WHAT’S MC2T / マウンテン・レースを始めよう
【マウンテン・サーカス緊急座談会 @ 丹沢緑の休暇村 青根キャンプ場】
マウンテン・サーカスとは何なのか? それを解き明かすために『マウンテン・サーカス2 in 丹沢』の実行委員長を務めた日本を代表するガレージメーカー・ローカスギア代表のJotaro Yoshidaさん、実質的に今回の大会の運営責任者を務めたランニングチームRUN OR DIE!!のランブラーさん、RUN OR DIE!!と共に大会ホスト役を務めたランニングチームTRAIL TOBAからトレイルランニングショップ ランボーイズ!ランガールズ!店主の桑原慶さん、そして六甲山で行われた第1回マウンテンサーカスのホスト役を務めたスカイハイ・マウンテンワークスの北野拓也さんと、SHMWを中心に結成されたランニングチームMt.Rokko Hard Coreから吉富由純さんと高木義宣さんの6人に、〈マウンテン・サーカス〉誕生の経緯とそのスピリットを語ってもらった。
丹沢のキャンプ場で行われた前夜祭の最中、気のおけない仲間たちによって焚火(とお酒を少々…)を囲んで行われた座談会は、レースを自分たちの手で作ることの喜びと苦労からトレイルランニング・シーンの現状の話、あるべきライフスタイルの話まで及び、そして最後には遂に「マウンテン・サーカスとは何なのか?」北野さんの口から衝撃の真実が明かされる……!
■始まりは〈おとめ塚温泉〉
――マウンテン・サーカスは現在の日本のトレイルランニング・シーンの中でもかなり独特なレースだと思うのですが、そもそもどういった経緯で始まったのでしょうか?
Jotaro Yoshida
それはね、まるで昨日のことのようだね(笑)
北野拓也
もともとジョーさん(Jotaro Yoshida氏)とは、ジョーさんの地元の丹沢(ローカスギアの本拠地は丹沢山系の麓・神奈川県相模原市にある)で何かやりたいねとは話していましたよね。
Jotaro Yoshida
マウンテン・サーカス以前から今回ホスト役になったRUN OR DIE!!の面々とは、東京の南高尾周辺でトレイルランニングのイベントをやろうと話していたんです。でもグラスルーツ的なイベントにしようとすると、場所を設定することがすごく難しかった。コースはなんとか設定できそうだけど、今回のようにこれだけの人数が集まるとなるとまったくのステルスでやるというのは難しいから。役所に確認してみようと電話しても、まず「トレイルランニングのレースって何ですか?」って状態で、いろんな部署をたらい回しにされた挙げ句、結局話が何も進展しない。これじゃ許可が下りるまでどれだけかかるかわからないなって話で、そういった事情もあって頓挫していたんですよ。そんな時にたまたまONE SKY(スカイハイ・マウンテンワークス主催で2013年1月に六甲山で行われたイベント。詳しくは本ウェブマガジンの『証言構成〈TRAILS in 妙高2013〉』を参照のこと)というイベントがあって、その後にみんなでおとめ塚温泉(神戸市灘区にある温泉施設)に入っているときに、タクちゃん(北野拓也氏)から「普通のトレイルランニング・イベントじゃつまらないから、地図読みとかルートファインディングとか、もっとトータルなマウンテン・スキルを問うようなレースをやりたい」っていう話が出て。それは面白いなと思ったのがきっかけだよね。
――北野さんはなぜそのようなスタイルのレースをやりたいと思ったのですか?
北野拓也
自分はもともと六甲という土地で店をやっていて、いずれはそこでレースをやりたいと思っていたんですね。トレランの世界ではここ数年急激に各地でレースが行われるようになってきているんですけど、距離も100キロから一気に100マイルになったり、スピードも上がってどんどんアスリート指向になっていて、ぶっちゃけ地図なんか読めなくたってお金さえ払えばいいとこ走らせてくれるのが今のレースなんですよ。それはそれで自分のフィジカルな部分の限界を上げていく意味ではすごく助かるし、どれもいいレースなんですけど、やっぱり自分みたいにもともと登山からアウトドアに入った人間としては、正直物足りなさもあって。なんでもうちょっと「山より」のものがないのかなって。ここ数年アメリカのトレイルレース事情を調べたり自分も参加するうちに、『ハードロック(アメリカの有名トレイルレースHardrock 100 Endurance Runのこと。)』なんかも、そもそもはステルスで身内で20~30人くらい集まって行われた記録会が始まりで、それがだんだん価値観を同じにする人間が集まってきてどんどん規模が大きくなっていったっていう話を聞いて。それで俺も価値観が似たような『山オモロいよね!』っていう人間が集まって、走った後『ヤバかったよね~!』って言い合えるような、そんなレースがやりたいと思ったんです。
――じゃあ本当に最初から純粋に楽しみとして始まったんですね。
北野拓也
あとはそれこそ慶ちゃん(桑原慶氏)のランボーイズ!ランガールズ!みたいなトレイルランニングに特化したお店であったり、ウチのMt.Rokko HardcoreやランブラーさんとこのRUN OR DIE!!みたいなランニングチームであったり、そういうトレイルランニングのコミュニティーみたいなものがこの2~3年で一気に出来上がってきたんですね。でもそれが東京と関西で別れていてなかなか交わらなかったというのがあって、お店も全然知らない店だと商売敵に思えちゃったり、正直そういう部分もあるじゃないですか(笑)。でも同じくトレイルランニングを好きでやっているわけだし、実際会ってみたらみんなピースフルな人たちなんで、商売とか利益抜きにして、本当に好きな人同士の横の繋がりをもっと広げていきたいなと思ったんです。だからレースじゃなくてイベントでも良かったんですけど、それがサーカスみたいに各地を巡業していくイメージが浮かんで。それがちょうどジョーさんと出会って、ばっと広がったというか。だからほんとおとめ塚温泉の裸の付き合いは大きかったですね(笑)。
Jotaro Yoshida
そこは古代ローマのテルマエ(公衆浴場)文化と通じるものがあるよね。お風呂の会話で政治が決まっちゃうというか(笑)。その話が出てからの進行具合も早かったしね。その後ワンドロップカフェ(東京都岩本町にあるトレイルランナーのたまり場的カフェ)でみんなを集めてミーティングしたんです。その時に1年間の予定として、今年(2013年)の6月と11月に2回やりましょうと。それで関西と関東とどっちで先にやろうかと言ったら、やっぱりまずは言い出しっぺのタクちゃんとこの六甲でやって、11月に関東でやろうと。
■まず楽しむことからやろうよ
――そうして第1回のマウンテンサーカスは北野さんとMt.Rokko Hardcoreの皆さんがホスト役になられたわけですが、レースの計画や準備はどのようにして行われたんしょうか? 初めてレースを主催するにはいろいろ苦労があったと思いますが。
吉富由純
でも、俺ら完全に普段一緒に遊んでいるノリのまんまだったよね(笑)。
北野拓也
やっぱりレースはまずコースありきなんで、とにかく自分らが一番楽しめるコース、どんな人が来ても『このコースヤバいね!』と言ってくれるコースはどこなんだろうってことから始めましたね。そこでオフィシャルのレースとステルスのレースの違う部分が、オフィシャルだと絶対に妥協点が出ると思うんですね。公道を使うなら警備員を置かなきゃならないからコストの面でどうかとか、やっぱり安全面はどうなんだとか。今回のコースもそうなんですけど、それがステルスのレースだとたとえ危険な箇所があっても、そこは参加者それぞれのオウンリスクでいけるんで。「このエリアだったらとにかくここのコースが一番最高だよ!」っていうのがバーンと出せるんですよ。マウンテン・サーカスは「生きて帰って来て下さい!」っていうのがキーワードなんですけど(笑)。
――第1回のマウンテンサーカスをやる前と後で、地元の六甲に対する気持ちに変化はありましたか?
北野拓也
レースをやることで自分たちのローカルの土地がより好きになるね。ウチらも仲間何十人かいて、レース前に試走するじゃないですか。自分もコース設定するにあたって何回も同じとこ走って「ここの方がもっと最高だな」とか考えるし、より深く自分の土地を知れるし、愛せるようになるというか。
高木義宣
遊び方が本当に変わってしまいましたね。トレイルがもっと好きになったし、メンバー同士の絆も強まったと思うし、いろんなことの良いきっかけになりました。(六甲山が)あまりに素晴らしすぎるので、僕はこの魅力をどんどん紹介していって、最終的には芦屋川(スカイハイの地元)にみんなを移住させたいんですよ(笑)。僕はライフスタイルとしてのトレイルランニングを確立できるのは日本では芦屋川しかないと思っているんです。僕自身は4年前からタクさんと遊ばせてもらっているんですけれど、アメリカに一緒に行ったりすると、アメリカの人たちって遊びが中心じゃないですか。日本だとやっぱり仕事がメインで、そういう人生って僕は面白くないと思うし、ライフスタイル自体をもっと楽しいものにしていければ、みんなもっとハッピーになると思うんです。そういった場所を叶えるためにやっぱり僕らが芦屋川を盛り上げていきたいなって。だから東京の人ももっと丹沢に住めばそこで新しいライフスタイルが確立できるんじゃないかな(笑)。
ランブラー
ジョーさんが相模原に住め住めってうるさいんですよ(笑)。
高木義宣
(笑)と言っても、僕ら堅苦しく考えているわけじゃなくて、基本的には遊んでいるだけなんですけど。でも僕らが楽しんでいればその楽しさも周囲に伝わるんじゃないかなって。それをブレずに続けてきたことがマウンテン・サーカスになったような気もしますし。
吉富由純
僕はラン以前にハイキングをやっていた時からランブラーさんとは仲良くさせてもらっていたし、ジョーさんとも一緒にハイキングだけじゃなくマウンテンバイクでも付合うようになって、それで東京に行ってハイカーズ・パーティ(東京都三鷹市のハイカーズデポ主催のイベント)でみんなと会って。だから、逆に言うと今やっと違和感のない状態になっただけというか。
ランブラー
でもMt.Rokko Hardcoreの人たちは表向きは楽しそうにしか見えないんだけど、裏では今回ノブさん(高木義宣氏)も事前に東京に来てファーストエイドのレクチャーをしてくれたりだとか、第一回のときも裏では苦労して、締める所はしっかり締めてやってるんだなと感じましたから。それにならって今回は我々も安全対策は結構しっかりやりましたし。
高木義宣
僕は普段看護師をやっているんで。〈マウンテン・サーカス〉に集まっている皆さんはレベルが高いんで安心しているところもあるんですけれど、何か起こった時にスタッフがみんな同じ意識で救急救命できれば事故が起きた時も助けることができるし。それをうまく提案できたのが今回すごく良かったですね。
北野拓也
一回やってみて難しく感じたこともあるけど、何気に要領がわかったら『またできるんじゃん』って思うようにもなったよね。
吉富由純
できればもっとカジュアルにやりたいよね。やるからには大変なこともあるけど、もっと簡単に各地でポンポンできたらいいよね。
北野拓也
2回目の準備をジョーさんとかランブラーさんがやっているのを見て、つくづくウチらは恵まれてるなって思ったもんね(笑)。ウチらはほんとウラ山感覚で山に行けるから。試走に山に出向くのも東京だと交通費もかかるし仕事感覚になる部分もあるかもしれないけど、ウチらなら「ちょっと行って来るわ」って感じで、準備にも全然ラフな感じで取り組めるというか。だから六甲はだいぶ独特な土地なんだなということをまた改めて感じたね。レースをやることによってその土地をより愛せるようになるし、そしたら『仕事場にはちょっと遠くなるけど相模原に住んじゃおうかな』とか思うようになったりして。実はマウンテン・サーカスの最終的な目標はそこなんじゃないかな? 『やっぱライフスタイル重視でしょ』ていうさ。日本各地でこういうことをやることによってみんな東京とか大阪を出て、仕事はなんとかやりくりしながら『本当に遊びの面白いとこに住もうよ』みたいな。
Jotaro Yoshida
俺も相模原に住んでラッキーだなと思うことは、気がついたらまわりは遊ぶフィールドだらけで、マウンテンバイク、ハイキング、キャンプ、ランニング、すべて三十分以内のところでできるわけ。高尾と丹沢があって、ちょっと足を伸ばせば1時間半で八ヶ岳にも行けて、南アルプスにも2時間以内だし。北アルプスのトレイルヘッドだって2時間半あれば行ける。そういうトレイルまでの利便性が相模原の最大の魅力なんだよね。遊びがまず一番で、その遊びの一部を仕事にしちゃう。それで生計たてていければ、こんなにハッピーなことはないよね。お金っていうのは後からついてくるんだよ。お金のことを先に考えないで、まず自分が楽しんでそっから生まれるものはなんなんだろうって真剣に考えたらお金は後からついてくる。それはタクちゃんがやってることだし俺たちがやってることだよね。「まず楽しむことからやろうよ」って。それありきじゃないと、なかなか人はついて来ないと思うし。やっぱり苦労している人について行きたくないじゃない? でも楽しんでる人には、「この人いつもハッピーでいいな」って思うでしょ。
――たしかにタクさんはいつも楽しそうですね(笑)。
北野拓也
楽しんで生きないとね!
Jotaro Yoshida
タクちゃんはその軸がぶれ無いのはスゴいよね
北野拓也
でもそういう人が日本各地で出てきて欲しいし、それを発信して欲しい。そしたら『そこ行くわ』って遊びに行きますから(笑)。
■より楽しさのクオリティを上げるには
――そうして第1回の〈マウンテン・サーカス〉は参加者からも「最高だった!」という感想が相次ぐ大成功に終わったわけなんですが、それを受けて東京チームはどのようにレースの準備を進めていきましたか?
ランブラー
最初はジョーさんが言っていたように南高尾でやろうって話もあったんですけど、それだと普通のトレイルランのレースになってしまうんで、自分たちでやるならすこし物足りないと思ったんですね。自分も100キロから100マイルまで色々なレースに出てきたんですけど、自分でレースを作るにあたって、普段なら走れない場所とか「こんな場所があったんだ」っていう発見があるレースにしたいと思ったんです。それを探し続けてこのコースになったんですけど、とにかくガムシャラに走って見つけていった感じですね。
Jotaro Yoshida
六甲はやっぱり希有な土地なんですよ。カルチャーとネイチャーが近接していて、利便性も良くて、MRHCのみんなもホームトレイルとして知り尽くしている。でも関東の場合は広いから選択肢がいろいろありすぎて、それぞれのチームがホームグラウンドにしている場所がなかったんですよ。それがまずコース設定が六甲とは根本的にスタート地点が異なると。おまけに丹沢のメジャールートはこの時期アプローチからすごい人だから、そんなところでステルスでできるわけないし。じゃあどうしようということで、僕はたまたま自分のメインフィールドが北東丹沢なんだけど、このあたりは夏はヤマビルが凄くて誰も人が寄り付かないんですよ。だから超マイナーで、週末歩いていても誰ともすれ違わない。だから俺はいつもマウンテンバイクで下っているんだけど(笑)。ここだったら使えるんじゃいかなとランブラーさんに相談して。でも今回の一番の功労者はランブラーさんだよね。このルートをもう10回以上走っているんじゃないかな?
ランブラー
確かに10回は走っていると思います。
Jotaro Yoshida
おまけにほとんど雨だったんだよね(笑)。 ランブラー:でも雨だとどうなのかも知りたくて。雨の時の判断とかもあるんで。
Jotaro Yoshida
いくら俺たちのポリシーが“Run at your own risk”だとしても、やっぱり主催するからにはリスクを引き受けないといけない。そういうことも全部ランブラーさんがやってくれましたね。
――レースで走るのとレースを主催するのとはまったく違う体験だと思いますけど、そのあたりは実際に経験されてみていかがでしたか?
ランブラー
たとえば今回参加した中にもいろんなチームがあって、「わー楽しいぜ」っていうのサークル的なノリで集まっているチームもあるし、それが悪いわけじゃないんですけど、自分たちでレースを一回やってみることで、チームとして一段あがれるんじゃないかなって思ったんです。そういうことを味わうことでより楽しさのクオリティが上がるんじゃないかと。それでみんなに声をかけて参加してもらったんですけど。でも今は本当にみんな怪我しないようにとか、それを祈るだけで。でもみんな走力はある人たちだし、こういうレースだってことを理解はしてくれていると思うんで、なんとかうまく走破してくれるんじゃないかと思うんですけど。とはいえ「まさか」がいっぱい起こるとは思うんで、気は緩められないですけれど。
■レースってもうこれでいいんじゃないの?
――まだ渦中ですからね。良いレースになることを祈るばかりです。ランボーイズ!ランガールズ!の桑原さんはTRAIL TOBAの一員として第1回マウンテンサーカスを走られて、今回はスタッフとして参加されたわけですが、どういった印象を受けましたか?
桑原慶
僕はまだトレイルランニングを始めて2年くらいなんですが、トレランを始めたとき、みんなどんどん限界を越えていく感じがすごくいいなと思ったんです。僕も自分の限界を越えていきたいし、その体験をシェアしていきたいなと思って。トレラン始めて1年もたたないうちにそう思えるくらいの出会いがあったので、いまお店をやっているんですけど(笑)。なんだけどやっぱり経験も足りないし、それまでもアウトドア自体をやっていたわけでもないので、まだまだ勉強中という感じではあるんです。でも自分で体験したり勉強してわかったことを、いまこのカルチャーに興味を持った人へ伝えるようなことは、最近始めた人間だからこそできるんじゃないかなとも思っていて。それが自分の役割なのかなって思っています。TRAIL TOBAのメンバーもまだ経験が浅いやつが多くて、僕が「こういうのやろうぜ!」って情報落としていくと勝手に拾って勝手にどんどん強くなってくれるのは面白いんですけど、みんな素直で真面目なんですね。せっかくタクさんとの縁をもらってこうして一緒に走らせてもらって、チームとしてもこういうチャンスをもらったんで、さっきみんなが言っていたような楽しむスタンスをどんどん体で感じて欲しいですね。僕らのチームはアウトドアスキルが高いとかギアマニアだとかって奴はあまりいないんですけど、ここで個性的な人と絡ませてもらうことで、少しはこういう遊びのコアな部分の面白さに触れたかなという気はします。今の世の中を見ていると、なんだかはじけてない人が多いっていうか。真面目なことはできるんだけど、自分が楽しいと思ったところにすぐにポーンと飛び込んでいける人ってすごく限られていると思うんですね。「そこに飛び込んでっちゃおうぜ!」って思えるきっかけを、僕も自分のまわりの人に与えられたらいいなと思っています。
――確かに何の告知もないのにここにこうして100人以上の人が集まってまったくのDIYでレースが行われるって、すごく「いま」な感じがするし、興味深い動きですよね。マウンテン・サーカスはレースの性格から言ってこれ以上規模を大きくするのは難しいと思うんですが、こういうことをヒントにいろんな場所でいろんなことが起きていったら面白いですね。
桑原慶
「いまトレランのレースが盛り上がってる」と言っても、それっていわゆる「クリック戦争」と言われるような、ひとつの決まったフォーマットのレースにどうやってエントリーするかって部分で盛り上がっているだけという側面もあるんですね。そのレースに出ることが自体がイベントで、そのレースで人と顔合わせるのが楽しみで、それだけで終わっちゃっているような気がしてて。かたやタクさんのようにコアな人たちはコアな人たちでどんどん自分たち独自の遊びを追求してもいて。僕はここに結構大きな壁があるように思うんです。勿論さっきタクさんが言っていたみたいに巨大なレースはレースでその良さもあると思うし、そこに参加する過程で得るものもあると思うんですけど。僕は一回目の〈マウンテン・サーカス〉を走ったとき「うわ、めっちゃ楽しいな」って思ったんです。ローカルの人たちも本当に時間かけて準備してくれたんだなということも感じたし、そういう人同士の繋がりの温かさも感じたし、コースの面白さもあったりして、「レースってもうこれでいいんじゃないの?」って思ったんですよ。「面白さここにあるじゃん」って。マウンテン・サーカスというレースはここから参加者を100人~200人増やしていくことはレースの性格上難しいと思うんですけど、何らかの形でここにこういうエッセンスがあるよっていうことは伝えていきたいですね。
――「レースってもうこれでいいんじゃないの?」って思えたのはどの辺がポイントだったんでしょうか?
桑原慶
これはたぶんいまの世の中全般に言えることだと思うんですけれど、マスマーケットというか、ちゃんとした企業が提供したものじゃなければちゃんとしたものじゃないっていう感覚がある人が多いと思うんです。レースも同じで、運営がしっかりしていてバックグラウンドもあってっていうレースじゃなきゃちゃんとしたレースじゃないっていう感覚が、大部分の人はどこかしらにあるんじゃないかな。これは友達から聞いた話なんですけど、どこかのちゃんとした団体がやっているレースで、僕の友達が集団でロスト(道に迷うこと)したんですね。友達は「やべえロストしちゃった」という感じだったらしいんですけど、なかには「コースマーキングなってないじゃないか。主催者呼べ!」みたいになっているランナーもいたらしくて、セットアップされた中じゃないと楽しめないみたいな感覚の人ってやっぱりいるんだなって思った。マウンテン・サーカスにはそんな消費者的な感覚の人はいなくて、「よっしゃ、楽しんでやろうぜ!」っていうレースなんで、そういう人たちだけで走るっていうのがすごくワクワクするというか、楽しいですね。高いお金を払って参加するレースよりも、もっとワクワクする体験が仲間達の手作りのレースの中にあったって感じた時に、「レースってもうこれでいいんじゃないの?」って思えたんです。同時に、掘っていけば楽しいことっていろいろあるし、なければ作っちゃえばいいんだっていうことも感じさせてくれました。結局第1回目に行った仲間たちはみんな「良かったよね」って。「俺たちも2回目はあれ以上をやらないとね」っていうのががすごく良い刺激になっていたのは間違いなくて。
Jotaro Yoshida
それは間違いないね。
ランブラー
たしかに入り口はそうだったんですけど、やり始めたらとにかく自分たちが楽しいと思える場所を紹介できればいいんじゃないかと思うようになりました。結局それが前回一番楽しかったことなんで。遠回りしたけど、結局そこに戻ってきました。
――最後に〈マウンテン・サーカス〉と他のレースの違いを一言で説明するとどうなりますか?
北野拓也
まあ一番は名前に「マウンテン」って付いている通り、真の山好きの集い(笑)! 今はトレイルランニングレースであってもロードランから入っている人が多いし、ハイキングをしたことなくても全然参加できちゃうレースも多いんですけど、だからこれに出るためにはある程度山を勉強して経験しないと出れないレースというか、〈マウンテン・サーカス〉はそういう立ち位置でいいんじゃないかな。ある意味プレミアムなレースというか。参加者をここから100人~200人と増やしていきたいとも思っていないしね。だからこそこれに出るために日々切磋琢磨して、トレーニングをすると。
――それをやったほうがより楽しくなるってことですよね。
北野拓也
そうそう。それでもっと大きくなったらビギナー向けのことやってもいいかもしれないし。でも現時点でのコンセプトは「どんなクライミングのセクションや泳ぐようなセクションがあっても、くぐり抜けられるのがマウンテン・レースでしょ?」っていう。つまり「風雲たけし城(80年代のビートたけし司会の伝説的バラエティ番組)」のアウトドアバージョン!
――そういうことだったんですね(笑)。
北野拓也
そう! 今回もバレーボール飛んで来る*とこあるから(笑)。
*『風雲たけし城』の名物コーナー「ジブラルタル海峡」より吊り橋を渡る挑戦者をたけし軍がバレーボールの迫撃砲で撃ち落としていたことから来ているジョークです!
■[走り終わるのが寂しいレース]に続く
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