トレイルメンテナンスツアー2024 | 仲間のハイカーたちが支える信越トレイル
文:Tony 写真・構成:TRAILS
ロングトレイルにとって重要なのは、トレイルをつくって終わりではなく、維持管理の仕組みをきちんとつくることにある。
維持管理において重要なのが、トレイルメンテナンス (トレイル整備) 。これは大事なトレイルカルチャーのひとつである。
ロング・ディスタンス・ハイキングの本場であるアメリカのトレイルメンテナンスのカルチャーを、日本のハイカーにも体験してもらう受け皿として、2013年にHiker’s DepotとTRAILSで共同企画、運営することになったのが、この信越トレイルのトレイルメンテナンスツアーのはじまりだ。コンセプトは「自分たちの遊び場は自分たちで守る」。
今年のツアーには、TRAILS Crewからはトニー & サニーが参加してきた。ということで、今年の信越トレイル トレイルメンテナンスツアーを、参加ハイカーのひとりであるトニーからレポートしてもらった。
仲間のロング・ディスタンス・ハイカーたちが支える信越トレイル。
今回はGARAGEの相棒、サニーと信越トレイル・トレイルメンテナンスツアーに参加。ツアーの1日目は、信越トレイルのデイ・ハイキングし、その後トレイル沿いの集落を散策、そして夜は集落での懇親会という内容。
デイ・ハイキングでは、一緒に歩いたハイカーとトレイルメンテナンスに参加したきっかけや、どのセクションが好きかなど、信越トレイルを肴 (さかな) に盛り上がった。同じトレイルの思い出、同じ目的を持ったハイカー同士のつながりが生まれるのは、ロング・ディスタンス・ハイキングの魅力のひとつだ。
サニーも、「明日はトレイル整備をするんだと思って歩くと、今までと違う視点でトレイルを見るようになる」と、すでに明日のシミュレーションが進んでいるようだ。
この日のツアーは、仲間のロング・ディスタンス・ハイカーたちもさまざまな形で運営に携わってくれていた。
主催である信越トレイルクラブのメンバーとしては、AT (アパラチアン・トレイル ※1) のスルーハイカーである栄治さん、有希さんの2人。栄治さんはATをスルーハイキングした翌年、2017年から事務局業務を担っており、総延長が80kmから110kmへと延伸した際の立役者の1人。有希さんも同じく、2018年にATをスルーハイキングした後に事務局業務を担っており、ATとの友好協定においても中心的な人物として活躍している。
またPCT、CDT のスルーハイカーである小角 (おづぬ) くんは、現在は信越トレイルのガイドもやっており、この日はゲストで参加してくれた。小角くんのガイドは評判が高いと聞いていたが、自分も信越トレイルに対する知識や思いを、楽しみながらアップデートすることができた。
ここに紹介した3人とも「LONG DISTANCE HIEKRS DAY」(※2) にも登壇してくれているハイカーで、TRAILSの仲間のハイカーたちだ。こうしてアメリカの本場のトレイルカルチャーを知るロング・ディスタンス・ハイカーたちが、信越トレイルのカルチャーを支える一員になっている、ってやっぱり信越トレイルはアツい!
トレイル整備をすると、トレイルとの距離が縮まったような気持ちになる。
2日目は、トレイルメンテナンス (トレイル整備) の日だ。
天水山山頂〜松之山口のセクションがこの日の整備区間。先に感想を言ってしまえば、トレイルメンテナンスは楽しい!自分が好きなトレイルにちがう形で関わることができ、トレイルとの距離が縮まったような気持ちになる。
さて、参加したハイカーが朝に集合すると、まずは信越トレイルクラブからトレイル整備の考え方や注意点について、栄治さんがガイダンスを話してくれた。
そのガイダンスのなかに「生物多様性の保全を基本にします」というのがある。信越トレイルのトレイル整備は、重機を使って自然に大きな手を入れることはせず、基本的に人の手による整備をしている。
今回のツアーでもそのようなトレイル整備の方法を、僕たちも体験した。これは加藤則芳さん (※3)が大事にしていた、ウィルダネスを守るという考え方が根底にある。自然のなかを旅する者が、自然の素晴らしさに気づき、守り方を知り、実践するべき、ということだ。
この日の作業内容は、「ステップ切り」「除草」「枝払い」。自分は、このなかでも「ステップ切り」という足場づくりを主に担当した。
冬のあいだに、雪でステップ (段差) が崩れた傾斜のところを、スコップでステップをつくり、その後、その土を固めるという作業だ。自分もこの区間を歩いたときに、足を滑らせそうになったことがあったので、こうすれば滑りにくくなるかなと工夫しながらステップをつくった。こうやったハイカーの視点を想像しながら、トレイルをつくっていくのは、なんとも楽しい作業である。
信越トレイルは、毎年雪に閉ざされて、雪解けをしたら、整備してまた歩けるように、というのを繰り返す。
「雪国の冬は厳しいんすよね。それでも毎年トレイル開きを設定して、それを目標に『とにかく整備に動く』という様子が、多くの人に安全に楽しんでほしいという願いが聞こえてくるみたいで、自分も胸がアツくなりましたよ」と言うサニー。僕も激しく同感だ。
アメリカで出会ったトレイルメンテナンス・クルー。
僕が初めてトレイルメンテナンス・クルーと出会ったのは、2015年にPCT (パシフィック・クレスト・トレイル ※4) を歩いたときだった。そのときに「こういう人たちがいるから、自分が旅をできているのだ。ありがとう」という気持ちが芽生えた。
PCTから帰国してからは、僕のなかでトレイルカルチャーへの恩返しをしたい、という思いが日増しに強くなっていった。
昨年の2023年に、コロラド・トレイル (※5) をスルーハイキングした際に、再びトレイル上で、トレイルメンテナンス・クルーと出会った。声をかけてみると、このクルーはトレイルメンテナンスのボランティア・プログラムに参加しているという、地元の高校生たちだった。
僕はまず「ありがとう」と感謝を伝えるとともに、なんでトレイルメンテナンスに参加しているのかを聞いてみた。返ってきたのは「このロッキー山脈が好きだから」というシンプルな答えだった。
子供の頃から家族でロッキー山脈を歩いていて、この山が好きだから、自分で何かできることがないか、と思って参加した、とのことだった。そして「いつかはコロラド・トレイルやCDT (※6) を歩いてみたいの!」と言う。この言葉を聞いて、素敵すぎる!と胸を打たれた。
コロラドの若きメンテナンス・クルーたちは、別れ際に「この先のトレイルは、私たちが整備したから、歩きやすいはずよ!」と誇らしげに僕に伝えてくれた。
自分たちの遊び場は自分たちで守る。
この信越トレイルのトレイルメンテナンスツアーのはじまりとして、Hiker’s DepotとTRAILSでこのツアーを共同企画、運営することになったのが2013年。
今でこそ、ハイカーを始め、トレイルランナーたちのあいだでも、トレイルメンテナンス (トレイル整備)は一般的になってきたが、当時はボランティアでハイカーが参加できる仕組みもほとんどなかった頃だった。
アメリカのロングトレイルから学び、地元の人やハイカーなどのボランティアをベースに、トレイルメンテナンスをする仕組みを、日本で最初に取り入れたのが信越トレイルだった。
その仕組みやトレイルメンテナンスというトレイルカルチャーを、日本でも根づかせるきっかけとして、このトレイルメンテナンスツアーをつくっていった。
信越トレイルの栄治さん、有希さん、小角くん、Hiker’s Depotの長谷川さん、TRAILSのサニーと僕も、みんなアメリカを歩いたことがあるロング・ディスタンス・ハイカーだ。
ハイカーがベースでつくってきたトレイルメンテナンスツアーだから、根っこには「自分たちの遊び場は自分たちで守る」という思いがある。そのバイブスが、僕はとっても好きだ。
信越トレイルのトレイルメンテナンスに興味を持ったハイカーは、信越トレイルクラブでは随時、整備ボランティアを募集しているので、信越トレイルのホームページ (https://www.s-trail.net/) をチェックしてみて、ぜひ参加してみてほしい。
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