TRAILS REPORT

Pacific Crest Trail #02/女性ハイカーが見たPCT

2015.09.11
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■Case2-深町和代 Class of 2013

fukamachi

2人目は、深町和代さん。彼女は2013年のPCTハイカー。降雪により迂回を強いられ、ラスト100mile(約160km)はロードハイキングをしてゴールした。もともとバックパッカーでタイ、カンボジア、南米などを旅していた彼女。旅が好き、出会いが好きという理由でPCTに足を運んだのかと思いきや・・・そこには彼女ならではのスタンスがあった。

■長い距離、長い時間が必要だった

山との出会いは22歳の時の南米パタゴニアで、5日間くらいのトレッキングをしたことがきっかけです。パタゴニアの自然から受けた衝撃がものすごくて、帰国後も山に行くようになりました。でも何かしっくりこなくて。その時は分からなかったのですが、自分にとっては長い距離とか時間とか期間が大事というか、自然や山に対してそういう接し方をすることが好きなんだと徐々に自覚したんです。

そんな時にロングディスタンスハイキングという文化を知って。舟田くん(舟田靖章。アメリカ3大トレイルを踏破した、日本初のトリプルクラウナー)のホームページを見たりして、そうそうこれ!って思ったんです。

2011年にJMT(ジョン・ミューア・トレイル)を歩いたんですが、その際も、本当はPCT歩こうと思っていて。ただすでに5月に入っていて、全行程を歩くにはタイミングが遅かった。それでJMTだけにしました。

2013年にPCTを歩こうと思ったのは、ちょうど仕事の更新のタイミングで思うところがあったから。仕事に疲れていたわけでもなかったのですが、このままでいいのかなと。ダメでしょ。今でしょ。それならばPCTでしょ。みたいな。こう言うとパパッと決めたようですが、最後の決断をするには、それなりに勇気がいりましたね。

重い荷物を背負い、長い距離を歩くため、特に足には想像以上の負荷がかかる。足の裏がこんな感じになることもしばしば。

■Funではなく、Interesting

スタートラインに立ってしまえば、ただ歩くだけですし、行けるところまで行こうという気持ちでした。よし!っていう気合いがある感じ。合宿とか修行に行く気分といえばいいでしょうか?ワクワクはしなかったですね。楽しそうとも思ってませんでした。

突き詰めていうと楽しいのかも知れませんが、表面上は楽しいという感覚は全然なくて。楽しいっていうのは、ファンとかエキサイティングといったことじゃないですか。私の場合は、どちらかというとインタレスティングという感じ。興味深い、知りたいという思いで歩いていました。

「海辺のカフカ」っていう村上春樹さんの小説があるんですけど、その中でカフカ少年が森に行くんですよ。暗い深い森の中を延々と歩いて異世界と繋がって、最後は戻ってくるんですけど、それに似ているかも。自分と向き合うための内省的な時間として、PCTを捉えていました。

だから歩けたんだと思います。北カリフォルニアで、たくさんのハイカーがリタイアしていったんですが、それは、シエラの絶景エリアが終わってしまったことが大きいんじゃないかと。大自然や景色を求めすぎていた。北カリフォルニアは特に見どころがなくて退屈だって言われますしね。でも私は逆でした。確かにシエラは見所が多いかも知れないけど、そこに意識が行ってしまうから歩くという行為からは気持ちが逸れてしまう。

一方で、しんどいとはずっと思ってましたよ。こんなところにきて、何しにきてんねや?みたいな。序盤で内ももあたりを痛めてもいましたし。ただつらいけど、客観的に見てる感じはあって。まあつらいよねーって。だから、こんなはずじゃなかったとか、途中でやめようとは思いませんでした。こういうものだろうと受けとめていましたし、そもそも楽しいと思ってないもん!という感じで。想定の範囲内ではありました。

灼熱の砂漠地帯は、日中に歩きつづけることは困難。たまたま見つけた日陰で眠りこける大勢のハイカーたち。

■自分だけの力では到達できない世界に行ける

歩くことはやっぱり楽しいなあとは思いました。1時間に3mile(約4.8km)も歩いていた時は完全にハイカーズハイで、歩くことに集中している感じでした。そういう時は歩くという行為と自分が一致する感じで気持ちいいんですよね。私にとっては一種のメディテーション(瞑想)なんです。

たとえば、トレイルランニングのレースとかって、レースという場があって、スタッフの人やエイドのサポートがあるから走れたりするわけじゃないですか。PCTも同じで、周りの人が支えてくれることで、普段ひとりでは歩くことができない距離を歩けるというのはあると思います。ひとりの力では踏み入れられない世界、領域に手が届く。

支えてくれる人の例としては、トレイルエンジェル(ハイカーをサポートしてくれるボランティア)ですよね。頑張っている人に対して素直に賞賛する、手を差し伸べるっていう文化は素晴らしいと思いました。

実際私も、ワシントン州の町で、大雨の中とあるおじさんがトレイルヘッド(登山口)までクルマで送ってくれて。「もし戻ってくるなら戻って来いよ。迎えに行くから」と言ってくれたんです。結局は戻らなかったんですが、後から来たハイカーに「あのおじさん、お前が戻ってくるかも知れないからって、大雨の中しばらく待ってたぞ」って言われたことは、とても印象深い思い出です。

2013年は例年になく降雪が早く、ワシントン州の北部は大雪に見舞われた。結果、カナダ国境の直前で迂回を強いられた。

■答えはない。分からなさが面白い

PCTを歩き終えて何か変わりましたか?ってよく聞かれるんですけど、別にないんちゃう?って思っています。まあ、ビビリながらも一歩前に踏み出すみたいな強さはちょっとだけ身についたかも知れませんが。正直なところ、2年経ったいまでもPCTを振り返り切れていないんです。

PCTって、1日1日はもちろん、そのセクションセクションに対して振り返りができないまま、保留したまま先に進むんです。時間の制約もあってそうせざるを得ないんです。で、約半年間ずっと振り返れなかったものが、ゴールした時にポンっと渡される。それがどういうものなのかは、いまも解明できていません。

でも、無理やり何かしらの答えを出さなくてもいいかなと思っています。分からなくてもいいんじゃないかと。分からないから面白いという面もありますし。問うてもいいし、問わなくてもいい。自分の場合は保留ボックスに入れたまま。自ら積極的に解き明かすというよりは、そのうち時期が来たら自然と分かることがあるんじゃないかなあと思っています。

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根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年、TRAILSに正式加入。2024年よりTRAILSのHIKING FELLOWに就任。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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