TRAILS REPORT

Pacific Crest Trail #02/女性ハイカーが見たPCT

2015.09.11
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企画編集/TRAILS  構成・写真/根津貴央  写真提供/増田純子、深町和代、仲栄真美咲

Pacific Crest Trailの連載第二弾は、日本人女性ハイカーが見たPCT。前回の記事でPCTの概要をお届けしましたが、基礎知識は理解できても、身近に感じることは難しかったかも知れません。

実際、興味を抱いたとしても「行くきっかけがつかめない」「歩ける自信がない」「実情が分からない」という人も多いと思います。

そこで今回は、PCTを歩いた日本人の女性ハイカー3人に登場いただき、それぞれの実体験を語ってもらいました。女性から見たPCTというものはどんなところなのか。歩くに至ったきっかけから、トレイル上での苦労や楽しみなど、赤裸々に話してくれました。PCTのリアルを、存分にご堪能ください。

■Case1-増田純子 Class of 2012

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まず1人目は、増田純子さん。彼女は2012年にPCTのスルーハイクにチャレンジ。ただこの年は大雪のため、残り4日でゴールというところで断念せざるを得なくなる。そこで彼女は、2014年に残りの部分を歩いてPCT全行程を踏破した。2004年にスペインはサンティアゴの巡礼路を歩き、歩くことが好きになった彼女は、なぜPCTに向かい何を感じたのか?

■旅行に行くような感覚

実はPCTよりも先に、AT(アパラチアン・トレイル)に興味を持ったんです。歩くことが好きだったので、単純に歩いてみたいなと。でも別に山ヤではないので、荷物を軽くしないと歩けないだろうと思って東京は三鷹のハイカーズデポに行ったんです。それで相談したら、私の経験とかも考慮してまずはJMT(ジョン・ミューア・トレイル)を歩いてみたら?と言われて、2009年に歩きに行きました。

そのときに、PCTハイカーを見たんですよね。しかも、みんなしんどそう。私からすれば、こんなにキレイな景色があるのになんで?って疑問に思って。それがPCTに興味を持ったというか、認識したきっかけです。その後、仕事の区切りがついたこともあって、時間もできるし、じゃあPCTに行ってみようかなと。決意とか意気込みとかは全然なくて、普通に旅行に行くみたいな感じです。

それまでも半年くらい働いて半年くらい海外旅行に行くといったスタイルだったんで、それと同じ感覚でした。PCTを全部歩くには5〜6カ月かかるわけですけど、そのくらいの期間は私にとっては特に長いものではなかったんです。

JMT(ジョン・ミューア・トレイル)のハイライトのひとつであり、PCTの一部でもあるサウザンド・アイランド・レイク。

■人生で初めて、歩くことのツラさを知る

序盤は、肉体面より精神面がキツかったですね。誤解を恐れずに言うと、そもそもあまり人が好きじゃないんですよ。でも、他のハイカーと会うことも多いし、お互いひとりで歩いているとしばらく一緒に話しながら行くこともある。馬が合う人だったらいいんですけど、当然そうじゃない人もいるわけで。それはちょっと面倒くさかったですね。

肉体面でいうと、歩くのが大変ということを初めて知りました。日本だと、ハイキングをするとしても長くて2週間くらい。やはり数カ月間ともなるとすごく疲れます。日本で歩いていた時は、家に帰る日になるともう終わりなのかあって、いつも残念に思っていたんですけどね。

いま振り返ればトータルで楽しかったとは言えますけど、歩いている時はしんどかったし、歩き終えた直後はもう二度とやらないと思いました(苦笑)。ただ途中でやめるという考えはなかったですね。歩くのが当たり前というか。イヤだけど朝起きて会社に行くのと似ているかも知れません。

唯一、景色だけは本当に素晴らしかったですよ。根っからの景色フェチとしては、最高の場所でした。よくキレイな景色を見ると疲れが吹き飛ぶって言うじゃないですか。まさにそれです。まあでも、すぐにまたしんどい!となるんですけど。その繰り返しでしたね。

昼寝をする増田さんと、後に彼女の旦那さんになるマットさん。肌寒かったこともあり、足をバックパックに入れて。

■人生の伴侶との出会い

実は、いまの旦那さんはトレイル上で出会ったハイカーなんです。最初に会った時、彼は私より20歳以上離れていそうだから、ハイカー仲間として付き合えそうだと感じて一緒に歩くようになったんです。実際は10歳も離れていなかったんですが(苦笑)

それで結局5カ月間くらい一緒にいました。出会ってから、24時間毎日ずっと一緒なわけですよ。夫婦ですらそんなに一緒にいないですよね。だからゴールして別れた時に、寂しいというよりは自分の半分をどっかに置いてきた感じがして。そばに居るのが当たり前でしたから。結婚して何十年もすると、お互い空気みたいな存在だよって言ったりするけど、最初からそんな感じだったかもしれません。それは、私だけではなくて彼もそう思っていたみたいです。

PCTに来る前まで、私はずっとひとりでハイキングしていたので、こういう風に誰かと歩くことをまったく想定していなかったんです。人に合わせるのが苦手で自分勝手なので(笑)。だから、誰かと歩くのがこんなにも楽しいということを知らなかった。想像すらしていなかった。今はもう、ひとりで歩こうって思えなくなってしまいました。

仲良くなったハイカーたちとの食事風景。この5人でしばらく一緒に歩いた時間も、大切な思い出。

■アメリカの常識を理解すること

PCTを歩く上で、流暢に英語を話せる必要はないですけど、ゼロだと厳しいと思います。山火事の状況、トレイルの封鎖、迂回をはじめ、最低限知らないといけないことは英語で言われます。それが分からないと、なんだこの日本人!って思われてしまう。ひとりのマナーの悪い日本人をみたら、日本人は!というくくりになってしまうんです。大げさかも知れませんが、日本のハイカーを代表しているくらいの認識は持ったほうがいいと思います。

テントの設営マナーに関してもそうです。日本だとテントサイトが狭いからお互い近いのが当たり前だったりするんですけど、アメリカはそうじゃない。「日本人はすぐ近くにテントにはるから怖い!」っていう話を私は何度も聞きました。たとえばJMTの場合は、人が先にいたらそこに張ってはいけない。特にファミリーがいたら、次のキャンプサイトを探すのが当たり前なんです。

あと、ハイシエラの区間は本当に気をつけて欲しいですね。行く年の雪の状況によっては、渡渉で命を落とす危険もありますから。実際、私が行った時も渡渉の最中に流されて亡くなった人がいました。

多くの日本人にPCTを歩いて欲しいとは思っていますが、上記2つは気に留めておいて欲しいです。

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根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年、TRAILSに正式加入。2024年よりTRAILSのHIKING FELLOWに就任。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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