隔絶されている。ハイカーはここで自然のあらゆる力に真の意味で挑戦できるし、人間が支配してしまった以降の世界だけでなく、原始の、ありのままの世界を垣間見ることができる場所でもあるんだ。
PNTの歴史の中でもこの特別なフェーズにおいて、僕たちは、大きな責任を背負っている。将来にわたって、このトレイルが適切に管理され、保護されることを保証しなくてはならない。
僕たちが今くだす決断は、このトレイルを永遠のものとするだろう。今この仕事ができて、そしてこの特別な資源を世界とシェアすることができて、僕は本当に光栄に思っているよ。
いつか、日本のみんなにも遊びに来てほしいね。
TRAILS AMBASSADOR / ジェフ・キッシュ
ジェフ・キッシュは、アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティにもっとも強くコミットしているハイカーのひとりであり、最前線のトレイルカルチャーを体感し、体現している人物。ハイカーとしてPCTとPNTをスルーハイクしていることはもちろん、代表的なハイカーコミュニティであるALDHA-Westの理事を2年間務め、さらに現在はパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)の運営組織にジョインし、トレイルづくりに尽力している。これほどまでに全方位的にトレイルに深く関わっている人は、アメリカのハイキングシーンにおいても非常に稀である。そんなハイカージェフの、トレイルとともに生きるハイカーライフをシェアしてもらうことは、僕たちにとって刺激的で学びがあるはず。
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(英語の原文は次ページに掲載しています)
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