MYOGer NIGHT | メーカームーブメントの新たな系譜となるか。2020年代のMYOGerたちによる熱狂 (後編)
取材・文・写真・構成:TRAILS
2024年2月某日。TRAILS INNOVATION GARAGE (以下、GARAGE) にて、第1回「MYOGer NIGHT」が開催された。異様な熱気に包まれた、この夜の出来事をここに記録しておきたい。
今回のMYOGer NIGHTのレポートは、前編・後編の全2回でお届けする。前編では「MYOGer NIGHTとは?」を中心にお届けした (前編の記事はコチラ)。今回の後編では「参加者したMYOGerたちの体験談」を中心にレポートする。
前編でお伝えしたように、MYOGer NIGHTの会場では、GARAGEに訪れるMYOGerたちから予感していた熱狂が、その場でカオスとなって新たな化学反応を起こしていた。
今回の記事では、その「熱狂」をダブルクリックして、解像度高くレポートしたい。
どんなMYOGerが集まったのか。彼ら・彼女らはどんなギアをMYOG (MAKE YOUR OWN GEAR) したのか。そして、会場で起きていた熱狂をそれぞれのMYOGerがどのように受け取っていたのか。その場にいたMYOGerの生の声をもとに、熱狂の詳細を伝えていきたい。
また本レポートとは別に、MYOGerたちが自作したギアについて新たな連載を始める計画もあるので、そちらのレポートもぜひお楽しみに!
MYOGer NIGHTに参加したMYOGerたち。
MYOGer NIGHTには、MYOGの経験がある人から始めたばかり人まで、さまざまなMYOGerたちが集まった。
実は当初はこれほどの人数を集めてやる予定はなく、もっと小規模な集まりを想定していた。しかし開催を告知しはじめると、次々に参加したい!というMYOGerたちからの連絡が届いた。
TRAILSの中でも、MYOGer NIGHTの日のことを振り返って、あの日に起きていたことを語り合っていた。
—— サニーはGARAGEの「MYOG番長」として店頭に立っていて、普段からも接してるMYOGerたちが会場にたくさんいたよね。あのMYOGer NIGHTの日はどう感じていた?
サニー:「熱狂、その一言に尽きる夜ですよね。手練れの変態 (褒め言葉) から始めたばかりのMYOGerまでいましたが、お互いの敷居もなくジェントルな空気でありつつも、濃い質問や称賛が飛びかう良い時間でした。日頃からGARAGEに来てくれているMYOGer同士が、『同類よ、ここにいたか!』と盃を交わす姿は戦友のようにも、ライバルのようにも映り、胸がアツくなりました。」
—— カズさんの場合は、会場で初めて会ったMYOGerも多かったかもしれないけど、現在のMYOGerたちの雰囲気はどうだった?
カズ:「参加したMYOGerのほとんどが初対面同士だったはずなのに、MYOGという共通言語を通して即座に意気投合してて、最初の時点から妙な熱気を感じたよね。あとはMYOGerたちの熱量というか、山に行って、考えて、作って、見せて、情報交換をして、改良して、また使って、ってさ。なんか2010年代のガレージメーカーとかULカルチャーの感じを思い出して、個人的にもすごい嬉しい時間だった。」
—— トニーはGARAGE店長として、お店やSCHOOLでもいろんなMYOGerと接しているけど、改めてMYOGer NIGHTをどう振り返っている?
トニー:「あの場にいたMYOGerはみんな、止まらない好奇心を持っていて、自分がつくりたいギアへの思いが顔から漏れちゃって感じでしたよね。僕はアメリカのPCT (※1) を歩いたときに、” We are PCT Hiker.”(※2) というハイカーの言葉に助けられたのですが、MYOGer NIGHTの場は”I am MYOGer. You are MYOGer. We are MYOGer!”という空気があって、ロング・ディスタンス・ハイカーのような同志感が感じられて、ちょっと感動しました。」
MYOGer AWARD。
MYOGer NIGHTでは、MYOGerが持ち込んだ、各自のMYOGしたギアを、作り手のこぼれでる思いをたっぷり込めて熱弁をふるってくれた。
こだわりのギミック、苦労した部位、どんな使用用途を想定したのか、そしてなぜこれを作ろうと思ったかという初期衝動的な思いなどを、各々が語っていく。オーディエンスからは「そこはどういう構造になっているの?」とか「何を参考にしたの?」とか、ほとばしる好奇心とリスペクトの込もったQ&Aのラリーが続く。
全員のMYOGの紹介が終わったところで、この日のAWARD (賞) の投票へと移った。第1回のMYOGer NIGHTでは3つのAWARDを設けた。
BEST MYOGer:
最も”Excitement (面白い、興奮した、興味をそそられた)” と感じたMYOGerとして、会場の参加者から一番多く票を集めたMYOGerに送られるAWARD。
BEST STARTER:
TRAILSによる選出で、MYOGを初めて1年以内のMYOGerで、最も”Challenging”と感じたMYOGerに送られるAWARD。
ULTRALIGHT CLASSIC:
TRAILSが熱狂する実験的でイノベイティブなULカルチャーにおいて、その大事なエッセンスである”Simple × Classic × Super Ultralight”を感じさせてくれるギアをつくったMYOGerに送られるAWARD。
会場全員の集中がぐっと高まったところで、AWARDの発表がスタート!
票が集まったMYOGerに対して、会場全員が称え合う光景は、まさにお互いをつくり手同士としてリスペクトし合う、ピースフルな雰囲気であった。
■「BEST MYOGer / BEST STARTER」:サコッシュ兼バックパック by KANEYAN
第1回目MYOGer NIGHTの「BEST MYOGer」に輝いたのは、会場を大いに沸かせたKANEYAN。彼はまだMYOGを始めてから1年も経っておらず、同時に「BEST STARTER」にも選ばれダブル受賞となった。
KANEYANがMYOGしたのは、一見なんの変哲もないDCFでつくったサコッシュ。それが折り畳まれたところをシュルシュルと伸ばしていくとバックパックにトランスフォームするというギア。
ショルダーストラップの取り付け位置を変えることで、サコッシュからバックバックに変身させる細かなギミックはみんなを唸らせた。なによりそのトランスフォームのあっと言わせるあでやかさや、細い縦長のフォルムのバックパックを見せて「フランスパンでも大根でもネギでも、長物だったらだいたい入る大きさのバックパックになります」というユーモアも会場を沸かせた。
■「ULTRALIGHT CLASSIC」:バックパック by KEISUKE
「ULTRALIGHT CLASSIC」のAWARDをゲットしたのはKEISUKEくん。彼がMYOGしたのは、UL史における名品であるGossamer GearのRiksakをベースにした、”Simple × Classic × Super Ultralight”を体現するバックパック。
シルナイロン 20Dを使用したスタッフサックのようなシンプルな袋に、これまた薄いショルダーハーネスを付けただけのバックパックだ。シルナイロンという、ULのクラシック (定番) でありアイコン (象徴) であるファブリックを使用したMYOGであることも選出理由の1つだ。
第1回 MYOGer NIGHT参加者 14名の体験談。
ここからは実際にこのイベントに参加したMYOGerたちの生の体験談を通して、このMYOGer NIGHTがどんなイベントだったのか?という空気を感じてもらいたい。
まずはAWARDを受賞したKANEYANとKEISUKEくんの声からお届けしたい。2人ともGARAGEの常連で、多作なMYOGerである。この2人も、MYOGer NIGHTから新たな刺激を受け取ってくれたようだ。
KANEYAN:「最近MYOGを始めた人から、自分のブランドを出している人までいろいろな人がいましたが、みなさん、熱量、アイディア、MYOGにかける思いがひしひし伝わってきました。MYOGしている人同志はなかなかリアルの場でつながることはできないので、いろんなMYOGerと直接お話をできたのはよかったです。」
KEISUKE:「こんなにたくさんMYOGやっている人がいるんだ、と驚きました。素人からスタートしてもディテールやギミックまでこだわったバックパックを作れるようになるんだ、というのもわかって、自分が勝手に設定してしまっていた限界値を、もっと上まで上げることができました。」
多くのMYOGerが挙げてくれたのが、今まで実感したことがなかったMYOGer同士の強烈なシンパシーと、今回のMYOGerたちから立ち込めるグラスルーツ的な「始まり」の予感だ。
MASA:「自分とおなじニオイがする人がいっぱいいるに違いないと思い参加しました。それは期待どおり!うまいクラフトビールを飲みながら、たくさんの人がMYOGしたものを見て触れて、思いが聞けるって最高や!と思いました。MYOGのTIPSについて情報交換できたのもよかったです。」
TOMU:「スタートアップの始まりを目撃しているような感じもしました。MYOGerを見るファンとしても面白かったです。アイディアが形になっているのを見るのが楽しかったですねこういったMYOGerが集まる場所は他にないので、よい場だと感じました。」
前編の記事では「メーカームーブメント」についても触れたが、まさに2020年代の新しいMYOGerやガレージメーカーのうねりを会場で明確に感じとった人たちもいた。会場には日本のULガレージメーカーの第一世代の、RUNBLURさんも参加してくれた。
RUNBLUR:「MYOGer NIGHTの告知を見て、これは行かないと!という勘が働きました。2012年にHiker’s Depot主催によるHiker’s partyのMYOG回がありましたが、その次の世代が来ているのではないか?という予感がありました。
参加してみて、やはりどの時代も光る人たちがいるんだなと感じました。ミシンを使い始めて2週間で作っちゃいましたとか、いきなりクオリティが高いものをつくっている人がいたりとか、そのあたりは時代も感じましたね。」
次に紹介する2人はMYOGを始めたばかりという方たち (1ヶ月~1年未満)。その中の一人のKANCHIくんは、初めてのMYOGでバックパックを作ってしまったMYOGer。ワクワクできる気持ちさえあれば、早い段階から高いレベルのMYOGを実現できる時代であることを実感。
KANCHI:「周りにMYOGをやっている人がいないので、MYOGやっている人たちと話をしてみたく参加しました。自分がこういうのつくりたいというアイディアと、それを自分でつくっちゃう熱量とかに刺激を受けました。」
AKKUN:「自分はまだMYOGを始めて1ヶ月です。でも参加している人ではMYOG歴1年でバックパックつくっている人たちもいて、1年でバックパックまでつくれるようになるんだ!と夢や希望をもらいました。」
今回の会場では、MYOG歴も、スキルも、つくりたいギアもみんなばらばらであった。しかし各々の個性がぶつからず、お互いをつくり手としてリスペクトし合い、カジュアルでイージーな空気ができあがっていたことは、TRAILSとしても感謝しかなかった。
KYU:「私はすぐさぼっちゃうんで、熱量が高いMYOGerの方たちと触れ合えて、自分もがんばらないと気持ちにさせてくれました。つくりかたのアイディアをもらえたり、細かいことも聞けて、そこから話が発展していくのも楽しかったです。」
DAISUKE:「人それぞれつくりたいものも縫製技術も違って、個人ごとの違いがあるところが、とてもよかったです。メーカーでもない、一般のMYOGerの方たちと、ゆるやかな雰囲気で話ができる、とても貴重な場でした。」
NENTA:「等身大のリアルなMYOGerに会ってみたいというのが、参加した最大のモチベーションでした。実際に参加してみると、ノリでやってみよう!というMYOGerが多く、みなさん型にとらわれていないのが、一番面白いところでした。」
YANAI:「MYOGerの新しい世代が集まった感じで、これからブランドをやってみたいという人とかもいて、新たな胎動のようなものを感じました。ハイカーとして等身大な感じのMYOGとか、荒削りでもアイディアが面白い人とか、とても刺激的でした。」
会場ではMYOGerたちの熱狂が、その場でカオスとなって新たな化学反応を起こしていた。その熱量が何よりも参加者たちの心に残っていた。
YAN:「堅苦しくない雰囲気がよかったです。そしてみなさんテンションがめちゃ高い。次から次へと、みんな面白いギアの紹介やこだわりの話をしてくれるから、盛り上がりっぱなしでした見たことないものばかりで、みんな発想力あるなー!と思いました。」
TAKE:「イベントからしばらく時間が経っていますが、いまでのその熱気だけはすごく覚えています。自分は今回のイベントをきっかけに、MYOGのルーツにあるロング・ディスタンス・ハイキングにも強い興味を持つようになりました。」
YASU:「とにかく熱量が半端なかったです。自分は小さいギアメーカーを始めて、自分が欲しいものを商品としてつくるようになっているけど、それってMYOGなのか?という自問もあります。そのなかで、参加者のみなさんがまさにOWN GEARとして、自分の作りたいものを純粋につくっている姿を見て、『かっこいいな。』と思わされました。」
今回のレポートにある参加者たちの体験談を通じて、MYOOGer NIGHTの空気を一端は感じていただけたのではないかと思う。冒頭でもお伝えしたように、本レポートとは別に、MYOGerたちが自作したギアについて新たな連載を始める計画もあるので、そちらのレポートも楽しみにしてほしい。
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