TRIP REPORT

パックラフト・アディクト | #43 北海道・美々川、原生自然の広がる湿原をパックラフティング

2021.05.28
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文・構成:TRAILS 写真:TRAILS / Fumi Sakurai

手付かずの自然が残った湿原のなかを、迷路のように、小さくクネクネ流れる川。

難しい技術などいらないゆるい流れ。しかし、この川を漕いだら、間違いなく無邪気な遊び心がわいてきて、誰もが子どもようにはしゃいでしまう。それが美々川 (びびがわ) だ。

美々川のある勇払原野 (ゆうふつげんや) は、釧路湿原、サロベツ原野 (利尻) とならぶ、北海道の三大原野のひとつ。そんな手付かずの状態に近い自然が、新千歳空港のすぐそばにあるのだ。

陸からはほとんど近づくことができない勇払原野の湿原のなかを、美々川は流れている。道路からも川の様子はほとんど見ることができない。つまり、川の上に一度浮かんでしまえば、まわりに人工物がほとんど見えない、最高の川旅が始まるのだ。

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美々川の魅力はなんと言っても、探検心をくすぐられるフィールドであること。


最初は千歳川のおまけとして考えていた美々川。


朝8:00に羽田発の飛行機に乗り込み、うたたねをしている間に、あっという間に新千歳空港に到着。時間は9:30。季節は秋。空港の外に出ると、冷たい空気が着ていたフリースの生地を抜け、体に入ってきてしゃきっとした。

美々川 (びびがわ) は、新千歳空港からクルマでわずか10分ほどの場所にある。

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今回のコースは、美々橋〜美々川タップコップ親水公園の約8km (所要約2時間半)。美々橋は2つあるが、松美々橋の上流にある美々橋が今回のスタート地点。ウライ (漁網) 設置箇所は左岸をポーテージ (6月10日〜9月20日)。美々川までは新千歳空港からクルマで約10分。ゴールの美々川タップコップ親水公園からは、やや遠いが千歳線 植苗駅まで徒歩30分で行くことも可能。苫小牧市が発行しているカヌーガイドに各種注意事項あり。

今回一緒に行ったのは、これまで何度もともに川旅をしてきたバダさん。実はこの旅では、千歳川での鮭の遡上を狙って北海道入りしたのだった。バダさんとは、「でもせっかくだから、近くの美々川というところにも行ってみようか」、という話をしていた。そう、最初はおまけのつもりだったのだ。それがいい意味ですこーんと裏切られた。

美々川は、いわゆる北海道の川に期待するような、雄大な大河でもなく、驚くほど綺麗な水があるわけでもない。またダイナミックな瀬があるわけでもない。

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美々橋から望む美々川上流部の景色。

ところがスタート地点に到着し、そこで初めて目に入った川の景色を見ると、僕たちの心模様が変わった。「えー!なになに、この楽しそうな川は!」と、バダさんと一緒にテンションのゲージがだだアガりになった。

そこには魅惑的な湿原の景色があった。道路からはよく見えなかったが、間近で見ると想定以上にワイルドな自然。まわりには生い茂った湿原の草木。川のなかに密生したクサヨシ。そんな湿原のなかに、うねうねと曲がった小さな川がある。

それは、一般的な川下りのイメージとはまったく違う景色だった。雄大な釧路湿原を流れる釧路川とも違い、美々川は周りから見えずにひっそりと、鬱蒼と茂った箱庭的な湿原のなかを流れている。なにか隠微な魅力を感じた。

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美々橋のたもとからスタート。


原始の湿原を縫うように流れる小さな川。


僕たちは上流部の美々橋から川にプットインした。漕ぎ出してしばらくして気づいた。「なんとパックラフト向きの川ではないか」。

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川の上の視線から見る美々川。蛇行が多く先が見えない楽しさにテンションがアガる。

場所によっては、舟がぎりぎり通れるくらいの、川幅が数十cmくらいの狭いところがある。そして、かなりの角度で川が蛇行している。これがめちゃくちゃ楽しく、しかもパックラフトの小ささと、小回りのよさがいかんなく発揮されるのだ。

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上流部では、こんなに狭いところも通っていく。

スタートした美々橋から次の松美々橋までの上流部は、特に川幅が狭い。生い茂るクサヨシが、川幅をさらに狭くしている。パックラフターには、このセクションが本当にオススメだ。カヌーでは苦戦しそうなところも、パックラフトならば、小気味よく通過してゆけるのだ。

迷路のようにうねうねとした川の流れ。蛇行が多く、川の両岸には背丈ほどの草が生い茂っているため、視界は限られている。先が見えない湿原の雰囲気が、また探検心をそそる。まわりには人工物もほとんど目に入らない。

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パックラフト向きの川!と興奮して漕いでいく。

美々川は、子どもの頃に大人の目から隠れて、自然のなかで遊んだときのような、いたずら心に満ちた探検心を思い起こさせてくれる。

それなりにスキルの必要な川ばかりに行っていて、こういった単純な探検心を忘れてしまっていた。川の上は自由だ。川の上には、陸からは感じられない、何者にも束縛されない解放感がある。

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ずっとゆるやかな流れのなか、湿原の内部と分けいるように川が流れている。


北海道三大原野のひとつ、勇払原野を流れる美々川。


松美々橋を過ぎて、美沢川と合流すると、一気に川幅が広がった。いままでの迷路のような川から一転して、広大な湿原の景色が見渡せるようになる。

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美々川の中流域に入ると、広大な湿原の景色が広がる。

こんなにも自然豊かな湿原が、よく札幌の近くに残っているものだと思う。これが北海道の三大原野のひとつなのである。しかも、かつては釧路湿原にも匹敵する規模の原野であったのだというから、なお驚きだ。

さらにしばらく漕ぎ進むと、迂回路を示す看板が目に入ってきた。漁網が設置される箇所だ。美々川では、6月〜9月はベニサケが遡上する姿も見られるのだそうだ。

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6月10日〜9月20日は一部迂回が必要。ベニザケの漁に使われるウライ (「やな(梁)」のアイヌ語表現) が設置されるため。

今回はベニザケが遡上する季節とは外れてしまっていた。しかし「今度はベニザケの遡上を見に、また来なくちゃいけないな」と、またここに来る理由をつくることができた。


湿原を染める夕日を見ながらゴール。


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下流域では、新千歳空港を離着陸する飛行機がよく見える。

漕ぎ始めてから約2時間半。ゴール地点の近くで、ちょうど夕暮れの時間となった。右岸の上空に、新千歳空港に着陸する飛行機が見える。

見上げる飛行機と、目の前に広がる原生状態に近い湿原との対比が不思議だ。

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落陽に川面がきれいに照らされたなか、ゴールを目指す。

ゴールまではあと数kmだったが、前半であんまりのんびりしすぎて、日没ぎりぎりになってしまった。暗くなる前にゴールまでたどり着こうと、少し焦ってパドルを漕ぐ。

美々川をそのまま漕いでいくとウトナイ湖につながるが、湖の周辺は野鳥の保護区域に入るため、一般のパドラーはその手前のタップコップ親水公園までしか漕ぐことができない。

ゴールの美々川タップコップ親水公園に到着すると同時に、日が沈んだ。公園では、そこに住み着いているらしき白鳥がお出迎えしてくれた。

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ゴールの美々川タップコップ親水公園。

次回は、この川旅のMOVIEをお届けする。また今回はお伝えしきれなかった、美々川とアイヌ民族とのかかわりや、美々川と勇払原野の特異な自然環境についても紹介したい(MOVIE編の記事はコチラ)。

 

WRITER
トレイルズ

トレイルズ

佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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