TRAILS REPORT

あまとみトレイル開通 – 信越トレイルとつながる200km #01 | ロングトレイルの成り立ち

2022.01.31
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文・構成:TRAILS 写真:TRAILS, あまとみトレイル

2021年10月、日本に新たなトレイルが誕生した。

場所は、長野県と新潟県にまたがる妙高戸隠連山国立公園。斑尾山から戸隠、長野駅までを結ぶ86㎞のトレイル、『あまとみトレイル』である。

このトレイルは、斑尾山で信越トレイルと接続している。信越トレイルは昨年2021年に、苗場山まで延伸し、全長110kmのトレイルとなった。信越トレイルとあまとみトレイルを合わせると、約200kmのトレイルとなる。

トレイルが長くなることは夢である。信越トレイルにロングトレイルの魂を吹き込んだ加藤則芳氏も、信越トレイルが東西に伸びいずれ信越国境すべてを貫くトレイルになることを夢見ていた。あまとみトレイルは、その夢の一部でもある。

今回、僕たちが提示したいのは、ロングトレイルは短期間でできるものでも、一度に完成形ができるものでもなく、長い時間をかけて徐々にできあがっていくということだ。そして、あまとみトレイルを通して、信越の地に、あらたにロングトレイルが成長していく姿を伝えていきたい。

そんな思いとともに、全3回の『あまとみトレイル』の特集記事をお届けする。

#01では、信越トレイルとアメリカ3大トレイルの成り立ちをたどり、ロングトレイルができるまでには、長い時間のパースペクティブが必要なことを見ていく。#02では、実際に『あまとみトレイル』のできるまでのメイキング・ストーリーを紐解く。最後の#03では、Hiker’s Depot土屋智哉さんによる、『あまとみトレイル』のULスルーハイクレポートを紹介する。


あまとみトレイルの見所のひとつである、笹ヶ峰高原 (妙高市)。


あまとみトレイルとは?


2021年10月に開通した、妙高戸隠連山国立公園を貫く全長86kmのトレイルである。

妙高戸隠連山国立公園は、2015年に上信越高原国立公園から分離・独立した、比較的新しい国立公園。

このエリアはフォッサマグナ (大地溝帯) と呼ばれ、かつては海だった。その後、火山や隆起などさまざまな地殻変動によって、火山と非火山が結集するユニークな地理的特性を持つエリアとなった。


戸隠牧場から眺める戸隠山。

その特異な自然環境はもちろん、戸隠を中心とした山岳信仰や、妙高・信濃町の豪雪地帯ならではの風土や文化など、そのすべてを味わうためにつくられたのが、あまとみトレイルだ。

まだ全線開通というわけではなく、今後、妙高笹ヶ峰から小谷村、糸魚川市をつなぐルートについて検討中である。


あまとみトレイル (長野駅〜斑尾山) と信越トレイル (斑尾山〜苗場山)。ふたつ合わせると200kmのトレイルとなる。


ロングトレイルは、長い年月の積み重ねでできあがる。


冒頭でお伝えしたように、あまとみトレイルは、日本のロングトレイルのパイオニアである信越トレイルと接続している。信越トレイルは、2021年に苗場山まで延伸して110kmのトレイルとなったばかりだ。しかし、110kmのトレイルになるまでに20年以上の歳月を要している。

これだけの年月をかけて信越トレイルは維持、延伸された。そしてその年月とともに、地域の人のロングトレイルへの共感や愛着を育ててきた。地域の力こそがロングトレイルの本当の財産なのだろう。そして、ロングトレイルへの共感や愛着を根付かせるためには、信越トレイルのような確固たるコンセプトが必要だ。


信越トレイルの道標。

信越トレイルが、この信越の地で育んできた磁場が、今後あまとみトレイルにも広がっていくことを期待せずにはいられない。そこに、各地のトレイルがつながって長大なトレイルになっていく価値を見出したい。

次からは、ロングトレイルというカルチャーを根付かせるためには、長い時間のパースペクティブが必要であるということを、信越トレイル、そしてロングトレイルの本場のアメリカの3大トレイルの成り立ちから、あらためて紐解いてみたい。


信越トレイル:110kmになるまで21年。



信越トレイル上に位置する、秋山郷の見倉集落。

■開通までに要した期間
信越トレイルの場合、2000年にトレイルの構想が生まれてから80kmの全線開通まで8年かかっている。さらに、延伸区間40kmが開通したのは2021年9月のこと。構想からじつに21年もかかっているのだ。

■立ち上げ時のコンセプトやビジョン
構想より10年前の1990年に飯山市長となった小山邦武氏の存在も大きかった。もともと彼は酪農経営していたこともあり、自然の中で生活することの大切さを実感していた。

市長になってからもそのスタンスは変わらず、なんとかして裏山 (関田山脈) を有効活用できないかと考えていた。こういった強い信念がベースにあったからこそ、今があると言っても過言ではないだろう。


アパラチアン・トレイル (AT):3,500kmの正式開通まで30年。



アパラチアン・トレイルらしい豊かな自然。

■開通までに要した期間
アパラチアン・トレイル (AT) は、アメリカ東部、ジョージア州のスプリンガー山からメイン州のカタディン山にかけての14州をまたぐ、2,190mile (3,500km) のロングトレイル。

発端は、1921年にベントン・マッケイが発表した文章だった。そこにアパラチアン・トレイルの構想が描かれていた。

正式開通したのは、それから30年後の1951年のこと。1968年には、PCTとともにアメリカで最初のNational Scenic Trail (ナショナル・シーニック・トレイル ※) として認定されることになる。

■立ち上げ時のコンセプトやビジョン
ベントン・マッケイはもともと、スルーハイクのためのトレイルをつくりたかったわけではない。人々に山の中での生活を促したかったのだ。トレイル周辺で、自分たちの農業をしながら生活を送る「コミュニティ・キャンプ」をつくるという、ユートピアの創造が目的だったのだ。

ベントン・マッケイの言葉を紹介する。

「山の上での2週間の生活は、下界での50週間の生活について多くのことを教えてくれる。(中略) そこでは、一息ついて、自然のダイナミックな力を学び、現在人間が背負っている重荷を外すことができる可能性がある」

※ National Scenic Trail(ナショナル・シーニック・トレイル):自然を保護し、楽しみ、感謝することを目的に、1968年に制定されたNational Trails System Act(国立トレイル法)によって指定されたトレイル。他にも、National Historic TrailやNational Geologic Trailなど複数のカテゴリーがあるが、中でもNational Scenic Trailは、壮大な自然の美しさを感じ、健康的なアウトドアレクリエーションを楽しむためのトレイルである。一番最初に選ばれたのは、ATとPCT。現在全米にある11のトレイルが、National Scenic Trailとして認定されている。


パシフィック・クレスト・トレイル:4,265㎞の正式開通まで61年。



開放感満点のパシフィック・クレストトレイル。

■開通までに要した期間
パシフィック・クレスト・トレイル (PCT) は、メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイルだ。

1932年に、クリントン・C・クラークが発案したのが始まりだった。既存のトレイルを組み合わせて、アパラチアン・トレイルのようにメキシコからカナダまで2,000マイル以上のトレイルとして展開しようと考えたのだ。

1968年、ATとともにナショナル・シーニック・トレイルに認定されたこともあり、大半のトレイルは完成した。しかし、最終的に全線が正式開通したのは、発案から61年後の1993年のことだった。

■立ち上げ時のコンセプトやビジョン
クリントン・C・クラークは、自著の「パシフィック・クレスト・トレイルウェイ」でこう書いている。

「私たちのウィルダネス (原生地域) は、もうほとんどなくなってしまった。原始的な地域は、不必要な道路やレクリエーション施設の建設によって破壊されている。今や、パシフィック・クレスト・トレイルが通る高山のエリアにしか残っていない。これこそがラストフロンティアなのだ」

クラークは、文明の近代化によって失われつつあるパイオニア精神こそが、アメリカの個性でありアイデンティティであると考えていた。それを取り戻すためにPCTをつくろうとしたのだ。


コンチネンタル・ディバイド・トレイル:5,000kmの正式開通まで49年。



険しい山々が印象的な、コンチネンタル・ディバイド・トレイル。

■開通までに要した期間
コンチネンタル・ディバイド・トレイル (CDT) は、メキシコ国境からニューメキシコ州、コロラド州、ワイオミング州、アイダホ州、モンタナ州を経てカナダ国境まで、ロッキー山脈に沿った北米大陸の分水嶺を縦断する3,100mile (5,000km) のロングトレイルだ。

始まりは、1962年、ATやPCTの影響を受けたロッキー山脈のトレイルの関係者が、コロラド州のCDT候補地を最初に歩いたことだった。その後、1968年に制定されたNational Trails System Act (国立トレイル法) により、調査研究の対象となり、整備が進んだ。

とはいえ、大陸分水嶺に位置するCDTは、かなり僻地にあることもあり、完成までにはかなりの時間を要した。全線が開通したのは、1962年から49年後の2011年だった。

■立ち上げ時のコンセプトやビジョン
アメリカ3大トレイルの中でも、CDTは際立った特徴がある。それがCDTC (CDTの運営組織) のウェブサイトに記載されているので、引用したい。

「コンチネンタル・ディバイド・トレイルは、分水嶺のユニークな自然史を後世に残すとともに、より多くのアメリカ人に、人里離れたウィルダネスにアクセスして楽しむことができるようにし、さらにネイティブアメリカンの文化を体験したり、多様な野生動物を観察する機会を提供するものです」


長い時間と強い夢が、長大なトレイルをつくる。


各トレイルが開通するまでに要した期間をおさらいすると、信越トレイル (110km) が21年、AT (3,500km) が30年、PCT (4,265㎞) が61年、CDT (5,000km) が49年である。

これらのメジャーなロングトレイルですら、完成するまでには数十年レベルでの時間がかかっている。もちろん完成した後も、きちんとした維持管理体制があってこそ、トレイルは生き続けられる。そうしてハイカーも徐々に増えていき、そのトレイルがカルチャーとなっていく。


トレイルを存続させるためには、地道な整備活動が欠かせない。

また、いずれのトレイルも、強いコンセプトやビジョンを持ってつくられている。そしてそこには、自然への愛や歩く人への思いが込められている。

あらためて、加藤則芳氏が信越トレイルに込めた夢を引用したい。

「信越トレイルへの私の思いはさらに続きます。関田山脈から東西に距離を延ばすことです。東は秋山郷から苗場山、白砂山へ、西は笹ヶ峰高原を通って雨飾山から白馬岳までと、信越国境すべてを貫く壮大な『信越トレイル』を夢見ているんですよ」

あまとみトレイルは、加藤則芳氏が描いた、長野と新潟の県境を貫く壮大なロングトレイルの夢の一部でもある。あまとみトレイルは、今後、雨飾山への接続も検討中とのことだが、さらにその西側の白馬岳までつなげば、県境の端まで行き着く。

その夢の実現には、長い時間が必要だ。僕たちも、あまとみトレイルと信越トレイルがつながったことを喜びたい。急がずに、着実に、夢の一員としてカルチャーを育てていきたい。


斑尾山の中腹からの眺め。眼下に見えるのは野尻湖。

今回の#01の記事では、信越トレイルとアメリカの3大トレイルを例に挙げて、ロングトレイルのあるべき姿を紹介しながら、あまとみトレイルへの期待を語った。

次回の#02の記事では、あまとみトレイルの成り立ちを、キーパーソンである3人の人物へのインタビューを通じて解き明かしていく。

あまとみトレイルは、どうやって誕生したのか、そしてどんな魅力があるのか。詳しく紹介するのでお楽しみに。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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