TRAILS REPORT

ロングトレイルTOPICS #07 | PCT&ATスルーハイキングに向けた最新情報(2023 Feb)

2023.02.22
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毎年、TRAILS編集部が取材やリサーチで集めた情報を中心に、ロングトレイルの最新情報や注目すべきトピックを発信する『ロングトレイルTOPICS』。2023年2回目は、PCT (パシフィック・クレスト・トレイル) およびAT (アパラチアン・トレイル) 編。

TRAILS編集部が、PCTA (PCTの運営組織) のコンテンツ・ディベロップメント・ディレクターであるスコット・ウィルキンソン、ATC (ATの運営組織) のインフォメーション・サービス・マネージャーであるケイトリン・ミラーに取材を行ない、2023年2月時点での最新情報を聞いた。

PCT (パシフィック・クレスト・トレイル) は、メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。

Pacific Crest Trail Association / コンテンツ・ディベロップメント・ディレクター スコット・ウィルキンソン

 

まずは、トレイルヘッドの交通手段を確認する。

—— 編集部:2023年のスルーハイクにおいて、例年と比較してルールの変更点はありますか?

 
スコット:「ルール変更はありません。また、北端および南端のターミナスへのアクセス方法についても、特に変更はありません。交通手段に関する最新の情報は、下記『PCT transportation』のページを参照してください」


PCTの交通手段に関するページ。(https://www.pcta.org/discover-the-trail/backcountry-basics/pct-transportation/より)

『Leave No Trace』を実践することで、環境負荷を減らすことができる。

PCT Hiker Survey 2022 (https://www.halfwayanywhere.com/trails/pacific-crest-trail/pct-hiker-survey-2022/より)

—— 編集部:年々、ロングトレイルを歩く人が増えています。ハイカーの増加に伴って、注意すべきことなどはありますか。

 
スコット:「2012年に『Wild』 (※1) という書籍が出版されて以来 (その後、映画も公開)、PCTの人気は着実に高まっています。

特に南カリフォルニアの最初の600mile (960km) は、トレイルへの負荷が大きくなってきています。その結果、植生が破壊された荒れたキャンプ場や、ハイカーが湖や川で水浴びしたり川で食器を洗うことによる水源の汚染、気温が高いエリアで生じる水不足 (トレイルエンジェルが設置してくれる水への依存度が高まる) といったことが発生しています。

私たちはハイカーへの教育の一環として『Leave No Trace』(※2) の原則を強調し続けていますが、その意識が高まるにつれ、確実に改善されていくことがわかりました。

ハイカーに関する傾向等に関しては、『Halfway Anywhere』が毎年実施しているリサーチがあります。非常に興味深い情報がたくさんあります。上記の画像のキャプションにURLがあるので、ぜひ読んでみてください。

※1 Wild:シェリル・ストレイドによる、PCTを舞台にしたベストセラー書籍。2014年に映画化され (邦題は「わたしに会うまでの1600キロ」)、アメリカはもとより日本でもPCTの知名度が一気に上がった。

※2 Leave No Trace (リーブ・ノー・トレース):アメリカのハイキング・カルチャーにおいて当たり前の考え方・マナーであり、世界中に広まってきている。「Leave No Trace」という組織もあり、自然保護や動物保護のためにさまざまな活動を展開している (詳細は「Leave No Trace」のWEBサイトを参照。 https://lnt.org/)。

『inReach』を携帯するハイカーは増えているが、万能ではない。

安全に関するアドバイスのページ。(https://www.pcta.org/discover-the-trail/backcountry-basics/safety-tips/)

—— 編集部:inReach (※3) を携帯するハイカーが増えています。PCTハイカーのうちどのくらいの人が持っているのでしょうか? また、ハイカーに対してinReachの携帯を推奨していたりするのでしょうか?

 
スコット:「inReachを使用するハイカーの割合は把握していませんが、トレイル上においては従来に比べてより一般的になってきていて、使う人が増えているのは確かです。

実際に緊急事態が発生した場合、inReachは非常に有用ですし、場合によっては命を救うことにもなります。

しかし、inReachを持つことが、原野での安全、気象条件、基本的な応急処置、優れたナビゲーションスキルに対しての理解や教育に取って代わるというわけではありません。

また、ハイカーが実際の緊急事態ではない状況でinReachを使用した場合、捜索救助隊の負担を増やし、実際の緊急事態が発生したときに捜索救助隊を利用できなくなる可能性もあります。

こういったことを理解しておくことが大事でしょう」

※3 inReach:GARMIN (ガーミン) が開発・販売している衛星通信デバイス。携帯電話の電波が届かないエリアでも、双方向通信が可能でSOS発信機能も搭載されている。最新機種の「inReach Mini 2」は、小型&軽量で、重量は100g。

火器は、アルコールストーブではなくガスストーブを推奨。

火災および火の取り扱いに関する情報ページ。(https://www.pcta.org/discover-the-trail/backcountry-basics/fire/)

—— 編集部:ハイカーによって、使用する火器は異なります。アルコールストーブとガスストーブ、どちらがおすすめですか?

 
スコット:「ガスストーブは、トレイル上では非常に一般的で、安全かつ便利です。

一方、アルコールストーブは、安全性の観点では不安があり、危険性があるためおすすめしません。実際、アルコールストーブを原因とする森林火災は、たくさん起こっています。

最近のガスストーブは非常に軽量で、アルコールストーブを使うことで得られるわずかな軽量化は、リスクの増加に見合うものではありません」

森林火災や渡渉に対する準備をしておくこと。

渡渉の危険性や渡渉の方法に関するページ。(https://www.pcta.org/discover-the-trail/backcountry-basics/water/stream-crossing-safety/)

—— 編集部:その他、今年PCTを歩くハイカーに対してのアドバイスがあれば教えてください。

 
スコット:「アメリカ西部の大部分は長引く干ばつの真っ只中にあり、地球温暖化の影響により山火事も増えています。

そのため、ハイカーは山火事に関するアラートをはじめ、トレイルの閉鎖につねに注意を払ってください。そして、場合によってはスルーハイキングができない可能性も覚悟しておく必要があります。

またスタートするまでに、山火事への対応、基本的な応急処置、ナビゲーションの技術などをしっかり勉強してください。加えて、PCTAのウェブサイトを見て、渡渉についても理解しておいてください」

Appalachian Trail Conservancy / インフォメーション・サービス・マネージャー ケイトリン・ミラー

 

今年の変更点は「ベアキャニスター推奨」&「パーミットの値上げ」。


ベアキャニスターの使用方法について。(https://appalachiantrail.org/explore/plan-and-prepare/bear-canister-lending-program/#UseTips)

—— 編集部:2023年のスルーハイクにおいて、例年と比較してルールの変更点はありますか?

 
ケイトリン:「2022年7月よりATCは、ATで1泊以上過ごすすべてのハイカーに、ベアキャニスターの使用を正式に推奨することにしました。ベアキャニスターは、熊が人間の食べ物にアクセスするのを防ぐために、ATで最も信頼性が高く効果的な方法です。

もう1つの変更点は、グレート・スモーキー山脈国立公園におけるATスルーハイカー・パーミットの価格改定です。具体的には、20ドルから40ドルに引き上げられることが決定しました。こちらは2023年3月1日から実施されます」

マスク着用有無などコロナの安全対策は、CDC (アメリカ疾病対策センター) のガイダンスに準じる。

—— 編集部:昨年はコロナ対策でマスクの着用が必須のエリアもありましたが、今年はどうですか?

 
ケイトリン:「トレイルでのマスク着用は義務ではありませんが、町に降りた際はそのコミュニティや店舗等でルールが設けられている場合がありますので、注意してください。

また、コロナに感染した場合、あるいは症状が出はじめた場合には、最善の安全対策として、CDC (アメリカ疾病対策センター) のガイダンス (※4) に従ってください」

※4 CDC (アメリカ疾病対策センター) のガイダンス:こちらのページを参照。https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/your-health/if-you-were-exposed.html

ハイカーの増加に伴い、『Leave No Trace』の遵守がより重要になる。


ATCで紹介している『Leave No Trace』のページ。(https://appalachiantrail.org/explore/plan-and-prepare/leave-no-trace/)

—— 編集部:年々、ロングトレイルを歩く人が増えています。ハイカーの増加に伴って、注意すべきことなどはありますか。

 
ケイトリン:「重要なのは、初めて訪れる人はトレイルに足を踏み入れる前に、基本的なハイキングの方法と安全情報を理解することです。

ATCでは、それらの情報を簡単に手に入れられるようにしています。

また、ハイカーが増えれば増えるほど、『Leave No Trace』のガイドラインに従うことが重要になります。

ゴミや生ゴミはすべて持ち帰り (食料はベアキャニスターに保存)、排泄物はキャットホールやトイレに適切に埋め、脆弱な植物を守るためにトレイル外を歩かず、キャンプ地も既存の場所を使用するようにしてください

また、すべてのハイカーはATCのウェブサイトで『ATCamp』に登録し、ATCからのニュースの受信を選択することを強くおすすめします」

携帯電話も衛星通信デバイスもつながらないエリアがある。


ATを安全にハイキングするための情報と手法を紹介しているページ。(https://appalachiantrail.org/explore/plan-and-prepare/hiking-basics/safety/)

—— 編集部:inReachを携帯するハイカーが増えています。ATハイカーのうちどのくらいの人が持っているのでしょうか? また、ハイカーに対してinReachの携帯を推奨していたりするのでしょうか?

 
ケイトリン:どのくらいのハイカーが携帯しているかのデータは収集していません。ただ、毎年多くのハイカーが携帯しており、家族や大切な人に安心感を与えることが可能になっています。

でも、inReachは完璧ではありません。毎年、ハイカーの家族から、連絡がつかないという電話がかかってきますが、それはたいていハイカーが信号を発信できない場所にいることが原因です。

グレート・スモーキー山脈国立公園やメイン州の多くの地域では、携帯電話も衛星機器も電波が届かないことで有名です。

inReachもスマートフォンも、地図とコンパスの携帯 (およびその使用方法の知識)、ハイキングの事前計画と準備、必要なギアと物資の携帯に取って代わるものではありません。

ぜひATCのウェブサイトのSafetyページで、安全にハイキングするためのノウハウを学んでください」

スルーハイキングの予算は、1カ月あたり1,200〜1400ドル。

—— 編集部:物価の上昇は、ハイカーに何かしらの影響を与えていますか?

 
ケイトリン:「インフレはアメリカのほぼすべての地域に影響をおよぼしており、トレイルタウンも例外ではありません。

ハイカーは、町のサービス、補給、ギアの価格が過去に比べて高価であることに気づくかもしれません。

現在スルーハイキングのための予算としては、1カ月あたり1,200ドルから1,400ドルを目安としてアナウンスしています」

トレイルの混雑緩和のため、Flip Flop (フリップフロップ) も選択肢に。


Flip Flopの紹介ページ。(https://appalachiantrail.org/explore/hike-the-a-t/thru-hiking/flip-flop/)

—— 編集部:ATでは、トレイルの保護およびハイカーの混雑軽減を目的に「Flip Flop」(※5) を推奨していましたが、今年はどうですか?

 
ケイトリン:「はい。トレイルの南端と北端の混雑を緩和するためにも、スルーハイカーには引き続きFlip Flop (トレイルの中間地点からスタート) を検討するよう勧めています。

Flip Flopは、優しめのセクションからスタートできると同時に、比較的安定した天候下でのハイキングが可能になります。

また、アメリカ国外からのハイカーは、ワシントンD.C.から公共交通機関で中間地点までアクセスできるのも好都合だと思います」

※5 Flip Flop (フリップフロップ):ハイキング用語で、今回の場合は、ATの中間地点から歩いて北上 (もしくは南下) し、北端 (もしくは南端) から中間地点まで別の交通手段で移動したのち、南端 (もしくは北端) まで歩いてスルーハイキングすること。


ATの緑豊かなトレイル。

PCTAのスコットおよびATCのケイトリンの最新情報で印象的だったのは、二人とも共通して、ハイカーが増え環境負荷が大きくなっているからこそ『Leave No Trace』の遵守が大事であること、『inReach』は有用だがそれさえあれば大丈夫というわけではないこと、を強調していたことだ。

この2点はもちろんその他の内容も含めて、特に今年、アメリカでのハイキングを考えている人にとっては、実践的でかなり参考になる内容だったと思う。

次回は、CDT (コンチネンタル・ディバイド・トレイル) およびPNT (パシフィック・ノースウエスト・トレイル) の運営組織のスタッフから、それぞれのトレイルの最新情報を紹介してもらう。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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