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リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#23 / ALDHA-West Gathering 〜ハイキング・コミュニティのビッグイベント〜 (前編)

2020.01.24
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(English follows after this page.)

文:リズ・トーマス 写真:リズ・トーマス、ラス&キャシー・ボーン、スティーブ・クイーン 訳:小野双葉 構成:TRAILS

今回は、リズが本場アメリカの、ロング・ディスタンス・ハイキング・コミュニティ、そしてハイキングシーンをレポートしてくれます。

以前リズは、『Ruck(ラック)』というアメリカのハイカーイベントの紹介記事を書いてくれました。

その『ラック』は、「これからロングトレイルを歩く人が、すでに歩いた人からアドバイスをもらう場」として、各地で年に複数回開催されているイベントです。

一方で、アメリカには『Gathering(ギャザリング)』というイベントも存在しています。それは『ラック』よりもずっと規模が大きく、ハイカーの祭典とも呼ばれる年1回のイベントです。

TRAILS編集部は、2019年の9月にその『ギャザリング』がカリフォルニア州・ネバダシティで開催されると聞き、リズに取材をオファーしました。

その『ギャザリング』の内容を、前編・後編にわけてお届けします。

前編では、このイベントで行なわれたプレゼンテーションを2つ紹介します。1つは、最近のアメリカのエッジーなハイカーたちの特徴である、オフトレイルのロング・ディスタンス・ハイキングの話。もうひとつは、アメリカのハイキング・コミュニティーをつくってきたキーパーソンの話です。

いずれもアメリカのハイキングシーンがよく理解できる、貴重なレポートです。

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会場に設営されたタープテントとシックス・ムーン・デザインズのシェルター。ハイカーは最新のデザインをチェックできるだけでなく、寝ることも可能。



ロング・ディスタンス・ハイカーが集結する『ギャザリング』とは?



毎年、世界中のロング・ディスタンス・ハイカーは『The American Long Distance Hiking Association-West(※1) Gathering』に集まります。

この集まりは、年に1度、9月の終わりに山にあるキャンプ地にて開催され、ロングトレイルでの冒険を祝うための3日間にわたるイベントです。

※1 The American Long Distance Hiking Association West(ALDHA-West):ロング・ディスタンス・ハイカー、および彼らをサポートする人々の交流を促進するとともに、教育し、推進することをミッションに掲げている団体。ハイキングのさまざまな面における意見交換フォーラムを運営したり、ハイカー向けの各種イベントを開催したりしている。

参加者はロング・ディスタンス・ハイキングについてのプレゼンを聞き、ハイカー・オリンピック(アウトドアアクティビティをベースにした、ハイカーによるゲーム大会)などの面白いイベントにも参加します。そして友だちと話したり、新しいトレイルについて学んだりする時間がたっぷりとあります。

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ギャザリングの受付。Tシャツやキャップなども販売しています。

2019年のギャザリングは、パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)とタホ・リム・トレイル(TRT)からそう遠くない、カリフォルニア州ネバダシティで開催されました。私はこのイベントに参加し、プレゼンテーションを行なった登壇者にインタビューをしました。

金曜日の午後、会場に四方八方からハイカーが集まってきました。Tarptent(タープテント)とSix Moon Designs(シックスムーンデザインズ)は、ハイカーがテストできるように、敷地内に数十個のテントを設置しました。

ギャザリングは、ギアを試したり、使ったギアを交換したり、シーズンの終わりにいくつかアイテムを買ったりするのに素晴らしい場所です。夕方には、ジェイコブ・アンド・ザ・ゴースト・トレインが演奏をしました。チェロ奏者のジョシュア・ボブキャット・ステイシーは、トリプルクラウナー(※2)であり、長年、ロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティに参加しています。

※2 トリプルクラウナー:トリプルクラウン(アメリカ3大トレイル、アパラチアン・トレイル、パシフィック・クレスト・トレイル、コンチネンタル・ディバイド・トレイルのこと)をスルーハイキングしたハイカーのこと。

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初日、金曜の夜はジェイコブ・アンド・ザ・ゴースト・トレインによるライブを開催!



プレゼンテーション1 / 夫婦で開拓した新しい4,200キロのロングトレイル。



次の日の朝、「チーム・ウルトラペデストリアン(※3)」(ペデストリアンは歩行者のこと)して知られている夫婦、ラスとキャシー・ヴォーンのプレゼンテーションから始まりました。

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ラス・ジョンソン・ボーン(左)とキャシー・ボーン。

2人はハイキングをして「the UP North Loop」と呼ばれる2,600マイル(約4,200キロ)の長い道のりをアメリカ内陸・北西部に開拓しました。それは、PCTやオレゴン・デザート・トレイル(ODT)、アイダホ・センテニアル・トレイル(ICT)、パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)などに繋がっています。

※3 Team UltraPedestrian:チーム・ウルトラペデストリアン。ラス・ジョンソン・ヴォーンとキャシー・ヴォーンの夫婦ユニット。人間の持久力の限界を探求する、ウルトラマラソンランナーであり、アドベンチャーランナーであり、スルーハイカー。さまざまな冒険にチャレンジしている。活動内容は、Team UltraPedestrianのホームページもしくはFacebookページにて。

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チーム・ウルトラペデストリアンのホームページ。(http://www.ultrapedestrian.comより)

UP North Loopは、既存のトレイルといかにうまくつなげるか調査する必要がありました。さらに、歩く上では創造性とナビゲーションスキルが求められました。特にODTとICTのセクションにおいては、ほとんどが山の中で、ヤブにも覆われ、整備されていないサイドトレイルが数多く存在しました。

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整備されていない岩場を歩く。

ラスとキャシーは、2人が踏査したルートを他の人たちも歩いてくれることを願っています。でも一方で、彼らはUP North Loopのルートがずっと残ってほしいと思っています。PCTのようにルートがアプリになるのも望んでないし、ただ1種類だけのルートになってしまうことも望んでいないのです。

UP North Loopには、さまざまな山道やサイドトレイル、ハイキングの方法が存在するので、何度もリピートすることで冒険を楽しんでほしい。そう2人は願っているのです。

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二人は、いつも冒険を楽しんでいます。



プレゼンテーション2 / PCTの過去と現在



スティーブ・OG・クイーンは1981年、18歳のとき、パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)をスルーハイクしました。それから35年後の2016年に、彼はふたたびPCTを歩きました。彼の話は、異なる年齢でPCTを歩いた経験についてでした。また、トレイルとトレイル・カルチャーが、長年にわたってどのように変化したかについても話しました。

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2016年、PCTを歩くスティーブ。雪降るワシントン州にて。

スティーブは、初のトリプルクラウナーのうちの一人です。スルーハイキングの生活が終わったあと、彼はきちんとした仕事として、ハイカー・コミュニティで活動していました。彼は、パシフィック・クレスト・トレイル・アソシエーション(PCTA)における、フッド山エリアのボランティアのトレイルメンテナンスグループをつくり、さらにそのリーダーを務めていました。

スティーブは、ALDHA-Westの最初のミーティングから、この組織に関わっています。オレゴン州ラ・パインにあるレイ・ジャーディンの家で開かれた最初のギャザリングには、11人が参加しました。スティーブは、今では以前よりはるかに大きく、より組織化されたこのグループが、1990年代前半からどのように変わったのか話してくれました。

また、ALDHA-Westの初期の役員でもあり、トリプル・クラウン・アワードを継続しつづける責任を担ってもいました。「私は、トリプルクラウンというものの存在感が弱くなっていくことを懸念していました。しかし周りの人々は、そのことについてあまり考えていませんでした。でも私にとって、とても大事なことでした。トリプルクラウンが人々にとってどれほど重要なことなのか、それに気づいてもらう機会をつくることが、私にとって大事なことだったのです」とスティーブは語りました。

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1981年のメキシコ国境。ここからスタートした。

PCTについて初めて知ったのは、友人が彼をオレゴン州のフッド山にあるジグザグ・キャニオンに連れて行った10代の頃でした。その友人は、「もし、そっちの道を行けばカナダに、あっちの道を行けばメキシコにたどり着くよ」と言いました。スティーブにとって、これはターニングポイントだったのです。「これはまぎれもなく自分の人生に起こることのひとつだった。人生には、ある瞬間が訪れます。そして、そのような特定の瞬間が自分の人生のすべてを変えてしまうことを、誰もが知っているのです」

そして18歳のとき、スティーブは、何を期待すべきかもわからず、メキシコの国境に現れました。たった42マイル(62キロ)を歩いたところで、彼は約7キログラムのギアをラグナ山に捨てました。そこには、約3キログラムの手斧も含まれていました。「私はスルーハイキングの経験がなかったので、歩き切るために何をすべきかわかっていなかったのです」と彼は説明しました。

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2016年のメキシコ国境。PCTの南端、サウザン・ターミナスにて。

35年後、ふたたびPCTを歩いたとき、彼はどうなるのか正確にわかっていました。2016年にPCTを歩き始めたときは、「小躍りして、めまいがするほど興奮したしたよ」と言っていました。「ここに戻ってきたなんて信じられない」と感じていました。彼は、たくさんのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきました。知らないことなどありません。彼は、自分ならできるとわかっていたのです。

でも、最後にスティーブがスルーハイクをしてから、かなりの時間が経っていました。2016年以前、スティーブの最後のロング・ディスタンス・ハイキングは1991年。でも2001年、彼はふたたびPCTを歩こうと考えました。その当時、彼には2人の小さな子どもがいました。だから下の子どもが高校を卒業したらまたスルーハイクができるようになると思い、彼は計画をしたのです。その年が2016年でした。

彼の2回目のスルーハイクで、スティーブは、18歳でトレイルを歩くことと53歳で歩くことの違いに気づきました。2回目のPCTハイキングの数年ほど前、彼は背中の手術を受けていました。2016年のスルーハイクの間、彼の背中は、北カリフォルニアにいるときに特に痛みました。それでも彼は、痛みを乗り越えられると自分に言い聞かせました。「私は、必要なことが身体的に完全にできなくなるまでは、トレイルにいつづけるつもりだった」と私に語りました。

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2016年のスルーハイキング中、濡れたギアやウェアを干しているところ。

当然のことながら、スティーブが1981年に歩いたPCTと、2016年に歩いたPCTは違っていました。彼が歩いた1981年、「アメリカ合衆国森林局は、とてつもない情熱で、壮大なトレイルを作っている最中でした」。でも、でも多くの部分はまだ完成していませんでした。2回目のスルーハイキングのときには、南カリフォルニアと北カリフォルニアの半分は、新しいトレイルになっていたそうです。

最近では、PCTは水を確保するのが難しいトレイルです。しかし1981年、スティーブが使っていた舗装路やサイドトレイルでは、簡単に水を得ることができました。にも関わらず、2016年においてもスティーブは、1981年のトレイルでの経験に忠実であろうとして、砂漠でもウォーターキャッシュ(※4)を使うことを拒みました。

※4 ウォーターキャッシュ:トレイルエンジェルや地元の人が、ハイカーのために用意してくれる水。プラスチック容器に入った1ガロンの水が複数置かれていることが多い。

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JMTのシンボルのひとつミューア・ハットの前にて。ここはPCTとJMTが重複しているセクションでもある。左が1981年のもので、右が2016年。

近頃は、スルーハイクで家族や友人と連絡を取りやすくなりました。1981年、スティーブは公衆電話を使っていましたが、今日の携帯電話は、特に人気のGuthook App(※5)というアプリを使うと、PCTでのナビゲーションがはるかにラクになります。「本当に素晴らしいです」と彼は言います。

そしてこう続けました。「だけど時々、自分が何も考えずにオートマチックにこの環境のなかを歩いていることに気づく。私は紙の地図を固く信じていることもあって、たまに、今日はアプリを使わないぞ! と自分に言うことがあるんです」。

スティーブが初めてトリプルクラウン(AT, PCT, CDT)をハイキングしたとき、ハイカーはほとんどいなかったし、トレイルネームを付けられることもなかった。

※5 Guthook App:ガットフックというハイカーが作っているロングトレイルのGPS地図アプリ。オフラインでも使用でき、スルーハイカー御用達。

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1981年にPCTをスルーハイクしている人は、今と比べればわずかばかり。

しかし2016年、トレイルがかなり賑わうようになりました。1981年、PCTを踏破した人が35人だったのに対して、2016年は、スティーブと同じ日にトレイルを歩き始める人だけで35人もいたのです。

それでも2016年、スティーブは他のハイカーたちと繋がることに苦労しました。彼は、他のハイカーよりもずっと年齢が年上で、そして2016年のスルーハイカーの仲間意識が強いことに気づいたのです。

なので彼がグループの一員になるのは困難なことでした。トレイルを歩いているハイカーはたくさんいるのに、彼はたった1人でトレイルを歩いている感じがしました。でも南カリフォルニアで、スティーブは2人のハイカー、サバンナとミアに会いました。彼女たちとは繋がっているように感じたものの、結局、別々の道に進んだため、彼は二度と彼女たちに会えないだろうと思いました。

ところが、彼女たちと別れてから何百マイルも先のケネディ・メドウズにたどり着いたとき、なんと彼女たちがいたのです! サバンナとミアは、彼のことを呼びました。スティーブは、PCTハイカーにとっては、主要な目的地であるケネディ・メドウズに着いただけでも、すでに嬉しかったのですが、2人に会えてさらに嬉しくなりました。

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2016年、オレゴン州とワシントン州の境にある、ブリッジ・オブ・ザ・ゴッズ(神々の橋)にて。

「あなたにトレイルネームをつけたいの」とサバンナが言いました。スティーブは、何万マイルものハイキングの話や、これまでトレイルネームがなかったことを説明しました。「あなたはOGよ」と彼女は言いました。それは、オリジナル・ギャングスターの略なのですが、スティーブは彼女がどういう意味でそう言ったのかわかりませんでした。

「あなたはPCTを歩いた最初の人たちの1人で、そして今、あなたはまさにOGのようにPCTを歩いているわ」と彼女は言いました。

スティーブは、「自分がトレイルネームを持つとは考えてもいませんでした。だけど、こんな風にトレイルネームをつけてもらえたのは、私にとって最高のシナリオでした。私の旅で一番いい日でしたよ」と振り返りました。

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昔のPCTのサイン。

次回の後編では、トリプルクラウン(AT, PCT ,CDTの3つのトレイルのこと)を3度も歩いたハイカー、ヘザー “アニッシュ” アンダーソン、そしてスペイン巡礼道を車イスで踏破したメアリー・タロフ&ローレン・スタインバーグ、この2組のプレゼンテーションを紹介します。

TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT,PCT,CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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WRITER
Liz Thomas

Liz Thomas

2011年にアパラチアン・トレイルを女性の最速タイムで踏破した記録(当時)を持っていることで知られている。彼女はトリプルクラウンを達成しただけでなく、米国に15以上あるトレイルでのスルーハイクを経験し、今まで15,000マイル以上ものトレイルを歩いてきた。また、彼女はその経験をロング・ディスタンス・ハイキングのコミュ二ティに還元することにも熱心で、American Long Distance Hiking Assosication-West(ALDHA-West)のバイスプレジデンドも務めている。彼女がハイキングを本格的に始める前は、イエ-ル大学の森林環境学部で環境科学の修士課程を修了し、彼女が手がけた、ロング・ディスタンス・ハイキング・トレイルとその保護およびコミュニティに関するリサーチは、名誉あるDoris Duke Conservation Fellowshipの賞を受けた。スポンサーはAltra, Gossamer Gear, Probar, Vermont Darn Tough socks, Mountain Laurel Designs, Sawyer filters, Montbellで、アンバサダーとして活躍している。
http://www.eathomas.com/

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