TRIP REPORT

パックラフト・アディクト | #39 静岡・気田川 パックラフティング & 川原キャンプ 2 days

2020.12.16
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文・構成:TRAILS 写真:TRAILS & Packraft Addicted (Fumi Sakurai, Ryusei Murakami, Kenji Habara)

コロナ一色となった2020年も、あっという間に年末。東京で緊急事態宣言が発令されたのが4月。GWもロングトリップに出かけられず、しばらくのあいだは、遠くの山や川へゆく旅の道は「封鎖」された。

TRAILS編集部も、お盆も奥多摩より先には行かずに過ごしていた。ようやく用心しながら、関東以外の川へ出かけたのは9月になってからだ。もう夏が終わりかけた頃だ。

すっかり秋も後半になった10月末。気田川 (けたがわ) のパックラフト・ツーリングで、東京、広島、三重と日本各地からアディクトの仲間たちが集まれたときは、長らく会っていない海外に住む友人と会ったときのような、いつくしみのにじむ再会となった。

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毎年、夏に一緒に遠征に出かけていたアディクトたちと、今年は晩秋に合流。

ということで、今回パックラフト・アディクト一行で下ったのは、天竜川支流の気田川である。メロウなキャンプ・ツーリングを楽しめる清流だ。今回は、水の透明度も抜群で、天気も最高の秋晴れ。そしてアディクトたちとの久々の再会は、笑いと喜びに満ちた、ご機嫌な川旅になった。


浜松 (静岡) で久々の仲間たちと集合!


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今回の旅のメンバー。左からタケさん、小川、バダさん、ケンジ君、リュウセイ君。

今回の旅のメンバーは、広島に住むケンジ君と、三重に住むリュウセイ君、そして東京組は僕(TRAILS編集部小川)とバダさん、そして昨年に第3子が産まれ、3児のパパになったばかりのタケさんも久々にジョインできることになった。今までも四国、山陰・山陽、東北、紀伊半島など、日本各地の旅をともにした、パックラフト・アディクトの仲間たちだ。

今回の待ち合わせは、新幹線の浜松駅。僕は表情にですぎないように照れ隠しをしていたが、久々にみんなに会えただけで、すでに胸のなかは嬉しさでいっぱいになっていた。

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5人分の1泊2日のパックラフト・ツーリングの荷物で、コンパクトカーのラゲッジはパンク寸前。

3児のパパのタケさんは朝イチで子どもを保育園に預け、自宅に帰ってすぐさまパッキングした荷物を背負って、浜松に向かった。そして、3人の子守りを奥さんに任せる背徳感を引きずりながらやってきた。

最近、釣りにハマっているリュウセイ君は、70ℓのGoLiteのGustに、釣りの道具も詰め込んでバックパックはパンパンになっていた。そして「釣り券、買うのに釣具屋寄っていいっすか」と、最初に釣具屋に寄ることに。「夜のおかずが増えるねー」とみんな喜んでいた。

ルアーでの釣りをしようと、ルアーを持ってレジに行くと、釣具屋の店員のお兄ちゃんが「気田川は、ルアーでの釣りは禁止っすよ」という回答…。いきなりプランのゆるさが露呈する。でも、誰もそんなこと気にしない。なりゆきを楽しむメンバーばかり。


メロウな川旅と相性抜群の清流「気田川」。


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1日目のスタート時間は予定より大幅に遅れ、漕ぎ始めたときにはすでに西日が差しはじめていた。

当初は午前スタートの予定だったが、途中の寄り道をして、パックラフトを膨らませたりしてよやく準備完了したら、結局時間は14時半に。季節はもう晩秋になっていたから、スタート時点ですでに少し西日が差していた。

さて、ようやくの出発。流れのなかにパックラフトを浮かべると、すーっと進んでいく。川の様相はメロウだが、流れはしっかりある。これならば、日が暮れる前にちゃんとキャンプ地に着けそうだ。

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のんびりと気田川を漕ぎ始める。

気田川は本州では屈指のツーリング向けの銘川と言われている。水の透明度も高く、きれいに澄んでいる。激しい瀬や難しい流れもなく、おおむねPR2 (※) レベルのおだやかな川だ。気田川を初めて漕ぐメンバーは「水もめちゃきれいだし、まったり漕ぐのに最高の川っすね」とご満悦。

14時半に出発して、1時間半くらい漕いだところで、秋葉神社 下社あたりまでたどり着いた。このあたりは秋葉オートキャンプ場など、いくつかキャンプ場が点在している。コロナ禍でキャンプ場は人気らしいが、ここもフェス会場並みのテント群が川原を賑わせている。

僕らはここから少し先まで下った、誰もいない静かな川原に上陸し、広い川原を独占した。

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川原キャンプ。手前からEquinox / Globe Skimmer Tarp 8×10、MLD / SpeedMid、MLD / Duomid、HMG / Ultamid2。

この日の予想最低気温は5℃。ちょっと寒いかなと思いながらも、開放的なタープでどうしても寝たくって、僕はEquinoxのGlobe Skimmer Tarp 8×10を持ってきた。バダさんはMLDのSpeedMid、ケンジ君はMLDのDuomid、リュウセイ君はHMGのUltamid2と、それぞれワンポール・テントを持ってきていた。あっちのがあたたかそうだなと、少しばかり後悔する。

(※)PR: パックラフト独自の川のレベルを表すのが、PR(PackRafting)のグレード。PR2は以下のレベルを指す。素直に流れる川で、小さな波がある。岩や木などの障害物や浅い所をさけて通るために、ボートを操縦して川を左に右に移動するテクニックが必要。(サニーエモーションHP参照)


川原キャンプで、焚き火の宴。


みんなシェルターを張りおえたと思ったら、タケさんだけあれ?屋根がない?もしやテント忘れた?

そう思ったら、なんとタケさんは10月末の晩秋に、カウボーイキャンプを決めこんだのだ。3児のパパが一番ワイルドなスタイルだった。「子ども3人を養うんだから、これくらいたくましくなくっちゃ」と妙に納得するようなことを言っていたが、何か腑に落ちないのは気のせいだろうか。

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想定最低気温5℃でも、カウボーイキャンプのタケさん。頭だけパックラフトで屋根をつくり、あとビヴィとシュラフだけ。

川原に各々のタープやテントを設営しおわって、流木を集めて、焚き火の準備を始める。僕自身、川原キャンプができるのは、コロナ後初めてだ。川原キャンプの自由さは何ものにも代えがたい。

タケさんは差し入れで、本場ドイツの手作りソーセージという上等なブツを持ってきてくれて、ホットドッグにしたり、焚き火に炙ってマスタードを付けて食べたり、パリッとした皮に、なかからはじける肉汁がたまらない。

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焚き火を眺めながら過ごす至福の時間。コロナでできなかったことのひとつ。ほんと、これがやりたかった。

ケンジ君と僕の間でだけ、なぜか川原キャンプではジンを飲むのが恒例になっていた。この日の夜も、2人はライムを絞ったジンを舐めながら焚き火を眺める。今回は最近僕のお気に入りの、北海道の積丹スピリットというクラフト・ジンを持参した。これは森の香りがしてほんとにうまい。ほどよくお腹が仕上がってきたところで、しめで浜松の地元スーパーで買った静岡おでんをあたためる。寒い季節の汁物は、体の芯からほくほくする。

みんなで焚き火を眺めながら、あたらしい彼女ができたとか、あの彼女と別れたとか、あのギアを買いたいんだけどどう思うとか、あのときのあの川がよかったとか、他愛もない話を続ける。実に愛おしい時間だ。

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川原の宴。Purcell TrenchのPACKERS GRILLと、N. worksのLite Grillで、楽しみに持ってきた食材たちを調理した。


朝から浜松餃子で餃子パーティ。


夜の愉快な時間は、あっという間に過ぎてゆく。あたりはすっかり冷え込んできた。それぞれ自分のタイミングで「おやすみ」を言い、各自の寝床にもぐり込んだ。

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冷え込んだので、朝から焚き火であたたまる。

朝はけっこう冷え込んだ。タープで寝ていた僕は、冷たい風が頬にあたって、夜明け前に目が覚めた。あたりはまだ暗く、ちゃぷちゃぷと川が流れる音だけが聞こえるなか、シュラフにくるまったまま朝を待った。

そろそろとみんなが起き出し、朝から焚き火をおこす。リュウセイ君が、「これ、どうしましょうかね」と、昨日に食い切れなかった浜松餃子の20個入りパックを手に持っている。「みんなで分ければ食べれるでしょ」と、朝から餃子パーティ開催決定。

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浜松は餃子が名物。ニラを使わず、キャベツ、玉ねぎ、豚肉の餡が特徴。野菜の甘みとさっぱり感が美味。蓋は申し訳程度に(笑)。

朝の腹ごしらえも完了し、2日目の出発。昨日に勝る快晴。川の朝の時間は、気持ちがいい。空気がすっと澄んでいて、聞こえるのは川の流れる音と、鳥がさえずる声だけ。川原にも誰もいない。たらたらとパドルを漕いで、川の流れに身を任せる。

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2日目の朝。最高の秋晴れ。澄んだ川の水の上に、身を任せて流れていくのが気持ちいい。


タンデム艇 (2人乗り艇) が転覆。


ゆったりメロウな川だが、何事もなくおわるメンツではない。

タンデム艇 (2人乗り艇) のALPACKARAFT Oryxに乗っていたバダさんとケンジ君が、瀬の途中で岩に引っかかって沈 (転覆) した。

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瀬の中の岩に引っかかり、横向きに流れを受けて転覆。

他人の沈する姿は楽しいなと思って見ていたら、舟から落ちたとき、川の中にある岩に体を強打したらしく、「痛ぇーー!」と叫び、一瞬こちらはヒヤっとする。その後に「入水!入水!」と叫び始めるケンジ君。

補修を怠った手首のガスケット (※ドライスーツの首や手首の部分にある、ゴム製の水の侵入を防ぐ部分) の破れたところから、ドライスーツのなかに水が入ってしまったらしい。「入水しております!」と実況解説を続けながら、流されていくケンジ君。

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流されていくバダさんとケンジ君。

それでも、転覆してしまった大きな2人艇をなんとか岸まで引っ張っていこうと、賢明な2人。そのうちにも、ドライスーツのなかへの入水は止まらない。

そんなバタバタのなか、懸命に泳いでいたら、ふと川は浅く簡単に足が着くことに気づく。

岸に上がると、ケンジ君のドライスーツのなかにたまった水が、破れた穴から、ぴゅーーっと勢いよく出てきて、みんなで大爆笑。


天竜川との合流地点でゴール。


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さいごはゴールまで、メロウに下っていく。本流の天竜川に近づいてくると、流れも緩やかになってくる。

2日目の行程は、秋葉神社 下社付近から、天竜川合流地点にある気田川橋までの約10km。途中で転覆の珍事もありながら、2時間くらいで余裕をもって漕ぎおえた。

岸に上がってから、夜露で濡れたテントを乾かしたり、パックラフトやドライスーツも丁寧に拭いてこちらもしっかり乾かし、片付けの時間もゆっくりと過ごす。

帰りの途中に温泉に寄ったりしていたら、結局、予定していた16時の新幹線に間に合わないことがわかり、浜松駅に着いた頃にはすっかり暗くなってしまった。

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浜松駅でバイバイ。バダさん、タケさん、小川は東へ。ケンジ君とリュウセイ君は西へ。

コロナ禍で外で遊ぶことも限られた2020年であったが、その中でも、天気といい、川のコンディションといい、メンツといい、最高の「THE DAY」のひとつとなる旅であった。

<リバーマップ(川地図)>
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今回のスタート地点は、前島橋 (JA遠州中央 春野支店付近)。ゴールは天竜川との合流地点にある気田川橋 (約18km)。当初はさらに上流の藤ノ瀬ホタル公園付近を予定していたが、ショートコースに変更。1日目のキャンプ地は、秋葉神社 下社より少し下流にある川原 (約8km、所要約1時間半)。2日目はここからゴールの気田川橋まで(約10km、所要約2時間)。浜松駅からスタート地点までは、クルマで約1時間15分。当日水位 犬居 2.30m。

 

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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