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リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#30 / コロナ期に北米ではどのようにハイカーイベントが開催されているか

2021.01.22
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(English follows after this page.)

文・写真:リズ・トーマス 訳・構成:TRAILS

パシフィック・クレスト・トレイル (PCT) の定番イベントであるPCT DAYSが、今年の夏に開催する予定であることが、2021年の年初に発表された。

しかし、このイベントも開催延期もしくはキャンセルの可能性があることも添えられており、状況の見通しは依然厳しい。PCTアソシエーションも、「ロング・ディスタンス・ハイキングは2022年に延期してほしい」という旨のメッセージを発信している。

2020年は、COVID-19 (新型コロナウイルス) により多くのリアルのイベントは中止に。そのようななか、さまざまなオンラインイベントの試みもあった。ロング・ディスタンス・ハイキングや海外のロングトレイルに関心のあるハイカーのなかには、北米のトレイルやメディアが発信している、オンラインイベントやLIVE配信を見ていた人もいるだろう。

今回リズがレポートしてくれるのは、そういった「コロナ期のハイカーイベント」である。アメリカでは、ハイカー・コミュニティにおいて、どのようにイベントが開催され、どのようなテーマが話し合われ、またどのようにコミュニティの絆を維持しているのだろうか。

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リアルイベントで自身の体験を語るリズ。2020年からはこれがオンラインに切り替わった。


ハイカーにとって、ハイカーイベントは「ファミリーの集まり」。


ロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティのハイカーたちは、毎年イベントで集まるのを楽しみにしています。ハイカーのイベントは「ファミリーとの再会の場」なのです。こういったイベントで、山の上や吹雪の中で出会った仲間、あるいは食べ放題ビュッフェなどで仲良くなった友だちたちと、再会することができるのです。

イベントでは毎年、何百、何千mileも旅をしたハイカーたちが、ハイカー向けのセミナーで教えたり、ハイキングのフェスティバルでスピーカーとして登壇してくれたりします。またアパラチアン・トレイル (AT)、パシフィック・クレスト・トレイル (PCT)、コンチネンタル・ディバイド・トレイル (CDT) を踏破したハイカーは、トリプルクラウン・アワードの表彰が行なわれます。

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2019年のトリプルクラウンアワードにて、表彰されたトリプルクラウナーたち。photo by Naomi Hudetz

しかし2020年、アメリカではCOVID-19 (新型コロナウイルス) の影響で、リアルのハイキングイベントは中止になりました。では、こういった制限があるなかで、ロング・ディスタンス・ハイカーはどんな方法でイベントを開催しているのでしょうか?


「新しいやめ方」についてのウェビナー (ウェブ・セミナー) を開催。


2020年の春に、多くのトレイル関連団体がCOVID-19を理由に、スルーハイカーに向けてハイキングは控えてください、という要請を出しました。国立公園は閉鎖され、ほとんどの国立公園では敷地内のトレイルを歩くことは禁止されました。

大半のロングトレイルでは、ハイカーはヒッチハイクで小さな田舎町に補給に行く必要があります。そのため専門家は、ハイカーが、病院のない田舎町にウイルスを拡散させてしまうことを懸念していました。

そこでALDHA-West (※) では、いち早く「新しいやめ方」というテーマのウェビナー (ウェブセミナー) を開催しました。このウェビナーでは、COVID-19のために早々にハイキングを断念しなければならなかったハイカーが、その経験を語ってくれました。

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2020年は、ALDHA-West初のオンラインイベントを開催。現在もアーカイブを視聴可能 (詳しくはコチラ) (https://www.aldhawest.org/より)

※ ALDHA-West (The American Long Distance Hiking Association West):ロング・ディスタンス・ハイカー、および彼らをサポートする人々の交流を促進するとともに、教育し、推進することをミッションに掲げている団体。ハイキングのさまざまな面における意見交換フォーラムを運営したり、ハイカー向けの各種イベントを開催したりしている。


スルーハイキングを断念したハイカーが、リアルな気持ちを語り合う。


このウェビナーでは、COVID-19のためにトレイルを途中離脱した3人のハイカーによるパネルディスカッションが行なわれました。

その3人のハイカーを紹介します。一人目は、コニー・マレン・モーエン aka ハッピー。彼女はノルウェー出身のハイカーで、スルーハイキングのために長い間ずっと貯金をして、そして仕事を辞めて、PCTを歩いていました。

二人目は、シャーマン・マニンガス aka ハッピーフィート。彼はアメリカ人のハイカーで、テ・アラロアのスルーハイクを断念して、ニュージーランドからアメリカに帰国することになりました。

三人目は、フィマ・ゲルマン aka トライポッド。彼は、春のロックダウンにより、3度目のPCTスルーハイキングを断念することになりました。

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コニー・マレン・モーエン aka ハッピーのイベント。photo by ALDHA-West

ハッピーフィートとハッピーにとって、トレイルを離れることは悲しいだけではなく、お金のかかることでもありました。ハッピーフィートは、ニュージーランド (テ・アラロア) からアメリカへすぐに帰れる飛行機に乗らなければならず、スルーハイクのために貯めていたお金の大部分を使ってしまいました。またハッピーも、アメリカからノルウェーへの緊急の帰国のため、借金をして航空券を買って、ノルウェーに戻ったのです。

どのハイカーも、急遽ハイキングを断念したことによって発生した金銭面のダメージよりも、夢を中断せざるを得なかったことを悲しんでいました。ただハイカーたちがウェビナーで強調して言っていたのは、トレイルはずっとそこにあるということ、そして自分たちが正しい決断をしたということでした。

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シャーマン・マニンガス aka ハッピーフィートのイベント。photo by ALDHA-West

ハイカーたちは、自分たちの強い想いに反してトレイルを離れなければならない悲しみについて語っていました。しかし、そのウェビナーを見て、みんな同じなんだと感じたのです。

私たちはみんな、ハイキングができないことにがっかりしていたのです。私たちの多くは、夏のスルーハイキングの計画をキャンセルしなければならないことも、すでにわかっていました。

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フィマ・ゲルマン aka トライポッドのイベント。photo by ALDHA-West

COVID-19が広がっているなか、どのようにハイキングプランを立てたらよいのか、どのように体を守ったらよいのか。そういったことについて、参加者はウェビナーのチャット機能を使って、いろいろと意見交換をしていました。自分と同じように感じている人がいることを知ることで、たとえ別々の場所にいたとしても、ハイカーは同じコミュニティにいるんだという実感を得ることができました。


「黒人のスルーハイキング」というテーマのウェビナーも開催。


2020年の夏、ニュースの中心は、人種問題に関する緊張の高まりや、それに伴う抗争に関するものでした。これは、多くの人々にとっても重要なテーマとなりました。

トレイルやアウトドアは、歴史的にもそうですが、現在の人種差別的な政策や慣行にも影響を受けています。たとえば、AT沿いにあるシェナンドー国立公園やグレート・スモーキー国立公園など、1930~60年代には、黒人が白人と同じエリアでキャンプをすることを認めていなかった国立公園もあります。

7月、ALDHA-Westは、3人の黒人トリプルクラウナーがアメリカのロングトレイルをハイキングした経験を語るオンラインイベントを開催しました。

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「黒人のスルーハイキング」について語るオンラインイベントを初開催。photo by ALDHA-West

エルシー・ウォーカー aka シャルドネは、スルーハイカーになる前は、長距離の自転車旅にハマっていました。そんな彼女がAT、PCT、CDTをすべて踏破し、2018年に初の黒人トリプルクラウナーとなりました。

ウィル・ロビンソン aka アクナは、軍隊経験者で、メレルのスポンサー・アスリートでもあります。彼は2019年に、黒人男性として初めてトリプルクラウンを達成したハイカーです。

このウェビナーの司会を務めたアマンダ・ジェイムソン aka ズールは、2016年に『バックパッカー・マガジン』でスルーハイキングのテーマを担当をしていた人です。彼女のハイキングに関するレポートは、私の著書『ロングトレイル』でも紹介しています。

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左から、エルシー・ウォーカー aka シャルドネ、ウィル・ロビンソン aka アクナ、アマンダ・ジェイムソン aka ズール。現在もアーカイブを視聴可能 (詳しくはコチラ)

このウェビナーは、アウトドアの世界における人種というテーマや、アメリカの黒人スルーハイカーは白人スルーハイカーとは異なる経験をしている、といったことについて語られました。多くの白人ハイカーにとっては、これらの視点でハイキングを考えるのは初めてのことでした。

このウェビナーには、1,000人以上もの人が参加しました。スルーハイカーだけではなく、一般のアウトドア好きの人もたくさんいました。これだけ多くの人が参加してくれたという事実は、コロナ期に私たちハイカーがそれぞれ離れた場所にいながらも、ハイキングを通じて、この国で起きている難しい問題について対話し、おたがいの絆を深めることができるのだ、ということを教えてくれました。


2021年も、オンラインのハイカー・イベントを引き続き開催。


今年 (2021年) の春も、引き続き移動や旅行の規制は続く予定です。そのため、ハイキングシーズンに向けた事前の各種セミナーも、オンラインで開催されます。COVID-19の前年は5つの州でそれぞれイベントが開催されていましたが、今年はウェビナーで開催されます。

2021年のイベントでは、4つのテーマのウェビナーが予定されています。興味関心によってカテゴリー分けされていて、参加者は2つのトピックを選択して、セッションに参加することができるようになっています。

ウェビナーの利点は、世界中、誰でもどこからでも参加できることです。ぜひ日本のハイカーにも参加してもらいたいです。参加登録はまだ始まっていませんが、下記サイトで受け付けます。

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ALDHA-Westのウェブサイトで、イベントの申し込みを受け付けている。(詳しくはコチラ) (https://www.aldhawest.org/より)

このウェビナーは、以下4つのカテゴリーがあります。

[1]「スルーハイク入門」
ハイキングシーズンに入る前の時期に、よく開催される定番コンテンツです。このウェビナーでは、補給、ナビゲーション、ギアの軽量化、Leave No Traceのアウトドア倫理などのトピックについて、パネリストが話をします。

[2]「アフィニティ・スペース(クローズドな対話の場)」
このウェビナーでは、ブレイクアウト・ルーム (ウェブ上の小部屋) が用意され、次のようなテーマについて語り合います。たとえば、スルーハイキングにおける女性特有の心配事や、黒人や有色人種がアメリカをハイキングすること、といったテーマです。大勢の前では質問をするのに気をつかうトピックについて、このウェビナーは同じ境遇の人たちと話す機会が提供されます。

[3]「上級者向けスルーハイキング」
ハイカー向けのセミナーをオンラインで実施できるメリットのひとつは、たくさんのトピックを手軽に提供することができることです。以前は、入門編からトレイルの詳細情報、上級者向けのコンテンツまで、8つ以上のトピックを紹介するのに、8時間しか時間がありませんでした。そのため、上級者にとっては入門編を聞いていて飽きてしまうこともありました。今年はオンラインイベントとして、天気図の読み方、ウルトラライト (UL) ギアの自作、経験者向けのルートなど、中〜上級者向けのトピックに特化したウェビナーを1回開催します。

[4]「各トレイルの詳細情報」
このウェビナーでは、それぞれのトレイルに特化した多くのセッションが行なわれます。AT、PCT、CDTから、ヘイデューク・トレイルやグレート・ディバイド・トレイルなどのあまり知られていないトレイルまで、ハイカーは興味のあるトレイルを選ぶことができます。もしかしたら、日本でのハイキングの話をしてくれるトレイルリーダーを見つけることもできるかもしれません。


さいごに


2021年の夏以降に、ハイキング関連のリアルのイベントが許可されるかどうかは、まだはっきりしていません。

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PDT DAYSは、2021年8月に開催予定であることを発表。コロナの状況により10月に延期もしくはキャンセルの可能性もある。7月末までに最終決定をするとのこと。(https://www.pctdays.com/より)

今年の夏には、オレゴン州カスケード・ロックスのアウトドアフェスティバル、PCT DAYSが、開催できることを待ち望んでいます。また、毎年秋に開催されているコロラド州でのALDHA-West Gatheringが実施され、トリプルクラウナーたちが受賞プレートをイベント会場で受けとれることを願っています。

2020年はハイカーにとって未曾有の年になりました。再び仲間と一緒にハイキングできる日が来たら、これほど嬉しいことはないでしょう。

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2019年の『Gathering (ギャザリング)』での集合写真。photo by Robert Curzon

2021年も、COVID-19については、残念ながら楽観できる状況ではない。それでも、旅への欲求は抑えることなく膨らませておきたいし、ハイカーとのつながりも感じていたい。

2020年にスルーハイキングを予定していたハイカーの悲しさは、想像を超えるものがあっただろう。

しかしその感情は、ほとんどのハイカーが抱えていたものであり、その気持ちが共有可能であること、それをリズのレポートは教えてくれた。

TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT,PCT,CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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「withコロナ」のロングトレイル(後編) | 海外のロングトレイル

WRITER
Liz Thomas

Liz Thomas

2011年にアパラチアン・トレイルを女性の最速タイムで踏破した記録(当時)を持っていることで知られている。彼女はトリプルクラウンを達成しただけでなく、米国に15以上あるトレイルでのスルーハイクを経験し、今まで15,000マイル以上ものトレイルを歩いてきた。また、彼女はその経験をロング・ディスタンス・ハイキングのコミュ二ティに還元することにも熱心で、American Long Distance Hiking Assosication-West(ALDHA-West)のバイスプレジデンドも務めている。彼女がハイキングを本格的に始める前は、イエ-ル大学の森林環境学部で環境科学の修士課程を修了し、彼女が手がけた、ロング・ディスタンス・ハイキング・トレイルとその保護およびコミュニティに関するリサーチは、名誉あるDoris Duke Conservation Fellowshipの賞を受けた。スポンサーはAltra, Gossamer Gear, Probar, Vermont Darn Tough socks, Mountain Laurel Designs, Sawyer filters, Montbellで、アンバサダーとして活躍している。
http://www.eathomas.com/

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