ハッピーハイカーズ・法華院ギャザリング / あたらしいハイカー・コミュニティのカタチ
文:根津貴央 構成:TRAILS 写真:石川博己(from HAPPY HIKERS)
<Episode2 「ハッピーハイカーズ」というコミュニティの作り方>
九州のローカル・ハイカーたちが「ほしいコミュニティは自分たちでつくろう」、という思いで動き出した「ハッピーハイカーズ」。九州で暮らす、山や自然を愛し親しんでいる人々が、同じような気持ちをもった人々と、ゆるやかに横につながっていくコミュニティだ。それはメーカーやショップ主導のコミュニティでもなく、固定された仲間でいつも楽しむタイプのハイカー・グループでもない、ハイカーの自然発生的なエネルギーによって動いている、開かれたコミュニティだ。
今回のレポートの核心部はまさにここにある。今までとは異なる、あたらしいハイカー・コミュニティのカタチが「ハッピーハイカーズ」にはあった。
ハイカーズデポによるHiker’s Partyや、山と道が主催する鎌倉ハイカーズミーィングは、ULハイカー同士が出合い、その世界に直接ふれることができる場として機能してきた。「ハッピーハイカーズ」という九州発のコミュニティは、ちょっと違うみたいだ。よりローカルにフォーカスして、なんというか、ハイカーにとって、その地域に暮らしていることをハッピーにしてくれる。そんなニュアンスも含んでいるように思う。
こんなコミュニティが自分の暮らす地域にあったらいいな、と思う全国のハイカーも多いだろう。日本各地のローカルに、こんなコミュニティができれば、日本のハイキングカルチャーがもっと面白くなるにちがいない。そのヒントを得るべく、「ハッピーハイカーズ」というコミュニティのあり方やその仕組みについて、Episode1につづき発起人の豊嶋さんに話を聞いてみた。キーワードは「幕の内弁当」!?
僕らは山登りチームではなく、コミュニティをオーガナイズしているスタッフ
ハッピーハイカーズは、みんなで一緒にハイクしようという目的のコミュニティではない。ハッピーハイカーズの活動としては、イベントのプロデュース・運営や、ウェブマガジンの発行をおこなっている。主催しているイベントは、昨年11月に行なわれた法華院ギャザリングや、Happy Hikers BAR、フリマなどがある。
豊嶋:「そもそもチーム・ハッピーハイカーズっていう山登りチームを作りたいわけじゃないってのがあって。一緒に活動している仲間を「メンバー」でなく「スタッフ」って呼んでいます。外部の人にハッピーハイカーズのメンバーです!って言ったときに、ハイカーの集まりのメンバーなんだ!じゃあ普段はどんな山にみんなで登っているんですか?となる。でもそうじゃなくて、あくまでコミュニティをオーガナイズしている事務局のスタッフという位置づけにしたかったんです」
九州のハイカーにとって、人や情報のハブとなる場をつくりたい
九州にハイカーのコミュニティをつくろう。その発端になったのは、九州には東京や関西のように、ハイカーが横でつながるハブとなる場がなかったということにあった。だったら、つくったら面白いんじゃないか、と。
豊嶋:「東京にいたときは、たとえばハイカーズデポがあって土屋さんがいる。そこにはいろんな人が出入りしていて、みんなが交流したりつながれたり、キーパーソンがいたり、イベントがあったりした。そういうハブとなる何かがあったんです。でも僕が九州に移住して来たときに、ハイキングとかやっている人は多いんだろうけど、横でつながる場所もきっかけもないなと。だからそういうのがあったらいいなとぼんやり思っていたんです」
豊嶋さんはいろんな機会を得て徐々に地元のハイカーとつながりはじめた。そしてハイカーたちのコミュニティらしいものが生まれてくる。仕事とは一切関係のないかたちで。豊嶋:「仕事の一環でやるとなると、当然、ある種の仕事的な結果を求めていくことになりますよね。でも、僕たちがやろうとしていることにそういう目的はなく、ただ単につながるだけでしかない。ハイクをモチーフ、テーマとして、人と人がつながっていく。僕が九州で人とつながっていく上で、こういうのはすごくいいなあと思ったんです」
コミュニティを持続させるポイントは、「幕の内弁当」的なフォーマット!?
こんなコミュニティがあればいいな、と思っていざ立ち上げてみても、それからコミュニティを持続させていくのは難しい。仕事以外の『ついで』の活動としてやっているコミュニティであれば、なおさらだ。そんなとき豊嶋さんの口から出た「幕の内弁当みたいなあり方を目指している」という言葉。
幕の内弁当的とは何か。それは中心的な何かに頼るのでなく、一品一品を持ち寄って成立するスタンス。たとえばとんかつ弁当の場合、とんかつがイマイチだと、他の付け合わせがいくらウマくても意味がない。でも幕の内弁当であれば、それぞれが突出していなかったとしても、全体としてちゃんと成立すればいい。豊嶋:「ハッピーハイカーズのスタッフのあり方もそうあるべきだと思っていて。中心人物がひとりいて、あとはそれをサポートするというやり方ではなく、誰が入ってきても何かしら持っているでしょ、という感じ。そのひとつを出してほしいと。そういうのを持ち寄るのがいいんじゃないかと思うんです」
例えば、ハッピーハイカーズのウェブマガジンは、仕事で写真とデザインをやっている人がアートディレクションを担当し、ウェブコンテンツ制作を仕事にしている人が、ウェブサイトのコーディングをしている。ハッピーハイカーズという受け皿をつくって、それぞれが得意とすることを盛りつけていくことで、ハッピーハイカーズという表現のアウトプットができあがり、イベントができあがっていく。豊嶋:「このコミュニティの活動は仕事ではなく、みんな『ついで』の活動なんです。だからみんながどれだけ時間をさけるかはわかりません。仕事が忙しくなったら当然後回しになる。引っ越したり、転勤したり、あるいは、これから結婚したり、子供ができたり、ライフステージが変わって活動への関わり方が変わってくる人も当然いる。それでもつづけられるフォーマット、やり方が大切だと思っています。そういう面においても、おかずが変わっても問題ない幕の内弁当スタイルはメリットがあります。それぞれにそれぞれの居場所や関わり方があるからです」
隠された資産のような、その地域ならではの山の魅力を再発見。九州って、めっちゃ面白い!
豊嶋:「九州めっちゃ面白いな!って感じたんです。僕はクライミングをする一方で、筑紫山地の一部の背振(せふり)山地というとこを歩いたりして。ここは約80kmもつづいている山脈で、町を眺めながらの縦走ができる面白いトレイルなんです。他にも脊梁(せきりょう)山脈という『山と高原地図』でもカバーされていない山もあったりして、そういうのって隠された資産みたいな雰囲気を感じるんですよね。それらを繋いだりすると面白いトレイルになっていくと思います。でも関東でいう奥秩父主脈縦走路みたいにメジャーな感じではまったくないんです」
地元の人からしたら、「え?これってそんなにすごい?」ということが、外から来た人から見ると、その地域ならではものとして、とても魅力に映ることがある。豊嶋さんは九州に移住して来て、クライミングや沢登りができる場所が驚くほど多いことを知り、九州でも頻繁に足を運ぶようになる。特にクライミングは盛んで、世界クラスの岩場もあれば、クライミングジムの数も多い。そんな九州特有のクライミング・カルチャーに、日本の他のエリアで楽しんでいるロングハイクとかを組み合わせたら面白いのでは?など、外から九州に来た人だからこそ客観的に見えてくる楽しみが、目の前にたくさん転がっていた。
「ハイク」を共通項に、地元の山の楽しみを再発見できる場にする
山ヤ、沢ヤ、クライマー、トレイルランナーと、九州にもいろんな人たちがいる。いろんなアクティビティで山や自然を楽しんでいる人たちも、そのベースとなるのは「ハイク」だ。
豊嶋:「クライミングも、ジムだけの人もいれば外岩に行く人もいるしいろいろです。外の岩場の中にはアプローチが遠いところもあって、そこまでは『ハイク』なわけです。またバックカントリースキーも、滑っている時間はほんの少しで、一日中雪山にいても90%以上は『ハイク』をしているんです。結局『ハイク』できてこそのバックカントリーなんですよね」
「ハイク」は山のベースになる入り口であり、さまざまな楽しみ方をしている人たちが集まる共通項になる。そんなふうに地元のいろんな山好きが集まれば、地元の山の新しい楽しみを再発見できる場にもなっていくはずだ。各ジャンル、各アクティビティで地元で面白そうなことをしている人たちを、「ハイク」というキーワードでつながるきっかけを作る。ハッピーハイカーズでは、こうしてその地域になかったあらたなローカル・ハイカー同士の化学反応が起こる場をつくろうとしている。
全国各地にハッピーハイカーズ◯◯◯っていうコミュニティができると面白いですよね
豊嶋:「今年は、すでに福岡で開催しているハッピーハイカーズバーを九州の他の街でも開催していきたいと思っています。スタッフが二人一組のバディ制で企画を進めています。じきに、自信を持ってハッピーハイカーズ九州と言えるようになると思います」
また豊嶋さんは、彼自身がたまたま九州に引っ越して来たから九州で始まったが、日本各地のいろんなところで勝手に立ち上げていったら面白いんじゃないかと語る。
豊嶋:「ハッピーハイカーズ北海道とかハッピーハイカーズ四国とか、どこでもいいと思うんです。全国津々浦々で機会があればハッピーハイカーズという旗印のイベントをやりたいですね。それをきっかけに地元の人同士がつながってくれたり、さらにはその地元の人が自らハッピーハイカーズみないなことをやりたい、となれば楽しいですよね」
豊嶋:「僕たちが九州でやっているノウハウは共有できますしね。ゆくゆくは、ハッピーハイカーズ九州の人が北海道に行ったときに、ハッピーハイカーズ北海道に連絡とれば地元の情報が手に入るとか。そういう連絡網になったりすると、さらに次のステップに入るかなと思っています。でも、青写真は描きすぎないほうがいいと思ってます。人が繋がっていくと自然にいろんなことが起こるから、「そこにいる人がすべて」の幕の内弁当ですね」
ハイカー・コミュニティのつくり方やそのコンセプトについて、詳細なところまで惜しげもなく話してくれた豊嶋さんおよびハッッピーハイカーズのみなさんに感謝をしたい。ハイカーにとって、その地域に暮らしていることをハッピーにしてくれるようなコミュニティ。そんなコミュニティが全国でたくさんできてくると、日本のアウトドアカルチャーがもっと豊かになっていくはずだし、そんな未来を自分たちでつくっていきたい。
<次へ:『Episode3 GNUさんによるイベント参加レポート』>
TAGS: