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MY TRIP BOOKS | 20人の旅人が選ぶ「旅欲を強烈に刺激した本」 #04

2019.10.18
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旅への強烈な憧れや欲求とは、どのように生まれてくるのか。自分らしい旅のスタイルとは、どのようにカタチ作られていくのか。

その秘密をのぞいてみたくて、TRAILS編集部がいつも刺激を受けている旅人20人にコンタクトをとり、こんな質問を投げかけてみました。

「大自然の中を旅する欲求を、強烈に刺激した本は何ですか?」

気づけばTRAILS編集部には、最前線でハングリーに遊ぶ人たちが刺激を受けた旅の本が、ずらりと並んでいました。この珠玉のブックリストのなかに、その人の旅の本質をかいま見て、僕たちはまた「旅、行きてぇ」とザワつき始めるのです。

これらの本をきっかけに、「MAKE YOUR OWN TRIP = 自分の旅をつくる」を実践する人が増えてくれたら、僕らとしては最高にうれしいです。

最終回となる第4回目は、千代田高史さん(Moonlight Gear)、福地孝さん(ALTRA)、松田正臣さん(onyourmark)、小林昴祐さん(NatureBoy)、ロブ・コフリンさん(GRANITE GEAR)の5名のMY TRIP BOOKSを紹介します。


千代田高史(Moonlight Gear)


ULシーンのなかで、同世代的なセンスでずっと刺激を受け続けているのが、チヨちゃんを含むnomadicsのメンバーたちだ。Moonlight Gearしかり、OMMしかり。常に彼らのアクションを、僕らはチェックし続けてきた。

nomadicsは、タクさんや土屋さんなどのフロントランナーが切り開いてくれたフィールドで、さらにあたらしいことを生み出せないかと、切磋琢磨するパートナーでもある。今回チヨちゃんが選んでくれた本にも、先人へのリスペクトと同世代的な感覚がミックスされた、彼らしいセンスを感じる。

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『あたらしい野宿』 かとうちあき
ULスタイルでテン泊するのって、キャンプとかじゃなくて半分野宿に足突っ込んでる感覚のほうが近いと思う。手持ちの道具で何とかする。ペラペラなマットで夜もあんまり眠れない、地面が匂い、暗闇の気配。それらを感じながらタープの下で小さくお湯を沸かす。夜を一人で過ごすということをおもしろおかしく、社会人として正しいと思われる “いい大人” に向けて野宿を真面目にお勧めする本。(千代田)

『山のパンセ』 串田孫一
串田孫一のように山に登って想いを手紙に書いたり、詩を書いてみたりしたいと思うのは僕だけではないはずだ。山は圧倒的な色彩や力で素晴らしい風景をもたらしてくれるが、それをどのような言葉で表現するべきかを考えてみる。僕はそんな時間こそ素晴らしい過ごし方だと思う。スマートフォンの電源を消して、ひとりテントの中で目に焼き付いたその日の風景や匂いを思い出してみよう。串田さんのようにペンを走らせてみよう。(千代田)


福地孝(ALTRA)


福地さんは、出会った当時から、いつもあたらしいことを企てて実行する人だった。世界最大級のアウトドアギア見本市ORショーでのミニマリスト・パーティー(ULギアブランドが一堂に会するイベント)もそうだし、当時無名だったアルトラの国内展開もそう。

自分がいいと思ったらとことんやってみる(やらずには気が済まない)。仕事はもちろん遊びもそう。彼が選んだ本に紹介されているハイキング、スキー、パックラフティング、フライフィッシング、これらすべてを実際にやり込んでいるのもまた、福地さんらしい。

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『National Geographic』(2011年3月号)
アンドリュー・スクーカ氏の4,679マイルにおよぶアラスカ・ブルックスレンジのエクスペディションをまるごと紹介した号。この旅においてアンドリュー氏は、ハイキング、スキー、パックラフティングと、さまざまな道具をそのシチュエーションに合わせて使い分けていた点が、とても興味深い。異なる種類のアクティビティを1回の旅で必要に応じてミックスする楽しさを知ることができる。(福地)

『A River Runs Through It and Other Stories』 ノーマン・マクリーン(邦訳『マクリーンの川』)
クレイグ・シェイファー、ブラッド・ピット主演の映画を見たのち、憧れていたモンタナ州のフライフィッシング文化に触れたくて読んだ本。モンタナ州のミゾーラやボーズマンでフライフィッシングをやりたくなり、住まいのあるロサンゼルスからクルマを走らせたのも、懐かしい思い出。そんなイエローストーン周辺の川でフライフィッシングやカヤックを経験して楽しさを知り、川にのめり込むようになったのも、この本がきっかけ。(福地)


松田正臣(onyourmark)


「onyourmark」『mark』『PERFECT DAY』など、さまざまなメディアを立ち上げてきた松田さん。特に「onyourmark」は、2011年当時、稀有な独立系の新興メディアとして印象に残っているし、TRAILSとしても同時代性を感じている。そんな松田さんは一緒に旅をしたりすると、いつも世の中に対して広い視野を持ち、大きな熱量で語ってくれる人だ。

そこに通底しているのは、物事のルーツを大切にしカルチャーを掘っていく探究心の強さ。今回選んでくれた本にも、松田さん自身が旅欲をかきたてる心をディグっていった足跡が示されている。

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『何でも見てやろう』 小田実
たいがいの旅人は沢木耕太郎の『深夜特急』に多かれ少なかれ影響を受けていると思います。その沢木氏が、そもそも影響を受けたのがこの小田実による『何でも見てやろう』だと言われています。小田実は1958年に、沢木耕太郎は1973年に、奇しくもふたりとも26歳での旅立ちでした。その間はたった15年ですが、ふたりの旅を比較してみると様々な発見があります。(松田)

『闇の奥』 ジョゼフ・コンラッド
この19世紀末の古典小説を手にしたのは、映画『地獄の黙示録』の制作風景を追った『ハートオブダークネス』というドキュメンタリーを観たことがきっかけでした。 アフリカ奥地の川を遡行しながら、段々と文明と隔絶していく小説のプロットを知ることで、映画がより深く理解できた気がします。最新のSF映画『アド・アストラ』もこの小説を下敷きにしているそうです。(松田)


小林昴祐(NatureBoy)


この記事の企画のなかで、コバ君には「写真集」というテーマに絞って本を選んでもらうほうが、絶対に面白いと確信していた。コバ君が今まで手がけてきた『TRANSIT』編集部における仕事や、彼が発行人として出した『Nature Boy』を、僕らはずっと見てきたからだ。

選んでくれた写真集には、自然や人々の営みにおける、日常的なものと異物的なものが、ひとつの美しさのなかに切り取られている。コバ君のセンスで培ってきた、自然や人との向き合い方を感じられる写真たちだ。

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『OUT THERE』 ブルーノ・アウグスブルガー
自然そのものと、自然に介在する自分自身との関係性をアート的な手法でアプローチした作品集。カナダのユーコン準州で撮影された写真の美しさはさることながら、ときに自身を写しこんだユニークな作品から感じられるのは彼がいかに「自然が好きか」ということ。「自身も自然の一部になれるか」という取り組みとも取れる本作は、原野に身を置くこと、自然で遊ぶことの素晴らしさをアートに落とし込んでいる点で秀逸。(小林)

『いりおもて 海と森と人と山猫』 横塚眞己人
イリオモテヤマネコを撮影するために訪れた西表島で出会った自然と人びとの暮らしをまとめた一冊。ジャングルに数日間篭り、シェルターからヤマネコが現れるのを待つ……。忍耐強く待つからこそ見られる自然の姿に息を飲む。海と森の恵みで生活が成り立つ、西表島の豊かさがいかに尊いか知ることができる。この本がなかったら僕自身も西表島に行っていなかったかも……と振り返るほど、日本の自然の振り幅を知らしめてくれる。(小林)


ロブ・コフリン(GRANITE GEAR)


TRAILSの「BRAND STORY」の記事で、GRANITE GEAR(グラナイトギア)を取材したときにインタビューに応じてくれたのが、アメリカ本社のゼネラル・マネージャーであるロブだった。もともとカヌーのギアを作っていたことがプロダクトのDNAにあることや、ロング・ディスタンス・ハイカーへの思い入れなどを、本当に丁寧に話してくれたのが印象に残っている。

GRANITE GEARがあるアメリカ北部のミネソタは、五大湖などでのカヌー・トリップがメジャーなところでもある。送られてきたリストのなかに、同ブランドのルーツでありDNAであるカヌーに関する本が入っているのを見て、僕らは過去の取材を思い起こし、思わず微笑んでしまった。

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『The Motorcycle Diaries』 エルネスト・チェ・ゲバラ(邦訳『モーターサイクル・ダイアリーズ』)
医学生であった青年チェ・ゲバラが、親友アルベルトとともに、オートバイでブラジルからペルーまで、南米大陸を縦断する旅の物語。旅は自分の魂に決定的な影響をもたらすことを、僕はこの話を通じてはっきりと理解しました。人種や社会的・経済的なバックグラウンドなど関係なく、すべての人を受け入れることを、僕はこの旅の話から教えられました。自分の心を開き、自分とは異なる人の話に耳を傾けると、人はより寛容になり、それがよりよい社会をつくることにつながっていく。この本には、そういった本当の人間愛について書かれているのです。(ロブ)

『Paddling to Winter』 ジュリー・バックルズ
ジュリーとチャーリーの2人がハネムーントリップとして、自分たちでカヌーを組み立て、スペリオル湖(アメリカ五大湖のひとつ)から北極海までの2,700マイル(約4,300キロ)をそのカヌーで旅する話。この旅では、僕の好きなバウンダリー・ウォーターズ・カヌー・エリア・ウィルダネスも通っていて、それがまた僕の心に響きました。このエリアはGRANITE GEARがある場所の近くでもあるのです。ウィルダネスのなかカヌーを漕ぐ旅は、僕の大好きな旅のひとつ。水の上と陸の上を行き来しながら、自然のなかを旅するのは最高の体験です。(ロブ)


TRAILS INNOVATION GARAGE


今回紹介した本は、すべてTRAILS INNOVATION GARAGEに置いてあります。ここにあるのは、TRAILS編集部が厳選した1000冊のライブラリー。

この連載で登場してもらった人たちには、「大自然の中を旅する欲求を、強烈に刺激したお気に入り本」を5冊選んでもらっていて、ここに掲載しきれなかった本も展示中です。

TRAILS INNOVATION GARAGEでは、そのすべてを見たり読んだりすることができます。「MAKE YOUR OWN TRIP」の欲求を刺激しに、ぜひ遊びに来てください。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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