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井原知一の100miler DAYS #02 | 食べる生活(信越五岳2019)

2020.05.27
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文:井原知一 写真:井原知一、TRAILS 構成:TRAILS

What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。

* * *

トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。

第2回目は、「食べる生活」です。

過酷なレースを走る100マイラーは、きっと食べるものにも気をつかっているはず。

そんなわけで、今回はトモさんが普段どのような食生活をしているのか? という側面から、100マイラーのリアルに迫ってみたいと思います。

ちなみにトモさんは、「走る、食べる、寝る、遊ぶ、すべてにおいて毎日後悔がないように楽しみたい!」という全方位全力スタイルの性格。

食べるよろこびと食事制限をどのようなバランスで実践しているかも気になります。

今回は、昨年の「信越五岳トレイルランニングレース」 (※1) のときにトモさんが実践した食生活を紹介します。

※1 信越五岳トレイルランニングレース:SFMT (Shinetsu Five Mountains Trail)。2009年に第1回目を開催した日本を代表する歴史あるトレイルランニングレース。トレイルランナー石川弘樹プロデュースのレースとしても有名。SFMこと信越五岳は、新潟・長野県境にある斑尾山、妙高山、黒姫山、戸隠山、飯縄山、5つの独立峰の総称で、北信五岳とも呼ばれる。2017年からは100マイルのカテゴリーが新設された(ただし、2017年は悪天候により110キロの短縮コースになった)。

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レース後半、徐々に順位を上げていくトモさん (左) とペーサーのJR田中さん。


信越五岳:個人的に、日本の100マイルレースでいちばんおすすめ


信越五岳は、海外の人にも国内の人にも、日本の100マイルの中で特におすすめしたい大会です。

なぜなら、石川弘樹さんの豊富な経験が詰まっていて、アメリカの100マイルのカルチャーに日本の良さをプラスしたレースだから。あとは、ぼくの生まれ育った長野の魅力があり、さらにその地元が盛り上がることを考えた運営をしているからです。

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スタート直前。最前列で淡々と準備を整えながら号砲を待つ。

ウルトラ (※2) の鉄人たちが「はじめの70マイルは賢く走れ、残りの30マイルを気持ちで走れ」と言うように、前半は、ラスト30マイルを目標タイム内で走れるようなペース配分でした。

このレースにはペーサー制度 (※3) があって、今回は、普段一緒に練習することが多いJR田中さんにお願いしました。

結果は4位と、TOP3に惜しくも入れず。最後の大きな登りで3位の選手の背中をとらえて頑張ったけど、気持ちで負けてしまったなと。

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ペーサーのJR田中さん (左) と一緒に、4位でゴール。

終盤になれば誰でも疲れてくるので、残りは気持ちで走るもの。でもその頑張れる気持ちっていうのはミラクルのように降ってくるものではなく、今まで頑張ってきたからこそ出てくるものなんです。そこで大事になってくるのは、走る練習はもちろんですが、今回のテーマである食生活でのカラダづくりなんです。

3位以内には入れませんでしたが、やっぱり100マイルという長い距離を約1日かけてゴールしたときの気持ちは格別です。まして一生懸命に練習してきた仲間とのゴールは、もっと格別です。

※2 ウルトラ:ウルトラランニングのこと。長距離レースのことで、ロードであれば100キロ、トレイルであれば100マイル (160キロ) を指すことが多い。

※3 ペーサー制度:ペーサーとは、選手と一緒に走る伴走者のこと。アメリカのレースでは一般的だが、日本においては、この信越五岳が初めてペーサー制度を導入。100マイルカテゴリーは102キロ地点からペーサーをつけて走ることができる。ペーサーは、選手と並走しながらコースプロフィールを教えてくれたり、路面状況を共有してくれたり、最適なペースでリードしてくれたり、叱咤激励してくれたりと、さまざまな面で選手の支えになってくれる。


【食べる生活 (その1):レース4カ月前】 大好物の炭水化物を摂らない、ややストレスフルな生活


信越五岳のときは、本格的に「ファットアダプテーション」 (※4) を取り入れてみました。

「ファットアダプテーション」は、脂質をエネルギーとして利用しやすい身体に調整する方法。レース4カ月前は、フェーズ1の期間になります。

1日の摂取バランスとしては、糖質は5%以下で、脂質は70%以上。

実は、ぼくはライスの上にライスをおかずとして乗せるくらい、大のライスイーターなんです。

しかし今回は糖質を制限するために、それをガマンする生活が始まりました。

※4 ファットアダプテーション:安静時、運動時に脂質をエネルギーとして利用しやすい身体に調整すること。脂質の摂取と計画的なファスティング、脂質代謝を高めるトレーニングを行なうことで、より高負荷でも高い脂質代謝を保つことが可能になり、高負荷の運動を無理なく継続できるようになる。http://fatadaptation.net

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このくらい朝飯前なのに、ガマンしなくてはいけない。

ファットアダプテーションを導入した、フェーズ1の1日の食事のメニューはこんな感じです。

■ 朝食:MCT (※5) とコーヒー
■ 昼食:サラダ、ゆでたまご、サバ缶、シーチキン、チーズ、アボカド、ピーナッツなど
■ 夕食:冷しゃぶサラダ、チキンのグリル、カリフラワーライス、茶碗蒸しなど

※5 MCT:Medium Chain Triglycerideの略で、中鎖脂肪酸のこと。ココナッツやパームなどに含まれる天然成分で、一般的な油よりも消化・吸収が早く、エネルギーになりやすい。

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朝食は、MCTを入れたコーヒーのみ。

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夕食の一例。チキンのグリルとサラダ。この時期は、ほとんど炭水化物を摂らなかった。

このように大好きな炭水化物をガマンする食生活です。

特にこの最初のフェーズでは、ほとんど炭水化物は摂らないので、ストレスが溜まることもありましたね。


【食べる生活 (その2):レース3カ月前〜レース直前】 週1回チートデイ (好きなものを食べていい日) をつくる


ファットアダプテーションのフェーズ2。フェーズ1に比べて、ゆるめの糖質制限になります。

このフェーズでは、1日の摂取バランスの目安は、糖質は15〜30%で、脂質は50〜60%です。

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とある日の昼食に食べた、タコライス。

ファットアダプテーションのフェーズ2のメニューは、こんな感じです。

■ 朝食:MCT、コーヒー、ヨーグルト、果物
■ 昼食:サラダ、ゆでたまご、サバ缶、シーチキン、チーズなど
■ 夕食:蒸し鶏サラダ、魚の塩焼き、繊維質の多い野菜など

フェーズ1ではほぼ炭水化物は摂りませんでしたが、フェーズ2では週に1度のチートデイ (好きなものを食べていい日) をつくって、その日には大好きなラーメンを食べることで、さほどストレスなくつづけることができました。

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週1回のチートデイに食べる大好物のラーメン!


【食べる生活 (その3):レース直後 】 リミット解放のバカ喰いで、ストレス発散


ファットアダプテーションを実践したこともあって、冒頭で紹介したように、信越五岳では自身最高順位の4位というパフォーマンスを発揮できました。

糖質を制限することで脂質代謝にすぐれた体質になり、それがレースの結果にもつながったと思います。

レースが終わった後は、もうリミッターを外しました。なにしろ、大好きな炭水化物やビールをずっとガマンしてきたわけですから。

こってり濃厚なラーメンにライス、ハンバーガーとポテト、ビールも好きなだけ。このときは、とにかく頭に思い浮かぶ食べたいものを、とことん食べました。

自分の性格上、強弱をつけることでモチベーションを持続できるんですよね。

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こってり濃厚な家系ラーメンにライスもつけて。

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ハンバーガーとフライドポテトも最高。

ぼくはこのスポーツを90歳までつづけたいので、目先の成果にとらわれすぎて短期間でバーンアウトすることがないように気をつけています。

そのため、ランニングを生涯スポーツ前提として考え、小さなストレスが蓄積していかないように、時にはストレスを発散しながら継続することがポイント。なので、レース後のこのやりたい放題の期間はかなり大切ですね。


【食べる生活 (その4):1週間後】 奥さんのサポートを受けながらバランスの良い食生活


さすがに1週間も好き放題食べていたら飽きてくるので、通常の食生活 (家族と一緒) に戻します。

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奥さんがバランスを考えてつくってくれる食事によって、トモさんの強靭なカラダがつくられる。

ランナーにとって食はすごく大切で、これも練習の一環です。ぼくはバランスを重視しているんですが、奥さんがいつも健康を考えて調整してくれているので、とても助かっています。

ファットアダプテーションに関しては、今回のようにフェーズ1、フェーズ2とトータル4カ月かけて究極のファットアダプテーションをやるスタイルと、そこまでやらずにレース1カ月前くらいから適度にやるスタイルがあります。

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ホットプレートは家族団らんに持ってこい。パエリアも好物。

どっちを選ぶかは人それぞれですが、ぼくは、走る、食べる、寝る、遊ぶ、すべてにおいて毎日後悔がないように楽しみたい! というスタンス。

だから、ファットアダプテーションは結果を出したいAレース (その年の一番重要なレース) 前に集中してやって、それ以外では好きなものを食べて、たくさん走って、というのが性に合っているんだろうと思っています。

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高尾を走っている途中で立ち寄った、地元のとうふ屋さん。美味しい豆腐とおからドーナツをゲット。買い食いも大好き。

トモさんの100マイラーとしての食生活、いかがだったでしょうか。

以前に私 (根津) がトモさんと遊んだとき、サイゼリヤで大盛りカルボナーラにミラノ風ドリア、さらにサイドメニューまで頼んで、それを一人でむしゃむしゃ食べている彼の姿に驚かされました。

トレイルランナーには、菜食中心の人や、グルテンフリーをしている人、お酒をひかえている人もいるなか、100マイラーにしては食べすぎじゃないの? レース前はどうしているんだろう? と不思議に思ったのです。

でも今回の記事で、とにかく楽しみたいことをクレイジーなまでに全力で、というトモさんのスタイルを聞いて納得しました。食事制限するならば、それも徹底的にやってみる。ストイックにやった後は、また欲望を解放する。

それが「90歳まで100マイルを走りつづける」ための、トモさんなりのやり方なのだと。

次回は100マイラーの「家族との生活」をお届けしますので、お楽しみに。

TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。

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井原知一

井原知一

1977年、長野県生まれ。アメリカの大学を卒業後、仕事を転々とした末、2007年にスポーツ商社に転職。同企業のダイエット企画がきっかけでトレイルランニングに出会う。当時31歳。すぐさま夢中になり、トレイルラン2年目でOSJ (アウトドア・スポーツ・ジャパン) のシリーズ戦全戦を完走。3年目にはSFMT (信越五岳トレイルランニングレース) で8位。初めての100マイルは、2010年に自ら企画した草レースTDT(ツール・ド・トモ)。以降100マイルの魅力にとりつかれ、『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げて走るようになる。つねにチャレンジしつづけることをモットーとし、90歳での100マイル完走も目標のひとつ。走ることの素晴らしさを広め、人生を変えるきっかけづくりのために、ポッドキャスト『100miles, 100times.』や、自ら立ち上げた『Tomo's Pit』を通じてコーチングも手がけている。

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