TRAILS REPORT

土屋智哉のウルトラライト・ハイキング2.0 「中央ハイトレイル」を行く#3

2015.09.04
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■槍ヶ岳で計画を変更する

夕方に松本に着いてすぐにビジネスホテルに入って洗濯して、焼き鳥屋行って飲んだんだけど、最初は「ハシゴしちゃおうかな?」なんて思ってたのね。でも俺、山ではあまり食べない方なんですぐお腹いっぱいになっちゃって。「なんか残念…」みたいな(笑)。それで翌日は郵便局に局留めで送っておいた食料をピックアップして、雨だったけど新島々まで歩いたのね。でも、ここがいちばん時間かかった。一回ホテル泊まってベッドで寝ちゃったから、気持ちが切れたというか。美ヶ原から松本まで3時間半くらいで来れたから3時間くらいで行けるかと思ってたけど、こっちは16kmだったけど4時間以上かかったからね。松本からここまでずっと地味に登りだってのもあるけど。

松本から新島々へ。

島々谷。

ここは上高地に行くクルマで通行量も多いし、道の隣にも電車走ってますしね。そうなると徒労感も募るし。

しかも雨だったしね。だからこのへんは全然進めてないのよ。次の日はゼロデイ(休息日)取ったから、松本で都合3泊したし。体的にはそんなに疲れてなかったから無理に取ってる感もあったんだけど、どうしてもゼロデイを取りたかったんだよね。ゼロを取ると”旅感”が強くなるというか、長く歩くなかでそういう楽しみも欲しいというか、単純に街でゼロを取るってやってみたくて(笑)。だから今回のルートは日程的にもっと短縮しようと思えばできたんだよね。JMT(ジョン・ミューア・トレイル)のときみたいにUL的にもっと無駄なく短縮するってこと考えたらならば、ダダダーって行っちゃっても良かったんだけど。今回はコンセプトとして「JMTのときの初心に戻ろう」っていうのもあったから、そのへん迷うところでもあったけどね。「ゼロデイなんて取ってていいのか?」みたいな。JMTのときにすごく思ったのが、荷物を軽くしているから「次はどんな景色なんだろう?」って思っているうちにどんどん歩いて行けて、結果短い時間でも長い距離を歩けるっていうのがあったから、今回もそういうふうにどんどんどんどん歩いて行っちゃう、ゼロデイなんてとらないで先に先にというスタイルでも良かったかなとも思いつつ、「でも、まあいいか。」みたいな。

スピードや記録を競っているわけじゃないですからね。

でも次もしここを歩いてみるんだったら、もっと効率よく歩くという選択はもちろんあっていいなとは思っている。もう一度歩きたいと思えるルートだったし。今回は結構昼過ぎに行動やめてるんだよね。今回のルートは各山域ともにそれなりに歩いたことのある場所だったので、ある意味慎重になっていたというのもある。

歩くスピードは今回もかなり速いとは思いますけど、時間的にはもっと稼ぐこともできそうですね。

できるけど、そうすると最終的には走ることになっちゃうからね。やはりあくまでハイキングをしているわけだしね。

スピードではランにかなうわけないですからね。で、ゼロデイの翌日に松本から新島々まで電車で行って、いよいよ島々谷から北アルプスに入っていくわけですね。

島々谷は昔から好きな場所なんだけど、昔自分が歩いてたときからするとすごく整備されてたね。昔は橋が落ちてる場所なんかもあったんだけど。たぶん徳本峠小屋を改築したときに整備し直したんだと思う。だから歩くのも楽だったね。松本からこのへんまで一気に歩いてくるのも全然ありだと思う。

翌日は徳本峠を越えてどこまで行ったんですか?

普通に徳沢~横尾~槍沢って行って、1時頃に槍ヶ岳の肩に着いた。

島々谷の岩魚留小屋のあたりから槍の肩まで行ったんですか!? 普通横尾から歩いてもそのくらいだと思うけど。

すごい急いで歩いてたわけじゃないけど、ひとりだと休んでも別にすることないからずっと歩いてるって感じだったんだよね。で、最初は槍沢で泊まろうかなって思ってたんだけど、10時頃に着いちゃってさ。それで槍の肩にある槍ヶ岳山荘まで行ったんだけど、そこから双六小屋まで行ってもよかったけど、まあそこまで歩かなくても良いだろうと思ったんだよね。なんかやりすぎな気がしてさ。それに槍ヶ岳山荘に泊まってみたいなって。

テン場ですか? あそこ日本でもいちばんタープ向きじゃないテン場な気が…。

もちろん小屋泊まり。もし小屋が無かったら絶対に西鎌抜けるまで歩くか、槍沢の途中で泊まるかしますよ、自分だったら。あのシチュエーションはアルパイン・テントのフィールドだからね。北アルプス南部屈指の規模を誇る槍ヶ岳山荘に泊まるのもこんな機会がないとなかなかないだろうし。この日は小屋の前でずっとビール飲みながら槍の穂先に登る人を見てたんだけど、それが結構楽しかったな。節約のため生ビールは飲まずに缶ビールか缶チューハイだったけど(笑)。で、今回、最初の計画ではゴールを劔岳にしていたんだけど、槍ヶ岳に来たときにそれに違和感を感じたんだよね。

槍沢から槍ヶ岳へ。

どんな種類の違和感ですか?

昔から夏山でもルートによっては自己判断でヘルメット持って行くことはもちろんあったけど、ヘルメット着用推奨山域(2014年より長野県で日本アルプスや戸隠連峰の5山域がヘルメット着用推奨山域に指定された)なんてのはなかったでしょ? 実際、今は登山者層も変化しているし、それによって大きな事故を防げてもいるからそれ自体はいいことだとは思うんだけど、個人の感覚では「本来は自己判断できなきゃいけない範疇の事柄だよな」とも思うんだよね。でも、そこ登るのに「自分はかぶりません」っていって、ヘルメットかぶらないで槍ヶ岳とか劔登るっていうのも現状では変な話かなと。事故が起きたら自分だけの問題じゃないし、こうした仕事をしているとなおさらそれは感じるし。かといって最後に劔でゴールしなくちゃいけないからヘルメットをずっと持って歩くっていうのも、何か違う気がして。うまく説明しきれない部分もあるんだけど、ようは「やっぱり槍や劒ってハイキングっぽくないよね」という感じかな。

確かに僕も今回土屋さんを劔沢のテン場で一日中待っているとき、「劔に本当に土屋さんは登りたいのかな?」って思ってました。劔ってそれまでとはまったく雰囲気変わりますしね。

あと、ルートを考えたときに劔をゴールにしたのって、自分のなかでちょっとかっこつけてたというか、どっか箔を付けようとしていたんじゃないかなって思ったんだよね。「最後は劔だぜ~!」みたいな、どうでもいい見栄を張っていたんだって、槍を見てて思ったんだよね。今回も槍の穂先にも一応登ったけど、別に登っても登らなくても自分にとってはどっちでも良かったんだなと思ったのね。過去に登っているというのももちろんあるからなんだけど。だったらサイドトレイルとして登りたい人は登ればいいけど、今回のハイキングとして槍とか劔は含める必要はないなって。それに室堂まで行ってるのにわざわざそこを通過して劔に登って戻るのも「付けたし感」があるし。

たしかに劔に登って室堂から帰るなら普通は荷物を劔沢にデポすることになるだろうし、そうなるとゴールの瞬間にザックを持っていないのって、スルーハイクとしては消化不良になる気もしますね。

だったら立山の雄山がゴールの方がルート的にも無理がないしすっきりするかなって。それを槍の時点で思ってたんでTRAILSにも伝えたかったんだけど、俺のiPhoneソフトバンクだから北アルプスでずっと圏外だったんだよね。だからTRAILSには悪いことしちゃったけど。

槍ヶ岳から黒部立山方面を望む。

双六岳から三叉蓮華岳へと進む。

■雄山の頂上祈祷でゴールする。

次の日は双六岳越えて、黒部五郎も越えて、太郎平の先の薬師峠まで行ったの。その次の日は薬師岳を越えるつもりだったんだけど、雨風が酷くてさ。やっぱり薬師は天気いい時に越えたいなと。後半のハイライトになるトレイルだしね。それにレインウェアもスーツじゃなくてカグールタイプのもの(アクシーズクインのアメノヒ)だったから、念のために落ち着くの待ってたんだけど、今回持っていった自作のタープの天井高があまりにも低すぎて、停滞にはまったく不向きだったのね。だから嫌になっちゃって(笑)。それで太郎平の小屋に戻ってその日はゼロデイにすることにして、小屋でゴルゴ13読んでた(笑)。

この停滞がなかったら立山で会えたんですけどね~。

次の日に薬師を越えるときは天気も良くて、最高にきれいでさ。ブロッケン現象も見えたし、「停滞正解!」って感じだった(笑)。

この双六から薬師方面はやっぱいいですよね。人もそれほど多くないし。

ここのルートは改めて思ったけどULにも向いてるよね。北アルプスだったらみんなやっぱり表銀座とか行きやすいから多いとは思うけど、タープはともかくとして(笑)多くのULハイカーが使っているツエルトとかフロアレスシェルターならば、それほどの支障が出るとは思えないよね。もちろん絶対ではないけれど。

トレイルもそこまで切り立っていないですしね。

でも距離も長いし、タイミングがあわないとなかなか通しでは歩くチャンスはないかもしれないけれどね。この日はスゴ乗越の小屋がやっぱり良かった。ここはテン泊じゃなくて泊まりたいと思った。小屋番と酒飲みたい感じ。タルチョ(経文旗)が飾ってあるような小屋だから、旅っぽい感じで好きな人は本当好きだと思う。この日は五色沼のテン場に泊まったけれど、相変わらずここはすごくきれい。そういえば五色の手前で大きな荷物でひとりで歩いている女性がいて、辛そうだったから話かけたのね。「あともう少しだから頑張ってくださいね~」なんていって。そしたらその人あとで店に来たんだ。

薬師岳の金作谷カール。

薬師岳付近で見えたブロッケン現象。

土屋さんに会いにきたんですか?

いや、俺のことは知らなかったんだけど、話してたら俺の声でわかったって。「五色のキャンプ場いましたよね?」って。俺が軽い荷物で歩いてるの見て、もっと荷物軽い方がいいなって思ったんだって。それでお店は知ってたんだけど、初めてきましたって。

たしかに土屋さんの声は一度聴いたら忘れないかも(笑)。その人もULとの出会いが北アルプスで土屋さんに会ったことってすごい巡り合わせですね。

それで翌日雄山行って、頂上祈祷してもらってゴールしたんだ。最後が頂上祈祷だったことはすごく良かった。なんだか区切りが良かったし、今回の旅の安全にもちゃんと感謝できたし。

たしかに最後に山の神様にお祈りして終われるってのはいいですね。

最後に神主さんにお祓いしてもらって終われるのって、すごくジャパニーズ・マウンテン・トレイルって感じがした。槍のときにフィーリングで「最後は劔じゃないのかも?」って思ったけど、実際ここで祈祷してもらって、やっぱりこれで良かったんだなって思えた。TRAILSには一ノ越のとこでやっと電波が繋がったんでメール送って、30分くらい返信来るの待ってたんだけど、「悪いけどやっぱり俺はこの意思は変えられない」と思って。ごめんね。

その日は劔沢で一日土屋さんが来るのを待っていたんで、こっちも電波がなかったんですよね。朝は雷鳥沢にいたんでそこに10時くらいまでいればメール受信できたけど。でも、自分も土屋さんの立場ならそうしていたと思うし。

うん。そこで「終わったな」って。

雄山の頂上で祈願をしてゴール。スタート時と比べてかなりすっきりされた印象の土屋さん。

とにかく無事ゴールできて何よりだったんですけど、こうして振り返ってみると、だんだん気負いがなくなって、自由になっていった感じがありましたね。今思えば清里では気負いまくってましたもんね。「闇しか見えねえ」って。(笑)

最初は小屋に泊まることも気にしてないとかいいつつ、やっぱりどこかで気にしていたりだとか、これはプライベートなのかそうじゃないのかって部分も自分のなかでうまく消化しきれなかったり、そういういろんなものが八ヶ岳あたりからスッキリし始めた感じだったよね。いろんな出会いがあったなかで自然な感じで小屋に泊まることもあって、そういうのも逆に自由だった。「ULは小屋に泊まっちゃだめ」とかいうと、逆に自由じゃないじゃん?

そうですね。

歩く距離も毎日1時~2時には行動やめてたけどそのなかでは結構な距離も歩けてたし、そういう意味ではULのメリットも感じられたしね。バックパックの容量も35Lくらいで足りてたし。だから、歩く部分に関してはかなりULらしいハイキングができたなと思ってる。こういう山域でタープを使うのも、今回歩いたルートだったら決してできないことじゃないって改めて確認できたし、それによってツェルトやピラミッドシェルターの信頼感も自分の中では再確認できた。ただし、タープは“ATフィールド”にはなるけどね。まわりの人は近寄り難いみたい。

タープでフルオープンしているのに逆にクローズになるんですね(笑)。

五色ヶ原のキャンプサイトにて。どこのサイトでも風除けを兼ねて兼ねていちばん端にタープを設営していた。

そうそう。でも、JMTとかコロラド歩いたのと同じ感覚にはなれたしね。だから、今回は自分の感覚としては「ULのスルーハイク」をしたっていう感じかな。これが「ロングディスタンス・ハイキング」かっていうと、途中で補給を挟みながら歩いたっていう意味ではそういえるかもしれないけれど、距離的にも期間的にも俺のなかでは一ヶ月以上がロングディスタンスなのかなっていうのがあるから、「スルーハイク」っていうほうがしっくりくる。

“中央ハイトレイル”をスルーハイクしたっていうことですね。

日本だとテン場が規定されてることで不自由さを感じることもあるけど、でもテン場と小屋があることである意味選択肢も増えるともいえるしね。実際ヨーロッパなんかはテントでなくハットに泊まるってのがメインじゃない? それこそ全部小屋使えば超ULで行けるなとも思ったし。あと、これ歩きながら思ったんだけど、重いテントだと「わざわざ担いで来たのに小屋泊まるなんてもったいない!」って思うじゃない?

たしかに60Lくらいのザックに荷物パンパンに詰めてたらそう思いますね。

でもULの道具だと、「わざわざULの道具担いで来たのに!」ってならないんだよね。ていうほど担いでないじゃん。だから「今日は小屋でもいいか」ってパッと思える。今回何カ所かで小屋に泊まったのも面白かったし、振り返ってみるとバランスよかったんじゃないかな。「日本でもアメリカみたいに自由に泊まれたらな」って思ったって、そうなるわけないんだから、ないものねだりしたってしょうがないじゃん。その違いをもっとポジティブに捉えていけばいいんじゃないのかな。

それこそが日本ならではのULのあり方なのかもしれないですしね。アメリカに憧れつつも、まったく同じことをやる必要もないし。

日本でもこういう山岳地帯をULで歩けるし、東京からJMT並みの距離を、途中で補給しながら旅できるんだっていうことは掲示できたかな。それは「ULの道具で大丈夫」ってことじゃなく、「ULの道具で大丈夫な範囲を見極めながら旅をすることはできますよ」っていうことだけど。

そもそもULの道具ってそういうものですからね。

今回はあらためてULの道具の限界も見えたし、逆にそれで得られるメリットや可能性もすごく感じられた。ULの道具でこそ得られる旅の面白さって、やっぱりあるんだなって。あと、自分はやっぱり歩くことが好きなんだって、すごく思えた。

土屋さんのお気に入り、アルトラのスペリオール2.0。軽量で足裏感は抜群だがそのぶんロード歩きにはすこし苦労したとか。

■未来を想像してみようよ。

土屋さんは『Meet The Hikers!』の連載でも、「ずっとULはアメリカが遥か先を行っていて日本は遅れている思っていたけれど、実は両者はパラレルな関係なんだってことがわかってきた」って仰ってましたよね。実際、日本でもULで山を歩く人やそれを知っている人はすごく増えたし、ハイカーズデポみたいなお店もできて、インディペンデントにULギアを作っているメーカーの数もいまやアメリカに負けないくらいあって、ハイキングのコミュニティやシーンっていうものの輪郭も以前よりずっとくっきりしてきたことを感じるんですね。まだまだ小さなシーンだけど、それはたぶんアメリカだって同じだろうし。でもアメリカと日本で、まだ何が差があるんだろうって考えたら、それはPCT (パシフィック・クレスト・トレイル)やJMTみたいなトレイルだと思うんですよ。それこそがシーンの中心になり、カルチャーとなるようなトレイル。

そうね。でもJMTとかPCTみたいなトレイルを作ろうと思ったら、これから何十年もかかることなわけじゃない? そういうことも含めていま信越トレイルを延長しようって計画があって、それが今後どうなっていくか、ハイカー・コミュニティがどう支えられるかっていう話はあるけれど、それができるまでの間、たとえば長谷川の“五国ロングハイク”(*前回参照)だったり今回俺が歩いた”中央ハイトレイル”みたいに、既存の道を繫ぎながら「こういうストーリーを描くトレイルを引くことはできるよ」ってことは伝えたいよね。

そういうことを実践する人が増えてくれたらいいですよね。

全国各地の人が「俺の地元にもこういうストーリーを描けるトレイルがあるよ」っていって、そこを歩く人が出てきて、そういう場所がいくつかでてきたら、それは信越トレイルが延長されることとは別に、ハイカーが歩く場所、ハイキング・コミュニティの場所になっていくんじゃないかな。

そんなトレイルがいくつもできたら理想だと思うんですけれど、でも僕はその中で代表的な1本を選ぶとしたら、やっぱり今回土屋さんが歩いたルートなんじゃないかと思うんですよ。やっぱり東京の奥多摩から奥秩父、八ヶ岳、北アルプスって繫いで歩けたら1本で本州の自然のかなりの部分が網羅できるし、里山から3,000m級の世界までトレイルもバラエティに富んでいるし。それを1本として描けるってわかったら、みんな「なるほど!」って思えるんじゃないかなって。

すごく単純だけどね。既存のトレイルを繫ぐだけだから珍しくもないし、独創的でもないとは思うけど。

でもだからこそわかりやすいし、象徴にもなり得るんじゃないかなって。長谷川さんの“五国ロングハイク”はハードコアだし、日本でもアメリカのロングディスタンス・トレイルみたいに歩き続けることができるんだっていう大きな気づきを与えてくれたと思うんですけど、今回のルートはポップなんですよね。だからこそPCTにはなれなくとも、JMTにはなり得るんじゃいかという気がして。それに今回のルートを歩くとしたら、やっぱり今回土屋さんが歩いた梅雨明けの一ヶ月くらいだと思うんですね。

いちばん楽しいよね。それなら誰でも歩けると思うし。

で、その時期に歩いたら同じように歩いている人がいっぱいいたらもっと楽しくなるし。

そうだね。

それでいつかその期間にトレイル上のどこかでTRAIL DAYS (アパラチアン・トレイルやPCTのスルーハイク・シーズンに開かれるイベント。多くのスルーハイカーや元スルーハイカー、メーカーなどが集まる)みたいなイベントが開かれるようになったら、もっと盛り上がると思うし。まあそこまで考えるのは時期早々だとは思いますけど。

いわんとしていることはわかるよ。早急にそこまでのことを実現するのは難しいかもしれないけど、そういうイベントがあればハイカー同士の交流や情報交換の場にもなるしね。こないだ『わたしに出会うまでの1600km』っていうPCTを舞台にした映画の試写会イベントをやったとき、PCTとかAT(アパラチアン・トレイル)とかJMTをスルーハイクした人がいっぱい集まって、すごく感慨深かったのね。まだすごく小さくてすごく内輪のコミュニティだけど、でも、そういうものがきっちりとできてはきている。で、その外側にはハイキングやULに興味を持つ人も確実に増えて来ていると思うしさ。そんなことは7年前に店を始めたときは考えもしなかったことだから、それが具体的になってきていることを考えると、捨てたものじゃないのかなって。

そうですよね。だからいまいったこともまだ夢物語ではあるけれど、でもまったく実現不可能な夢では…。

ないよね。

5年前だったらまったく夢だったと思うんですよ。でもいまは「ひょっとして現実になることもなくはないぞ」って思えるくらいのとこまでは来たと思うんです。

たしかに、「そういうこともできるかも」ってとこまでは来てるかもね。たとえば自治体の地域振興とかと一緒になって、そういうイベントをTRAIL DAYSみたいな感じで清里でやったりね。松本でもいいかもしれないし。

「そういう未来をみんなで想像してみようよ」っていいたいんですよ。「そう考えたらワクワクしない?」って。だからこそ今回は土屋さんに煙たがれつつも(笑)、このハイキングを追い掛けたんですけど。とはいえ別に今回土屋さんが歩いたルートをそっくりトレースしろっていいたいわけじゃなくて、これをヒントにしてみんながこのあたりを歩くようになって、その過程でルートももっと洗練されて歩く人も増えていって、いつかそれがPCTのようなそれ自体がカルチャーになるようなトレイルになっていったらいいなって。

そうね。それでいいと思います(笑)。ここ5年くらいで奥多摩奥秩父にULスタイルのハイカーが増えているのも、まずはそうしたカルチャーの出発点のような気もするよね。

だから「土屋さんがこんなすごいことやったぜ」ってことを伝えたいんじゃなくて、「俺もやってみたい」って思って欲しいんです。実際、僕も歩きたくなったし。

セクションするのも簡単だしね。

その時期にセクションしたらスルーしてる人に会えたら面白いですよね。

地方の方にとっても東京を起点にできるのってなんだかんだ便利だしね。そういう部分でいうと誰にでも歩きやすいし、道もちゃんとあるし、セクションもしやすいしっていうのはいいよね。

だからこそあえて一本繫いだ名前を最初からつけたほうがいいんじゃないかなって思って、長谷川さんに“中央ハイトレイル”と名付けてもらったんですけれど。CHTとか略しても良いじゃないですか(笑)。

どうせやるならその方が楽しいし、いいんじゃない(笑)。


いかがでしたでしょうか、土屋さんの“中央ハイトレイル”の旅。最後はTRAILSの夢を土屋さんに一方的にまくしたてる展開になってしまいましたが(笑)、けれど土屋さんを追い掛け、記事を作成しながら、僕たちもこのトレイルをとても歩きたくなりました。読者のみなさんにとってもそうならば嬉しいです!

「・・・ぼくは、偉大なハイキング革命というヴイジョンを見る。何百、いや、何千という数のハイカーたちが、バックパックと共に数百kmのトレイルを歩いている姿をだ。ランニングシューズで一日に何十kmも歩き、袋飯に舌鼓を打ち、簡素なシェルターで眠る。素晴らしい景色に感嘆し、放浪の歓びに打ち震え、解き放たれた自由を感じる。みなことごとくが装備の軽量化にのめりこんでいるものたちで、その経験から普段の生活においてもいらないものをせっせと排除し、万民とすべての生きとし生けるものたちのために「軽いって自由」というヴィジョンを与え続けるのさ・・・(This quote contains samples from “The Dharma Bums” by Jack Kerouac)」

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WRITER
土屋智哉

土屋智哉

1971年、埼玉県生まれ。東京は三鷹にあるウルトラライト・ハイキングをテーマにしたショップ、ハイカーズデポのオーナー。古書店で手にした『バックパッキング入門』に魅了され、大学探検部で山を始め、のちに洞窟探検に没頭する。アウトドアショップバイヤー時代にアメリカでウルトラライト・ハイキングに出会い、自らの原点でもある「山歩き」のすばらしさを再発見。2008年、ジョン・ミューア・トレイルをスルーハイクしたのち、幼少期を過ごした三鷹にハイカーズデポをオープンした。現在は、自ら経営するショップではもちろん、雑誌、ウェブなど様々なメディアで、ハイキングの楽しみ方やカルチャーを発信している。 著書に 『ウルトラライトハイキング』(山と渓谷社)がある。

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