井原知一の100miler DAYS #07 | 走る生活(天狗60耐)
文・写真:井原知一 構成:TRAILS
What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。
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トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。
第7回目のテーマは、「走る生活」です。
今回、紹介してくれるのは『天狗60耐』(※1) という、高尾山周辺を60時間耐久で走りつづける、自主企画のチャレンジです。
出走者はトモさんひとりだけ。60時間走りつづけるので、なんと走った距離は100マイルどころではなく、140マイル (約224キロ) 。
60時間ということは、2日半も寝ずに走りつづけるわけです。なんでこんなクレイジーなチャレンジをすることにしたのか? その理由とともに、語ってもらいました。
※1 天狗60耐:2018年4月13日〜15日にかけて、高尾で実施されたトモさんの自主企画。1周16km (累積標高1,500m) のループコースを、60時間以内に14周 (合計224km・累積標高2万1,000m)することが目標。
天狗60耐:時間も距離も、途方に暮れるほど長く感じた
2018年3月のバークレー・マラソンズ(BM100 ※2)までは、100マイル41本を、どんな展開になろうともすべて完走してきました。でも、このBM100では5ループ中の1ループ目で制限時間オーバーになり、あっさりと黒星がついたのです。初開催から34年間で完走したのはたった15人という、「世界一過酷なレース」は甘くありませんでした。
帰国の飛行機で窓の外を眺めながら、このレースで起きたことを頭のなかで整理し、完走するためのタスクができました。
でもまずは、BM100と同等の距離と累積標高を走れなければ、再度挑戦する資格すらないと思ったんです。それで、高尾の天狗コース (1周16km・累積標高1,500mのループ) を60時間以内に14周することに決めました。それが、天狗60耐が生まれた背景です。
※2 バークレー・マラソンズ (BM100):アメリカ・テネシー州のフローズンヘッド州立公園で毎年3月に開催されている耐久レース。「世界一過酷なレース」とも呼ばれている。1986年に第1回目が開催された。以来、34年間で完走したのはたった15人。発案者は、ラズ(ゲイリー・カントレル)。総距離は100マイル以上、累積標高は2万メートル以上、制限時間60時間。エントリー方法も公開されておらず、謎の多いレースでもある。
実際に走ってみると、とてつもなく長く、先のことを考えると時間も距離も、途方に暮れるほど長く感じました。
気持ちが切れることはなかったですが、ゴールに向けてどうやってメンタルコントロールすれば楽に走れるのか考えたとき、細分化していくことがいいと思いました。
とにかく1周1周の積み重ね。辛くても楽でも、一歩一歩進まなければゴールすることはない。考え方ひとつで楽になる、という自分のフォーミュラ (方程式) があったからこそ走りつづけることができました。
気持ちの浮き沈みの多いウルトラ (※3) では、このようなフォーミュラを技として持っておくことが大事ですね。
結果としては、58時間3分かけて14周 (224キロ) を達成。この挑戦をするにあたって、サポートしてくれた仲間や、途中で一緒に走ってくれた仲間がいてくれたことが、とにかく嬉しく、感謝しています。
※3 ウルトラ:ウルトラランニング (長距離レース) のことで、ロードであれば100キロ、トレイルであれば100マイル (160キロ) を指すことが多い。
【走る生活 (その1):レース1〜2週間前】 通常レースとは違い、運動強度を落とさず練習した
天狗60耐を決行したのは、BM100を終えて帰国してから、たった2週間後でした。
通常レースの2週間前であれば、練習の運動強度をピーク時から40%落とします。1週間前であればピーク時から60%落とします。
でも、今回は60時間行動しつづけるという未知のチャレンジということもあって、練習量と強度を落とさずに臨むことにしたんです。
走る距離は、1週間で100kmくらいを目安にしました。
【走る生活 (その2):レース直前】 60時間行動しつづけるために、寝溜めにもトライ!?
そもそもBM100は、もちろん完走するつもりでした。でも、これまで34時間以上走ったことはありませんでした。
振り返ってみれば、60時間も行動したことないヤツが、BM100にはじめて行って完走するなんて、鼻で笑ってしまうほどおかしなことなんです。
睡眠時間を増やすという、これまでやったことのないことにもチャレンジ。娘のさくらと寝る時間も増えた。
60時間動きつづけるためには、何が必要か。効果があるかどうかはわかりませんが、試しに寝溜めもやってみようと。レース1週間前から、なるべく寝る時間を増やしました。
あと、レース自体が2日半にもおよぶ長丁場なので、補給も大事です。今回は、ジェルをいっさい使わず、おにぎりをはじめ、普段食べ慣れているリアルフードで計画しました。
こんな感じで、走ること以外のことをいろいろ考えていましたね。
【走る生活 (その3):レース直後】 大好物のラーメン & ライス大盛りが完食できないほど、疲れた
レース直後に、大好きな八王子の家系ラーメンに行ったんですけど、いつものラーメン & ライス大盛りを頼んだものの、完食することができませんでした。
人生初の60耐を経験したということもあり、自分が思う以上に、疲労が蓄積していたんでしょうね。
普段であれば家族と過ごす週末を60時間にわたってレースに費やしたので、翌週末は、家族と真鶴に行って潮干狩り。おかげで、心身ともにリフレッシュすることができました。
【走る生活 (その4):レース2週間後】 次のBM100に向けて、再始動!
2週間くらいは、ジョギングレベルの低強度のトレーニングです。そこから次のBM100に向けて、とにかく自分に足りないタスクをメニューに入れて、本格的なトレーニングを開始しました。
足りないタスクっていうのは、60時間動きつづける強靭な体力、60時間起きて集中しつづける睡魔に対する耐性、地図読みのスキルなどです。あと、運を味方につけるグッドラックもね。
Answer4のコバくんがチャレンジした自主24時間イベント (現・穂坂24耐) では、ペーサーを担当。これもトレーニングの一環。
失敗は、失敗をしてそこに立ち止まらなければ、ただの通過点にしか過ぎないんです。失敗をしても自分に成長する術が少しでもあるのであれば、いつまでも挑戦しつづけようと思っています。
現在は高尾に引っ越したものの、当時は川崎に住んでいて、仲間と一緒に生田緑地を走りまわっていた。
バークレー・マラソンズ (BM100) からおよそ2週間後に、人生初の60耐に臨むだなんて、やっぱりトモさんはクレイジー過ぎる。
しかも、そんなチャレンジすら、しっかりコンプリートしてしまうのは、さすがとしか言いようがない。
こうやって人を驚かす荒唐無稽なチャレンジを掲げては、そのチャレンジを自分で楽しみながら乗り越えていくところに、トモさんの真髄があるように思う。
TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。
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