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リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#29 / 「with コロナ」のハイキング (前編) 〜守るべき6つのガイドライン〜

2020.10.02
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(English follows after this page.)

文・写真:リズ・トーマス 訳・構成:TRAILS

新型コロナウイルスの感染者が世界最多のアメリカにおいて、ハイカーたちは今、何をしているのか?

メジャーなトレイルにおいてスルーハイキングが難しいことは、以前の記事『「withコロナ」のロングトレイル(後編) | 海外のロングトレイル』でも紹介した。

そんな「with コロナ」の状況下で、ハイカーたちはいったいどこに歩きに行っているのか? そしてどうやって楽しんでいるのか?

そんな疑問から今回、アメリカのハイカーの今、をリズにレポートしてもらうことになった。

前編では「with コロナ」のハイキングにおいて守るべきルールについて、後編ではシーンの最前線にいるハイカーが、2020年に歩いたルートとその歩き方について、を紹介。

さすがアメリカというアウトドア業界の連携の迅速さ、ハイカーのリテラシーの高さを感じられる内容になっています。まさにアメリカのハイキングシーンの現在を知ることができるレポートです。

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リズが歩いたシエラハイルート。



新型コロナウイルスとスルーハイカー。



アメリカでは新型コロナウイルスが感染拡大により、2020年3月までに多くの都市や州でロックダウンが実施されました。

すでに歩き始めていたPCTのスルーハイカーたちは、ハイキングを続けてもいいのか、やめるべきなのか、迷っていました。

アリゾナ・トレイルをはじめとした、春スタートのトレイルを歩こうとしているハイカーは、常識的にもルール的にも、ハイキングはできないことがわかりました。なぜなら、歩いたとすれば、感染が田舎のエリアにも広がる可能性があるのと、その町には外からの感染者を受け入れられるほどの規模の病院はないからです。

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リズもマスクをする機会が増えた。

現在、アメリカでは70万人以上の感染者と1万3000人近くの死者が出ていて、コロナウイルスの感染数は世界で最も多いと言われています。2020年のスルーハイキング・シーズンは、これまでとは異なるように見えますが、コロナウイルスによってハイカーたちが歩くことをやめたわけではありません。

この記事では、2020年に、アメリカのスルーハイカーたちがどのようにして、新しいルートを見つけ、ハイキングを楽しんでいるかを紹介します。



今年は、ロングトレイルはスルーハイキング自粛を要請。



4月までに、各地域のトレイルや国立公園が閉鎖されました。何カ月もかけて計画を立て、パーミット (許可証) も取得していたPCTスルーハイカーたちは、スルーハイキングをやめざるをえませんでした。

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PCTAのウェブサイトのトップページには、ポップアップウィンドウでの注意喚起も行なわれた。 (https://www.pcta.org/より)

これは特に海外からのハイカーにとっては酷な決断であり、しかも多くのハイカーは帰国するために、直近の高額なフライトチケットを購入しなければなりませんでした。

アパラチアン・トレイル・コンサーバンシー (ATC) とパシフィック・クレスト・トレイル・アソシエーション (PCTA) は、2020年のスルーハイカーにトレイルから離れることを求める声明を出しました。ATCは、デイハイカーにさえも近づかないことを求めました。

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ATCのウェブサイトのトップページも、一時期は、新型コロナウイルス仕様になっていた。 (https://appalachiantrail.org/より)



アウトドアを楽しむための6つのガイドライン。



ただし5月末には、ウイルスの広がりが緩やかになってきたこともあり、レクリエーション団体の多くは、COVID-19によって、今年の夏はアウトドアに興味を持つ人がかなり多くなるだろうと考えていました。それは、ウイルスは屋内よりも屋外のほうが20倍も拡散しにくいとされているためです。

そして、人々が外出するにあたり、安全にアウトドアを楽しむためのガイドラインを設定すべく、レクリエイト・レスポンシブル・コーアリション (Recreate Responsibly Coalition) というグループが結成されました。

国立公園局、国立森林局、土地管理局、REI (アメリカに数多くの店舗を持つアウトドアショップ)、自然保護団体、ハイキングやトレイルの組織、サイクリングの組織によって立ち上げられたこの組織は、影響力を持つ人たちと協力しながら6つのガイドラインを設けました。

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レクリエイト・レスポンシブル・コーアリションのガイドライン。(https://www.recreateresponsibly.org/より)

① 下調べをする (Know Before you Go):もし目的地が閉鎖されている場合は、行かないようにしましょう。混雑している場合は、予備の計画を立てておきましょう。
② 事前に計画を立てる (Plan ahead):施設の閉鎖にそなえ、昼食を準備し、手指の消毒剤や顔を覆うものなどの必携品を持参しましょう。
③ 地元で楽しむ (Explore locally):長距離の移動は控え、地元の公園やトレイル、公共スペースを利用しましょう。訪れた先に自分たちがおよぼす影響にも配慮しましょう。
④ フィジカルディスタンスを保つ (Practice physical distancing):共に行動するグループは少人数にしましょう。鼻や口を覆い、他の人との距離を取るようにしましょう。病気の場合は、外出しないようにしましょう。
⑤ 安全に行動する (Play it safe):ケガのリスクを減らすために、リスクの低い活動をしましょう。捜索救助活動も医療資源も逼迫しています。
⑥ 痕跡を残さない (Leave No Trace):公有地や河川、地元の人や地域社会を尊重しましょう。ゴミはすべて持ち帰りましょう。

このガイドラインに基づき、PCTAは、スルーハイキングはまだ控えてほしいが一般的なハイキングは許可する、と発表しました。要は、トレイルタウンでの補給や宿泊を必要としない旅、たとえばピストンのハイキングやループコースのハイキングであればOKということです。



コロナ期にオフトレイルを選ぶハイカーたち。



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先進的なハイカーが歩くルートのひとつ、グレイター・イエローストーン・ループ。

アメリカのハイキングシーンの最前線にいるハイカーたちは、このガイドラインを満たすために、自宅から数時間でハイキングできる、ルート (※) やオフトレイルの周回コースを選んでいます。

ルートやオフトレイルのハイキングによって、ハイカーは藪漕ぎとナビゲーションのスキルを習得し、人混みから離れ、人とも出会わずに過ごすことができるようになるのです。

自然の中でひとりになることは、人との接触を避ける方法なのです。

この記事の後編では、コロナウイルスへの感染を避けるために、先進的なハイカーたちが2020年に歩いている2つのルートについて説明します。

また、ルートを歩くハイカーが他の人との接触を最小限にするための方法についても説明します。

最後に、2020年のルートを歩くハイカーにとって最も重要なことのひとつは、できる限り綿密な計画を立てることです。そして、どんなに努力しても接触は避けられないかもしれないと認識することです。

※ ルート:ルートとは既存のトレイルではなく、既存トレイルの一部や、ダートロード、そして荒野を進むオフトレイルなど、いろいろな種類の道が入り混じっている、オリジナルの道のこと。基本的に標識 (または、ルートの名前だけ書かれているもの) がないので、ハイカーは自力でのナビゲーションが必要。詳しくはコチラの記事を参照。

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「with コロナ」の状況下でも工夫次第でハイキングはできます。

新型コロナウイルスによって、スルーハイキングができない状況は、まだしばらく続くだろう。

でもそんな中でも、いち早くアウトドアを楽しむための組織を立ち上げ、明確なガイドラインを設定したのは、さすがはアウトドア大国アメリカだ。

そのなかでもハイキングシーンの先端にいる尖ったハイカーたちは、ガイドラインを守りつつも、コロナの状況に合わせて実験的なハイキングを楽しんでいるようだ。

後編では、そんな先進的なハイカーの実例をもとに、そのルートと歩き方をリズに紹介してもらう。

TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT,PCT,CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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WRITER
Liz Thomas

Liz Thomas

2011年にアパラチアン・トレイルを女性の最速タイムで踏破した記録(当時)を持っていることで知られている。彼女はトリプルクラウンを達成しただけでなく、米国に15以上あるトレイルでのスルーハイクを経験し、今まで15,000マイル以上ものトレイルを歩いてきた。また、彼女はその経験をロング・ディスタンス・ハイキングのコミュ二ティに還元することにも熱心で、American Long Distance Hiking Assosication-West(ALDHA-West)のバイスプレジデンドも務めている。彼女がハイキングを本格的に始める前は、イエ-ル大学の森林環境学部で環境科学の修士課程を修了し、彼女が手がけた、ロング・ディスタンス・ハイキング・トレイルとその保護およびコミュニティに関するリサーチは、名誉あるDoris Duke Conservation Fellowshipの賞を受けた。スポンサーはAltra, Gossamer Gear, Probar, Vermont Darn Tough socks, Mountain Laurel Designs, Sawyer filters, Montbellで、アンバサダーとして活躍している。
http://www.eathomas.com/

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