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井原知一の100miler DAYS #03 | 家族との生活(AC100)

2020.07.29
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文・写真:井原知一 構成:TRAILS

What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。

* * *

トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。

第3回目は、「家族との生活」です。

トモさんは100マイラーであると同時に、一児のパパであり、夫でもあります。

そして日頃から「家族の支えがあってこそ、100マイルを走ることができる」と言っています。

家族にどんなサポートをしてもらいながら、100マイラーとしてのトモさんと、パパとしてのトモさんを両立しているのでしょうか。

今回は、家族とともにレースに臨んだ、2016年の『Angeles Crest 100 Mile (以下AC100)』(※1) における「家族との生活」を紹介してくれます。

※1 AC100:Angeles Crest 100 Mile Endurance Runが正式名称。アメリカはカリフォルニア州にある、エンジェルス・ナショナル・フォレストにて、毎年8月の第1週に開催される100マイルレース。第1回目が1986年に開催された歴史ある大会でもある。制限時間は33時間。

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レース後のロードトリップで訪れたタホ湖の近くにあるギフトショップ。


AC100 (アメリカ・カリフォルニア州):自分を100マイラーとして成長させてくれたレース


2013年、2014年、そして今回の2016年と、AC100はこれまで3回走りました。

1回目は何も知らないがゆえに、恐れず突っ込んだらうまく行ってしまって、結果はSUB24の総合5位。

翌年は、優勝を目指したものの、制限時間ギリギリの31時間19分27秒(制限時間は33時間)で完走。

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毎年、暑くて乾燥していることで有名なAC100。2016年のレースで3回目の出場となりました。

2回目のAC100では、実は途中で補給を失敗して、50マイル地点で人生初のリタイアを考えました。

このときは、途中で嘔吐しまくっていて、もう最後に出るものといえば、自分の目ん玉くらい……という感じでした。

でも、サポートをしてくれていた美恵子さん (現地在住の先輩トレイルランナー) に何度も説得されて踏ん張りました。

このときに美恵子さんが次のようなことを言ってくれたんです。

「この先ウルトラランニング (※2) を続ける上でこのような辛い経験はたくさん待ち構えている。もし今やめて楽になっても、明日自分の顔を鏡で見たときに絶対に後悔する。一生後悔するよ」

この言葉は、いまも忘れられません。

※2 ウルトラランニング:長距離レースのことで、ロードであれば100キロ、トレイルであれば100マイル (160キロ) を指すことが多い。

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エイドステーションにて。身内はもちろん、地元のたくさんの人が支えてくれる素敵な雰囲気の大会です。

この日から今までウルトラでツラい場面と向き合ってきたけど、いまだにこれ以上のものには出会ってません。AC100は、自分を100マイラーとして成長させてくれたレースだと思います。

ちなみに、2016年は28位でした。たまたま2度目の日の出のタイミングでゴールしたこともあり、セカンドサンライズと呼ばれる幻のバックルを手に入れることができました。

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上:24時間以内にゴールした人がもらえるシルバーバックル 左:2度目の日の出時刻にゴールした人がもらえるセカンドサンライズバックル 右:33時間以内にゴールした人がもらえるブロンズバックル


【家族との生活 (その1):レース1〜2カ月前】娘のさくらが主役の生活


日々、家族と一緒に過ごしていますが、主役は娘のさくらです。

ボルダリングをやっていて、週に3回ジムに行きます。自分はボルダリングをやらないので技術的なアドバイスはできませんが、ボルダリングに夢中になれること、そして夢を追い続けられるような環境をサポートをすることが自分の役目だと思っています。

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さくらは、自分の部屋の壁に憧れの選手の切り抜き写真を貼ったり、部屋にあるうんていで自主トレをしたりと、オリンピックを夢見ています。

とにかく夢中で大好きなことをやっている彼女の姿が大好きです。彼女のボルダリングであれば、何時間でも見続けられる。喜んでいる姿や、悔しくて泣いている姿も全部好きですね。

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とあるボルダリングジムのコンペで3位になったこともあります。

スポーツはもちろんすべてにおいて、がんばる意欲があれば上達するし、夢は叶うと思えるものです。

さくらにとってそれがボルダリングなのであれば、これからもその夢がブレないように見守ってあげたいし、それに対しては、僕もトレイルランニングと同じくらい夢中になれるんです。


【家族との生活 (その2):レース直前】リラックス気分で、カリフォルニアを満喫


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アメリカに向かう飛行機にて。ちょっとした旅行気分。

レース4日前にカリフォルニアに入って、家族と楽しく過ごしました。

レースに向けて精神統一するとか、一人になるとか、特別そういうのがあるわけではありません。もはやレースは生活の一部になっているので、緊張もしませんし、家族とも普段どおりです。

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レース前だからといって、家族との生活はいたって変わらず。

カリフォルニアのチャイニーズシアターに行ったり、宿泊先のプールで泳いだり、日本から来ている仲間たちと一緒にご飯を食べたりと、カリフォルニアを楽しみました。


【家族との生活 (その3):レース直後】レース後の授賞式に、娘と一緒に参加


この頃は、さくらも4歳と幼かったこともあり、「自分がやり遂げるところを見せたい」という思いで走ってました。なので、妻も含めて一緒に手をつないでゴールできたのは良かったですね。

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家族みんなでゴール!

翌日のアワード (授賞式) では、完走したランナーにバックルが手渡されるのですが、それもさくらと一緒にもらいに行きました。

さくらも「パパは足が痛いから」と言ってくれたりして、この時ばかりは、一瞬ではありますけど僕が主役という感じでしたね。

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アワード (授賞式) でもらったバックルを手にするさくら。パパが頑張ったことを少しはわかってくれたみたいです。


【家族との生活 (その4):レース1週間後】約1,000kmのロードトリップ


アワードが終われば、僕の時間は終わって家族の時間。

レンタカーを走らせ、ロサンゼルスからサンフランシスコまで行き、ヨセミテ、マンモス・レイク、タホ湖など、点々と宿泊しながら1週間かけて約1,000マイルを旅しました。レースのたびにこんな旅ができるわけではないので、とても楽しかったですね。

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マンモスマウンテンの山麓にあるマンモス・レイクで、のんびりランチ。

いつからか、家族で旅行するときは目的地を事前に決めず、その日に行きたい場所に行くのが、自分たちのスタイルになりました。綿密に決めてしまうと、せっかくのバケーションなのに時間に追われるというか、普段の生活みたいになってしまうんです。

ドライブしながら、美味しそうなアイスクリーム屋さんがあればそこで止まって食べて、その店主のおすすめスポットがあればそこに行ったり、あるいは何もしない!となればホテルのプールでダラダラ泳いだり。とにかく贅沢な時間です。

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サンフランシスコにも行きました。本当に贅沢なロードトリップでした。

『生涯で100マイルを、100本完走』という夢をかかげるトモさんは、自分の夢を追いかけるだけでなく、娘のさくらちゃんのボルダリングの夢にも最大限のサポートをするパパだった。

きっとお互いの夢を応援し、サポートしあうことこそが、トモさんファミリーの家族のかたちなのだろう。

「レースは生活の一部」とトモさんが語っていたが、家族も同じようにトモさんの「100マイラーという生活」を一緒に過ごしているのだと感じるエピソードだった。レース後のマンモス・レイクでのさくらちゃんの写真を見ながら、そんなことを強く感じた。

TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。

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井原知一

井原知一

1977年、長野県生まれ。アメリカの大学を卒業後、仕事を転々とした末、2007年にスポーツ商社に転職。同企業のダイエット企画がきっかけでトレイルランニングに出会う。当時31歳。すぐさま夢中になり、トレイルラン2年目でOSJ (アウトドア・スポーツ・ジャパン) のシリーズ戦全戦を完走。3年目にはSFMT (信越五岳トレイルランニングレース) で8位。初めての100マイルは、2010年に自ら企画した草レースTDT(ツール・ド・トモ)。以降100マイルの魅力にとりつかれ、『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げて走るようになる。つねにチャレンジしつづけることをモットーとし、90歳での100マイル完走も目標のひとつ。走ることの素晴らしさを広め、人生を変えるきっかけづくりのために、ポッドキャスト『100miles, 100times.』や、自ら立ち上げた『Tomo's Pit』を通じてコーチングも手がけている。

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