フォロワーゼロのつぶやき 中島悠二 #14 VS 自然
<フォロワーゼロのつぶやき> 中島君(写真家)による、山や旅にまつわる写真と、その記録の断面を描いたエッセイ。SNSでフォロワーゼロのユーザーがポストしている投稿のような、誰でもない誰かの視点、しかし間違いなくそこに主体が存在していることを示す記録。それがTRAILSが中島君の写真に出会ったときの印象だった。そんな印象をモチーフに綴られる中島君の連載。
#14「VS 自然」
テントをパチパチとたたく音で目が覚めた。跳ねるように体が反応した。あらゆる最悪な予感。夢ではない。何かの間違いではないか。テントから顔をだすと、雨が降っていた。目を疑った。すぐには受け入れられない。茫然として空を見上げる。これには地面の芝を掻き毟ってやろうかと思うくらい頭にきた。実際数本つかんでひきちぎった。
昨日も一日雨だった。でも明日はようやく大丈夫だと、夜の星空を眺めながら安心して眠ったのだった。そうやってすっかり油断させておいてから、とつぜん突き落としにかかる。卑劣なやり口。いつでもこちらを先回りして、出し抜いてくる。スリッパで追いかけられるゴキブリの気分。天気とか自然だからといってそういうものだと割り切ってさらりと受け流すような度量はもうこちらには残っていない。そうするのが分別ある理性的なふるまいだとしても今の自分には嘘だ。自然がそんなに偉いのか。簡単に許すわけにはいかない。人の心がないのだろうか?
たまには声をあげるべきだ。念のためまわりにひとがいないことを確認した上で叫んだ。喉に引っかかる感じがした。マイクを通さない叫び声はこだますることなく雨の音に吸い込まれて、ほとんど無駄。地面を強く蹴る、強く、強く蹴った。ここまで来たのが間違いだった。「もう絶対に期待するのはやめた」。そう日記に書きこんだ。怒りで文字を埋めていくと、すこしは気持ちが落ち着いてくるのだった。
とはいえ当然時間がたてば空は動きはじめる。それもそう遠い先ではなかった。雲の様子が激しく変化しているのが見えた。そう簡単に判断してはいけないが、どうやらほんとに上向いている。そうしてとうとう雲が割れた、青い空がみえる!太陽が顔をだした。これが答えなのか?まだ乾かない草の上の水滴が光を反射してキラキラした。
ザックからカメラをだして写真を撮ると、体中に栄養がいきとどくようにぐんぐんと力が湧いてきた。太陽の強引な光が、自分の中のあらゆることを裏から表にひっくりかえしていった。泣けてくる。どう考えればいいのだろうか?あきれてしまう。これが自然の二枚舌だ。これがやつらのやり口なのだ。
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