TRAILS REPORT

LONG DISTANCE HIKERS DAY 2020 イベントレポート① | NEW YEAR TOPICS

2020.02.26
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5回目を迎えた『LONG DISTANCE HIKERS DAY』は、昨年の記録を更新し過去最高の来場者数となった。特に、例年にくらべて、会場オープンからかなりたくさんの人が押し寄せ、スタート時からすでに熱気にあふれていた。

ロング・ディスタンス・ハイキングのカルチャーが、徐々に大きくなってきている、そんな感覚があった。

これからロングトレイルを歩きにいきたいハイカーが、そのトレイルを歩いたハイカーに相談する。この光景自体は毎年おなじみだが、いつにも増してそういう姿が、いたるところで見受けられ、大きな熱量を感じた。

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ハイカーとハイカーが自由に交流することで、さまざまな情報やTIPSが共有され、ハイキング・カルチャーがつくられていく。

それはまさにハイカーからハイカーへとバトンとつなぐようでもあり、ロング・ディスタンス・ハイキングが受け継がれ、そして新たな息吹が芽生えているようでもあった。

今回の記事では、今年の『LONG DISTANCE HIKERS DAY』のコンテンツから、昨年から恒例となったNEW YEAR TOPICSをピックアップ。国内外のロングトレイルの最新情報を共有するので、ぜひ今年のロング・ディスタンス・ハイキングの旅のプランニングにご活用ください。

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ハイカーたちによる発表コンテンツに聞き入るたくさんのお客さん。


2020年はドライイヤー!? PCT & JMTの雪は少ないかも!?


2019年はシエラのエリアが記録的な積雪量だったこともあり、PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)、JMT(ジョン・ミューア・トレイル)いずれのハイカーも、雪に悩まされた人が多かった。

しかし今年は、現時点(2月19日)で、シエラの積雪量は平均の7割程度。このままであれば、雪の少ないドライイヤーになる可能性もある。

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JMTの渡渉シーン。荷物を背負って川を渡るのは想像以上に大変。

ただしこの場合は、例年より雪解けが早くそれによって水かさが増すため、6月などの早い時期にシエラの区間を歩く人は、渡渉に充分気をつける必要がある。

もちろん、この少ない積雪量はあくまで現時点のものでしかなく、これから大雪が降る可能性も大いにある。

重要なのは、雪の状況を正しく把握して、それに合わせた準備を行なうこと。参考サイトとしては、PCTAのトレイルコンディションやスノーインフォメーションのページ、postholer.com(アメリカで有名なトレイル関連のコミュニティサイト)など。


増えつづけるスルーハイカー。この10年でATは1.5倍、PCTは8倍。


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2019年が2018年に比べて減少している要因は、PCTの場合、シエラエリアの積雪量が多くスキップもしくはリタイアする人が増えたことが大きい。ATは、映画『A Walk in the Woods』の影響もあり2016年〜2017年にピークを迎え、ここ2年は落ち着き、映画公開前の2013年頃の水準に戻ったと考えられる。

2009年のスルーハイカーの数は、AT(アパラチアン・トレイル)で616人、PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)で107人。2019年はATで915人(推計値)、PCTで899人。

この10年間でATは約1.5倍、PCTは約8倍にまで増えている。しかもこの数値はあくまで自己申告によるものなので、実際のスルーハイカーはもっと多いはずだ。

ちなみに、PCTをスルーハイクする際に必須のロング・ディスタンス・パーミットの申請数の推移は、下図の通り。右肩上がりで増えつづけ、昨年は5,000人を超える人がスルーハイクに挑んだことになる。

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ロング・ディスタンス・パーミットの申請数は、2013年は1041だったが、2019年は5441に。

トレイルに人が増えたことによって、どんな影響があるのか? ここから、パーミット(トレイルを歩く際に必要な許可証)とトレイル・エンジェル(ハイカーにボランティアで宿泊場所や食事を提供してくれたりする人)について紹介したい。


PCTのパーミット取得のルール変更。


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PCTA(パシフィック・クレスト・トレイル・アソシエーション)のウェブサイトより。(https://www.pcta.org/)

■ 去年に引きつづき、南端からスタートするスルーハイカーは1日50人。

昨年同様、PCTの南端から北向き(NOBO / ノースバウンド)にスルーハイクする場合、3月1日〜5月31日の期間で毎日50枠(ロング・ディスタンス・パーミット)のパーミットしか発行されない。

申し込み開始のタイミングは2回で、35枠が2019年10月29日(火)、残り15枠が2020年1月24日(火)。いずれもあっという間に枠が埋まってしまった。

今年歩くPCTハイカーに聞いたところ、申し込み開始と同時にサイトにアクセスするも、400人待ちの状態だったという。この傾向は来年以降も続くと思われるので、早め早めの準備が必要だ。

■ 今年から、南向き(SOBO / サウスバウンド)のスルーハイカーも1日50人に制限。

これまで南向きのスルーハイカーには、何の制限もなかった。しかし、年々南向きのハイカーが増えているため、北端からのスタートが1日50人までとなった。

■ シエラの区間をスキップすると、ロング・ディスタンス・パーミットが無効に。

昨年のように積雪量が多い年だと、6月に残雪があるシエラを一旦飛ばして、7月もしくは8月になってから戻ってきて歩く、というスルーハイカーも多かった。

しかし今年から、サザンシエラ(ケネディ・メドウ – ソノラ・パス)を35日間で通過しないといけないというルールに変更。逸脱するとパーミットが無効になることになった。つまり、これまでのように一旦スキップして、再度戻って歩くことができなくなったのだ(※)。

※ あくまでロング・ディスタンス・パーミットが無効になるという意味。シエラを飛ばして後日歩く場合は、そのエリアごとに発行しているパーミットを別途取得すれば、ハイクすることが可能。


トレイル・エンジェルの引退


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テリー&ジョーが楽しくもてなしてくれるカサ・デ・ルナは、まるでヒッピーのたまり場のよう。

PCTのトレイル・エンジェルとして、長年ハイカーをサポートし、ハイカーから愛されつづけていた人が、次々と引退している。

カサ・デ・ルナとして知られるテリー&ジョーは、昨年で終了。ハイカー・ヘヴンとして有名なジェフ&ドナ・サーフリーは今年引っ越すことが決まっていて、家を売りに出している状況。また、PCT最南端近くのスカウト&フロドは、今年がラストイヤーだと表明した。

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サンディエゴのトレイル・エンジェル、スカウト&フロドのウェブサイトより。(http://sandiegopct.com/)

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ジェフ&ドナ・サーフリーが営むハイカー・ヘヴンのサイトより。夫婦は引っ越すものの、現在Air BnBとしての運営を模索している。(https://hikerheaven.com/)

いずれも20年前後にわたって、ハイカーを支えつづけてきた方々。年齢やライフステージの変化によるところが大きいようだが、ハイカーが増えてきたことも少なからず影響しているだろう。いま、PCTにおけるトレイル・エンジェルのシーンが変わりつつある。


アメリカのロングトレイルと大統領選


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いまだ原始の自然が残されているPNT(パシフィック・ノースウエスト・トレイル)。

国定公園の縮小、地球温暖化対策のパリ協定からの離脱など、環境問題に後ろ向きのトランプ大統領による方針は、アメリカのロングトレイルにおいてもかなりネガティブな要素である。

PNTA(パシフィック・ノースウエスト・トレイル・アソシエーション)のディレクターであり、TRAILSのアンバサダーでもあるジェフ・キッシュはこう語る。「現大統領の環境対策はいろいろ酷いんだけど、トレイルの運営団体が大統領に影響を与えるのは正直難しい。でも、議会を動かすことはできるから必死に働きかけているんだ」。

現在、アメリカは大統領選挙の真っ最中だ。民主党候補のバーニー・サンダースは、幼い頃から自然が好きで、環境保護にも積極的。もし彼が当選したとしたら、トレイルにもプラスの変化をおよぼすだろう。

今後、大統領選がどうなっていくのか。アメリカのトレイルを歩きたいと思っているハイカーは、決して他人事ではないので動向を追うことをおすすめしたい。


信越トレイルが2020年秋に延伸。


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信越トレイルの北の起点である天水山から、南東に位置する苗場山をむすぶ約40kmのエリアが延伸区間。

故・加藤則芳氏の夢でもあった、信越トレイルの苗場山までの延伸。

信越トレイルクラブが中心となって準備を進め、いよいよ今年の秋にオープンする予定だ。

昨年は、かねてよりトレイルづくりにハイカーの声を活かす仕組みを作りたいと考えていたTRAILSが、ハイカーによる延伸モニターツアーを企画。

そして、信越トレイルクラブ、および信越トレイル周辺の市町村や観光団体でつくられる信越トレイル連絡会との共催により実現した。結果、延伸区間のルート決定にハイカーの意見が取り入れられた。

この延伸よって、信越トレイルは約120kmとなり、スルーハイキングに1週間程度を要するロングトレイルに。苗場山の噴火などで生み出された広大な河岸段丘、秘境として知られる秋山郷など、奥信越ならではの景観が楽しめるルートになっている。

また今回の『LONG DISTANCE HIKERS DAY』は、一般向けイベントにおける初の延伸ルート詳細発表の場となった。この発表に多くのハイカーが喜び、そして並々ならぬ興味を抱いていたのが印象的だった


みちのく潮風トレイルでは、すでにスルーハイカーが15人も誕生。


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風光明媚なリアス海岸や急峻な断崖が見どころでもある、みちのく潮風トレイル。

2019年6月に全線開通した「みちのく潮風トレイル」。日本最大の全長1,000kmのロングトレイルとして注目を集め、すでにスルーハイカーが15人も誕生したそうだ。

また現在、キャンプ場や水場、コンビニなどハイカーに必要なポイントが何キロ地点にあるかを網羅した『データブック』を制作中。β版は完成し、データブックのブラッシュアップに協力してくれるハイカーに提供しているとのこと。

そのβ版は、先行していち早くこのイベントで配布された。完全版のリリース日は未定だが、スルーハイカーにとって強い味方になるのは間違いない。

ちなみに、昨年の台風19号により大きな被害を受けたものの、現在はかなり復旧している。詳しいトレイルの情報は、名取トレイルセンターのホームページの注意情報(https://www.mct-natori-tc.jp/caution)を参照のこと。


北根室ランチウェイから広がる北海道ロングハイキングの可能性


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北根室ランチウェイと摩周・屈斜路トレイルをつなぐと、100km超のロングトレイルとなる。

現在、北根室ランチウェイの第6ステージからはじまる「摩周・屈斜路トレイル」の整備が進んでいる。

これは摩周湖〜屈斜路湖にまたがる約45kmのトレイルで、硫黄の吹き出す硫黄山(アトサヌプリ)や日本最大のカルデラ湖である屈斜路湖(くっしゃろこ)の湖畔、アイヌの人々が生活するコタン(集落)などを歩く。

牧場の多い北根室ランチウェイとはまた異なる北海道ならではの景色のなかをハイキングできるトレイルだ。オープンは2020年の夏を予定しているとのこと。

摩周・屈斜路トレイルが完成し、北根室ランチウェイとあわせて歩けば、北海道で100km超のロング・ディスタンス・ハイキングが可能になる。これは北海道はもちろん日本においても大きなトピックとなるはずだ。

また現在、北根室ランチウェイは一部ルート変更している。詳細は、中標津町のアウトドアショップ「COSMO SCIENCE」に問い合わせを。


What’s LONG DISTANCE HIKERS DAY?


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過去最高の来場者でにぎわった今年の『LONG DISTANCE HIKERS DAY』。

日本のロング・ディスタンス・ハイキングのカルチャーを、ハイカー自らの手でつくっていく。そんな思いで2016年に立ち上げたイベントです。ロング・ディスタンス・トレイルを歩いたハイカーが、リアルな旅の体験を発信できる場。ロング・ディスタンス・ハイキングの旅の情報や知恵を交換できる場。旅のあとのライフスタイルについて語り合える場。そんなふうに、ロング・ディスタンス・ハイキングの旅を愛するハイカーにとって、最もリアルな人と情報が交流する場となればと思っています。

このイベントを立ち上げる前に、私たちは『LONG DISTANCE HIKING』(※)という書籍を出しました。この本は、ロング・ディスタンス・ハイキングのカルチャーとTIPSを詰め込んだ本。しかし書籍というフォーマットは、リアルタイムな情報の更新は不向きです。書籍とは別に、必ずリアルタイムで、ダイレクトな情報を届ける場が必要になると考えていました。それが、このイベントが生まれたきっかけのひとつでもあります。

数百km、数千kmにおよぶ歩き旅とは、どんな体験であり、どんな感覚を与えてくれるものなのか?映像や雑誌などの情報からだけでは感じられない、ハイカーの生の言葉で語られる旅の記憶や記録。またそのハイカー自身の人柄。そこには旅への憧れや臨場感を刺激してくれる、豊かでリアリティある情報が溢れています。

※『LONG DISTANCE HIKING』:TRAILSの出版レーベル第一弾として出版した書籍。Hiker’s Depot(ハイカーズデポ)長谷川晋氏による、自身の経験と数多くのロング・ディスタンス・ハイカーのリアルな声をもとに制作した、日本初のロング・ディスタンス・ハイキングにフォーカスした書籍。

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『LONG DISTANCE HIKERS DAY 2020』開催! – 2月15日(土) /2月16(日)

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TRAILSの出版レーベル第一弾「LONG DISTANCE HIKING」

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

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TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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