TRAILS REPORT

あまとみトレイル開通 – 信越トレイルとつながる200km #03 | 土屋智哉の、あまとみトレイル・ウルトラライトハイキング4DAYS

2022.02.04
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話:土屋智哉 構成:TRAILS 写真:土屋智哉, 佐藤有希子, あまとみトレイル, TRAILS

開通したばかりの『あまとみトレイル』を解き明かす、全3回の特集記事。最終回は、Hiker’s Depot土屋智哉さんによる、スルーハイキング・レポートだ。

『あまとみトレイル』は、長野県と新潟県をまたぐ妙高戸隠連山国立公園にあり、斑尾山から戸隠、長野駅までを結ぶ86㎞のトレイルである。このトレイルは、斑尾山で信越トレイルと接続している。信越トレイルは昨年2021年に、苗場山まで延伸し、全長110kmのトレイルとなった。信越トレイルとあまとみトレイルを合わせると、約200kmのトレイルとなる。

2015年に、延伸前の信越トレイルを森宮野原駅からスタートして、斑尾山頂までスルーハイクした土屋さん。今回のあまとみトレイルを歩くにあたり、「斑尾山からの続きを歩きたいと思ったんだよね」と語っていた。

愛着のある信越エリアに帰ってきた土屋さんは、この『あまとみトレイル』をどう歩き、なにを感じたのか。その詳細を知るべく、TRAILS編集部は、土屋さんにスルーハイクの前と後でインタビューを敢行した。

信越トレイルの起点でもある斑尾山の山頂にて。今回、土屋さんはここから『あまとみトレイル』を歩きはじめる。

スルーハイク直前インタビュー:北信を中心とした信越エリアの「あまとみセクション」というイメージ。

土屋さんが歩きはじめる直前。TRAILS編集部は、土屋さんと一緒に飯山駅から斑尾へと向かうバスの中にいた。そこで、今回どんなハイキングをしようと思っているのか、直撃インタビューを試みた。

 

—— 編集部:土屋さんが、延伸前の信越トレイルをスルーハイクしたのが2015年でした。トレイル整備でもたびたび訪れているこの地に、新しいトレイルが誕生してまた歩くわけですが、ホームに帰ってきた感じがあったりするんじゃないですか?

 
そうだね。信越トレイルとは長く関わってきましたし、加藤則芳さんもHiker’s Depotや僕のことを気にかけてご連絡をくださったりして、親しくさせていただいていました。そういうたくさんのご縁がある地域でもあるんだよね。

だから、今回あまとみトレイルを歩くにあたって、自分のなかでは、信越のこのエリアの歩き旅をしにいくという感じ。パシフィック・クレスト・トレイル (PCT) のカリフォルニア州を歩く、みたいな。今回であれば、あまとみセクションというイメージです。

今回使用したバックパックは、「Trail Bum / Bummer (トレイルバム / バマー)」。重量は389g。

—— 編集部:いつもテーマを持ってロングトレイルを歩くことが多いと思いますが、今回のテーマはありますか?

 
ここ数年の自分のロング・ディスタンス・ハイキングを振り返ると、2015年に中央ハイトレイル (CHT)、信越トレイル、2018年にシエラ・ハイ・ルート、2019年にバーモント州のロングトレイルを歩いています。チャレンジングなハイキングは、シエラ・ハイ・ルートで一区切りついた感じなので、そろそろ気負わず歩きたいなと。

今回は、気負わず歩くという土屋さん。変に意気込んでなく、終始リラックスしていて、歩きぶりも軽やかだった。

せっかくだから、信越トレイルとあまとみトレイルをつなげて歩きたい気持ちもあるけど、まずは前回、信越トレイルのスルーハイクでゴールした斑尾山頂からちょっと旅の続きをしてみようかなと。

これをやらなきゃ、みたいなスタンスではなく、フラットな感じで歩ける気がしています。

あまとみトレイルは、斑尾山〜長野駅を結ぶ86kmのトレイル。土屋さんは斑尾山からスタート。3泊4日かけて長野駅までスルーハイクした。

いよいよ土屋さんの、『あまとみトレイル・ウルトラライトハイキング4DAYS』がスタートする。ここからは、4日間の旅の模様を1日ずつ順を追って聞いていこう。

DAY1:斑尾山〜荒瀬原 (あらせばら) 集落〜関川関所

斑尾山の中腹から望む野尻湖。

—— 編集部:ついに、信越トレイルの続きがはじまりましたね。

 
そうですね。1日目のハイライトは、地図上で見たら斑尾山と野尻湖だよね。でも実際に歩いてみると、それら以上に、山の暮らしの風景がすごく良かったんです。

—— 編集部:具体的には、どんなところですか。

 
たとえば、斑尾山からおりていくと荒瀬原 (あらせばら) の集落に出るんだけど、そこの田園風景とかね。あとは、地元の人が大事にしている社 (やしろ) があったり、地蔵さまの手入れがされていたり、そういうちょっとした日常の景色。自然と関わる些細な日常の歴史が感じられるんです。

荒瀬原 (あらせばら) 集落の風景。

あまとみトレイルの人に聞いたら、野尻湖の西側のルートは現在も模索中らしくて。本当はここを通したいけど土地の権利の問題で難しい、というところもあるんだって。でも、こうしたいっていう強い思いがあるのがすごくいいなと。アパラチアン・トレイル (AT) などでも、開通から数十年経ってからトレイルが変わった区間もあります。トレイルにこれで完成というのはなくて、時間をかけながら関わる人みんなと一緒に成長していくものだと思います。

DAY2:関川関所〜杉野沢〜笹ヶ峰牧場〜氷沢 (ひょうざわ) 避難小屋

関川に架かる吊り橋。

—— 編集部:DAY2は、DAY1とはまた違ったトレイルになるんですか?

 
苗名 (なえな) 滝や、妙高山を望む笹ヶ峰牧場の景色も良かったんだけど、DAY2は道の良さが際立っていたね。ロングトレイルって、よくトレイル率とか未舗装率とかで語られがちじゃない。でも、そんなのが気にならない道でした。

あまとみトレイルは、ほとんど既存の道を利用しているんだよね。登山道や林道、作業道、いずれも昔から使われている道ばかりなので、無理やりつなげた感じがなく、気持ちよく歩けるんです。

杉野沢集落は寄り道したいところがたくさんあって、スケジュールに余裕があれば1泊したいところだ。

—— 編集部:ということは、山歩きだけでもなく、町歩きだけでもなく、山と町をつないでいく感じなんですね。

 
関川の関所の後に、杉野沢集落に入るんだけど、そこがまたすごく良くてね。ほんと小さな集落なんだけど、ハイカーとしては補給もできるし、そこの商店の品揃えも素晴らしくて。飲み物、ポテトチップス、菓子パンなどの食料品はもちろん、虫除けや洗剤などの日用品まで置いてあって、アメリカのトレイルで立ち寄ったガソリンスタンド併設のストアみたいで、やっぱりこれだよね! って感じでした。

スケジュールに余裕があれば、もっと寄り道したかったですね。この集落で1泊したり、景色のいいところでダラダラ昼寝したりして。

DAY3:氷沢避難小屋〜戸隠古道〜一之鳥居

なんの変哲もない林道のようだが、かつては戸隠と妙高をつなぐ交易の道として活用されていた。

—— 編集部:杉野沢集落に後ろ髪を引かれつつも、前に進んだわけですね。

 
DAY3は、昨日のような里からは離れ、林道歩きから始まってそこから登山道に入っていくんですが、このいずれの道もすごくいいんです。

昔、戸隠と妙高のエリアを往来する道として使われていたこともあって、地元の人がちゃんと手入れをしている。かつて、ここを行き来していた時代に思いを馳せながら歩きました。

僕は、2000年代に奥多摩、奥秩父でULの実験していた時も、昔の生活や道の痕跡を見つけるのが好きだったんですよね。もともと町史や市史を読むのも好きですし。そういう目線で見たときに、戸隠と妙高の集落はこの山の道でつながれていたのか! と。そう思うと、感慨深いものがありましたね。

戸隠神社にある随神門 (ずいしんもん)。樹齢400年以上の杉並木もある。

戸隠神社はもちろん見どころではあるんだけど、あまとみトレイルに来たからこそ歩くことができた道が、このセクションでは一番印象的でした。カラマツ、ミズナラ、ブナ、ダケカンバと標高とともに植生が変わる自然の豊かさも、ここならではでしたしね。

DAY4:一之鳥居〜芋井集落〜善光寺〜長野駅

眼前に広がる長野市の街並み。

—— 編集部:いよいよ最終日ですね。

 
戸隠まできたらほぼ終わりかと思っていたんだけど、戸隠の信仰の道から田園風景に出る感じ、そのコントラストがとても新鮮でした。特に長野盆地が見えた瞬間は、山を越えてきたという実感が湧いてテンションが上がりましたね。

あまとみトレイルを全体で見たときに、景色が良いというのはもちろんだけど、登山道以外の道の活用の仕方と、そのバランス感がとてもよかったですね。

アメリカのトレイルも、ジープロードや舗装路をつなげているところがたくさんあります。日本は登山道至上主義というか、それ以外の道がフォーカスされなかったりしますが、あまとみトレイルは違いましたね。

特にDAY2の苗名滝からDAY3の戸隠に入るまでは、あまとみトレイルのなかでも、山の中に入ってきたな、という感覚を強く持てるセクションです。もちろん古くからの登山道が中心なんだけれど、この区間のジープロードの組み込み方が非常にアメリカのトレイルっぽい。無理してシングルトラックを追いかけることなく、いい景色のなかをのんびりと歩けるんです。

長野駅にゴール。土屋さんによる、あまとみトレイル3泊4日の旅が終わった。

あまとみトレイルを、ウルトラライトハイキングで旅する魅力。

—— 編集部:今回、土屋さんはどんなスタイルのULハイキングをしたのですか。

 
今回は11月頭のハイキングということもあり、このエリアでは気温が0℃を下回ることも考えられました。

その上で、タープ、キルト、アルコールストーブという、1990年代のレイ・ジャーディンによる『Beyond Backpacking』(※) の典型的ギアの現在進行形をテストしてみました。

※ Beyond Backpacking:2000年に出版されたレイ・ジャーディン独自のライトウェイトでシンプルなバックパッキングの方法論を説いた本。1992年の初版は『PCT Hiker Handbook』、2008年に『Trail Life』に改題された。

レイ・ジャーディンの名著『Beyond Backpacking』。

ULの原点に立ち返る意味も含めて、いずれも過剰なギミックはなく、よりシンプルなギアをチョイス。結果としては、氷点下でも快眠できたし、お湯も沸かすことができて、3シーズンであれば問題なく使用できることが確認できました。

使用したタープは「Gossamer Gear / Solo Tarp (ゴッサマーギア / ソロタープ)」 (重量220g)。スリーピングバッグは「Highland Designs / Ultralight Down Quilt (ハイランド・デザイン / ウルトラライトダウンキルト)」(重量400g ※2022年発売予定)。ストーブは「EVERNEW / BLUENOTE stove (エバニュー / ブルーノートストーブ)」(重量13g ※2022年発売予定)。

—— 編集部:ULハイキングのフィールドとしては、あまとみトレイルをどう思いましたか?

 
あまとみトレイルには、すごくよい距離感でキャンプ場があるんです。いずれも山頂とかではなく低い標高にあるので、タープやUL系シェルターなども使いやすいと思います。まあ今回僕が歩いたのはキャンプ場が冬季休業に入ってしまった時期でしたけど……。

登山道中心ではなく林道や舗装路もあるので、シューズもトレランシューズがおすすめですね。

気温は氷点下になったものの、問題なく眠ることができた。

また先ほど、登山道ではない道をトレイルとしてうまく活用しているという話をしましたが、それはすなわち町とトレイルが近いということでもあります。その特徴を活かして、ハイカーが商店や宿を積極利用することを想定すれば、かなりの軽量化が図れます。

今回僕は3泊4日でのんびり歩きましたが、2泊3日でも十分歩ける距離です。週末を使ってULで長く歩きたい人にとっても、適したトレイルだと思います。

晩ごはんはお湯を入れるだけの袋メシ。コジーを用いることで保温性もアップ。

あまとみトレイルが持つポテンシャルと、期待すること。

—— 編集部:あまとみトレイルをスルーハイクしてみて、あらためて感じたことはありますか。

 
ロングトレイルは長ければ長いほど夢が生まれます。日本のロングトレイルにおける、精神的なコアである信越トレイルが、あまとみトレイルと接続して伸びることはとても大事なことです。

延伸というのは、言うは易し、行なうは難し。信越トレイルの苗場山の延伸も、長い時間がかかりました。信越トレイルを西側にも延伸して雨飾山までつなぐことを、加藤則芳さんも夢見ていました。でも、そう簡単にできるものではない。そこに、あまとみトレイルがつながったのはひとつのエポックです。

あまとみトレイルのトレイルサイン。まだトレイルの一部にしか設置されていない。

—— 編集部:あまとみトレイルが、信越、北信の地にできたというのは、カルチャーという観点でも僕たちも重要だと思っています。信越トレイルが20年以上をかけて築いてきた、トレイルに対する人々の理解、ハイカーを受け入れる土壌があるわけなので。この財産はとても大きいなと。

 
本当にそう思います。信越のあのエリアには、ハイカーを受け入れる土壌が財産としてあるので、うまく活かしつつ、あまとみトレイルも発展していってほしいですね。TRAILSのこの記事でも書いていたように、「ロングトレイルは何十年もかけてようやくできあがる」という長期的な視点を持つこともとても大事だと思います。

今後、さらに地元の人たちの理解、協力を得ることが大事になってくる。

—— 編集部:今後、あまとみトレイルに期待することはありますか。

 
変にハイカーに忖度しすぎないでいい、と僕は思っています。トレイルを維持管理するには、ものすごいパワーが必要です。それを支えるのは、うちなるモチベーションとしての地元への強い思いだと思うんです。それを前面に出していくといいと思っています。あまとみトレイルの林部さんと西田さん、前田さんにはそれを強く感じます。

ロングトレイルの本場であるアメリカから学ぶことなども重要ですが、なによりもそういった地元への思いや、まずは自分が何をしたいのか、なんのためにやっているかを大事にしてほしいですね。

のどかな田園風景も、あまとみトレイルの魅力である。

スルーハイク直後に、長野市街で土屋さんに会ったとき、開口一番「すごく楽しかったよ」と、テンション高めに笑顔で言葉を発していたのが印象的だった。

土屋さん自身、今回はあえてテーマを設けず、気楽にハイキングができたこともその一因ではあるだろうが、あまとみトレイル自体の魅力を実感したことも大きかったはずだ。

『あまとみトレイル』は、まだ開通したばかりで、これからもっとより良いトレイルになっていくことだろう。信越トレイルと一緒に、地道に長い年月をかけて、この信越エリアを盛り上げ、ロングトレイルのカルチャーを根付かせていってほしい。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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