TRAILS REPORT

IN THE TRAIL TODAY #06|テ・アラロアの魅力が詰まったセクション・ハイキング10days

2019.02.15
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話・写真:地現葉子 取材・構成:TRAILS

What’s IN THE TRAIL TODAY / TRAILSは、トレイルで遊ぶことに魅せられたピュアなトレイルズたちの日常の中で発生した、 “些細でリアルなトレイルカルチャー” を発信するハンドメイドのコミュニケーションツール『ZINE – IN THE TRAIL TODAY』をスタートさせました。そのZINEにまつわるストーリーを『IN THE TRAIL TODAY』という連載でお届けしていきます。

* * *

今週末に開催される『LONG DISTANCE HIKERS DAY 2019』に先がけて、ロング・ディスタンス・ハイカーおすすめのセクションハイキングをお届けします!

1カ月あるいは半年〜1年におよぶ長旅をあきらめていた人たちにも、ロング・ディスタンス・ハイキングの世界の扉は開かれています。セクションハイキングという旅の視点を得ることによって、たくさんの人にロング・ディスタンス・ハイキングの旅に出かけてほしい。そんな思いで、TRAILSは、ZINEやwebmagazineを通じて、セクションハイキングの世界を紹介し続けています。

今回取り上げるのは、ニュージーランドのロングトレイル『Te Araroa(テ・アラロア / 総延長3,000km)』。2016〜2017年にかけて歩いた、地現葉子(じげんようこ)さんお気に入りのセクション(北島の南部。首都ウェリントンをゴール地点に設定した223.5km)です。

テ・アラロアは、2011年に完成した歴史の浅いトレイルゆえ、まだ認知度が低く、歩く人も多くありません。いったいどんな魅力があるのでしょうか。

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トレイルで出会ったハイカーの仲間たちと。

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タラルア・レンジのニコルズ・ハット。


ニュージーランドならではのおおらかさ、ゆるさに惹かれた。


ーー どうして『テ・アラロア』を選んだんですか?

ニュージーランド(NZ)を歩きたかったんです。もともと観光旅行で2回訪れていて。NZって日本の4分の3くらいの国土なんですが、人口は500万人足らず。日本と大きさや形が似ているのに、ぜんぜん違う国だなぁと。それは単に人口の少なさなのか、それとも何か秘密があるのか? その違いの理由に興味があったんです。

行ってみてわかったのは、人が少ないがゆえの穏やかさ、おおらかさというか。ゆるい感じがすごく心地よくって。

それで、次は観光旅行じゃなくて、歩き旅をしたい! って思ったんです。

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ウェリントン郊外のオハリウ・バレーの牧場。このあたりは、乗馬クラブが多い。


私有地を歩き、そこの住人とお茶を楽しむこともあった。


ーー 実際に歩いてみて、そういうおおらかさは実感しましたか?

トレイルが整備されすぎてないっていうのも、その表れかもしれません。川が流れたいように流れているというか。悪天や長雨で土砂崩れっぽいところも結構あったんですが、そのまんまそこを通っていく感じなんですよね。でもそういうの嫌いじゃないです(笑)。

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タラルア・レンジに入る前、トコマル・リバー沿いにあるバートンズ・トラック。開拓者のバートンさんをたたえて名付けられたNZの歴史を感じられる道。

あと、私有地がすごく多いのは驚きましたね。たとえば、牧場とかのゲートを自分で開けて通ったりするんですが、「ここ明らかに人んちだよね?」ってところをかなり歩きます。

住人さんが出てきたりして、「こんにちは!」って挨拶したり。「お茶でもどうぞ!」と自宅に招かれてご馳走になったことも何回かありました。


本当に妖精がいるんじゃないかと思うような、NZらしい森。


ーー NZというと豊かな自然も魅力だと思いますが、どうでしたか?

いちばんの見どころは、『ゴブリン・フォレスト』ですかね。ご存知の人もいるかもしれませんが、ここは映画『ロード・オブ・ザ・リング』とゆかりがある森で。

森の中にホビットが迷い込んで木に守られるシーンがあるんですけど、その木はここから着想を得ているそうなんです。だからゴブリン・フォレストって呼ばれているんです。実際歩いてみると、本当に妖精がいるんじゃないかと思うほどでした。

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タラルア・レンジの『ゴブリン・フォレスト』。

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苔や地衣類でびっしりと覆われている倒木。


山脈あり、牧場あり、ビーチあり、テ・アラロアを凝縮したセクション。


ーー テ・アラロアのなかで、このセクションにはどんな特徴がありますか。

とにかく変化に富んだセクションなんです。タラルア・レンジ(タラルア山脈)は、もう笑えるくらいのアップダウンで。登りごたえもあるんで、山登りが好きな人にはぴったりです。標高はたかだか1,500mくらいなんですが、完全に高山帯で、ガレ場もあります。

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タラルア・レンジの稜線を、ポールを目印に歩く。

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タラルア・レンジで宿泊したドラコフィリウム・ハットは、定員2名の小さな山小屋。

そこをおりると、牧場があったり、眺めのいい丘があったり、ビーチがあったり、まさにテ・アラロアを凝縮した感じですね。

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ウェリントンに近い、ポリルア郊外の丘陵地コロニアル・ノブの牧場。

ーー ビーチは見ながら歩く感じ? それともビーチを歩く?

もう思いっきりビーチを歩くんですよ。満ちてくると歩く場所がなくなって道路を歩くこともありますけど。

実は、テ・アラロアはビーチ歩きが多いんです。そもそもテ・アラロアの最初の100kmはビーチ歩き。それはさすがに飽きちゃいますけど、このセクションは1〜2時間くらいなので、ちょうどいいですよ。

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ウェリントンまであと2日。パエカカリキ・ヒルに、2016年にできたばかりの丘の急斜面を歩くトラック。地元の人にも大人気だが、10kmにわたってトイレも水場もエスケープルートもない。


街から歩いてスタートして、街に歩いてゴールするのが、とても興味深い!


ーー 今回、北島のなかでも、この区間をチョイスした理由はありますか?

ひとつは、アクセスの良さです。スタート地点、ゴール地点いずれも電車やバスが通っているので、ラクにいけますから。しかも、途中にいくつも街があるので、途中でやめることもできます。

もうひとつは、パーマストン・ノースの街中から歩いてスタートして、首都ウェリントンの街中に歩いてゴールするっていうのが、ほかのトレイルではなかなかない感じだなと思って。ヒッチハイクとかもぜんぜん要りません。

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パーマストン・ノースの南端にあるフィッツハーバート・ブリッジを渡ると、最初のサイン(左下)が現れる。

スタート後は、日本でいうと高尾山くらいの山を歩いていく感じです。ゴール間近になると、丘の上から街が見えてきます。市街地から離れた住宅地を歩いて、また再び山に入ったり、そういうのを何回か繰り返して、ようやくウェリントンのど真ん中にたどり着きます。国会議事堂がどーんと出てくるのも面白いですね。

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ウェリントンに入る手前の、マウント・カウカウという丘。スカイライン・ウォークウェイと名付けられているトラック。

ウェリントンにはおしゃれなカフェがたくさんあるので、カフェ巡りがおすすめ。歩き終えたあとの『Flat White』(※)は最高です!

※Flat White:フラット・ホワイトとは、エスプレッソにスチームミルクを乗せた飲み物。ニュージーランド発祥と言われている。

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ウェリントン市内のど真ん中、ブランドン・ストリート。

ーー 最後に、テ・アラロアを歩いてみたいという人に、アドバイスをお願いします。

今回のルートは歩いて10〜14日ほどの距離ですが、途中で簡単に街におりて電車でウェリントンに行くことができます。なので、10日以上も休みが取れない方でも、自分のスケジュールに合わせてフレキシブルに楽しめるので、ぜひ足を運んでみてください。


TRIP INFORMATION


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■トレイル名
テ・アラロア(TA)
■セクション名
パーマストン・ノース〜ウェリントン
■歩く距離・日数
223.5km・10〜14日
■旅全体の日数
15〜20日
■WEBサイト
テアラロア公式サイト(https://www.teararoa.org.nz)
Department of Concervation(https://www.doc.govt.nz/)
■ベストシーズン
12月~3月。学校の夏休み(12月中旬〜1月下旬)は大変混み合うので予約はお早めに。
■パーミッション / ブッキング
特になし。ただし、Hut(山小屋)を利用する場合はHut Ticketの購入が必要。
■予算目安
20〜25万円(総額)
[内訳]
エア代:15万円程度
現地宿代:ユースホステル(YHA)やNZ全域にあるホステル(BBH)1泊5000円(目安)、ホリデーパークのキャンプサイト合計1万円(ただしトレイル上は無料)
現地交通費:5000円
その他(食費など): 1万円
■アクセス方法
[空港] ウェリントン国際空港(ニュージーランド):オークランド等を経由して約14時間
[空港から近くの町へ] ウェリントン〜パーマストン・ノース:キウイ・レイルの鉄道キャピタル・コネクションか、インター・シティのバスで2時間、約3000円(35NZドル)
[IN:町からトレイルへ] パーマストン・ノースのフィッツハーバート・ブリッジから徒歩で歩き始める。
[OUT:トレイルから町へ] ウェリントンの中心へ徒歩で到着。北島終点のアイランド・ベイまで行った場合は、路線バスでウェリントンへ。
※現地交通
Kiwirail(鉄道)https://www.kiwirail.co.nz/
Intercity(バス)https://www.intercity.co.nz/
■宿泊(町)
各種宿泊施設。ホリデーパークのキャンプサイト。
■宿泊(トレイル)
キャンプサイト(無料)。ハイカー向けのテントサイトや小屋(詳しくはMakahika Outdoor Pursuits Centre)。タラルア・レンジには、ハットが6つある。いずれもスタンダード・ハットのため1泊5NZドル。事前にウェリントンのDoCオフィス(https://www.doc.govt.nz/)にてハットチケットを購入。
■補給方法(水、食料、燃料など)
街にスーパーマーケット等があり、食料や燃料等の補給には不自由しない。水は浄水すればトレイル上で補給可能。ただしタラルア・レンジの稜線上では、夏季は小屋の水タンクが涸れていることがあるため、麓で充分に補給するのがおすすめ。

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ウェリントン市内に入ると、国会議事堂(ビーハイブ)の横にあるテ・アラロアのプレートがお出迎え。これを見るとテンションが上がること間違いなし。

地現さんは、今週末の『LONG DISTANCE HIKERS DAY 2019』にも登壇し、テ・アラロアの話をしますので、興味がある人はぜひお越しください。

また現在、新たにセクションハイキングのZINEも制作中ですので、お楽しみに。間に合えば、今週末のイベントで販売します!


ZINE#02 SECTION HIKING


アメリカの3大ロングトレイルをはじめ、ニュージーランド、スペイン、北欧ラップランド、ヒマラヤなど、世界中のロングトレイルを紹介。いずれのトレイルも1〜2週間のセクションハイキングをするという方法にフォーカスし、上記『TRIP INFORMATION』も掲載している。

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TRAILSの出版レーベル第二弾、『ZINE – IN THE TRAIL TODAY』をスタート!

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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