TRAILS REPORT

LONG DISTANCE HIKERS DAY 2023 イベントレポート① | NEW YEAR TOPICS

2023.05.05
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2016年に初開催し、今回で7回目の開催となった『LONG DISTANCE HIKERS DAY 2023』。2日間通しチケットは完売し、両日とも会場は大勢のハイカーでにぎわった。

これからロングトレイルを歩きにいきたいハイカーが、そのトレイルを歩いたハイカーに相談する。海外のトレイルを歩いたハイカー同士が、情報交換する。

コロナの規制も緩和されたことで、会場は新たな旅をプランする熱量の高いハイカーで溢れていた。

日本におけるロング・ディスタンス・ハイキングの現在地を実感した2日間でもあった。

2日間ともに、たくさんのハイカーでにぎわった。

今回の記事では、『LONG DISTANCE HIKERS DAY 2023』のコンテンツから、恒例のNEW YEAR TOPICSをピックアップ。

国内外のロングトレイルの最新情報を共有するので、ぜひ今年のロング・ディスタンス・ハイキングの旅のプランニングに活用してほしい。

ハイカー同士がたのしそうに語り合う姿は、会場の至るところで目にすることができた。

シエラで例年の2倍以上の記録的な大雪。PCT & JMTでは渡渉に強い警戒を。


2023年4月末におけるヨセミテ国立公園の積雪状況。

カリフォルニア州シエラの積雪量は、この時期 (4月頭) では通常の221%。

2023年のカリフォルニア州全体の積雪量は、1950年にまでさかのぼった記録上、1番目もしくは2番目に大きい積雪量になる可能性が高いと予想されている。

雪の量が非常に多いため、スキーシーズンは今年の7月末まで継続すると、リゾートが発表しているほどだ。

すでに今年のPCTおよびスルーハイキングをキャンセルしたハイカーもいる状況なので、今年歩く予定の人は、雪への注意、対策はもちろん、スルーハイキングできないことも想定しておくべきだろう。


渡渉シーン。PCTAのウェブサイトより (https://www.pcta.org/discover-the-trail/backcountry-basics/water/stream-crossing-safety/) photo by Owen Rojek

積雪量が多ければ、雪解け水も多くなり、川の水量も増える。つまり、渡渉の危険性が増すということだ。

しかも最近は気温が上がってきていることもあり、雪解けの勢いも増している。ヨセミテ国立公園では、洪水が予想されるため、4月28日 (金) 午後10時からヨセミテバレーの大部分を閉鎖すると発表した。

渡渉する際には、「1人で渡らない (他のハイカーが来るまで待つ)」「シューズを履いて渡る (裸足だと滑ったり捻ったりするリスクが高まる)」「バックパックのウエストベルトは外す (外さないと流された際に溺れるリスクが高まる)」をはじめ、渡渉のテクニックを事前に学んでおくことが欠かせない。

山火事には絶対に近づかないこと。

また、山火事でトレイルがクローズになることもよくあるため、山火事に関するアップデートもつねに入手しておこう。PCTでは、すでに一部クローズしているセクションもある (https://www.pcta.org/discover-the-trail/closures/)。

また、パッと見大丈夫そうに思えても、風向き次第で容易に巻き込まれるので (過去、実際に巻き込まれた事例はたくさんある)、注意が必要だ。

2022年、ATではコロナ前を上回るハイカーの数に。


 
AT (アパラチアン・トレイル) のスルーハイカーは、コロナ前は1,100人台を推移していた。2020年のコロナの最初の年は大幅にハイカーは減少したが、2022年は急増し、コロナ前を上回る1,348人とコロナ前を大幅に上回る結果となった。

PCT (パシフィック・クレスト・トレイル) のスルーハイクをしたハイカーの人数は、2018年をピークに、の2020年以降はパーミットの上限数のコントロールもあり、その後は減少。2021年からハイカーの数は一気に復活したが、2022年は856人とコロナ前の水準よりも人数は少ない。

ちなみに、PCTをスルーハイクする際に必須のロング・ディスタンス・パーミットの申請数の推移は、下図の通り。


※MAX:2000年以降のパーミット数の上限。2020年から人数制限が設けられたこともあり、パーミットを取得できる人は4,500人を超えることはなくなった。

PCTのロング・ディスタンス・パーミットは、2019年は実に5,000人を超える人が申請した。前述したように、2020年から人数制限が設けられたこともあり、最大でも4,500人を超えることはなくなった。2020年はコロナのためパーミットは発行されなかったが、2021年は再開され、上限に近い4,417人が申請した。

PCTはパーミット取得の倍率が高く、パーミットを取得すること自体が最初のハードルになっている。


 
では、PCTのスルーハイクのパーミットを取得した人のうち、どのくらいの人がスルーハイキングを達成しているのだろうか。

2021年で算出したところ、わずか18%だった。反対にスルーハイキングしていない人は82%。この数字のうち、パーミットだけ取得し、実際に歩いていないハイカーなども含まれるが、多くの人がスルーハイキングを目指すも、実際にスルーハイキングをしていない人も多くいることが確認できる。

ケガや病気、天候、家庭の事情など、さまざまな理由からスルーハイキングをしない人、あるいはやめるという判断をするハイカーは多いのだ。今年はPCTでは大雪の影響もあり、スルーハイキングを中断するというハイカーも多くなることが予想される。

スルーハイカーの増加に伴い、いかに環境負荷を減らすかが大事になってきている。


PCTAのLeave No Traceに関するページより。(https://www.pcta.org/discover-the-trail/backcountry-basics/leave-no-trace/)

以前、PCTA (PCTの運営組織) のコンテンツ・ディベロップメント・ディレクターであるスコット・ウィルキンソンに取材したところ、ハイカーの増加に伴い、「トレイルへの負荷が大きくなってきています。その結果、植生が破壊された荒れたキャンプ場や、ハイカーが湖や川で水浴びしたり川で食器を洗うことによる水源の汚染が発生しています」と話していた。

それを改善すべく、PCTAでは『Leave No Trace』(※1) の普及、教育に努めている。ハイカーは歩く前にこのLNTを理解し、実践するとこが欠かせない。

※1 Leave No Trace (リーブ・ノー・トレース):アメリカのハイキング・カルチャーにおいて当たり前の考え方・マナーであり、世界中に広まってきている。「Leave No Trace」という組織もあり、自然保護や動物保護のためにさまざまな活動を展開している (詳細は「Leave No Trace」のWEBサイトを参照。 https://lnt.org/)。


ATCの『Flip-Flop Kickoff』のページより。(https://flipflopfestival.org/#about)

ATでも、トレイルの保護およびハイカーの混雑軽減を目的に、ATの中間地点からのスルーハイキングのスタートを推奨。

2022年も、中間地点であるウエストバージニア州のハーパーズフェリーで、『Flip-Flop Kickoff』(※2) を開催。

以前は、『Flip-Flop Festival』として知られていたこのイベント。昨年から名前を『Flip-Flop Kickoff』に変更して、フリップフロップ・スルーハイカーのサポートに重点を置くようになった。

※2 Flip Flop (フリップフロップ):ハイキング用語で、今回の場合は、ATの中間地点から歩いて北上 (もしくは南下) し、北端 (もしくは南端) から中間地点まで別の交通手段で移動したのち、南端 (もしくは北端) まで歩いてスルーハイキングすること。

スルーハイカーの半数以上が持つと言われるinReachは、緊急対策の必需品になりつつある。


最新機種の「inReach Mini 2」は、小型&軽量で重量100g。

緊急連絡用のギアとして、inReach (※3) を使用するハイカーが増えてきている。

ロング・ディスタンス・ハイカーとして有名でTRAILSのアンバサダーでもあるリズ・トーマスは、スルーハイカーの半数以上は携帯しているようだとレポートしてくれた。

山では携帯電話の電波が入らないこともあるため、inReachはテキストを送るための重要なツールである。

2022年にアメリカ3大トレイルのいずれかをスルーハイクした日本人ハイカーも、ほぼ全員が携帯していた。

実際の使用例としては、「山火事の情報を他のハイカーやトレイルエンジェルと交換」「家族への安否に関する連絡」「毎日のGPSログの記録」「携帯の電波が入らないところでの天気予報の確認」などだった。

※3 inReach:GARMIN (ガーミン) が開発・販売している衛星通信デバイス。携帯電話の電波が届かないエリアでも、双方向通信が可能でSOS発信機能も搭載されている。最新機種の「inReach Mini 2」は、小型&軽量で、重量は100g。

信越トレイル、みちのく潮風トレイル、摩周・屈斜路トレイルのトピック

■信越トレイル


2022年に、6年ぶりに開催した『信越トレイル バックパッカーズミーティング』。

2021年に延伸して、全長110kmのロングトレイルとなった『信越トレイル』。信越トレイル事務局に聞いたところ、2022年は、110kmのトレイルとなって初のフルシーズン運営となったが、問題なくシーズンを終えることができたとのこと。

歩く人も多く、約80kmから110kmと距離が伸びてハードルが上がったものの、多くのハイカーがスルーハイキングをしたとのこと。

また、昨年は6年ぶりにロング・ディスタンス・ハイカー向けの2泊3日イベント『信越トレイル バックパッカーズミーティング』を開催。参加者にとっては、ロング・ディスタンス・ハイキングのエッセンスを体験する貴重な機会となった。

■みちのく潮風トレイル


砂浜を歩くセクション。 photo by Yuji Nakajima

2019年全線開通した『みちのく潮風トレイル』は、2019年から2023年4月までの累計で、全線踏破者数が100名を突破。

また、ハイキングマップブックの海外注文や、海外からの問い合わせも増えているそうで、春以降は海外ハイカーの増加も見込まれる。

今年は、みちのく潮風トレイルに接続する「ふくしま浜街道トレイル」の全線開通も予定されている。

■摩周・屈斜路トレイル


延伸の終点となる美幌峠からの眺め。

2020年10月に開通したばかり『摩周・屈斜路トレイル』だが、2022年度の踏破者は88名と、想定以上のハイカーが歩いている。

今年度中には、屈斜路湖を一望できるスポットとしても有名な美幌峠まで延伸予定。実現すれば、全長が現在の50kmから62kmになる見込みだ。

現在、既存のルート (舗装路) の一部をトレイルにリルートした箇所もあり、延伸ルートも含めてトレイル率を高めるアクションも行なっている。今後、よりトレイルの割合を高めていく予定とのことなので、期待したい。

What’s LONG DISTANCE HIKERS DAY?


大勢のハイカーでにぎわった今年の『LONG DISTANCE HIKERS DAY』。

日本のロング・ディスタンス・ハイキングのカルチャーを、ハイカー自らの手でつくっていく。そんな思いで2016年に立ち上げたイベントです。ロング・ディスタンス・トレイルを歩いたハイカーが、リアルな旅の体験を発信できる場。ロング・ディスタンス・ハイキングの旅の情報や知恵を交換できる場。旅のあとのライフスタイルについて語り合える場。そんなふうに、ロング・ディスタンス・ハイキングの旅を愛するハイカーにとって、最もリアルな人と情報が交流する場となればと思っています。

このイベントを立ち上げる前に、私たちは『LONG DISTANCE HIKING』(※4) という書籍を出しました。この本は、ロング・ディスタンス・ハイキングのカルチャーとTIPSを詰め込んだ本。しかし書籍というフォーマットは、リアルタイムな情報の更新は不向きです。書籍とは別に、必ずリアルタイムで、ダイレクトな情報を届ける場が必要になると考えていました。それが、このイベントが生まれたきっかけのひとつでもあります。

数百km、数千kmにおよぶ歩き旅とは、どんな体験であり、どんな感覚を与えてくれるものなのか?映像や雑誌などの情報からだけでは感じられない、ハイカーの生の言葉で語られる旅の記憶や記録。またそのハイカー自身の人柄。そこには旅への憧れや臨場感を刺激してくれる、豊かでリアリティある情報が溢れています。

※4 『LONG DISTANCE HIKING』:TRAILSの出版レーベル第一弾として出版した書籍。Hiker’s Depot(ハイカーズデポ)長谷川晋氏による、自身の経験と数多くのロング・ディスタンス・ハイカーのリアルな声をもとに制作した、日本初のロング・ディスタンス・ハイキングにフォーカスした書籍。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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