TRAILS REPORT

Pacific Crest Trail #01/PCTを歩くということ

2015.08.27
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企画編集/TRAILS  構成・写真・文/根津貴央 写真提供/舟田靖章

TRAILSでは、これまで国内外の数多くのロングディスタンスレイル(以下ロングトレイル)やロングディスタンスハイキングに注目し、その歴史や魅力、カルチャーを紹介してきました。また、今年1月には「ハイカーによる、ハイカーのための本を作りたい」と『LONG DISTANCE HIKING(著者:長谷川晋)』も出版しました。※最下部参照

そんなロングトレイルを舞台にした映画が、8月28日から日本で公開されます。「わたしに会うまでの1600キロ(原題:Wild)」です。主人公はハイキングの経験すらない女性。 母の死を受け入れられず薬に溺れ、離婚もし、自暴自棄になった彼女は旅に出る。向かったのは、アメリカ西海岸のロングトレイル『パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)』。その1,600㎞のセクションを、たったひとりで3カ月間歩きつづけ、自分を取り戻していくストーリー。

映画では主人公の人生、生き様が中心に描かれていますが、TRAILSでは今回、改めてその舞台である『パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)』にフォーカスし、掘り下げていきます。担当していただくのは、自身もPCTを5カ月間歩いた経験を持つなど、様々なロングトレイルを歩いている当メディアのクルーでもある根津さんです。それでは、PCTハイカーの実体験をもとにした全3回の連載をお楽しみください。

■PCTを知るための10のこと

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1.正式名称とトレイルの長さ
The Pacific Crest National Scenic Trail、総延長距離4,265㎞。

2.トレイルのある場所
アメリカ西海岸。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで。

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3.歩き終えるまでの期間
スルーハイキング(ワンシーズンで全行程を歩ききること)をする際には、一般的に4〜6カ月間を必要とする。

4.歩いている人数
PCTの管理団体であるPacific Crest Trail Association(PCTA)のスタッフであるジャック・ハッセル氏によると2014年は1000人以上がスルーハイキングにトライし、その半分前後が踏破したという。正式なカウントをすることは現時点では不可能なようだが、セクションハイキング(全行程の一区間だけを歩くこと)をしたハイカーを入れると人数はもっと増えるだろう。※参照元:Outside

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5.寝泊まり
宿となるテントやタープなどを背負って歩き、景観はもちろん、自然へのダメージなども考慮し自ら設営する。雨の少ないアメリカでは、時には下の写真のように屋根なし状態で星を眺めながら就寝するカウボーイキャンプというスタイルもみかける。

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6.食事と食料補給
軽量さと手軽さから、お湯を湧かして食べるドライフードを選択するハイカーが多い。多くのハイカーが、3日〜1週間分の食料と調理するための燃料などを背負って歩き、食料が無くなる前に補給のために町(トレイル沿いにはトレイル・タウンを呼ばれる町があり、ハイカーに好意的な町も多い)におりる。

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7.歩き以外の移動手段
町におりる際、トレイルヘッド(登山口)から町までの距離が長い所では、ヒッチハイクをすることが多い。ハイカーに理解の深い人も多く、難しくはない。ただ、女性ハイカーはできる限り複数人でトライしたほうが安全である。

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8.トレイルネーム
ハイカー同士は、トレイルネーム(トレイル上のニックネーム)で呼び合うことが多い。これは自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の二通りある。

9.トレイルエンジェル
ハイキング中、トレイルエンジェルと呼ばれるボランティアのお世話になることが多い。トレイルエンジェルは自宅を開放して宿泊スペースや食事を提供してくれたり、トレイルヘッドまでの送迎をしてくれたりする。

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10.トレイルマジック
ハイカーの楽しみのひとつであり大きな支えでもあるのが、トレイルマジック。これはトレイルエンジェルがハイカーのためにトレイル上に用意してくれる食料や飲み物のこと。大抵はクーラーボックスに入っている。

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PCTを知るためのヒントをつかんでいただけただろうか。

続いて、8月18日六本木にある20世紀FOX試写室にて一般公開に先駆けて行なわれた「わたしに会うまでの1600キロ(原題:Wild)」のトークセッション付きのハイカー・トレイルランナー試写会の様子をお届けする。

果たして日本のハイカーやトレイルランナーの目にはどう映ったのだろうか。

■ハイカー・トレイルランナー試写会 /参加者の声 

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ニューヨーク・タイムズNo.1ベストセラーを映画化:わたしに会うまでの1600キロ(原題:Wild)

試写会には、25組50名の人が招待された。主人公が女性とあって、女性の比率も高かった。

参加者の声(30代女性/ハイカー&トレイルランナー
私自身ひとりで山を歩くことが多く、同じ女性としてもハイカーとしても自分に重ね合わせて観る部分がたくさんありました。長い時間・距離を歩くと、普段考えないことまで考えて感傷的になったりします。主人公は少し重いテーマを抱えているけど、誰しも悲しい過去や悩みはあるはず。山を歩いたことのない人でも長い旅に出たくなるような作品だと思います。

参加者の声40代女性/トレイルランナー)
私も離婚をしており、自分の経験と重なるものがありました。PCTの道中で、離婚した夫と決別してやっと前を向いて歩き出す主人公を見て、彼女はもちろん自分のことも誇らしく思えました。私も歩いてみたくなりました。

参加者の声(30代女性/ハイカー)
主人公が、トレイル上でハイカーとして成長していく様子にとても共感しました。自分もジョン・ミューア・トレイル(JMT)を歩いた時、重い荷物のせいでバテたり、水で作ったご飯やラーメンを食べ続けたり、足のトラブルで歩けなくなったりと、失敗したことを思い出しました。

参加者の声30代男性/ハイカー)
やつれていた主人公が、徐々にきれいな面立ちに変わり、優しくなっていくのがとても印象的でした。私も以前アメリカのトレイルを歩いたのですが、それは事業に失敗した直後の旅でした。でも、歩くなかで現実が直視できるようになり、次のチャレンジへの活力を得ることができた。主人公の一連の物語は、とても他人事には思えませんでした。

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■PCTを歩くということ/トークセッション

トークセッションでは、東京は三鷹にあるアウトドアショップ『ハイカーズデポ』のオーナーである土屋智哉さんを司会に、『LONG DISTANCE HIKING』の著者である長谷川晋さん、『釣歩日記』の著者である長沼商史さん(いずれもPCTスルーハイカー)が、体験談を交えながら映画やPCTについて語った。

『ウルトラライトハイキング』著者であり『ハイカーズデポ』のオーナー土屋さん(左)、『LONG DISTANCE HIKING』の著者である長谷川さん(中央)、『釣歩日記』の著者であるGNU(ヌー)さんこと、長沼さん(右)

長谷川さん
PCTハイカーの多くは、特別な理由もなく歩き出します。でも、今を変えたいとか、歩くことで何かが変わるんじゃないか、という期待は少なからずあるはずです。歩き終えて何か変わったか?と問われれば、僕は気持ちが『ニュートラル』になると感じました。道中では気づきませんが、人と接しない生活から日常に戻ってきた時に、良くも悪くもすごくピュアになっていました。

土屋さん
素の自分が受け入れられるようになるんでしょうね。長谷川なんて、歩き始めてすぐに僕に連絡をくれたんですが、「しんどい。もう無理かも・・・」って弱音を吐いてましたから(笑)。

長沼さん
いろんなものから開放される行為なので、とにかく気持ちがいい。たとえば、経済活動からも離れられますしね。経済から離れて美しい自然の中に身を置くと、ほんとピュアになってフラットになれる。それがロングトレイルの魅力です。

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PCTというロングトレイルを歩くことは、大冒険だと思われがちである。そして、大きな決意を持って歩くものだと捉えられがちである。でも、決してそんなことはないのだ。

5年ほど前までは、日本人としてPCTを歩く人は年にひとりいるかいないかくらいだった。だが、近年は複数名の日本人が足を運ぶようになった。もちろん今年も歩いている。しかも、いずれの人も登山のスペシャリストやベテランハイカーではない。中には、PCTが初めての海外、初めてのハイキングという人もいる。PCTは、万人に開かれた身近な道なのである。

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次回、連載の第二弾では、より具体的なPCTに迫るべく、日本人女性のPCTハイカーに登場いただき体験談を語ってもらう予定です。お楽しみに!

『LONG DISTANCE HIKING』発売中

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TRAILSの出版レーベル第一弾。著者自身の経験はもちろん、数多くのハイカーのリアルな声をもとに制作した日本初のロングディスタンスハイキングにフォーカスした書籍


WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。現在はアウトドア系のメディアを中心に執筆活動を行なう。著書に『ロングトレイルはじめました』(誠文堂新光社)がある。

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