TRAILS REPORT

patagonia trip | パタゴニア・トリップ #02 パイネ・サーキットの6日間

2017.12.08
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パタゴニアという地名には、魔法のような響きがある。それはアラスカやヒマラヤといった地名が持つ響きにも似ている。「パタゴニア」と、頭の中でつぶやく度に、パタゴニアへと心がさらわれる。パタゴニアにはタフな旅のルポが多いけれど、レイドバックな感じの旅がハイカーには向いている。歩くスピードでゆっくりと、パタゴニアにしかない自然や景観を楽しみたい。

パタゴニアは、永遠と広がる大草原や、破格の大きさの氷河、その氷河によって削られてできた塔のような山など、人間が生きる時間とは別次元の地球の生きてきた時間を感じる。あまり急ぐ旅にはしたくない。

ふと、次に長い休みがとれたときに、パタゴニアに行っておくべきだ、と心に決めた。パタゴニアは、いつまでも「いつかは行ってみたいリスト」に入れたままにしておけない。日本からは飛行機で乗り継ぎも含めて34時間。アメリカのロサンゼルス、チリのサンチアゴと2度飛行機を乗り継ぎ、パタゴニアのプンタ・アレーナスという町に着陸した。

向かうはパタゴニアを代表するロングトレイルであるパイネ・サーキット。このレポートは、メインルートの”Wルート”だけでなく、「裏パイネ」もまわる”Oサーキット”を巡った6日間のハイキングトリップの記録である。

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HIKING BUDDYとの二人旅の山道具: [Shelter] Fly Creek UL3 / Big Agnes [Sleeping bag] BUDDY BAG / TRAILS [Sleeping mat] SYNMAT HYPERLITE DUO / EXPED [Backpack (Left)] Circuit(約50-60ℓ) / ULA equipment [Backpack (Right)] Steady(約40ℓ) / TRAIL BUM, and others(夏でも最高気温20度、最低気温5度と寒暖差が大きく、それに対応できるウェアー類をパッキング)

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パタゴニアは南米大陸の南端のエリア一帯を指す地名。そのなかは、アルゼンチン領、チリ領と2つの国にまたがっている。




パタゴニアを代表するトレイル「パイネ・サーキット」



Torres del Paine National Park

フィッツロイは、キャンプサイトに「森でうんちしていいよ」という看板があるようなルーズな感じが良い。一方、パイネ・サーキットはもっとしっかり屋さんで、トレイルもよりしっかり手入れされていて、パタゴニアの自然に浸りながらハイキングトリップできるトレイルだ。

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メジャールートのWルートは、標準日程でだいたい4〜5日。多くのハイカーはこのトレイルのみを歩く。Wだけでなく、パイネを一周するように歩けるのがOサーキット。Wルートにはない、静かなハイキングトリップができる。

パイネ・サーキットは、メインコースはWルート(The “W” trek) と呼ばれる、Wの文字の形にそって歩くトレイルで、パイネの塔(Torres del Paine)やグレイ氷河、フランセス渓谷など壮大なスペクタクルが毎日にように連続する。

Wルートだけでなく、Wルートの山の裏側にあるバックカントリーもまわって一周する周回トレイルがあり、それがOサーキット(”O” circuit)と呼ばれるトレイルだ。僕らはできるだけ長く歩きたかったので、このOサーキットを選んだ。Oサーキットは、距離は約120kmで、7〜8日あれば一周歩くことができる。僕らはキャンプ場がいっぱいのため、なくなく一部をスキップして6日間でこのトレイルを歩いた。



プエルト・ナタレスの南米のレトロな町並み



Puerto Natales

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僕は山のふもと町が好きだ。地元の人たちが、その生活や日常風景のなかに山が存在していて、町には旅人がよく訪れる。パイネの山に行くときには、プエルト・ナタレスという町が旅の基点となる。

トタンやガルバリウムの外壁や屋根に、木枠の付けたシンプルなつくりの家が並ぶ。外壁がパステルカラーの黄色や緑や水色のペンキで塗られた家が多く、南米のセンスを感じて愉快になる。もはや日本では見ないカクカクした古い型のいかしたクルマ。水辺のパークで、スケートボードやBMXでひまをつぶしている地元の若者たち。けだるそうに道の端に寝転がっている野良犬。夕食どきによさげなレストランを探して歩き回る観光客たち。町を歩いていて触れたひとつひとつのことも、僕らの旅の時間をかたちづくっていく。

この町からパイネ・サーキットまでは、バスで約1時間半。空港のあるプンタ・アレーナスからバスで約3時間の距離にある。この町にはアウトドアショップやスーパーもあり、ガス缶や食材の調達をすることができる。パタゴニア名物の羊の丸焼きを食べられるレストランもある。



DAY 1: “patagonia”のオフィシャルショップが、トレイルヘッドでお出迎え



アマルガ〜セロン 13km, 4h / Amarga to Serron

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パイネ・サーキットの入口にあるビジターセンター


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ビジターセンターに併設されている”patagonia”ショップ

パタゴニアで”patagonia”。それはがんばりますよね。創業者イヴォン・シュイナードが、自らがつくるブランドの名前にしたほど、インスピレーションの源になった場所なのだ。patagoniaショップを始め、入り口には立派なビジターセンターが建っている。ここは食料や山道具も買うことができ、近くには落ち着いたモダンなデザインのホテルもある。パイネは、テント泊で歩きたい旅慣れたハイカーだけでなく、山小屋やホテルなども充実しており、初心者やゆっくり過ごしたい人も受け入れてくれる。ちょっと観光臭が強くて嫌気がさす部分もあるが、これはこれで素晴らしい景観のトレイルを維持する一つの手段なのだと思う。さて、歩きはじめよう。

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トレイルヘッドから15分も歩けば、人工物のほとんどないトレイルに出る。僕らが歩き始めたのは、メジャーなW ルートではなく、マイナーなOサーキットなのでハイカーの数も少なく、ゆったりと歩くことができる。Oサーキットのバックカントリーサイドは、1日に最大80人しか人を入れないようにしており、自然へのインパクトをコントロールしているのだそうだ。そのためキャンプサイトや山小屋の予約がないと、トレイルに入ることもできない。

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花畑の広がる平原のなかで、初日のテント泊。ゆるい旅なので、テントは居住性を重視したビッグアグネスのフライ クリーク UL3。

初日のキャンプサイトは、谷あいのひらけた場所にあり、一面が花畑となっていた。僕らは他のハイカーより早めに到着したので、その花畑のど真ん中に悠々とテントを張らせてもらった。ガイドブックにはたまにピューマが徘徊するから気をつけて、と書いてある。人が少なくなる秋~冬の季節でないと出てこないそうなのだが、なんとなく「もしや」という気持ちは残る。気をまぎらわすためではないが、キャンプサイトの管理棟の脇に転がっていたサッカーボールで、久しぶりにリフティングをしてみる。残念なくらいに続かない。南米でサッカーボールを蹴ったからって、僕のサッカーの腕前は変わらない。



DAY 2: パタゴニアならでは強風が吹きつけるセクション



セロン〜ロス・ペロス 29.8km, 10.5h / Serron to Los Perros

Oサーキットの風景。人数制限もしているOサーキットでは、人も少なくゆっくりとパタゴニアのハイキングを堪能できる。

パタゴニアといえば強風が吹く土地として有名だ。強いときは大人でも立っていられないほどの風が吹く。パイネ・サーキットのなかでも、特に強い風が吹きやすいのが、2日目に歩いたパイネ・サーキットの北東部のエリア。パタゴニアらしく、地図にも強風注意のマークがある。運がいいのか悪いのか、僕らが歩いたときは、パタゴニア名物の激しい風にはあわなかったが、強風マークのあるところは、いくつかの谷がぶつかる場所で、野生的な風が吹きそうな場所であった。

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トレイルはピークを目指さずに、山の斜面をトラバースするように続いていく。谷あいを見下ろすように、「裏パイネ」を静かに歩いてゆく。2日目のテント泊の候補地だったディクソンは予約でいっぱいだったため、もう一つ先のロス・ペロスを目指す。テント泊はできなかったがディクソンはとても良い場所だった。キャンプサイトの奥には、大きな氷河を抱いた山々が見えている。山の向こう側から、風に押し出されて雲が次々とわき上がってくる。巨大な雲のヴェールのように山と氷河を覆っている。つかの間の滞在だったけれど、この現実感のなくなるような景色が記憶に焼き付いている。それが僕のなかのディクソンだ。

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わき上がる雲のヴェールをかぶった山々と氷河。このディクソンのキャンプサイトでも1泊してみたかった。

ディクソンから峠を上がるように歩いていくとロス・ペロスに到着する。森のなかの深閑なキャンプサイトだ。木立のあいだにENOのハンモックを張っているハイカーや、スラックラインで遊ぶ若者がいる。食事ができるテーブルとベンチがある小屋で、町のスーパーで調達したパスタをつくった。あまり味気ないパスタだけど、お腹いっぱいに食べる。隣のハイカーのグループが、たくさんの食料を持っていて、豪勢な晩飯を作っているのを、僕と相方は羨ましく横目で見やっていた。

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森のなかにあるロス・ペロスのキャプサイト。パイネ・サーキットの中でもとても静かなキャンプサイトの一つ。豪華な山小屋はなく、メロウなキャンプをしたい人におすすめのキャンプサイト。




DAY3: パイネ・サーキットの最高標高地点から、グレイ大氷河を見下ろす



ロス・ペロス〜グレイ 15km, 11h / Los Perros to Grey

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パイネ・サーキットで最も標高が高い峠に向かう道。この峠を登りきると有名なグレイ氷河が見える。

パイネではグレイ氷河がとても有名なのだが、この氷河の大きさを知るにはOサーキットの最高地点である峠・Passo John Gardnerから見下ろすのが一番だ。Wルートだけを歩くと、この眺望に出会うことはできない。グレイ氷河は、広いところで幅7km、長さは20kmにもおよぶ巨大な氷河だ。峠の上から見下ろすと、いかにこの氷河が大きいかがわかる。人間のサイズなんて本当に小さなもんだ。

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息子を連れてパタゴニアを旅していた家族。

僕らはこのセクションで、家族でパタゴニアを旅している素敵な親子に出会った。奥様がドイツ人、旦那さんがオーストラリア人で、10代後半くらいの年頃の息子と一緒に旅していた。旦那さんは、最初に挨拶したときから、やたらと僕に愛想よくしてくれて、ボディタッチをしてからかってくる。「すんごい景色だな」とか、「登りが大変だな」とか、山の中でのごくありふれた会話だけれども、ふいにパタゴニアの旅の仲間が増えたようで嬉しくなった。僕は少しだけドイツ語を話せるので、峠へのガレた急斜面を登りきった、景色のぱっと開けたところで、「ブンダバー!(wonderfulの意)」ってしゃべりかけたら、顔をくしゃっとして喜んでくれた。

Passo John Gardnerから見下ろすグレイ氷河。パイネ・サーキットで最も印象に残っている景色。


【次ページ:旅の後半、いよいよメイントレイルの「Wルート」へ。パイネの塔やコンドルの姿などシンボリックな景色に出会う道。


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ロングトレイルのカルチャーや、ハイカーによる実践的なノウハウがつめこんだ一冊


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トレイルズ

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

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