TRAILS 環境LAB

TRAILS環境LAB × 鮭川村 | SALMON RIVER 「鮭の上る川を次世代に繋ぐ」イベントレポート

2023.12.15
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文:Kaoru Honma 構成:TRAILS

『TRAILS環境LAB』は、「STUDY(知る)」×「TRY(試す)」という2つの軸で発信していくシリーズとして、スタートした。今回は「TRY(試す)」のレポートをお届けする。

これまでは「STUDY (知る)」として、松並三男くんの鮭を通じた環境保護活動にフォーカスして連載を行なってきたが、いよいよ「TRY(試す)」として、TRAILSが鮭川の現場に遊びに行った。

TRAILS環境LAB x 鮭川村で、「SALMON RIVER トーク & エクスペリエンスツアー」を企画し、10/21 (土) には、TARILS INNOVATION GARAGEにて、トーク & ワークショップを開催。そして、11/25 (土)〜26 (日) は、山形県鮭川村でのエクスペリエンスツアーを開催した。 (事前告知の内容はコチラ)。

そして今回、TRAILS crewのトニー、ロング・ディスタンス・ハイカーの本間馨くん、そして鮭川に興味をもったハイカーたちが鮭川に向かった。


「鮭川エクスペリエンスツアー」に参加したハイカーと、鮭に関わる鮭川村のみなさま。

本間くんは、PCTハイカー (Class of 2017) であり、『LONG DISTANCE HIKERS DAY』にも何度も登壇してくれていて、TRAILSとも長い付き合いのハイカーだ。

そこで今回の記事では、本間くんに、『SALMON RIVERのトーク & エクスペリエンスツアー』のレポート記事を書いてもらうことにした。

ハイカーとしてロング・ディスタンス・ハイキングの経験、登山道整備への参加など、さまざまな形で自然との付き合い方を模索してきた本間くんが、実際に現場を体験してどう感じたのか? ハイカーの視点から率直にレポートしてもらう。


今回、レポート記事を書いてくれたロング・ディスタンス・ハイカーの本間くん。(TRAILS INNOVATION GARAGEでの木製ルアーの自作ワークショップにて)

トーク & MYOGワークショップ


TARILS INNOVATION GARAGEで開催したトークショー。松並くんの鮭川村での3年間の活動と生活を振り返った。

11月の「鮭川エクスペリエンスツアー」に先駆けて、3年間にわたり連載レポートを書いてくれた松並くんを東京に迎えて、鮭川村での活動を振り返るトークショーと、木製ルアーづくりのMYOGワークショップが行なわれた。

これまで、記事上でもたくさんのことを語ってくれた松並くん。現在の彼の暮らしや次の展望なども含め、生の声を伝えてくれた。

鮭とともにある暮らしについて、そしてその営みを次の時代に手渡していくためのアクションとして、いま何が考えられるんだろう?

スクリーンのスライドとともに、松並くんが海洋プラスチックゴミの研究をしていた学生時代から、鮭川村へ移住し、鮭の利活用というテーマに取り組んだ濃密な3年間を振り返る。


鮭魚醤の試作品の数々を、松並くんが2日前に釣ったスズキの刺身で試した。何種類か味わってみたが、凝縮した深い旨味を感じた。

村の農家さんたちにとっての「朝活」だという鮭の現場。そこでの採卵・人工受精の様子などとともに、鮭の身をおいしくするために松並くんがはじめた血抜きがだんだん定着していっていることや、新しい人工孵化の方法として実験的に行なっている「発眼卵放流 (はつがんらんほうりゅう)」のことなどを報告してくれた。

スライドに映る村の景色は雄大で、鮭川村が豊かで美しい土地なんだってことがわかる。そして、鮭に関わる人々の姿。

松並くんは単に手つかずの自然の姿を維持するというのではなく、人が鮭とかかわり、育んできた村の文化を残していきたいという。そのために、遡上してくる鮭に新しい価値を見出そうという取り組みは、鮭の身をまるごと無駄なく使いきって作る鮭魚醤として、具体的な形になろうとしている。


MYOGワークショップでは、会津桐の端材を用いて木製ルアーを自作。

MYOGワークショップでは、松並くんを講師に、参加者全員で木製ルアーを作った。松並くんの作るルアーは、会津桐の端材に錘と針金を仕込み、貼り合わせたもの。

プラスチックルアーのかわりに木製ルアーの自作をはじめたのは、釣りにのめりこんでいく中で目にした海洋ゴミの問題があるという。海洋汚染は大きくて重いテーマではあるけれど、「楽しみを損なわずに、対策を探っていく」という松並くんの姿勢は、なんだか心を軽くしてくれる。

鮭川エクスペリエンスツアー① 遡上する鮭の現場視察


鮭採捕の現場で鮭を扱う松並くん。

今回のツアーで視察した鮭採捕の現場は、鮭川の支流のひとつにウライという金属の籠 (かご) を仕掛けて、そこにかかった鮭を獲るもの。昨日、現場を下見したときは雪がパラパラと降り、芯からこごえるような風が吹いていたものの、さいわいこの日の天気は穏やかで、川面には朝日がきらめいていた。

6時半ごろになると、鮭に関わるメンバーの方たちの車が次々と川岸にあつまってきた。この日は10名。すぐに作業がはじまり、ウライの籠のなかに人が降りたと思ったら、あっという間に何匹も鮭が入った網が運ばれてきた。


あげられた鮭を手にとるトニーくん。思った以上にずっしりと重い。

あがった鮭を気絶させ、卵を取りだし、タライいっぱいに集めた卵を人工授精させる。松並くんは「15分ぐらいで終わる毎朝の朝活」といっていたけれど、本当に見事な手際で、あれよあれよという間に採卵のおわった鮭が分配用の木枠のなかに並んでいった。

朝活を見てトニーくんは、「意味合いは違えどハイカーで言う、朝のパッキングやストレッチ、鮭川村で鮭に関わる人たちからすればそれくらい当たり前の日常であり、生活の一部でもあるんだなぁ」と言った。たしかにそうかもしれない。

あがった鮭は20匹ほどで、この日は少ないという。でも、ずらりと並んだ鮭の大きさと迫力はそのまま、遡上した鮭たちが還っていくこの川の豊かさを感じさせるものだった。


人工授精のために、まずは人の手で採卵する。

流れるように進んでいく作業のなかでも、鮭に関わるみなさんが鮭を丁寧に取り扱っている様子が印象的だった。そして何より、「みんな優しくてかっこいい」と松並くんがいう通り、黙々と作業をする背中に、この土地における鮭の伝統とともに生きる人たちの力強さを見た気がした。

人工孵化のための作業が終わると、鮭の活き締めを松並くんに教えてもらった。持ち上げた鮭はずっしり重たく、近くで見る顔つきは迫力満点。

血抜きのためエラに深くハサミを入れると、コンテナ容器の水はすぐに、勢いよく流れでた血で真っ赤に染まっていった。たしかに血が多そうだ。


松並くんの手ほどきのもと、神経締めも体験させてもらった。

希望者は神経締めも体験させてもらった。はじめてのことでなかなか難しかったが、鮭の大きな体からスッと力が抜けていく手ごたえは、ひとつの命を扱っているということを強く感じさせる。みんな真剣な顔でのぞんでいた。

「一匹一匹の命を大事に扱いたい」という松並くんの言葉を思いだしていた。長い旅を終えて故郷に帰ってきた鮭たちと思えばなおのこと、お疲れさまでしたと手を合わせたくなる。

都市で暮らしていると、自分がほかの命とかかわって生きているということを、つい忘れてしまう。

それだけでなく、自分が持っているはずの生きる力からも、遠ざかっているような気がすることがある。たとえば僕がハイキング中の生活に安心を感じることがあるのも、もしかしたらそんな気持ちの裏返しなのかもしれないなと、ふと思った。

鮭川エクスペリエンスツアー② 「鮭の新切り (ようのじんぎり)」づくりの体験


「鮭の新切り」づくりの作業風景。

旅館から車に乗り、鮭川村エコパークへ移動した。滞在型自然公園ということで、池や森のある広い敷地にコテージやキャンプ場、売店やレストランまである立派な施設だ。ここで、鮭川村の郷土食である「鮭の新切り (ようのじんぎり)」づくりを体験させてもらった。

教えてくれたのは、鮭川村の鮭文化の継承に取り組んでいる「サーモンロードの会」の会長で、朝の現場でもお会いした矢口春巳さん。さばき方から教えてもらった。


中央右、矢口春巳さんが「鮭の新切り」づくりを教えてくれた。

使ったのは今朝自分たちで活き締めした雄の鮭だ。エラを切りとり、内臓や血合いを取って一度洗ってから、体だけでなく鱗の中まで、たっぷりの塩を入れていく。

みんな最初はおそるおそるでも、丁寧に教えてもらいつつ塩漬けまで完了。こんな大きな魚をさばく機会というのも、なかなかないはず。今日つくった新切りはこのあと冬のあいだ干されて、2月ごろ、それぞれの参加者のもとに届くとのことで、すごく楽しみだ。


参加したハイカー全員が、初めての体験。みんな真剣そのものだった。

海から60kmも離れた鮭川村では、昔から冬場の貴重なたんぱく源として、鮭の新切りを食べてきたという。塩漬けにして干すというと単純なようだけれど、ただ乾燥するのともちがって、鮭川村の気候がつくりだす独特の味わいになるという。文字通り、他にはない土地の味ということなんだろう。

「自然とのつながりを保つため、サーモンロードの会をやっている」と矢口さんは教えてくれた。


最後の工程で、たっぷりの塩を入れていく。

こうして郷土に伝わるものには、祖先たちが暮らしのなかで自然を見つめて生きていく中で育んできた深い知恵があふれているに違いない。自分たちはそうした知恵を受け継いでいけるかどうかの、いよいよ本当の瀬戸際に立っているように思う。

自然を見る眼差しが失われてしまったら、僕たちが自然を顧みることはもっと難しくなるだろう。それになにより、先祖との文化的なつながりがなくなった僕たちというのは、糸の切れた凧のようで、とてもさみしい気がする。


塩漬けまで完了した鮭。これを干して乾燥させれば完成する。2月ごろに手元に届く予定なので楽しみに待ちたい。

何かを理解したいと思うときには、実際にやってみることが一番に決まってる。手を動かして、より深く知っていくのは本当に楽しいことだ。新切りづくりを伝えていく矢口さんたちの活動は、郷土の文化を守ることにつながっていくはず。

トニーくんは、「伝統を繋ぐということと、トレイルを維持することは似ていると感じた。それまで繋いできた人たちのバトンを、次に繋げることが大事だ」と言っていた。

鮭川エクスペリエンスツアー③ 鮭川でのパックラフト


トニーくんと松並くんと僕で、鮭川をパックラフティング。

エコパークのレストランで昼食をして2日間のツアーは終わり、僕とトニーくん、それに松並くんを残して、他のハイカーはツアーが準備してくれた送迎車で新庄駅へと帰っていった。

僕たちは鮭川の川岸に移動して、前日に下見していたポイントから、東京から持ってきたパックラフトで川に入った。遡上する鮭を岸から眺めることができたが、できることなら、実際に川に入ってもっと間近に見てみたい。


松並くんと僕はタンデム (二人乗り艇) で、鮭川をくだった。

トニーくんは一人乗り、僕は松並くんとタンデム (二人乗り艇)。僕はパックラフト初体験なので、後ろに松並くんがいてくれるのはありがたかった。

水深が浅く、おだやかな清流のなかを進んでいく。なかなか鮭は見つからないけれど、きれいな川の中は本当に気持ちがいい。


悠々と流れる鮭川を漕ぐのは、自然にいだかれる感じが味わえて、とにかく楽しかった。

悠々と鮭川の真ん中を流れながら、のどかな里の景色を眺めている。平和だ。僕には見当がつかないのだが、「あのあたりに鮭がいそう」と松並くんが教えてくれる。僕には見えない自然の姿が見えるのは、松並くんが川に親しみ、自然を相手にたくさん遊んできたからなんだろう。

流れは勢いを強めながら大きくカーブしていく。そこが、松並くんが高台から見て村への移住を決めたという、雄大な馬蹄型の蛇行だった。

役場の壁にかかっていた絵にもこの場所が描かれていて、鮭川村にとっても象徴的な場所なのだろう。自然の力に逆らわず、暮らしと景観が一緒に守られているようなこの場所を川から眺められるのは嬉しかった。こういう景色は、自然というものがとても複雑な作用によって成り立っていることを教えてくれる。長い年月でつくられた自然の中の形にはみんな理由があるし、それを知ることは謙虚な気持ちにもさせてくれる。

カーブを過ぎれば、流れは再びゆるやかになり、橋の上に、迎えに来てくれた地域おこし協力隊の武長さんの姿が見えた。それを過ぎた岸が今回の川下りのゴール。


ゴール地点で目にした鮭の死骸。

ゆっくり岸へ近づいていくと、接岸しようとしたあたりに、鮭の死骸がいくつも浮いているのが見えた。流れの緩い堆積部に自然と流れ着いたのだろう。傷んだものもあれば、ほとんど無傷に見えるものもある。

遡上した鮭はこうして死んでいくことで動植物を支え、環境を豊かにしていくという。残念ながら泳ぐ鮭の姿を眺めることはできなかったが、最後に、遡上した鮭がたどり着く、そのあるがままの姿を見ることができた。

トニーくんは、「パックラフトで上流側に向かって漕ぎ進めることがこんなにも大変なのに、鮭はこれを何千kmも海を泳いだ後に故郷の川に戻ってきて遡上をする。最後に力尽きた鮭を見つけた瞬間に思わず、お疲れさまと自然に言葉がでた」と言っていた。


息途絶えた鮭が、他の動植物を支え、環境が豊かになっていくのだ。

ある意味、これは鮭が姿を変えて森や川を育てていく、もうひとつのはじまりの姿なのかもしれない。「これがリアルです。これでいいんです」という松並くんの言葉が深く印象に残った。

パッキングし身支度を整えると、あたりはもうすっかり暗くなっていた。これで今回のツアーは本当に終わり。帰りの新幹線の時間がせまるなか、松並くんおすすめの温泉に立ち寄って冷えた体を温めた。滞在した紅葉館の温泉も最高だったし、ここも素晴らしかった。雄大な自然、鮭とともにある文化、そして温泉まで。ほんとうに多彩な魅力を味わった、鮭川の2日間だった。


左から、僕、松並くん、トニーくん。鮭川村の自然と文化を味わい尽くした2日間だった。

TRAILS環境LABをスタートしたときに頭に浮かんだのは、 “ 大自然という最高の遊び場の守り方 ” というワードであった。

自分たちの遊びと旅のフィールドである自然環境について、自分たちなりに勉強し理解する。自分たちが当事者の一端となり試してみることを実行していく。そのために「STUDY (知る)」と「TRY (試す)」という2つの軸をつくった。

実際に鮭川に足を運んで「TRY」をしてきた今回。鮭の現場の様子、鮭の新切り (ようのじんぎり) づくり、そして鮭川でのパックラフティングなど、普段とは異なる角度から自分たちが遊ぶフィールドである自然を、身をもって体験した。そして自然との向き合い方について一歩踏み込むことができたように思う。

この経験を、今の生活でどう生かせるのか、ハイカーとしてどう生かせるのかを考え、実践していきたい。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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