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リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#29 / 「with コロナ」のハイキング (後編) 〜人との接触を最小限にする方法〜

2020.10.07
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(English follows after this page.)

文・写真:リズ・トーマス 訳・構成:TRAILS

新型コロナウイルスは、ロング・ディスタンス・ハイキングのあり方も変えてしまった。PCT (パシフィック・クレスト・トレイル) では、すでに来年2021年のスルーハイキング・パーミットも発行しないと発表した。

新型コロナウイルスの感染者が世界最多のアメリカにおいて、ハイカーたちは今、何をしているのか?

前編では「with コロナ」のハイキングにおいて守るべきルールについて紹介した。

この後編では、リズと友人のハイカー・ラリーボーイが、人との接触を最小限にしながら試みたハイキング・トリップのレポートをお届けする。

2人とも、補給で小さな町に降りて人と接触をしないこと、を意識してプランニングしたが、結果的に人との接触を避けられない事態に遭遇してしまう。このコロナ期のハイキングからリズが学んだことは何だったのか。

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シエラ・ハイ・ルート (SHR) のスカイ・パイロット・コルからの景色。



ルート1 / シエラ・ハイ・ルート (SHR) をベースにした、ループコース。



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リズが用いたシエラ・ハイ・ルート (SHR) のマップ。SHRのセクションを利用したループコースを歩いた。

私は、新型コロナウイルスのなか、地元のエリアから出ないようにオフトレイルのSHRをベースにしたループコースをハイキングしてきました。このルートは1990年代初頭にロッククライマーのスティーブ・ローパーが開拓し、同名のガイドブックに記載されています。

このルートのアプリはありませんが、ジャスティン・リクター a.k.a. トラウマ (※) が、デジタルマップにそのルートを描いてくれたので、私はそれを印刷して持ち歩きました。またこのルートをGPXファイルにして、バックアップのナビゲーションとして使用するために、携帯電話のアプリに取り込んでおきました。

私は最近2カ月の間に、SHRをベースにしたオフトレイル・ループを4回ほど歩きました。いずれも3〜5日の行程です。毎回、1日中、誰にも会わないことも多かったです。なので、私は誰もいない湖畔でキャンプをしていました。

※ ジャスティン・リクター a.k.a. トラウマ (Justin Lichter a.k.a. TRAUMA):2006に約1年間(356日)で約16,000kmを歩いてトリプルクラウンを達成したハイカー。2007年に南アルプス、およびニュージーランドのサウスアイランドを、2009年にはアフリカ大陸をサポート無しで約2,900km歩く。2011年にはヒマラヤレンジ約3,200km、2013年にはメキシコのコッパーキャニオン約800kmをハイクトリップ。2002年以降、約56,000kmを超える距離をハイキングした世界中から注目を集めるハイカー。TRAILSのアンバサダーでもある。



ガイドラインに則った、補給を必要としない短いループハイク。



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SHRのシークレット・レイクのそばでのテント泊。

SHRを一連のループとしてハイキングしようと思いついたのは、フラミンゴというスルーハイカーがきっかけでした。フラミンゴはシエラから車で数時間のベイエリアに住んでいます。

『レクリエイト・レスポンシビリティ』のガイドライン (詳細は前編の記事を参照) では、新型コロナウイルスの間は、住んでいる州内における補給を必要としない短いループハイクのほうが、スルーハイクよりも良いとされています。フラミンゴは、SHRを一連のループとしてセクションハイクすれば、新型コロナウイルスの状況下で長いルートを楽しめると考えたのです。

でも、最近のSHRのハイキングでは、人との接触を避けるように計画しても、避けられないケースがあることがわかりました。



人との接触を避けるつもりが、ヒッチハイクをすることに。



私は人気の高いモスキート・パスの登山口からスタートし、標高12,000ft (約3,600m) のモノ・パスに向かいました。その後、トレイルを離れ、モノ・レッセスにあるハンギング・バレーを横断してSHRに合流しました。SHRで2日過ごした後、イタリア・パス・トレイルに合流しました。

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イタリア・パスの下にある湖。

地図では、モーガン・パスを越えると、車に戻るための別のトレイルに接続できるはずでしたが、最近、岩崩れがあってトレイルを通れないことがわかりました。崩壊エリアを越えるためには、強度の低いロープを使って、裂けた箇所を渡らなければなりません。

命の危険を冒すつもりはありませんでした。でも、引き返して車に戻るために十分な食料もない。一番安全な方法は、近くの登山口まで歩いて、ヒッチハイクで車に戻ることでした。

私は今回、人との接触を避けるためのルートを計画し、準備してきたつもりでした。一方で、スルーハイキングというものは柔軟性が必要であって、思い通りにいかないことがあることもわかっています。



コロナ期は、通常よりも徹底的な事前リサーチが不可欠。



私は4種類の地図と、ガイドブックから該当ページだけ切り取ったものを持っていました。さらにあらかじめ、最近そのルートを踏破したハイカーにメールを送っていました。でも私は、難しいオフトレイルのセクションにばかり目がいっていました。

そのため、このセクションは簡単な部分だと思って、トレイルの説明をちゃんと読まず、通行可能だと思い込んでいたのです。

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テントから眺める夕暮れ。

私はヒッチハイクをして見知らぬ人の車に乗ったので、その後2週間隔離されることになり、ハイキングすることができませんでした。そして家に帰ってから、崩壊したトレイルを避けて車に戻ることができるオフトレイル・パスのことを読みました。

新型コロナウイルスの時期にハイキングをするなら、事前のリサーチに特に気をつけなければならないことがわかりました。隔離期間が終わったら、もっとちゃんとリサーチした上で、SHRのループに戻るつもりです。



ルート2 / ラリーボーイが歩いたグレーター・イエローストーン・ループ (GYL)



新しいルートをハイキングするハイカーのなかには、補給でトレイルタウンに行く代わりに、食料をあらかじめデポしたりすることもあります。

また、家族や友人に頼んで、バンに乗ってついてきてもらうサポート型のスタイルを取るハイカーもいます。

ハイカーが大都市のウイルスを小さな町に持ち込まないようにするには、トレイルタウンとの接触が少ないほうが良いのです。でも一方で、トレイルタウンの経済は観光に頼っているため、小さな町にとってハイカーが来ることは嬉しいことでもあります。

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グレーター・イエローストーン・ループ (GYL) を生み出したラリーボーイ。

ラリーボーイは、トレイルの運営組織がハイカーにトレイルから離れるように要請しているのに、PCTのルートを歩いてしまうという失態をしないように気を付けていました。

そこで彼はグレーター・イエローストーン地域 (彼の住まいから2〜3時間以内) で800mile (約1,300km) のルートを作りました。春にペッパーフレークというスルーハイカーがつくったルートをもとに、コンピュータのマッピング・ツールを使って自分のルートのプランニングをしました。

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グレーター・イエローストーン・ループ (GYL) は、800mile (約1,300km) のループコース。ワイオミング州とモンタナ州にまたがっている。



人との接触を避けるためのルートと手段。



ラリーボーイは、交通手段を使わなくていいように、あえてループコースにしました。彼はヒッチハイクをしたり、ホテルやホステルに泊まったりする必要がないように、ルートを設計したのです。

トレイルタウンの人々との接触を最小限に抑えたいと考えていたので、事前にルートに沿って食料と、靴下やバッテリーなどのギアを保管しておく場所を決めていました。彼はその計画プロセスを「バックパッキングというより探検みたいだな」と言っていました。

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GYLの800mileの道中、毎日ように見えるグランド・ティトン。

彼はスタート前に、トレイルヘッドの近くに食料やギアを保管しました。彼の目標は、できる限りつつましく、他の人間と接触することなく森の中で何カ月も過ごすことでした。

森の中での孤独なハイキングをはじめて2カ月後、新型コロナウイルスの中でのハイキングで人との接触を避けようとしていたラリーボーイの計画は順調でした。



グリズリーベアに襲われて、病院搬送。



でも、予期せぬケガでハイキングは中断しました。彼が、とある角を曲がっている時にグリズリーベアに遭遇したのです。それは、100万分の1の確率の出来事です。

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クマとの遭遇は、この近くのアブサロカ山脈の中で起こった。

グリズリーベアは爪で彼の頭と胸を引っ掻きました。ラリーボーイが10分間死んだふりをした後、クマは去っていきました。

ラリーボーイは胸から大量に出血していました。彼は、新型コロナウイルスの間は人との接触を避けたかったにも関わらず、治療のためにルートを外れて町に行かなければなりませんでした。

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クマは、ラリーボーイ愛用のハットにもダメージを与えた。

ラリーボーイは人との接触を最小限にするようにルートを設計していましたが、結局、病院に行くためにヒッチハイクをしなければなりませんでした。

でもワイオミング州の地元の人々が、ボランティアで彼を受け入れてくれました。そして、彼の出血がおさまり37針の縫合を受けている間、彼の世話をしてくれたのです。



いくら準備しても、想定外のリスクが起こることを受け入れる。



ラリーボーイは緻密な計画を立てていたものの、これほど深刻な事態になることを想定していませんでした。

クマに襲われることは、実際に起こる可能性は低いのです。彼は、クマの多いこの国でのハイキングのために、最善の方法をすべて実行してきました。クマに襲われた時の対処法を何十回も練習しました。ハイキング中は音を立てていました。クマ用スプレーを持ち歩き使い方も知っていました。でも、それだけでは十分ではなかったのです。

スルーハイクでは、常にうまくいかないことにでくわします。幸いにも、ラリーボーイは新型コロナウイルスに感染しておらず、数週間後には別のルートをハイキングする予定だそうです。どんなに予防策を立てていても、常にリスクがあることを受け入れなければならないのです。

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たまに、イエローストーン川に架かる橋を渡って、イエローストーン国立公園に入ることもできる。



さいごに



新型コロナウイルスは、ロング・ディスタンス・ハイキングのあり方を変えてしまいました。先日、パシフィック・クレスト・トレイル・アソシエーション (PCTA / PCTの運営組織) は2021年のスルーハイキング・パーミットを発行しないと発表しました。

再び、以前のようにスルーハイキングができるようになるまでに、数年かかるかもしれません。私たちが新型コロナウイルスから学んだことがあるとすれば、それは私たちが過去にスルーハイキングをしていたことがどれほど幸せだったかということです。

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トレイルに咲く野草。

すべてのスルーハイカーは、ハイカーの仲間たちのことはもちろん、見知らぬ人と知り合いになれることを恋しく思うでしょう。私はトレイルエンジェルや、見知らぬ人の家に招かれてくつろげることが恋しくなっています。

レストランで食事をしたり、新しい場所を見たり、家から遠く離れた場所を旅することが懐かしいです。スルーハイカーが今シーズンにロングトレイルの体験を味わうなら、この『ルート』を歩くことが適しているのかもしれません。

どんなに人との接触を避けるために計画を立てても、2020年の生活においては、人に頼らざるを得ないリスクが存在します。

どんなに計画を立てても、うまくいかないこともあります。間違いを犯すこともあります。他の人との接触を最小限にするように計画されたルートであっても、ロングトレイルをハイキングするのと同じように、予測不可能なことがあることを私は学びました。

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既存のトレイルとは異なるオフトレイルを歩く上では、より注意が必要となる。

たとえ、ラリーボーイと私がこの夏ハイキングをしなかったとしても、家から出なかったとしても、思うようにいかないことはあるのです。

裏庭のはしごから落ちたり、ベーグルを切っているときに手を切ったり。どちらの状況でも手当てが必要だったでしょう。車の運転も同じです。事故に遭う危険があります。でも、そのリスクを軽減するためにシートベルトを着用しているのです。

2020年のハイキングにおいて、私たちがリスクを軽減する方法は、計画を立てて準備することしかありません。

ループをハイキングし、レクリエイト・レスポンシビリティのガイドラインに従うことで、他の人との接触を最小限に抑えることができるのです。

2020年のハイキングは探検のようなものであり、ひとつのミスがこれまでよりも大きなリスクを招きます。

結論としては、新型コロナウイルス前と比べて、私たちは何も問題が起きないようにするためのさらなる努力が必要になるということです。

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再びシエラ・ハイ・ルート (SHR) のセクションを歩く予定のリズ。

PCTが、来年のスルーハイキング・パーミットを発行しないと発表したことは、覚悟をしていたことではあるが重いニュースであった。

僕たちは変わらずに、旅を求め、見知らぬ場所や人に出会うこと、遠くの友人に再会することを欲している。

今回のリズのレポートは、そんな僕たちにコロナ期における旅のあり方や心構えを教えてくれた。

TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT,PCT,CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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WRITER
Liz Thomas

Liz Thomas

2011年にアパラチアン・トレイルを女性の最速タイムで踏破した記録(当時)を持っていることで知られている。彼女はトリプルクラウンを達成しただけでなく、米国に15以上あるトレイルでのスルーハイクを経験し、今まで15,000マイル以上ものトレイルを歩いてきた。また、彼女はその経験をロング・ディスタンス・ハイキングのコミュ二ティに還元することにも熱心で、American Long Distance Hiking Assosication-West(ALDHA-West)のバイスプレジデンドも務めている。彼女がハイキングを本格的に始める前は、イエ-ル大学の森林環境学部で環境科学の修士課程を修了し、彼女が手がけた、ロング・ディスタンス・ハイキング・トレイルとその保護およびコミュニティに関するリサーチは、名誉あるDoris Duke Conservation Fellowshipの賞を受けた。スポンサーはAltra, Gossamer Gear, Probar, Vermont Darn Tough socks, Mountain Laurel Designs, Sawyer filters, Montbellで、アンバサダーとして活躍している。
http://www.eathomas.com/

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