TRIP REPORT

TOKYO ONSEN HIKING #16 | 鋸山・かぢや旅館

2022.04.13
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TRAILS編集部crewの根津による『TOKYO ONSEN HIKING』、第16回目。

今回の温泉は、千葉県は富津市 (ふっつし) にある『かぢや旅館』。

創業は安政元年 (1854年)。鋸山の麓に位置し、鋸山の採石の歴史とともに歩んできた昔ながらの温泉旅館だ。

観月台から望む、東京湾と浜金谷の町。

TOKYO ONEN HIKINGのルールはこれ。

① TRAILS編集部 (日本橋) からデイ・ハイキングできる場所
② 試してみたいUL (※1) ギアを持っていく (※2)
③ 温泉は渋めの山あいの温泉宿がメイン (スーパー銭湯に非ず)

ハイキングをするのは、千葉県を代表する山、鋸山 (のこぎりやま・標高329m)。以前、TRAIL編集部crewによる『NIPPON TRAIL #05 房総・クジラの道』でも訪れた思い出の地への、再訪となった。

駅から見える、ノコギリの歯のような山へ。

NIPPON TRAILで、房総半島を横断したときは、鋸山は旅の重要なファクターではあったものの、経由地のひとつでしかなかった。

今回は、その鋸山を主役にして歩いてみたいと思った。

JR浜金谷駅〜車力道〜鋸山山頂〜関東ふれあいの道〜かぢや旅館のコースタイムは、約2時間半。見所が多いため、余裕を持ったスケジューリングが大切。

スタート地点の「浜金谷駅」にて。すぐ近くにコンビニ (鋸山とは逆方向) があるので、立ち寄ってから行ってもいい。

鋸山と言えば、山上の日本寺の境内にある百尺観音や地獄のぞきが、観光地として超有名だ。鋸山に行くとなればかならず立ち寄るスポットでもある。

でも今回僕は、あえてそこを経由しないルートを選んだ。

JR浜金谷駅から見えるあのノコギリの歯のような稜線。この鋸山の自然を、ひとり静かに味わうハイキングをしようと思ったのだ。

浜金谷駅から見える鋸山の山容。

まるでジャングルのような、豊かな植生。

鋸山の山頂へと向かう今回のルートは、車力道 (しゃりきみち) と呼ばれている。

鋸山では、昭和60年 (1985年) ごろまで採石が行なわれていた。この車力道は、その切り出した石を運ぶために使った道である。「車力」とは、石を運搬していた人たちの呼び名だ。

スタートして15分ほどで、車力道の登山道がはじまる。

石の重みで、この道には今もなお荷車の轍 (わだち) が残っている。運搬の道でもあったためか、とても歩きやすい道である。

ちょっと登っただけで海が見えるのが嬉しい。

20分ほど歩いただろうか。ふと振り返ってみると、遠くに海が見えた。ちょっと感動してしまった。まだ少ししか歩いていもいないし、登ってもいない (山頂ですらたかだか329mだ)。なのに海が見える。それに驚いたのだ。

場所性を考えれば当たり前なのかもしれない。でも、このTOKYO ONSEN HIKINGの連載で行く東京近郊の山のなかでは、かなりレアなのだ。

石切場跡。異世界感がハンパない。

しばらくすると、今度は眼前に巨大な岩壁が現れた。石造りの要塞のようだが、これが石切場の跡地である。何度見ても圧倒されてしまう。

ただ、それ以上に僕がグッときたのは、自然の豊かさである。

鋸山周辺は、北斜面はコナラなどの落葉広葉樹林、南斜面はスダジイなどの常緑広葉樹林が見られる。多様な植物がそこらじゅうに生い茂っていて、まるでジャングルのよう。

多様な植物が混在していて、自然のエネルギーが感じられる。

夏ともなると、このエリアは蒸し暑くて辛さも伴いそうだが、春のこの時期は日差しも柔らかく、瑞々しい自然の息吹を心地よく感じることができるので、ハイキングにはもってこいだ。

空の青さと植物の緑のコントラストが、今回のルートの醍醐味のひとつでもある。

燃料込みでたった82gのULクッカーセット。

鋸山の山頂 (標高329m) は、北側が開けていて海を望むことができる。しかも、ベンチもあるのでここでランチを取ることにした。

『VARGO / Titanium Travel Mug 』と『Esbit / Solid Fuel Stove』、さらに固形燃料を合わせて、トータル82g。

今回使用したクッカーは、『VARGO / Titanium Travel Mug 』(バーゴ / チタニウム・トラベルマグ)。容量は450mlで、重量は61g (実測。今回はあえて蓋を持参せず)。

バーナーは、『Esbit / Solid Fuel Stove』(エスビット / ソリッド・フューエル・ストーブ)。チタン製の固形燃料用ストーブで、重量はわずか13g (実測)。

いずれのプロダクトも、無駄がなくシンプルで、まさにULギアといった佇まい。

固形燃料の火力は強くないものの、他の火器では味わえない風情がある。

これまではアルコールストーブを持ってくることが多かったが、今回はひさしぶりに固形燃料を使ってみることに。決して火力は強くないが、時間はたっぷりあるわけだし、あえて時間をかけてお湯を沸かすのも粋ってもの。

しかも、固形燃料ならではの揺らめく炎も、眺めているとなんだか落ち着くものである。

デザートとして食べても美味しい、オーガニック100%のドライフルーツをたくさん入れた『MYOM (Make Your Own Mix)』。

食事のあとはデザートタイム。食事がついつい炭水化物メインになりがちなので、行動食でミネラルをはじめとした他の栄養素を取ろうと目論んでいた。

だから、TRAILS INNOVATION GARAGEのトレイルミックス『MYOM (Make Your Own Mix)』に、ドライフルーツをたくさん入れてきたのだ。

お腹も満たされたところで、ハンモックタイム。今回使用したのは、『ENO / Super Sub』(イーノ / スーパーサブ)。ハンモック本体が270gと軽量ながらも、幅が188cmと広めなのが特徴。広々としていて、とても寝心地がいいのだ。

『ENO / Super Sub』は、ENOの最軽量モデルSub6と同じ軽量素材を用いて、幅を188cmとワイドにしたモデル (Sub6の幅は119cm)。

戦国時代の鍛冶屋 (かじや) にルーツを持つ、かぢや旅館。

あまりの気持ち良さに軽く寝落ちしたが、日も少し傾きはじめてきたので、温泉を目指して下山することに。関東ふれあいの道のルートにもなっているこの道が、また開放的で爽快なのだ。

下山ルートとして選んだ、関東ふれあいの道。樹林帯の往路とは打って変わって開放的。

ほんとあっという間に麓に降り立ち、いざ『かぢや旅館』へ。5代目の黒川豊さんと、そのお母さんである女将さんにお話をうかがった。

聞けば、『かぢや旅館』は、その名のとおり鍛冶屋が由来とのこと。創業は安政元年 (1854年) だが、それ以前に、房総半島の大名として知られる里見氏の出城が近くにあった時代、先祖が鍛冶屋を営んでいたそうだ。

その後、鍛冶屋をやめて宿場の旅籠を経て、現在の旅館となったとのこと。この鋸山のエリアに根づく、歴史ある旅館なのだ。

かぢや旅館。日帰り入浴 (12:00~19:00) は、中学生以上が700円。詳細はホームページを参照 (https://www.kajiyaryokan.com/)。

改築もしているため見た目は現代風 (鉄筋) だが、実はまだ昔のままの部屋 (木造) も存在している。過去には取り壊す話がでたこともあるそうだが、あえて残すことにしたという。これがまた風情があって素晴らしいのだ。

木造の部屋は、現在食事処として使用。昔にタイムスリップしたような気分が味わえる。

温泉 (大浴場) へとつづく渡り廊下は、さながら龍宮城への入口のようで、ワクワクする。いったいどんな温泉が待ち構えているのだろう。

大浴場へとつづいている渡り廊下。

大浴場は、ご覧のとおり開放的で、窓がことのほか大きく、とにかく明るいのが印象的。外には草木が生い茂っていて、鋸山にいだかれているような感覚すらある。

明るく広々とした大浴場 (男湯)。

温泉の源泉は、房州大福温泉。これは「ちちんぷいぷいの湯」とも呼ばれている。そう、あの「ちちんぷいぷい、痛いの痛いの飛んでけ」という、おまじないの言葉である。それだけ痛みに効果があるということなのだろう。事実、泉質はナトリウム、カルシウム、マグネシウムを含む硫酸塩泉で、一般的には「傷の湯」とも呼ばれている。

陽光が降りそそぎ、緑も豊かで、エネルギーに満ちた温泉でもある。

どこの痛みも持ち合わせていない僕ではあったが、お湯に浸かりながら「ちちんぷいぷいかぁ」とひとりごちていると、なんだか必要以上に元気になった心地がした。

女将さんいわく、「最近は、近くに高級な施設もできたりしていますけど、ウチはのんびり肩肘はらない宿でありたいと思っています」とのこと。

実際、のんびりしにくる常連さんも多いこの旅館。スタッフの方々も含めて、飾らない感じがさらに居心地を良くしているのだと感じた。僕も、次に来る時は1泊してもっとのんびりしたいと思った。

車力道の序盤は、とにかく歩くのが楽しいセクション。

鋸山の麓にある、数少ない温泉旅館のひとつ『かぢや旅館』。

地魚を用いた料理もおすすめとのことで、また来る理由ができてしまった。

さて、次の『TOKYO ONSEN HIKING』はどこにしよう。

※1 UL:Ultralight (ウルトラライト) の略であり、Ultralight Hiking (ウルトラライトハイキング) のことを指すことも多い。ウルトラライトハイキングとは、数百km〜数千kmにおよぶロングトレイルをスルーハイク (ワンシーズンで一気に踏破すること) するハイカーによって、培われてきたスタイルであり手段。1954年、アパラチアン・トレイルをスルーハイクした (女性単独では初)、エマ・ゲイトウッド (エマおばあちゃん) がパイオニアとして知られる。そして1992年、レイ・ジャーディンが出版した『PCT Hiker Handbook』 (のちのBeyond Backpacking) によって、スタイルおよび方法論が確立され、大きなムーヴメントとなっていった。

※2 実は、TRAILS INNOVATION GARAGEのギャラリーには、アルコールストーブをはじめとしたULギアが所狭しとディスプレイされている。そのほとんどが、ULギアホリックの編集長・佐井の私物。「もともと使うためのものなんだし、せっかくだからデイ・ハイキングで使ってきてよ!」という彼のアイディアをきっかけにルール化した。

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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