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井原知一の100miler DAYS #07 | 走る生活(天狗60耐)

2021.05.12
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文・写真:井原知一 構成:TRAILS

What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。

* * *

トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。

第7回目のテーマは、「走る生活」です。

今回、紹介してくれるのは『天狗60耐』(※1) という、高尾山周辺を60時間耐久で走りつづける、自主企画のチャレンジです。

出走者はトモさんひとりだけ。60時間走りつづけるので、なんと走った距離は100マイルどころではなく、140マイル (約224キロ) 。

60時間ということは、2日半も寝ずに走りつづけるわけです。なんでこんなクレイジーなチャレンジをすることにしたのか? その理由とともに、語ってもらいました。

※1 天狗60耐:2018年4月13日〜15日にかけて、高尾で実施されたトモさんの自主企画。1周16km (累積標高1,500m) のループコースを、60時間以内に14周 (合計224km・累積標高2万1,000m)することが目標。

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天狗60耐のゴールを目指して、一歩一歩進んでいく。


天狗60耐:時間も距離も、途方に暮れるほど長く感じた


2018年3月のバークレー・マラソンズ(BM100 ※2)までは、100マイル41本を、どんな展開になろうともすべて完走してきました。でも、このBM100では5ループ中の1ループ目で制限時間オーバーになり、あっさりと黒星がついたのです。初開催から34年間で完走したのはたった15人という、「世界一過酷なレース」は甘くありませんでした。

帰国の飛行機で窓の外を眺めながら、このレースで起きたことを頭のなかで整理し、完走するためのタスクができました。

でもまずは、BM100と同等の距離と累積標高を走れなければ、再度挑戦する資格すらないと思ったんです。それで、高尾の天狗コース (1周16km・累積標高1,500mのループ) を60時間以内に14周することに決めました。それが、天狗60耐が生まれた背景です。

※2 バークレー・マラソンズ (BM100):アメリカ・テネシー州のフローズンヘッド州立公園で毎年3月に開催されている耐久レース。「世界一過酷なレース」とも呼ばれている。1986年に第1回目が開催された。以来、34年間で完走したのはたった15人。発案者は、ラズ(ゲイリー・カントレル)。総距離は100マイル以上、累積標高は2万メートル以上、制限時間60時間。エントリー方法も公開されておらず、謎の多いレースでもある。

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天狗60耐の途中では、疲れて倒れこむシーンもあった。

実際に走ってみると、とてつもなく長く、先のことを考えると時間も距離も、途方に暮れるほど長く感じました。

気持ちが切れることはなかったですが、ゴールに向けてどうやってメンタルコントロールすれば楽に走れるのか考えたとき、細分化していくことがいいと思いました。

とにかく1周1周の積み重ね。辛くても楽でも、一歩一歩進まなければゴールすることはない。考え方ひとつで楽になる、という自分のフォーミュラ (方程式) があったからこそ走りつづけることができました。

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城山山頂にある天狗と記念撮影!

気持ちの浮き沈みの多いウルトラ (※3) では、このようなフォーミュラを技として持っておくことが大事ですね。

結果としては、58時間3分かけて14周 (224キロ) を達成。この挑戦をするにあたって、サポートしてくれた仲間や、途中で一緒に走ってくれた仲間がいてくれたことが、とにかく嬉しく、感謝しています。

※3 ウルトラ:ウルトラランニング (長距離レース) のことで、ロードであれば100キロ、トレイルであれば100マイル (160キロ) を指すことが多い。

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一緒に走ってくれた仲間に、心から感謝。


【走る生活 (その1):レース1〜2週間前】 通常レースとは違い、運動強度を落とさず練習した


天狗60耐を決行したのは、BM100を終えて帰国してから、たった2週間後でした。

通常レースの2週間前であれば、練習の運動強度をピーク時から40%落とします。1週間前であればピーク時から60%落とします。

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当時は神奈川県川崎市在住で、生田緑地で練習を重ねていた。

でも、今回は60時間行動しつづけるという未知のチャレンジということもあって、練習量と強度を落とさずに臨むことにしたんです。

走る距離は、1週間で100kmくらいを目安にしました。


【走る生活 (その2):レース直前】 60時間行動しつづけるために、寝溜めにもトライ!?


そもそもBM100は、もちろん完走するつもりでした。でも、これまで34時間以上走ったことはありませんでした。

振り返ってみれば、60時間も行動したことないヤツが、BM100にはじめて行って完走するなんて、鼻で笑ってしまうほどおかしなことなんです。

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睡眠時間を増やすという、これまでやったことのないことにもチャレンジ。娘のさくらと寝る時間も増えた。

60時間動きつづけるためには、何が必要か。効果があるかどうかはわかりませんが、試しに寝溜めもやってみようと。レース1週間前から、なるべく寝る時間を増やしました。

あと、レース自体が2日半にもおよぶ長丁場なので、補給も大事です。今回は、ジェルをいっさい使わず、おにぎりをはじめ、普段食べ慣れているリアルフードで計画しました。

こんな感じで、走ること以外のことをいろいろ考えていましたね。


【走る生活 (その3):レース直後】 大好物のラーメン & ライス大盛りが完食できないほど、疲れた


レース直後に、大好きな八王子の家系ラーメンに行ったんですけど、いつものラーメン & ライス大盛りを頼んだものの、完食することができませんでした。

人生初の60耐を経験したということもあり、自分が思う以上に、疲労が蓄積していたんでしょうね。

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疲労回復のための休息もかねて、家族と潮干狩りへ。

普段であれば家族と過ごす週末を60時間にわたってレースに費やしたので、翌週末は、家族と真鶴に行って潮干狩り。おかげで、心身ともにリフレッシュすることができました。


【走る生活 (その4):レース2週間後】 次のBM100に向けて、再始動!


2週間くらいは、ジョギングレベルの低強度のトレーニングです。そこから次のBM100に向けて、とにかく自分に足りないタスクをメニューに入れて、本格的なトレーニングを開始しました。

足りないタスクっていうのは、60時間動きつづける強靭な体力、60時間起きて集中しつづける睡魔に対する耐性、地図読みのスキルなどです。あと、運を味方につけるグッドラックもね。

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Answer4のコバくんがチャレンジした自主24時間イベント (現・穂坂24耐) では、ペーサーを担当。これもトレーニングの一環。

失敗は、失敗をしてそこに立ち止まらなければ、ただの通過点にしか過ぎないんです。失敗をしても自分に成長する術が少しでもあるのであれば、いつまでも挑戦しつづけようと思っています。

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現在は高尾に引っ越したものの、当時は川崎に住んでいて、仲間と一緒に生田緑地を走りまわっていた。

バークレー・マラソンズ (BM100) からおよそ2週間後に、人生初の60耐に臨むだなんて、やっぱりトモさんはクレイジー過ぎる。

しかも、そんなチャレンジすら、しっかりコンプリートしてしまうのは、さすがとしか言いようがない。

こうやって人を驚かす荒唐無稽なチャレンジを掲げては、そのチャレンジを自分で楽しみながら乗り越えていくところに、トモさんの真髄があるように思う。

TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。

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WRITER
井原知一

井原知一

1977年、長野県生まれ。アメリカの大学を卒業後、仕事を転々とした末、2007年にスポーツ商社に転職。同企業のダイエット企画がきっかけでトレイルランニングに出会う。当時31歳。すぐさま夢中になり、トレイルラン2年目でOSJ (アウトドア・スポーツ・ジャパン) のシリーズ戦全戦を完走。3年目にはSFMT (信越五岳トレイルランニングレース) で8位。初めての100マイルは、2010年に自ら企画した草レースTDT(ツール・ド・トモ)。以降100マイルの魅力にとりつかれ、『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げて走るようになる。つねにチャレンジしつづけることをモットーとし、90歳での100マイル完走も目標のひとつ。走ることの素晴らしさを広め、人生を変えるきっかけづくりのために、ポッドキャスト『100miles, 100times.』や、自ら立ち上げた『Tomo's Pit』を通じてコーチングも手がけている。

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