TRAILS REPORT

IN THE TRAIL TODAY #05|アパラチアン・トレイルのお祭りついでに2週間のセクションハイキング

2018.08.17
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文:根津貴央 写真:根津貴央、勝俣隆 構成:TRAILS

What’s IN THE TRAIL TODAY / TRAILSは、トレイルで遊ぶことに魅せられたピュアなトレイルズたちの日常の中で発生した、 “些細でリアルなトレイルカルチャー” を発信するハンドメイドのコミュニケーションツール『ZINE – IN THE TRAIL TODAY』をスタートさせました。そのZINEにまつわるストーリーを『IN THE TRAIL TODAY』という連載でお届けしていきます。

* * *

TRAILS crewによるセクションハイキング3部作のラストは、根津が旅したアパラチアン・トレイル(AT)。アメリカ三大トレイルのひとつパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)を踏破した根津が次に狙うのは、ATのスルーハイキング?

と思いきや、そうではなかった。彼の目的は、アメリカ全土からロングディスタンスハイカーが集結する、アメリカ最大のハイカーの祭典『TRAIL DAYS』に参加するためのセクションハイキングだった。
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『TRAIL DAYS』でひときわ盛り上がるのが、このハイカー・パレード。


人口1,000人たらずの町に1万人以上が集まる、ハイカーのお祭りに参加したかった。


ーー なぜアパラチアン・トレイル(AT)に?
『TRAIL DAYS(トレイル・デイズ)』というイベントに参加してみたくて。ただもうそれだけだったんです。

ーー どんなイベントなんですか?
ひと言でいうなら、アメリカ最大のハイカーの祭典。他に類を見ない大規模なハイカー・フェスティバルです。

毎年5月に、バージニア州南部のダマスカスという町で3日間にわたって開催されます。人口1,000人にも満たない小さな町に1万人以上もの人が集まる、町をあげての一大フェスですね。2017年は、国内49州と世界22カ国から2万人以上の人が集まったらしく。もはや世界規模のハイカー・フェスティバルです。日本でアウトドアのイベントっていうと、メーカーがたくさん集まる物販中心のものをイメージしますが、これはまったく違っていて。主役はハイカーなんです。

ダマスカスは、AT上にあるのでスルーハイカーはかならずこの町を通過します。そのハイカーを歓迎し、もてなすイベントでもあるわけです。ハイカーが一芸を披露するコーナーあり、大食い競争あり、フリーフードあり、ギアのリペアブースあり、ライブあり、とまあとにかく異常なまでの盛り上がりを見せるんです。

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[左上] タレントショーでフラフープの技を披露する女性ハイカー。[右上] ケーキの大食い競争にチャレンジするもあえなく撃沈。[左下] フリーフードのコーナーにはハイカーの大行列。[右下] アウトドアメーカーによる無料のリペアコーナー。

僕も、いちハイカーとしていつか行ってみたいとずっと思っていたんです。たとえば、音楽好きの人がコーチュラとかボナルーに行ってみたいっていうのと似た感覚かもしれません。


ロングトレイルの象徴、元祖であるアパラチアン・トレイルのカルチャーを体感したい!


ーー 『TRAIL DAYS』だけではなく、セクションハイキングもすることにしたのはどうしてですか?
ATはロングトレイルの象徴、元祖だからです。なにせアメリカ初のナショナル・シーニック・トレイルですから。アメリカで一番有名かつメジャーなロングトレイルといっても過言ではありません。だからイベント目的とはいえ、せっかくATに行くのであればちょっとだけでも歩いてみようと思ったんです。

僕はPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)を全部歩きましたが、TRAILS DAYSほどのイベントはありませんでした。ロングトレイルとひと口にいっても、しかも同じ国内であっても、自然環境はもちろんカルチャーがぜんぜん違うんです。なのでトレイルを歩くことで、その違いやATの独自性をもう少し体感してみたいなと。

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ATといえば、このシェルター(避難小屋)が有名。点在しているのでテントがなくても旅ができる。

ーー どうやって歩くセクションを決めたのですか?
ATには、マカフィー・ノブや100マイル・ウィルダネス、カタディン山をはじめとした、景勝地や名所がたくさんあります。特に100マイル・ウィルダネスは、TRAILSのZINE#02『SECTION HIKING』でも紹介していて、メイン州のディープな自然はとても魅力的。そういうところに足を延ばすのもありだなとは思っていました。好きなところだけを狙って歩けるのがセクションハイキングの魅力でもありますから。

でも、絶景だとかウィルダネスだとか、そういう自然環境を楽しむよりも、僕はたくさんのハイカーと出会い、語らい、たまには一緒に歩いたりなんかしながら旅したいと思ったんです。

せっかくダマスカスに大勢のハイカーが集まって、そこからまた歩きはじめるハイカーがいるんですから。それで僕もここからスタートすることにしました。

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『TRAIL DAYS』で奇跡の再会。PCTでたびたび出会ったスルーハイカーのトリップ!


ロングディスタンスハイキングの醍醐味のひとつは、人との出会いだから。


ーー 普通は、できるだけ人の多いところを避けたいと思いますよね。せっかくアメリカの大自然に来たのだから、それを存分に味わいたいと。

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トレイル上で出会ったたくさんのハイカー。みんなそれぞれのスタイルで旅を楽しんでいた。

目的がそこにある人はそうでしょうね。でも、ロングディスタンスハイキングって、補給のために町に立ち寄るのが前提になっているので、単にトレイルを歩くだけじゃない。そこが、他のアウトドアアクティビティと異なる点だし、僕が好きなところなんです。しかも、数あるロングトレイルのなかでも特にATはソーシャライズされている、つまり社会性や社交性がある、と言われていて。人との出会いや、ふれあいを楽しんでこそのATなんです。

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ウッズ・ホール・ホステルはハイカーのオアシス。女将さんが栽培している野菜が絶品だった。

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トイレを作り直していたメンテナンス・クルー。みんなトレイル愛に満ちていてカッコいい!

ーー ATの自然の魅力は、あまり感じなかった?
いやいや、そんなことはないですよ。自然も素晴らしかったです。ATは樹林帯が多く気候も温暖湿潤なので、日本と同じ雰囲気があります。まあ悪くいうと湿度が高くてジメジメしてる(苦笑)。でも、僕が歩いたバージニア州は広大な牧草地がたくさんあって、そこを開放感に浸りながら歩くのはとても気持ちよかったです。たまに、放牧されているポニーもいたりして。ウィルダネスではありませんが、アメリカならではの景観でした。だから、今回僕が歩いたセクションはトレイルを楽しむ上でもおすすめです。

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牧草地の多いバージニア州は比較的歩きやすく、樹林帯が多いATのなかでもおすすめのセクション。


歴代のスルーハイカーが集結して町中を練り歩く。半端ないグルーヴ感が最高だった。


ーー 今回のセクションで、いちばん印象に残っているところや出来事は何ですか。
いろいろありすぎて絞るのが難しいんですが、ひとつ挙げるのであれば、TRAIL DAYSの名物コンテンツ『ハイカー・パレード』ですね。これは開催地であるダマスカスの町をハイカーが練り歩くものです。今年歩く人だけが集まるのかと思いきや、1994年組とか2000年組とか、歴代のスルーハイカーが集結していて。いわばハイカーの同窓会。めちゃくちゃ楽しそうでしたよ。

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ハイカー・パレードでは、大勢のスルーハイカーが年代別にわかれて練り歩く。

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僕が歩いた年は、ハイカーズデポのベぇさんがスルーハイクしていて、かなりお世話になった。とにかく楽しそう!

しかも、ただ歩くだけじゃなくて、町の人(大人から子どもまでみんな)が道路脇から水をかけるんです。ハイカーもそれに応戦したりして、もう大騒ぎ。いい意味でクレイジーな感じがとてもうらやましかったですね。

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水鉄砲でやりあう地元の人とハイカーたち。このはちゃめちゃな感じがすごくいい。


短い期間だからこそ、一瞬一瞬が思い出として深く刻み込まれる。


ーー セクションハイキングの魅力を教えてください。そして、今後もセクションハイキングを重ねて、ATを踏破しますか?
明確な意図を持ってセクションハイキングをしたのは、これが初めてだったんですが、想像以上に楽しかったですね。正直、歩く前は、きっとスルーハイクしたくなるんだろうなぁと思っていましたが、ぜんぜんそんなことなくて。

なにが良かったって、一瞬一瞬の思い出が鮮明に残るんですよ。スルーハイクって何カ月もかかるんで、1〜2カ月前のことなんて覚えていない。記憶のキャパをオーバーしてしまうし、感動したとしてもどんどん上書きされていってしまう。しかも最初は見るものすべてが新鮮ですけど、ほどなくしてそれが日常、当たり前になってしまうんで、絶景を見ても大して驚かなくなる。

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今年はじめてトレイルマジックをしにきたというポール&ミーガン夫妻。ふたりもいつかロングハイクしたいとのこと。

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僕もトレイルマジックにトライ!マウンテンデューを渡すと、みんな笑顔になるのが嬉しかった。

その点、1〜2週間程度のセクションハイキングは、慣れもなければ、忘却もない。毎日が新鮮だし、思い出もちゃんと思い出として残ります。

だから僕にとってATはセクションハイキングのフィールドですね。踏破する時間とお金があるくらいなら、毎年TRAIL DAYSに参加したい!僕に限らず、ATのセクションハイキングは、長い休みが取れない人にもおすすめです。僕みたいな出会いを楽しむスタイルなら、TRAIL DAYSから数日歩くだけでも充分にロングディスタンスハイキングが堪能できますから。特に会社勤めの人にはピッタリだと思います。

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TRIP INFORMATION


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■トレイル名
アパラチアン・トレイル(AT)
■セクション名
ダマスカス〜ぺアリスバーグ
■歩く距離・日数
262km・14日
■旅全体の日数
21日
■WEBサイト
Appalachian Trail Conservancy(https://www.appalachiantrail.org)
WhiteBlaze.net(https://www.whiteblaze.net)
■ベストシーズン
TRAIL DAYSが開催される5月
暑さが和らぐ9月
■パーミッション / ブッキング
特になし
■予算目安
25〜30万円(総額)
[内訳]
エア代:12〜20万円程度
現地宿代:モーテル1泊5000円〜、ホステル1泊3000円〜
現地交通費:2〜3万円
その他(食費など): 2万円
■アクセス方法
[空港] 往路 / シャーロット・ダグラス国際空港(CLT):ダラス経由で約17時間 復路 / ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港(DCA):乗り継ぎ便で約18時間
[空港から近くの町へ] アシュビルまでグレイハウンド(バス)で約8時間。アシュビルからダマスカスまではクルマ(シャトルを予約)で約2時間。
[IN:町からトレイルへ] ダマスカスから歩きはじめる。
[OUT:トレイルから町へ] ぺアリスバーグからロアノークまでクルマ(シャトルを予約)で1時間半。ロアノークからワシントンDCまでグレイハウンド(バス)で約6時間。
※現地交通
http://appalachiantrail.org/home/explore-the-trail/transportation-options
■宿泊(町)
ホステルやモーテル。
■宿泊(トレイル)
シェルター泊もしくはテント泊。
■補給方法(水、食料、燃料など)
ダマスカス、マリオンのグロサリーストア(食料品店)で手に入る。


ZINE#02 SECTION HIKING


アメリカの3大ロングトレイルをはじめ、ニュージーランド、スペイン、北欧ラップランド、ヒマラヤなど、世界中のロングトレイルを紹介。いずれのトレイルも1〜2週間のセクションハイキングをするという方法にフォーカスし、上記『TRIP INFORMATION』も掲載している。

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TRAILSの出版レーベル第二弾、『ZINE – IN THE TRAIL TODAY』をスタート!

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ZINE – IN THE TRAIL TODAY #02 | 長旅をあきらめていた人のための、2週間で行く『SECTION HIKING』world trail編をリリース!

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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