TRAILS REPORT

「withコロナ」のロングトレイル(後編) | 海外のロングトレイル

2020.06.24
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新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が起きているなか、海外のロングトレイルはどのような状況にあるのか。

「withコロナ」のロングトレイル(後編)では、アメリカとニュージーランドのロングトレイルの最新情報をお届けしたい。

まず前提としては、地域内のハイキングは許可されているところがあるものの、現在は海外への渡航すら厳しいという状況 (※1) 。

アメリカは、日本からの渡航者は、入国後14日間は自宅等で待機の上、健康状態を観察し、周囲の者と距離を置くことを要請。

ニュージーランドは、自国民およびその家族等を除いて、NZに向かう航空機への搭乗を禁止している。

※1 入国制限の詳細に関しては、外務省の海外安全ホームページを参照。
https://www.anzen.mofa.go.jp/covid19/pdfhistory_world.html

とはいえ、このような危機的な状況において、各ロングトレイルの現状と、どのような対策を取っているかを知ることは、このカルチャーが続いていくため、また今後の旅のプランニングをするためにも大切なことだ。

そこで今回は、アメリカの「アパラチアン・トレイル (AT)」「パシフィック・クレスト・トレイル (PCT)」「コンチネンタル・ディバイド・トレイル (CDT)」「パシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT)」と、ニュージーランドの「テ・アラロア (TA)」、5つのロングトレイルを紹介する。

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パシフィック・クレスト・トレイルのゴート・ロックス・ウィルダネスのエリアにて。



アパラチアン・トレイル(AT)



1921年に発案され、1937年に全線開通、さらに1968年、アメリカ初のナショナル・シーニック・トレイル (※2) に指定された、歴史あるロングトレイル。

アメリカ東部のジョージア州(南端はスプリンガー山)からメイン州(北端はカタディン山)にかけて14州にまたがる総延長2,100mile(約3,500km)のトレイルで、日本の信越トレイルをはじめ、ATの理念、方法論、運営体制を参考にするトレイルは多い。

そんなロングトレイル界を代表するATは、今年3月の段階でハイカーに「ハイキングの延期」要請をするなど迅速な対応をとってきたが、現在はどうか? 運営組織であるATC (Appalachian Trail Conservancy) のコミュニケーション・ディレクター、ジョーダン・ボウマンに聞いた。

※2 ナショナル・シーニック・トレイル (National Scenic Trail) :自然を保護し、楽しみ、感謝することを目的に、1968年に制定されたNational Trails System Act(国立トレイル法)によって指定されたトレイル。他にも、National Historic TrailやNational Geologic Trailなど複数のカテゴリーがあるが、中でもNational Scenic Trailは、壮大な自然の美しさを感じ、健康的なアウトドアレクリエーションを楽しむためのトレイルである。一番最初に選ばれたのは、ATとPCT。現在全米にある11のトレイルが、National Scenic Trailとして認定されている。

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ATらしい樹林帯。ホワイト・ブレイズという印がATの証でもある。

■ オープン? or クローズ?
アメリカ国内向けには、現在ATのほとんどがオープン。しかし、新型コロナウイルスの感染を防ぐため、トレイル沿いの町での補給を避けるように要請している。

現在推奨しているのは「ローカルハイキング」。つまり地元エリアでのハイキング。またデイハイキングもしくは、補給をしない一泊のハイキングを勧めている。

海外のハイカーが訪れることは事実上不可能。入国はもちろんトレイルへの移動だけでも大きなリスクを伴う行動となってしまう。

■ 現時点の状況
ATの運営組織であるATCでは、3月にすべてのボランティアスタッフに、ATに近づかないように要請したこともあり、整備は進んでいない。

なるべく早く再開できるよう尽力しているものの、この数カ月間でストップしてしまっていた大量のメンテナンス作業が、今後必要になる。

また、トレイル沿いにはハイカーが来ることで支えられているビジネスや町もあり、ハイカー数の減少により苦しんでいるところも多い。

■ 今後について
今後の対応の基準としては、疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention)と世界保健機関(WHO)が発表している、旅行とレクリエーションに関するガイダンスをベースにしている。

それらの情報をもとに、定期的に会合を開き、ATにおける独自のガイダンスを見直している。これまで同様、随時ホームページ (appalachiantrail.org/covid-19) で更新していく。

[最新情報・問い合わせ]
・Appalachian Trail Conservancy (ATC)
https://appalachiantrail.org/

・トレイルの閉鎖およびコンディションに関するページ
https://appalachiantrail.org/official-blog/june-16-update-at-closures/

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ATCのウェブサイトのトップページは、新型コロナウイルス仕様になっている。 (https://appalachiantrail.org/より)



パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)



メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。ここ10年、日本人のスルーハイカーが急増しているトレイルでもある。

ATと同じく、早い段階から新型コロナウイルスに関するアラートを発信してきたPCT。3/19の時点で、ハイカーに対して「今年のPCTにおける旅の計画をキャンセルまたは延期をお願いします」という要請を行なった。

今なお『Stay safe, stay local』を掲げるPCTの現状とは? 運営組織であるPCTA (Pacific Crest Trail Association) のコミュニケーション & マーケティング・ディレクター、スコット・ウィルキンソンに聞いた。

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PCTの南カリフォルニアにある砂漠地帯。

■ オープン? or クローズ?
アメリカ国内向けには、カリフォルニア州、ワシントン州は徐々にオープンしはじめている。オレゴン州は新型コロナウイルスの症例数が過去最高となり、オープンは1週間延期となった (6/17時点)。

ただ、各エリアがオープンとなろうとも、「地元でハイキングをし、新型コロナウイルスの拡散を防いでください」というスタンスは変わらない。

AT同様、海外からハイカーが訪れることはほぼ不可能である。

■ 現時点の状況
トレイルメンテナンスや各種イベントなど、すべてボランティアスタッフによって運営してきたものは、現在開催することができていない。

ボランティア向けのトレーニングをオンラインに切り替えて開催するなど、継続的な運営の工夫をしている。

トレイルメンテナンスに関する最新の情報は、下記ページで更新していくので参照してほしい。
https://www.pcta.org/volunteer/pct-maintenance-level/

■ 今後について
PCTでのロング・ディスタンス・ハイキングが、いつ再開できるかの見通しは立っていない状況。日々、新型コロナウイルスの状況をチェックし、専門家のアドバイスを聞きながら判断していく。

また、トレイルはこれまで以上に支援が必要となっており、下記ページで寄付を募っている。
https://www.pcta.org/donate/#donate

[最新情報・問い合わせ]
・Pacific Crest Trail Association (PCTA)
https://www.pcta.org/

・新型コロナウイルスに関するニュースページ
https://www.pcta.org/covid-19/

・ガイダンスページ
https://www.pcta.org/discover-the-trail/pct-covid-guidance/

・パーミット (許可証) のページ
https://www.pcta.org/discover-the-trail/permits/

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PCTAのウェブサイトのトップページでは、ポップアップウィンドウで注意喚起を行なっている。 (https://www.pcta.org/より)



コンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)



AT、PCTのネクストステップのトレイルとしても知られるCDTは、メキシコ国境からニューメキシコ州、コロラド州、ワイオミング州、アイダホ州、モンタナ州を経てカナダ国境まで、ロッキー山脈に沿った北米大陸の分水嶺を縦断する3,100mile (5,000km) のロングトレイル。

他のロングトレイルに比べて、奥地にあり、町からもかなり距離のあるトレイルゆえ、新型コロナウイルスの状況下において、トレイルに足を運ぶことすら難しくなっていることが予想される。

そんなCDTの現状を、運営組織であるCDTC (Continental Divide Trail Coalition) のコミュニケーション・マネージャー、アマンダ・ウィーロックに聞いた。

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アメリカ3大トレイルの中でもっとも険しく、スキルと経験が求められるのがCDT。photo by Yasuaki Funada

■ オープン? or クローズ?
アメリカ在住の人であれば、ハイキングできるセクションもある。オープン、クローズの判断は、各エリアを管轄する行政や組織による。

詳しくは、CDTの運営組織であるCDTCの下記ページを参照。
https://continentaldividetrail.org/about-the-trail/cdt-fire-incidents-and-information/

ただし、ATおよびPCT同様、海外からハイカーが訪れることはほぼ不可能。

■ 現時点の状況
スルーハイクを禁止しているわけではないが、事実上困難な状況。

奥地にあるトレイルであるため、海外からのハイカーが、新型コロナウイルス感染や、ハイキング中のアクシデントで旅を中断せざるをえないとき、帰国が非常に困難になる可能性がある。

また、ビジターセンターをはじめとしたトレイル沿いの施設に関しては、オープンしているかどうかはエリアによる (詳細は上記サイト)。

■ 今後について
今年の夏はボランティア活動の規模を小さくせざるを得ない。例年のような作業ができない可能性はあるが、できる限りのメンテナンスを実施する予定。

運営者サイドでは、町でマスクをしない、閉鎖エリアを歩くなど、一部のスルーハイカーの行為が、トレイル沿いの町に住む人々を危険にさらす可能性があることを懸念している。

これによって将来、地元の人々がスルーハイカーをサポートしようとしなくなってしまうことを恐れている。そうなるとハイカーにとっても、今後スルーハイキングすることが、かなり困難になるかもしれない。

[最新情報・問い合わせ]
・Continental Divede Trail Coalition
https://continentaldividetrail.org/

・新型コロナウイルスに関するニュースページ
https://continentaldividetrail.org/2020/06/02/updated-guidance-for-visiting-the-cdt/

・トレイルの閉鎖およびコンディションに関するページ
https://continentaldividetrail.org/about-the-trail/cdt-fire-incidents-and-information/

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CDTCのウェブサイトのトップページには、新型コロナウイルスに関する詳細ページを読むことを促すテキストがアップされている。 (https://continentaldividetrail.org/より)



パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)



アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ総延長1,200mile(1,930km)のPNT。アメリカでもっとも新しいナショナル・シーニック・トレイルである。

PNTの運営組織であるPNTA (Pacific Northwest Trail Association) は、TRAILSアンバサダーのジェフ・キッシュが、エグゼクティブ・ディレクターを担っており、新型コロナウイルスによる大きな影響は耳にしていた。

現在、いったいどんな状況なのだろうか。その詳細をジェフに聞いた。

covid02_07PNTは、まだ新しく、発展途上のトレイルがゆえに、ありのままの大自然が残っている。

■ オープン? or クローズ?
アメリカ国内向けには、オープンしているところ、クローズしているところがエリアによって異なる。理由は、さまざまな公有地や私有地を通っているためだ。詳しくはPNTAの下記ページ。
https://www.pnt.org/covid-19-updates/

他のアメリカのトレイル同様、海外からハイカーが訪れることはほぼ不可能。

■ 現時点の状況
最新の指針では、国内の旅行者も極力自粛してもらい、社会的な距離を置くことを実践し、10人以上のグループでの集まりを避けることを推奨している。

PNTでは、6/1までに予定されていたすべてのイベント (人が集まるものに限る) を中止もしくは延期した。

特にカスケード山脈の東側にある、小さな人里離れたコミュニティに住んでいる人々にとっては、新型コロナウイルスの影響はあまり大きくない。そのため、他の場所からの旅行者やハイカーが感染症を持ち込むのではないかと心配している。

■ 今後について
3月の段階で、「COVID-19 Field Safety Manual」という、トレイルクルーが安全で責任ある仕事をするための指針となるマニュアルを、他のトレイルに先駆けて作成した。

このおかげもあり、トレイルクルーは数週間後にはフィールドに戻り、その後もフルシーズンの作業が予定されている。

PNTのどのセクションがいつのタイミングでオープンとなるかは、エリアごとに異なる。PNTAのHPで随時更新。

[最新情報・問い合わせ]
・Pacific Northwest Association
https://www.pnt.org/

・新型コロナウイルスに関するニュースページ
https://www.pnt.org/covid-19-updates/

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PNTAのウェブサイトのトップページには、新型コロナウイルスの特設ページのタブを新設。 (https://www.pnt.org/より)



テ・アラロア(TA)



世界のなかでも厳格なロックダウン (都市封鎖) を行ない、先日、感染者がゼロになったこと受けて、国内での新型コロナウイルスに関する規制が解除され始めたニュージーランド。

そのNZを貫く約3,000kmのロングトレイルTAは、日本における冬の時期 (NZは南半球なので夏に当たる) に歩けるトレイルとして、近年、人気が高まりつつある。

通常の生活、経済活動が戻ってきているNZにおいて、TAも従来通り歩けるようになっているのだろうか。テ・アラロアのチーフ・エグゼクティブ、マーク・ウェザオールに聞いた。

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『ゴブリン・フォレスト』と呼ばれる、映画『ロード・オブ・ザ・リング』とゆかりがある森。photo by Hisafumi Naganuma

■ オープン? or クローズ?
NZ国内ハイカーに向けては、全線オープン。

ただし現時点では、まだ外国人の入国は許可されていない。

■ 現時点の状況
NZは、3/26にロックダウン (都市封鎖) を開始。TAも、地元エリアをハイキングすることはOKだが、奥地に入ることや宿泊を伴うハイキングは禁止とした。

その後、警戒レベルに応じて段階的にトレイルをオープン。6/9には、新型コロナウイルス感染者が0人になったことを受け、警戒レベル1に。これによって、TAはほぼ通常状態に戻った。

DOC (Department of Concervation:自然保護局) のすべての小屋とキャンプ場も、人数制限が解除され従来通り使用することができる。

■ 今後について
通常通りハイキングできるようになったとはいえ、新型コロナウイルスの感染リスクがなくなったわけではないため、歩く際にはTAのウェブサイトでの利用者登録 (https://www.teararoa.org.nz/trailregistration/) を推奨している。

これにより、トレイルを「誰が」利用しているかを把握することで、万が一の際にスピーディーに最善の対応を行なうことが可能になる。

[最新情報・問い合わせ]
・Te Araroaのホームページ
https://www.teararoa.org.nz/

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TAのウェブサイトは、特にアラート等はなく従来どおり。

今回紹介した海外の5つのロングトレイルは、しばらくは日本在住のハイカーがスルーハイクのために訪れることはできない。この状態がいつまで続くかも、予想することは難しい。

でも、この新型コロナウイルスという未曾有の事態のなかで、各トレイルとも、ハイカーのためにできる限りの工夫や取り組みを行なっている。

特に、アメリカのトレイルの運営組織は、SNSを用いて積極的にさまざまな情報発信をしているので、それをチェックしてみてほしい。

ロングトレイルの現状が理解できることはもちろん、ハイカーとしてどうあるべきか、何をすべきか、自分の遊び場であるトレイルや自然をどう守っていくべきか……といったことを考える、いい機会になると思う。

いつかかならず、自由にロング・ディスタンス・ハイキングを楽しむことできる日が来るはずだ。その日まで、ハイカーとしてできることを考え、実行していきたい。

最後に、今後アメリカのトレイルに訪れる際、最低限チェックしておくべき組織や機関を共有しておく。

・日本の外務省 (海外安全ホームページ)
・トレイルの運営組織
・米国国立公園局 (U.S. National Park Service)
・米国森林局 (U.S. Forest Service)
・州

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トレイルズ

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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