STORY

井原知一の100miler DAYS #06 | 家族との生活(WTK100)

2021.02.19
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文・写真:井原知一 構成:TRAILS

What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。

* * *

トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。

第6回目のテーマは、「家族との生活」です。

今回は2020年の12月に開催され、57本目の100マイル完走となった『Welcome to Kyoto 100 (以下、WTK100)』(※1) を紹介してくれます。

WTK100は、草レースというよりも、仲間たちと勝手に走る “勝手100マイル”。言ってみれば、トモさんが企画・主催している『TDT (ツール・ド・トモ)』(※2) と似たようなスタイルのイベントです。

実はこのレースの後に、トモさんは手、鎖骨、肋をはじめ5カ所も骨折する事故をしてしまいます。その後は、家族のサポートを受けながら、ケガからの回復に専念する日々。

というわけで、今回は京都のインディペンデントな100マイルレースと、骨折の話をしてもらいました。

※1 Welcome to Kyoto 100 (WTK100):2020年12月12〜13日に、京都で開催された招待制の100マイルイベント。京都のピラティス・ヨガスタジオ「Nadi kitayama」を起点に、鴨川・大文字をつないだ1ループ約26.7kmを6周 (total 160km) する。制限時間は31時間、累積標高は約2,600m。

※2 TDT:ツール・ド・トモ。2010年にトモさんが自ら企画した100マイル走で、トモさんが初めて走った100マイルでもある。スタート&ゴールは多摩川の河口、羽田空港近くにある鳥居で、高水山常福院を往復するコース。ロード8割、トレイル2割。

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出走者と話しながら楽しく走り続けた100マイル。photo by Hideki Wachi


WTK100:僕の大好きな、勝手100マイル!


57本目の100マイルとなったWTK100は、京都のピラティス・ヨガスタジオ「Nadi kitayama」の店長SATORUくん主催の、勝手100マイルです。

彼との出会いは、2019年にトレイルランのイベントのお仕事で呼ばれた時でした。その後、100マイルのイベント開催の話を聞き、ぜひ参加させてほしい! とお願いしていたのです。

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スタート前に、WTK100の出走者たちと記念撮影。右から4番目 (僕の隣) がSATORUくん。photo by Hideki Wachi

今回走るにあたって、僕が目標としていたのは下記3つです。

1. 出走者、サポーター、すべての関わってくれた方々とたくさん話す
2. sub24 (24時間以内での完走) を目指すSATORUくんと一緒に走って目標を達成させる
3. ノーダメージで100マイルを走り終える

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手作りあふれるエイドは、ローカル感満点で、“勝手100マイル” ならでは。photo by Hideki Wachi

1は、出走者とはゆっくり話せましたが、エイドでサポートしてくれた方々とは、エイドでの滞在時間が短かったこともあり、あまり話すことができませんでした。でも、いつ戻ってくるかわからないランナーを待ってくれていて、本当に感謝の気持ちしかありません。

2は、見事達成です! ゴールはいつも嬉しいですが、仲間と運命共同体で走ってきて、調子のいい時も悪い時もともに過ごし、仲間の夢が叶う瞬間に立ち会えるなんて、最高に贅沢な時間でした。

3は、ほぼ無傷での完走でした。2020年はコロナの影響で軒並みレースが中止になり、自分のコントロール下でやれることはごくわずかだったと思います。そんな中で地道に練習に取り組んできたのですが、結果、今まで走ってきた100マイルで一番ダメージもなく、うまく走れたと思います。次の100マイルにつながる手応えを感じました。

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主催者かつRD (レースディレクター) のSATORUくんと一緒にゴール。目標のsub24を達成! photo by Hideki Wachi


【家族との生活 (その1):レース1カ月前】 娘のボルダリング姿に、日々刺激を受ける


娘のさくらの存在が大きかったですね。彼女が大好きなボルダリングを頑張っている姿を見られることが本当に嬉しいのです。

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ボルダリングジムで、コーチと一緒にルートを確認するさくら。

ボルダリングのスクールや個人レッスンには、妻が週に3回連れて行ってくれているのですが、自分もなるべく一緒に行くようにしています。

それは、さくらの今この瞬間を、できる限り目に焼き付けておきたいからです。

自分が走りはじめてから人生が変わったように、ボルダリングがさくらを幸せにしてくれるきっかけになればと思っています。

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真剣にボルダリングに取り組むさくらから、たくさんの刺激をもらっている。


【家族との生活 (その2):レース2〜3週間前】 家族で過ごす時間が、なによりの幸せ


ちょうどこの時期は、僕が関わっているレースの運営や開催の準備があって、週末は家族と過ごす時間がとれなかったんです。

でも会社員を辞めて独立してからは、平日は基本的に自宅で仕事をしています。おかげで、平日に家族との時間が多くとれるようになりました。

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家族との時間が、100マイルでのより良いパフォーマンスにもつながる。

なにか特別なことをしてるわけではないのですが、一緒に同じ家の中で同じ空気を吸っているだけでも幸せですね。

井原家は、99%外食をしないんです。僕が決めたわけではないんですが、家で妻と娘と一緒にゆっくりと食事をするのが好きなんです。心身ともに安らぎますし、レース前はなおさら大事だと思っています。

いつも美味しい手料理を作っている妻には、とても感謝しています。

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家でもボルダリングのトレーニングに励むさくら。これも井原家の日常。


【家族との生活 (その3):レース直後】 自転車の事故により、5カ所を骨折


WTK100を終えてからすぐに、自分が手がけている『Tomo’s Pit』というコーチングの仕事などがありました。

事件が起きたのは、外出先から家に戻るときのことでした。自転車に乗っていたのですが、手に持っていた荷物が前輪にはさまってしまったのです。

気がつけば後輪が跳ね上がり、次の瞬間には自分の顔が道路に打ちつけられていて、アスファルトの匂いがしていました。一瞬なにが起こったのかわからなかったのですが、あたりを見回して、落車したんだと認識しました。

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自分にとって人生初の大ケガ。事故直後は、PCのタイピングすらままならない日々を過ごす。

でも状況を把握したのもつかの間、カラダの右側が叩きつけられたため右半身に激痛がはしりました。幸いにも目の前にファミリーマートがあったので、とりあえずピットイン。

落ち着きを取り戻して、とりあえず壊れた自転車をひきずって帰ろうかと思ったのですが、足を一歩出すにも激痛がはしるので、タクシーを呼んで帰宅しました。

そのあと、妻に病院まで連れて行ってもらったのですが、手、鎖骨、肋をはじめ5カ所も骨折していました。

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5カ所を骨折しながらも、家族と楽しいクリスマスを過ごした。


【家族との生活 (その4):レース1週間後】 家族の多大なサポートを受けて、ケガを克服


骨折をしてからしばらくは、家族がいつも以上に優しかったです (笑)。

骨折をするとこんなにも生活自体が不便になるのだと、しみじみと感じました。たとえば、なにかを取る、開ける、服を着る、歯をみがく、お風呂に入る……そんな普通にやってきたことが、困難になるのです。

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すべては妻と娘のおかげ。

いつも当たり前のように家族と過ごしているけど、これがもし一人だったらもっともっと大変だったろうなと。家族がいたおかげで、なにかと手伝ってくれたので助かりました。

あとはとにかく仕事に影響を与えないように、1日でも早く治すべく努力しました。カルシウム、コラーゲン、ビタミンを摂取し、酸素カプセルにも入り、睡眠も10時間以上とり、有酸素系の機能が低下しないようバイクでトレーニングもしました。

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家族のサポートもあって、事故から3週間後にはトレーニングも再開! (東京は聖蹟桜ヶ丘にある『TREAT トレーニング&治療院』にて)

結果、骨折から3週間後には走れるようになりました。振り返れば、家族がものすごくサポートしてくれたからこそです。こうやって、ふたたび普段の日常に戻って、両手でタイピングできていることに感謝しています。

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リビングにずらっと並べてある、家族との思い出の品々。いつも感謝!

「手、鎖骨、肋など5カ所も骨折」と話を聞いたときはかなり心配しましたが、さすがトモさん、回復へのアプローチも栄養摂取、酸素カプセル、睡眠時間を伸ばすなど、集中した対策をとって、驚異的なリカバリーを果たしたようです。

タフな100マイルを走っているトモさんでも、このような大ケガのときは、家族サポートが一層ありがたかった、というのはとても心にしみる話です。

家族との絆がさらに深まったトモさんの、次の100マイルが楽しみだ。

TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。

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井原知一

井原知一

1977年、長野県生まれ。アメリカの大学を卒業後、仕事を転々とした末、2007年にスポーツ商社に転職。同企業のダイエット企画がきっかけでトレイルランニングに出会う。当時31歳。すぐさま夢中になり、トレイルラン2年目でOSJ (アウトドア・スポーツ・ジャパン) のシリーズ戦全戦を完走。3年目にはSFMT (信越五岳トレイルランニングレース) で8位。初めての100マイルは、2010年に自ら企画した草レースTDT(ツール・ド・トモ)。以降100マイルの魅力にとりつかれ、『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げて走るようになる。つねにチャレンジしつづけることをモットーとし、90歳での100マイル完走も目標のひとつ。走ることの素晴らしさを広め、人生を変えるきっかけづくりのために、ポッドキャスト『100miles, 100times.』や、自ら立ち上げた『Tomo's Pit』を通じてコーチングも手がけている。

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