ジェフ・キッシュのHIKER LIFE with PNT | #06 パシフィック・ノースウエスト・トレイルのスルーハイキング (その2)
(English follows after this page.)
文・写真:ジェフ・キッシュ 訳・構成:TRAILS
What’s HIKER LIFE with PNT? | パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT ※)は、アメリカでもっとも新しいNational Scenic Trail(※)。いまだ手つかずのウィルダネスが現存する稀有なトレイルだ。そこにはハイキングの自由があり、「ロング・ディスタンス・ハイキングの良いレガシーが今も残るトレイルだ」とジェフは言う。この連載では、ジェフを通して、日本では希少なPNTにまつわるトレイル情報やカルチャーをお届けしていく。
* * *
ジェフがハイカーとして旅した、PNTのスルーハイキング・レポート (全7回) の2回目。他のメディアでは読めない、日本語による貴重なPNTのレポートだ。
ジェフはこれまで、ディレクターという立場からPNTの魅力を伝えてきてくれたが、今回はハイカー・ジェフとして旅のエピソードを綴ってもらった。
東の端の出発地点モンタナ州から歩きはじめたジェフは、今回はその西側のアイダホ州へ入っていく。
このセクションも、巨大な湖や、グリズリーベアの生息地など、ウィルダネスが広がる豊かなPNTならではの風景が登場する。
まだ日本からPNTを歩きに行くことは叶わないが、いつかまた自由に海外のロング・ディスタンス・ハイキングができることを願って、PNTのレポートを楽しんでほしい。
PNTの開発初期に使用していた林道は、今ではこのように自然に囲まれたトレイルになっている。
※ パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT):正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trailである。
※ National Scenic Trail(ナショナル・シーニック・トレイル):自然を保護し、楽しみ、感謝することを目的に、1968年に制定されたNational Trails System Act(国立トレイル法)によって指定されたトレイル。他にも、National Historic TrailやNational Geologic Trailなど複数のカテゴリーがあるが、中でもNational Scenic Trailは、壮大な自然の美しさを感じ、健康的なアウトドアレクリエーションを楽しむためのトレイルである。一番最初に選ばれたのは、ATとPCT。現在全米にある11のトレイルが、National Scenic Trailとして認定されている。
コロンビア川水系の源流部エリアを歩く。
ハイ、ジェフです! 僕のPNTスルーハイキング・レポートの第2回目をお届けするよ。PNTA (PNTの運営組織) のオフィスより。
モンタナ州のユーレカを過ぎると、もともと1901年〜1904年にかけてグレート・ノーザン鉄道の延伸区間として建設された、鉄道の線路に沿ってPNTのトレイルは続いていくんだ。
トレイルは、タバコ川という川と並行して走っている。タバコ川は、北西方向に流れていて、その先でクーカヌサ湖に注ぐんだ。クーカヌサ湖っていうのは、1972年にクテナイ川が堰き止められたことでできた湖だ。
PNTは、モンタナ州、アイダホ州、ワシントン州の3州をまたぐ1,200mile (1,930km) のロングトレイル。今回のレポートでは、モンタナ州・ユーレカ〜アイダホ州・ボナーズ・フェリーまでの約105mile (約168km) を紹介してくれた。
古い軌道沿いのトレイルを歩いていると、足元の草むらでバッタが跳ねていたり、川の対岸で子鳥が飛び回っていたり、頭上ではハクトウワシやミサゴが飛んでいたり、のどかな光景が広がっていたね。
やがて僕は、クーカヌサ湖にたどり着いた。クーカヌサ湖は、コロンビア川水系の全水量の13%を占めると言われる、とても大きな湖なんだ。
僕は、PNTをこの先も何百マイルも歩くなかで、コロンビア川の支流 (コロンビア川本流も) を何本も渡ることになる。
パーセル山脈に登る前に、クーカヌサ湖に架かるクーカヌサ橋を渡る。
クーカヌサ湖を渡るときに、モンタナ州で最も長く、最も高い橋であるクーカヌサ橋という橋を通るんだ。ちなみに500マイル先 (いくつかの州を越えた先) では、PCTハイカーたちが「神々の橋 (Bridge of the Gods)」を歩いてコロンビア川を渡っていく。
そんなことを想像すると、とても不思議な感じがするよね。PCTハイカーの足元を流れる川の水の一部は、このモンタナ州にある湖から、PNTに沿って流れていったものなんだからさ。
PNT沿いに広がっているグリズリーベアの生息エリア。
クーカヌサ橋を渡り切った西側で、「ここはグリズリーベアの生息地です」という大きな看板が目に入ってくるんだ。
実際は、ここまでのセクションにも、グリズリーベアはいるんだけど、ここから先の数百マイルも、PNT沿いには巨大なクマが生息しているということだ。
湖の東側に生息するクマは、ノーザン・コンチネンタル・ディバイド生態系 (※1) に属していて、一方、西側に生息するクマは湖によって隔絶されて生息しているんだ。
そして、それぞれ「キャビネット・ヤーク」 (モンタナ州ヤーク地方の小集団の意味) と呼ばれる自分たちの小さなグループを形成している。僕はこれから数日をかけて、このクマの生息エリアを横断していくことになるわけだ。
※1 ノーザン・コンチネンタル・ディバイド・エコシステム (Northern Continental Divide Ecosystem:NCDE):グレイシャー国立公園と1,000を超えるグリズリーの生息地である大規模な生態系で、モンタナ州北西部の約1万6,000平方マイルをカバーしている。グリズリーベアの回復活動を目的に、小委員会が年2回開催されている。
宿泊も可能な山頂展望台がつづくセクション。
湖を過ぎると、PNTはスイッチバックしながら森の中を進み、パーセル山脈の東側に入っていく。このセクションは、トレイル沿いに熟したベリーがあってね、手や口の中を紫色にしながら、ベリーを食べながら歩いていたよ。
このトレイルを登っていくと、上にはウェッブ山展望台という建物がある。この展望台は、1959年に建てられたもので、その後40年間にわたってこの地域の山火事を監視するために使われている建物なんだよね。
最近では、この展望台は一般の人向けに宿泊できるよう貸し出しているけど、事前予約が必要だから、スルーハイカーにとってはロング・ディスタンス・ハイキングのなかで日程を合わせることは、なかなか大変だろうね。
でもこのPNTのセクションは、他のどのセクションよりも多くの展望台があるから、昔からある有名な展望台とかに興味がある人にとっては、かなり楽しめると思うよ。
PNTは、モンタナ州北西部に存在する多くの展望台を通過する。
ウェッブ山からは、PNTは山頂から山頂へとつないでトレイルが通っていて、この先にあるヘンリー山まで、東パーセル山脈周辺の素晴らしい景観を見ることができるんだ。ヘンリー山にも、昔からある有名な展望台があるんだよ。
ここからトレイルは、1926年に地元の森林局によって建設されたアッパー・フォード・レンジャー・ステーションという歴史的建造物まで下っていく。ちなみに、ここも宿泊場所として借りることができる建物になっているんだ。
モンタナ州の辺境にある、ヤークという小さな町。
パーセル山脈を横断する約半分の地点では、モンタナ州のヤークという小さな町を訪れることができるんだ。
この町は、近くのハイウェイから森の中を車で1時間ほど北へ進んだところにある辺境の町でね。小さな商店 (補給用のボックスを受け取ることができる) と、2軒のバーがあるだけで、他にこれといったものはない町なんだ。でも、ハイカーにとっては、この他に必要なものもないよね。
僕はこのスルーハイキングのときは、このヤークの町は、出発したユーレカからも、次の目的地のアイダホ州からも近いってことで、素通りしたんだよね。でもスルーハイキング後に、このモンタナ州北西部のエリアには何度も来ていて、PNTハイカーがこの町をみんな気に入っていることを知ったんだ。
このセクションで最も素晴らしい山岳エリアでの野営。
僕はヤークに向かう道の手前にある分岐点を西に進み、辺境地帯の高地を登ってガーバー山に向かっていった。この山にも、昔からある展望台が建っているんだ。
そして、ガーバー山を越えた先にある、このセクションで最も素晴らしいウィルダネス豊かな山岳エリアであるノースウエスト・ピークス・シーニック・エリア (※2) を目指して進んでいった。
※2:ノースウエスト・ピークス・シーニック・エリア(Northwest Peaks Scenic Area):カナダとアメリカの国境に近いモンタナ州の北西部にある、美しい自然エリア。範囲は、クーテネイ国有林の一部である1万9,100エーカーにもおよぶ。標高7,700ft (約2,300m) を超える高山林や湖、ロッキー山脈の山頂がある。
このエリアを通るルートは2つあって、いずれもPNTのあらゆる地図やガイドブックに明記されているから、ハイカーは好きなほうを選ぶことができるんだ。
1つ目のルートはロック・キャンディー・マウンテン付近を南下し、2つ目のルートはノースウエスト・ピーク (同じくデイビス・マウンテンも) の北側をまわるというもの。
どちらのルートも素晴らしいけど、北側のルートでは稜線のスクランブリング (※3) という冒険も楽しめるから、スルーハイカーのお気に入りのルートとなっているね。
※3 スクランブリング:手足を使って岩場をよじ登りながら頂上を目指したり、縦走したりするアクティビティ。明確な定義はなく、ハイキング、登山、ロッククライミングの中間に位置する。
トレイル上でたまたま出会った、グリズリーベアの生物学者
。
このセクションで出会ったでグリズリーベアの生物学者が、どんな仕事をしているか教えてくれたんだ。彼は、僕の旅の話も熱心に聞いてくれたよ。
彼の仕事は、森のあちこちにぶら下げた有刺鉄線をチェックして、通りすがりのクマから毛皮の一部が採取できたかどうかを調べることだった。
彼はその地域のすべてのクマを把握していて、採取したサンプルをDNA検査して、クマ同士の関係を調べていた。熱心に話してくれる内容を聞いていると、それが孤独な仕事であることがわかったよ。
彼は、自分が泊まっていた古い猟師用の野営地に泊まることを勧めてくれて、そこに隠してある自家製のお酒もわけてくれると言ってくれたんだ。でも僕は、行程的にもっと先に進まなくていけなかったから、この楽しい会話のあと、アイダホ州境に向かって進みつづけることにしたんだ。
モンタナ州からアイダホ州に入り、この州の最初の補給地であるボナーズ・フェリーへ。
アイダホに入ると、トレイルはルビー・リッジに沿ってモイエ川の渓谷へと下っていく。川を渡るとふたたび登り、ブッサード山の山頂にたどり着く。
夕暮れ時、僕は山頂にスリーピングマットを敷いて、これまで歩いてきた場所とその先にある場所の景色を眺めたんだ。
眼下の南の谷間には、アイダホ州のボナーズ・フェリーの灯りが夜空を照らしていた。西には、セルカーク山脈が谷底から一気に立ち上がっていた。
星空の下で眠りについた僕は、翌日、今まで見た中で最も輝かしい日の出で、目覚めたよ。そして何枚か写真を撮ったあと、僕はパッキングをして、ハイウェイの交差点に下りていった。そして、ボナーズ・フェリーまでヒッチハイクするべく親指を立てたんだ。
今回歩いたクーテナイ国有林のエリアは、2014年にジェフがスルーハイクをしていた時、当時まだ数が少なかったこのサインが多く存在しているセクションだった。
今回ジェフが歩いた区間は、PNTのモンタナ州・ユーレカ〜アイダホ州・ボナーズ・フェリーという町までの、約105mile (約168km) のセクションだ。
グリズリーベアも棲むウィルダネス豊かな自然だけでなく、そんな辺境のなかにある小さな町からも、PNTを旅する魅力が伝わってくる。
次回は、アイダホ州を終えて、ラストにして最大の州であるワシントン州へと入っていく。
TRAILS AMBASSADOR / ジェフ・キッシュ
ジェフ・キッシュは、アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティにもっとも強くコミットしているハイカーのひとりであり、最前線のトレイルカルチャーを体感し、体現している人物。ハイカーとしてPCTとPNTをスルーハイクしていることはもちろん、代表的なハイカーコミュニティであるALDHA-Westの理事を2年間務め、さらに現在はパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)の運営組織にジョインし、トレイルづくりに尽力している。これほどまでに全方位的にトレイルに深く関わっている人は、アメリカのハイキングシーンにおいても非常に稀である。そんなハイカージェフの、トレイルとともに生きるハイカーライフをシェアしてもらうことは、僕たちにとって刺激的で学びがあるはず。
(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)
関連記事
ジェフ・キッシュのHIKER LIFE with PNT | #05 パシフィック・ノースウエスト・トレイルのスルーハイキング (その1)
ジェフ・キッシュのHIKER LIFE with PNT | #03 僕がパシフィック・ノースウエスト・トレイルに惚れた理由
- « 前へ
- 1 / 2
- 次へ »
TAGS: